リュカ伝の外伝
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天使とラブソングを……?(第12幕)
前書き
リュカ伝の世界では
1ゴールド = 100円 です。
1シルバー = 1円 です。
因みにシルバーは原作には無い通貨単位です。
(グランバニア城)
ピエッサSIDE
「でねぇ……本当は頼りたく無かったんだけど、背に腹は代えられないって事で、ハゲマンに頼る事にしたの」
「ハ、ハゲマン……?」
知らない人名が出てきた。
「あぁそうか、知らないよね。ハゲマンってのはね、ハゲのルドマン。つまりサラボナの商人の事。会う事があったら気軽にハゲマンって呼んであげてね」
いやいやいや……サラボナ通商連合のトップになんて会う事は無いでしょうし、会えても呼べませんよ!
「それでね、HHを荷物持ちに従えて、ハゲマンのとこに行ったんだ。で、娘の一人のアドバイス通り、素直に現状を伝え、素直にピアノを格安で譲って貰おうとしたのさ……持って来た手斧の柄でハゲマンの頭頂部をペシペシしながら」
何で手斧を持ってるの!?
「何故か手斧の事を指摘されたけど『うるせぇ』って言って交渉を進めたんだ。そしたらサラボナにあるハゲマンの倉庫に通されて、その奥に放置されてたオンボロのアップライトピアノを紹介されたんだ」
手斧の件を『うるせぇ』で済ませられるの!?
「それでハゲマンが『このピアノはかなり古いし、ワシとお前の仲という事で、格安500Gでいいぞ』って言ってきたんだ」
「ご、500G! ピアノとして使えるのなら、かなりお安いですね」
「そうなの? ピアノの相場なんて知らないからよく分からないなぁ……まぁでも、ピアノとしては使用できたし、調律も直ぐに済んだし、物としては問題なかったね……物はね!」
「ど、如何かなさいましたか?」
「うん。まぁ奴が500Gって言うから支払おうと思ってポケットを探ったら、昨日は19Gしか持って無かったんだ」
「……全然足りませんね」
「うん。だから素直に言ったよ『19Gしか持って無いから19Gで売れハゲ!』って。素直でしょ」
きっと娘さんの一人は、こういう意味で素直って言葉を使ったんじゃ無いと思う。
「そしたらさぁ、あのハゲ『何所の世界に19Gで売ってるピアノがあると思ってるんだ!』って頭を茹でタコみたいに真っ赤にして怒るんだ。ピアノの相場なんか知らねーっての」
「は……はぁ……」
「もうホント……あまりにもギャアギャア言うから持ってた手斧を、後頭部のオシャレなアクセサリーとして突き刺してやろうかと思ったほどだよ!」
それは止めてあげて下さい!
「んで、2.30分の口論の末、HHが仲裁に入った事で『分かった! 300Gまで下げてやる!』ってハゲマンに言わせたんだ」
「凄い……更に40%オフ!」
もう殆ど無料同然じゃない!
凄まじい値切り術に、アイリーンも驚きの一言を放った。
このエピソードの何所に愚痴る要素が含まれるのだろうか?
「そう、更に40%オフ。 ……って事はだよ、その前に上から目線で『ワシとお前の仲という事で』って言って500Gだった価格は、素直に事情を話した我々から200Gもぼったくろうとしてたって事じゃん? も~信じらんないね! この300Gだって盛ってる可能性がある!」
いやいやいや!
流石に、使用できるレベルのアップライトピアノが300Gってのは売り手側の赤字価格だと思うわ。
「だからさ、『即刻現金払いの19Gじゃなきゃ買ってやらん!』っていったら『立場が逆だろう』とか訳分からない事言うし、更には『結婚式の費用はワシ持ちだぞ』とか『天空の盾の件だって在るだろ』とか今更身勝手な事を言ってくるし、遂には『リュカ……流石に無理があるぞ』って味方だと思ってたHHが寝返るし、だから傍にあったこのバイオリンを手にして『コレをおまけに付けろ』って言って二人ともぶん殴ったんだ」
ぶん殴る必要性!?
「そ、それでバイオリンを入手されたんですね?」
カオスな事情説明を終わらせようと、話題をバイオリンへ移そうと試みる。
「うん。小一時間の口論と暴行の末にね」
結局カオス説明は続いた。
「陛下からぼったくろうとするから悪いんですわ! 良い教訓になったと思います」
イカン……このカオス説明をカオスと思ってない女がここに一人居た。
断言しよう……この女は、あっちの世界の住人だ。
「うん。そういう訳でバイオリンも手に入ったから、勝手に使って良いからね」
そう言うと陛下は、またバイオリンを構えて今朝芸高校から入手してきたテキストに視線を降ろして奏だ。
先刻も思ったが、まだ拙い感じがする。
今奏でてる曲は、芸高校の音楽科で最初に習う基礎中の基礎を盛り込んだ楽曲だ。
曲は“アッチャー・ウヌヴォーレン”と言う名前の作曲者で、曲名は“歩く人”と言う曲だ。
本当にコード進行とか何から何まで基本しか使用してない曲で、慣れてアレンジを加えようとしてもパッとしない曲である。
この作曲者の他の曲も探した事はあるのだが、見つける事は出来ず……
凡曲しか作れないのだろうと推測される。
あまりにも凡曲すぎて、陛下が奏でてもパッとしないであろう。
「陛下……ちょっとお借りしても良いですか?」
「あぁ……うん、どうぞ。自由に使って」
陛下の拙いバイオリン技術がもどかしく感じたのか、バイオリンを借りるアイリーン。
「ここのコード進行は素早くした方が良いですよ……こんな風に」
そう言って受け取ったバイオリンを構えて、この凡曲を弾くアイリーン。
だがその曲は美しく心揺さぶる名曲に聞こえた。
「如何です?」
「いや~流石! 上手いもんだ」
訂正しよう……天才が奏でれば、如何な凡曲も名曲となり得る。
「でも本当に状態が良いですね、このバイオリン……」
弾いてたバイオリンをクルクル回転させ、状態を確認してる。すると……
「ん? ……っ!!」
何やら裏面を見て驚いているアイリーン。何だろうか?
「ピ、ピエッサ……こ、これ!」
傷でも気になったのだろうか、一点を指さして私に見せてくる。
そこにはバイオリンの制作者名が刻まれており、その名は“ストラディバリウム”と……
「ス、ストラディバリウム!!!???」
「え、なにそれ。バリウム? 何か不味そう」
え? 知らないの!?
「バリウムじゃなくてストラディバリウムです! 弦楽器の名工として名の通った人物です! その名工の作品なんですよ!」
「ふ~ん」
興味なさげ!
「ストラディバリウムの作品だったら、どんなに状態が悪くても2000G……いえ、3000Gは下らないと思われます!」
「ふ~ん」
何で響かないの!?
「如何な名工が作ったとしても、結局道具は道具だ。音楽の善し悪しは、それを奏でる者による」
う゛……た、確かに先刻アイリーンが弾いた“歩く人”は名曲に聞こえた。
「まぁただ……ハゲマンを大赤字にしてやったんなら最高だね(笑)」
「大赤字だと思いますわ陛下。ピアノの価値を差し引いても、このバイオリンだけで数千Gですから(笑)」
な、何で他人の大赤字を笑顔で喜べるのよ、この二人?
ピエッサSIDE END
後書き
ストラディバリウスじゃないよ。
間違えないでね。
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