亡者船
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第二章
「風に逆らってです」
「動くんだな」
「それでわかります」
鏡に映した様にそっくりな形と、というのだ。
「まさに」
「そうなんだな、じゃあな」
「神戸に行った時は」
「その連中にも注意だな」
「そういうことで」
龍馬は勝に話した、そしてだった。
二人は神戸の幕府の海軍錬成所に行った、そこで海軍の船の研究や訓練をしたが肝心の勝はというと。
陸にずっといた、そのことに幕府の者達は首を傾げさせた。
「何故勝殿は船に乗られぬ」
「どうしてだ」
「責任者だというのに」
「何故だ」
「何でも船酔いするらしい」
このことが話された。
「あの人はな」
「何っ、海軍なのにか」
「それでもか」
「船酔いされるのか」
「あの人はそうなのか」
「それでだ」
その為にというのだ。
「船には乗られぬらしい」
「そういえば咸臨丸で亜米利加に行った時も」
この時のことも話された。
「船酔いされて全く役に立たなかったとか」
「あの話はまことだったか」
「福沢君が何を言うてるんやと怒っていたそうだが」
「あの話はまことだったか」
「まさかと思ったが」
「そうだったか」
「とにかくすぐに船酔いする人だ」
勝はというのだ。
「だからな」
「船には乗られず」
「そうしてか」
「丘の上か」
「いつも」
「まあそれでもな」
「坂本君がいるからな」
「彼は船酔いしない」
船に乗っても全く平気だというのだ。
「だったらな」
「それならな」
「彼に頼るか」
「そうするか」
「そうしていこうか」
こうして自然と龍馬が頼られることになった、そうして訓練も進めていったがそれで小豆島の近くでだった。
船を動かしているとだった。
不意に一隻の船が傍に来た、皆その船を見て言った。
「おかしな船だな」
「急に出て来たな」
「またこの船にそっくりだな」
「幕府の船か?」
「今日本でああした最新式の帆船持っているのは幕府位だ」
「この船もそうだがな」
「ここで他に訓練している船があったのか?」
まさかという言葉も出た。
「まさかと思うが」
「何か他にそうした船があったか?」
「何だ、あの船は」
「しかもだ」
その船をよく見るとだった。
帆をかけているが風の動きに逆らって動いていた、彼等はそれも見て言った。
「風の向きが違うぞ」
「逆だぞ」
「どういうことだ」
「あれが亡者船ぜよ」
船に乗っていた龍馬がここで言った。
「まさにのう」
「前にお話していた」
「その船ですか」
「幽霊が載ってる船ですか」
「そうですか」
「これはぜよ」
まさにというのだ。
「近寄っちゃいかん船ぜよ」
「この世でない連中が乗ってる船に近寄ったら」
「その時はですね」
「あの世に連れて行かれますか」
「そうなりますか」
「何でもついていくとじゃ」
その亡者船にというのだ。
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