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亡者船

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第一章

                亡者船
 勝海舟は坂本龍馬からその話を聞いてまさかという顔になって言った。
「おいおい、そんな話今はじめて聞いたぜ」
「江戸の海には出ちょらんですか」
「江戸の海も色々いるけれどな」 
 それでもというのだ。
「そんな連中はいねえぜ」
「土佐とか四国の海では結構聞きますがのう」
「そっちではかい」
「化けものちゅうか幽霊も国によって違うんですな」
 龍馬は驚く勝の前で腕を組んで言った。
「わしもそのことを今知りました」
「あれかい?船幽霊かい?」
 勝は龍馬にどうかという顔で述べた。
「そりゃあ」
「まあその仲間みたいです」
「やっぱりそうか」
「それで讃岐の小豆島の方にです」
「亡者船が出るんだな」
「あっちではショウカラビーって呼んじょりますきに」
「あっちの方言だな」
「そうですきに」
「讃岐か、それは困ったな」
 勝は龍馬にその国だと聞いて実際に困った顔になって述べた。
「これはな」
「讃岐は神戸に近いですきに」
「海軍の船に乗ってな」
「練習中に出てきたら」
「これはかなり参るぜ」
「その時はわしに任せて下さい」 
 龍馬は勝に笑って述べた。
「こうした話をするからにはです」
「亡者船のことを知ってるんだな」
「ショウカラビーのことを」
 まさにこの者達のことをというのだ。
「よく」
「そうかい、ならな」
「はい、これからです」
「おいら達は神戸に行くがな」
「亡者船が実際に出て来ても」
 それでもというのだ。
「難を逃れる様にします」
「おう、それじゃあ頼むぞ」
「そういうことで」
「全く、勤皇だ佐幕だって言っている中で幽霊のことも気にしねえといけねえとかな」
 勝は腕を組んだまままた言った。
「嫌なもんだな」
「まあそれは」
「言っても仕方ねえか」
「出るもんは出ますきに」
 龍馬はこう答えた。
「だからこのことは」
「出たらか」
「その時は仕方ないっちゅうことで」
「どうするかってか」
「それが大事かと」
「そうだな、それでその亡者船ってのはどんな姿なんでい」
 勝は龍馬にあらためて問うた。
「それで」
「これがそっくりって話です」
「そっくり?」
「はい、自分達が乗っちょる船と」
 それと、というのだ。
「鏡で映したみたいに」
「そっくりだってのか」
「そう聞いちょります」
「そうなのかい」
「しかも風に逆らって動きますきに」
「西洋の最近の船がそうだよな」
「蒸気船は帆もありますが」 
 それでもというのだ。
「まずはです」
「蒸気で動くな」
「エンジンがあって」
「そうだよな、しかしってことだな」
「亡者船はもうエンジンがなくても」
 それでもというのだ。 
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