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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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魔法絶唱しないフォギア無印編
  戦士達の休息

 
前書き
どうも、黒井です。

今回は季節感ガン無視しての海水浴回です。 

 
 ルナアタック事変から暫く経ち、季節は夏。

 暑い日差しが照り付ける中、それでも日夜戦う颯人達。件数は大幅に減ったとは言え、ノイズは未だに出現するし散発的ながらメイジも姿を現し騒動を起こしている。

 人々の平和を守る為奮闘して汗を流す彼らの姿に、弦十郎がある事を提案した。

「お前ら、偶には海にでも行って骨休めしてきたらどうだ?」

 早い話が、慰安である。世間では既に夏休み、多くの若者達が夏を謳歌する中、颯人達が戦いなどに明け暮れている姿を見て弦十郎が気を利かせてくれたのだ。
 勿論、戦いばかりではなく偶にはガス抜きさせた方が効率が良いと言うのも理由の一つだろう。尤もそれは、表向きの理由で本心では純粋に若者達に対する労いと言う意味合いが大きいだろうが。

 そんな訳で颯人達は揃って海へと来ていた。場所は保養所の一つであるプライベートビーチ。奏と翼と言うトップアイドルが一般のビーチへ行ってしまったら、騒ぎになって骨休めどころではない。変装すれば何とかなるだろうが、どうせなら一切の気兼ねなく休んでもらいたいと言う気遣いであった。

「……とは言え、個人的には賑やかなビーチの方が好みなんだけどねぇ」

 等とぼやくのは言うまでも無く颯人だ。弦十郎の気遣いも分かるし奏達の事を考えればこちらの方が良いと言うのは分かるが、彼としては人々の賑わいの中でゲリラマジックショーをやって人々を沸かせる方が好みであった。

 とは言え、だからと言って我が儘を言う程彼も子供ではないし、静かなら静かで楽しみようはある。要は楽しんだもの勝ちという事だ。

 その颯人の隣には透が居る。颯人と揃って水着スタイルの彼だが、この日はある意味彼のトレードマークとも言えるスカーフ(寒い時期ならマフラーだが、暑い時期は流石に涼しさを考慮してスカーフにしている)を外している。ここに居るのは事情を知っている者だけなので、傷跡を人目に晒す事を気にする必要はない。

「ところで透、お前泳げるの?」
〔泳ぎは得意です。そう言う颯人さんは?〕
「バッチシ。なんなら素潜りだって出来るし。海外に居た時、ジェネシスの連中に荷物吹っ飛ばされて飯無くなった時に海潜って魚とっ掴まえた話聞く?」

 着替えに時間の掛かる女性陣が来るまでの間、颯人は透と世間話をして時間を潰していた。

 そうこうしていると、水着に着替え終わった奏達がやってくる。

「お~い、颯人~!」
「お、お嬢さん方のお出ましか。さてどんなもん、ッ!!」

 掛けられた声にそちらを見ると、颯人は思わず息を呑んだ。

 真夏の太陽にも負けない眩しさの笑顔に、傷一つない肌。奏は走ってきているが、その度に美しい赤髪が翼のように広がり、同時に豊かな双丘が揺れる。奏は普段から露出のある服もよく着るが、水着はそんなの比べ物にならない。

 何が言いたいかと言うと、今颯人は完全に奏に見惚れていた。

 対する透の方はと言うと、こちらはクリスの水着姿を微笑みと共に迎えていた。別にクリスの水着姿があまり魅力的ではないと言う訳ではなく、彼の場合は単純にクリスと共に居る時間が多いのでこの程度で取り乱す事は無いだけの話である。慣れたとも言えるだろう。
 実際フィーネの下に居た頃は、ふとした瞬間に薄着のクリスと遭遇してドギマギしてしまった事もあった。

 そんな対照的な反応を見せる2人に、奏を始めとした装者達が近付いた。彼女達、取り分け奏の姿を見て、颯人が一言。

「……前言撤回。人目気にしなくていい場所も悪くねえな」

 断っておくと、別に厭らしい意味ではない。彼は彼で純粋に、何にも束縛されずありのままではしゃぐ奏の姿に満足しただけである。

「よ~ぅ、どうだ颯人? 似合ってるか?」
「あぁ、似合ってる似合ってる。寧ろちょっとびっくりした位だよ」
「びっくり? 何に?」
「奏の成長にだよ」

 言われて奏は、恥ずかしがるどころか胸を張って答えた。

「当ったり前だ。惚れ直したか?」
「ん、まあな」

 得意げな顔になる奏に、颯人も笑って答えた。

 一方クリスはと言うと、こちらは奏とは対照的に頬を赤くして透の前に立っていた。

「よ、よぉ。どうだ、透?」

 指先をもじもじさせて上目遣いに訊ねてくるクリスに、透は笑顔で頷く。それだけでクリスには全てが伝わり、恥ずかしがりながらも嬉しそうな顔をする。

「そ、そっか。あ、ありがと」

 早速自分達の世界を作り出す二組に、残りの翼、響、そして響に誘われた未来は羨ましそうな顔をする。

「4人共、私達が居る事を忘れてないかしら?」
「いいなぁ、奏さんとクリスちゃん」
「まぁまぁ2人とも。折角海に来たんですし、楽しまなくちゃ」




***




 奏達と合流した颯人は、いの一番に海に飛び込んだ。その後には負けじと奏が続き海に入る。

「よっしゃ奏! いっちょあの岩まで競争しねえか?」
「いいねぇ。負けた方は全員にジュースを奢るって事で」
「望むところだ。よーい、スタート!」
「あ!? ズルいぞ!!」

 颯人は沖の方に突き出た岩に向け奏と遠泳で競争を始める。スタートのタイミングを颯人に持っていかれ、奏は彼にやや遅れて泳ぎ始めた。

 最初こそ颯人が奏を大きく引き離していたが、途中から奏が追い上げ始める。対抗心を燃やして一気に速度を上げたのだ。そして遂には颯人に並び、どちらが勝つか分からなくなる。

 そして――――――

「ぷはっ! よっしゃぁぁ!」

 勝者は奏の方だった。僅差で颯人より先に岩に辿り着き、奏は勝鬨を上げる。

「はっはー! どうだ颯人! 約束通り全員に……って、あれ?」

 颯人の悔しがる声が聞こえない事に奏が疑問を抱いて周囲を見渡すと、颯人の姿が見当たらない。周囲を見渡したり、岩陰を見ても居ない。ふと自分を置いて砂浜に戻ったのかと背後を見るが、颯人の姿は影も形も見当たらなかった。
 まさか彼に限って、足を攣って溺れたという事は無いだろう。だがそうなると、彼は一体何処に?

「ぶはぁっ!!」
「わぁぁぁぁっ!?」

 突然背後から響く大声と吹き上がる水飛沫に、仰天して奏は一瞬沈みかける。
 口に入った海水を吐き出しながら背後を振り返ると、そこにはしてやったりな顔をしている颯人が居た。

「わっはっはっ! どうだ奏、驚いたか?」
「当たり前だ馬鹿!? 海のど真ん中で何考えてんだ心臓に悪い!?」

 最後、奏が僅差でゴールする瞬間、颯人は素早く海中に潜り奏の視界から消えたのである。それもこれも全て、この悪戯を完遂する為だ。

「いやぁ、海と言ったらやっぱこれだろう? 一度はやっておかないとさぁ」
「あるかこんなの!? お前本気で一発溺れてみるか、この!」

 奏は颯人に抱き着き、彼の頭を海中に沈めようとする。流石に二度の息止めは堪えるので、これには颯人も抵抗する。

「ちょ、待て待て待て!? 分かった、俺が悪かった!?」
「今更謝って済むか!?」

 そうして颯人と奏は暫し沖でじゃれ合っていた。

 一方砂浜では、こちらもこちらで白熱した勝負が行われていた。

「よっしゃ! 行け透!!」
「緒川さん、頼みます!」
「任せてください!」

「頑張れ翼さ~ん! 緒川さ~ん!」
「クリスと透君も負けないで~!」

 砂浜では現在、透・クリスペアと翼・慎次ペアによるビーチバレーが行われていた。
 最初はクリス・未来ペアと翼・響ペアによる試合が行われていたのだが、透が1人審判係で実質除け者状態なのが見ていられず、クリスが透とペアを組むことに。そうなると必然的に少女のみとなる翼・響ペアがどうしても不利になってしまう為、彼ら彼女らの世話係としてついてきた慎次が響と交代して試合に臨むことになった。

 その結果、共に身体能力に優れる透と慎次によるスパイクの撃ち合いと言う白熱した戦いが行われていた。クリスと翼の2人は完全にトス役に徹している。

 透の落雷の様なスパイクを慎次が見事にレシーブ。それを翼が優しくトスして、理想の高さになったところで慎次が持ち前の身体能力で高く飛び透に負けないレベルのスパイクを放った。透は慎次の視線から彼が打ち込もうとしている場所を特定し先手を取ってスパイクが打ち込まれるだろう場所でレシーブの構えを取るが、何と慎次の放ったスパイクはカーブし透のレシーブは間に合わず翼・慎次ペアに一点取られてしまった。

「……」
「いや、透の所為じゃない。気にせず行こう!」

「見事でした、緒川さん」
「いえ、それほどでも」

 互いにペアの相手を労うクリスと翼。透はクリスからの激励に気を取り直し、慎次は翼からの称賛に笑みを返しながら内心では透の身体能力に舌を巻いていた。
 最初、参加した時慎次は手加減しようと考えていた。だが実際にやり始めて早々にその考えは失せる。透は、手加減が通じる相手ではない。今のカーブするスパイクだって、タイミングによっては見切られていたと自信を持って言える。それ位透の身体能力は優れていた。

 慎次が透に対する関心を心の内に秘め、サーブを放つ。サーブの時点でなかなかの威力のそれを、透がレシーブしクリスがトス。そして透が素早くスパイクを放った。それを慎次が受け止め、翼のトスからスパイクを放つ。

 その際、何と慎次の放ったボールが三つに分身した。

「さぁ、これならどうです!」
「おい何だそれ!?」

 まさかの増えるボールに、思わずクリスが抗議する。だが透の方はと言うと、素早く視線を下に向けると迷わず分身の一つを受け止める体勢を取り、見事に分身の中から本物のボールを見つけてみせた。

「おぉ! 透君凄い!!」
「でもどうやって本物を見分けたんだろう?」

「お見事です! まさか影の微妙な違いで本物を見分けるとは!」

 本物のボールを見つけてレシーブしてみせた透に慎次が感心するが、その間にもクリスがトスを繋げて再び透のスパイクが放たれる。
 慎次がそれに素早く反応するが、なんとそのスパイクで放たれたボールは慎次が受け止める直前にカーブし彼の直ぐ近くの砂浜を穿った。見ただけで慎次の曲がるスパイクを学習したのだ。

 身体能力に加えて学習能力も優れている事に、慎次は年甲斐も無くはしゃいでしまう。

 その後も白熱したビーチバレーは、颯人に絡み過ぎて足を攣った奏が颯人の取り出したゴムボートで引っ張り上げられるまで続くのだった。




***




 存分に遊び、日も高くなった辺りで一行は遊びを一旦中断。持ち込んだ食料で昼食を済ませ、食休みを兼ねた日光浴を楽しんでいた。

 その際、奏が驚くべきことを口にした。

「は~やと~、サンオイル塗って~」
「はいよ~」

「「「「えっ!?!?」」」」

 徐に奏がビニールシートの上にうつ伏せで寝ころび、ビキニの水着の上を外して颯人にサンオイルを塗らせようとした。その行動に透と慎次以外の他のメンツが驚愕の声を上げた。

 それに今度は颯人の方が驚く。

「え? 何、その『え?』って?」
「いや、ちょとびっくりしたって言うか……」
「颯人さんの事を知ってる奏が、ねぇ」
「狼の前に餌を置くとか何考えてるんだよ、先輩」

 どうやら皆、悪戯好きの颯人に奏が無防備な姿を晒しているのが信じられないらしい。彼女達の印象からすれば、そんな事を頼もうものならどんな悪戯をされるか分かったものではないのだろう。

「う~ん、皆俺の事をよく理解してくれて嬉しいなぁ~」
「自業自得だよ。皆一応言っとくけど、颯人だってTPOは弁えるからな?」
「と言うか、信頼を裏切るような真似はしないよ」

 奏がこうして颯人に無防備な姿を晒すのは、ここでは彼はふざけないだろうと言う信頼あっての事。それを裏切るような真似は、流石の颯人も出来なかった。

 他の女性陣に見守られながら、奏は颯人にサンオイルを塗ってもらった。
 塗る側の颯人は、そこである事に気付く。

――ん? これって……――

 一通り塗り終え、颯人の手が奏の背中から離れる。奏はそれに満足そうにビキニを着け直し起き上がろうとした。

「サ~ンキュっと――――」
「奏、ちょい待ち」

 それを颯人が制す。起き上がろうとした奏を再びうつ伏せで寝かせ、彼女の両肩に手を置いた。

「わ、ちょ!? 颯人?」
「奏、お前両肩ガッチガチだぞ? 最近仕事の方頑張り過ぎなんじゃねえか?」
「余計なお世話だよ。つか颯人、お前マッサージとかできるのか?」
「まぁ任せなって」

 颯人は奏を寝かせ、その両肩に手を置いた。最初奏は、彼からのマッサージに少し不安そうな顔をしていたが――――――

「ひゃうん!?」

 次の瞬間、肩から感じる快感に思わず変な声を上げてしまった。

「うぉっ!? いきなり変な声出すなよ?」
「あ、いや、悪い。ちょっと思ってた以上の手応えにびっくりして……」
「手応えは俺が感じるもんだ」

 驚きのあまり変な事を口走る奏に、ツッコミを入れながら颯人は奏のマッサージを続行した。今度は奏の方にも覚悟があったので、変な声は上げずに済んだがそれでも肩から感じる未知の快感に何とも悩ましい顔になる。

「ふ! ぅん!? んん!?」

…………訂正。やっぱり声は抑えられなかった模様。肩を揉み解される感覚に、奏は必死に声を押さえながら耐えていたが、揉み解される度に肩から響く得も言われぬ快感に艶やかな声が零れていた。

 それを傍から聞いている他の女性陣と透は、悶える奏の姿に思わず顔を赤くするのだった。




***




 その後休憩を挟んだ後、今度は全員でスイカ割り(透は声が出ないので割る専門)したり、うっかり眠ってしまった颯人を全員で首から下を埋めたりとして遊んでいたら日もすっかり暮れていた。

 そろそろお開きの時間だと一行は片付けと着替えを済ませ、奏は颯人と共にマシンウィンガーで、他のメンツは慎次の運転する車で帰路につく。

 存分に遊び疲れたからか、学生組は翼を除いて全員車内で眠っている。響は未来、クリスは透と肩を寄せ合って寝ていた。
 その様子を翼は微笑ましく見ている。

 一方、マシンウィンガーで颯人にタンデムしている奏は、颯人の後ろから水平線に沈んでいく夕日を眺めていた。

「なぁ、颯人?」
「ん~?」

 赤い夕日を見つめながら、奏は運転する颯人に声を掛ける。

「今日はさ、楽しかったな」
「そうだな」

 奏からの言葉に、颯人は運転しているからか簡潔に答える。その答えに奏は、更に強く彼の背に抱き着きながら言葉を続けた。

「次があったらさ、ふ……2人で来ないか? 別にこう言うところじゃなくて。普通のビーチにさ」

 今度はシンフォギア装者の奏としてではなく、ただの天羽 奏として颯人と海に行きたいと告げた。それを口にした奏の顔が赤いのは、きっと夕日に照らされた所為ではないだろう。
 対する颯人がどんな顔をしているか、奏から見ることは出来ない。だが奏には、何となくだが颯人も顔を赤くしているだろう事が手に取るように分かった。

「なら、ウィズかアルドに土下座でもする用意しとくかな」
「え?」
「必要だろ? 奏が変装しなくても済む様な魔法がさ」

 それは颯人なりの気遣いだろう。窮屈な変装も必要ない、ありのままの奏で楽しめる為の魔法の用意。その彼の気遣いが嬉しくて、奏は笑みを浮かべる。

 しかし――――――

「ううん、いらない」
「え?」
「いらないよ、そんなの。だって、颯人が助けてくれる。そうだろ?」

 きっと奏が迂闊に人の多い所に出れば、簡単に騒ぎになってしまうだろう。楽しむどころではなく、それどころか颯人と共に居るところがスキャンダルになるかもしれない。
 だが奏は信じていた。颯人だったらきっと、バレそうでバレないスリルある一時を過ごさせてくれると。奇跡の手品師の息子の実力で、奏を誰にも気付かせずに楽しませてくれると。

 その信頼を感じ取り、颯人は運転中であるにも拘らず笑いが抑えきれなかった。

「く、はっはっはっはっはっ! いいぜ、任せろ! 次来る時は俺が奏をエスコートしてやるよ」

 自信たっぷりの颯人に、奏は期待していると彼の背に身を委ねるのだった。 
 

 
後書き
と言う訳で幕間の3話でした。

今回は純粋に颯人達に海水浴を楽しんでいただきました。場所は一般ビーチとどちらにしようか迷ったのですが、ここは余計な横槍も無く楽しんでもらおうという事でプライベートビーチに来てもらいました。

颯人は基本、自分が楽しむより他人を楽しませることを好みます。だからこういう自分達が楽しむだけの場所に来ると、逆に刺激が足らないと言う事に。今回は奏も居るから楽しめましたが、彼女がいなかったらきっと最初から最後まで退屈していたでしょう。

次回は一応最後の幕間。ここまでとはテイストを変えて大人たちの真面目な話の回になる予定です。

次回の更新もお楽しみに。それでは。 
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