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同盟上院議事録~あるいは自由惑星同盟構成国民達の戦争~

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793年12月号アライアンス・ポリティカ誌に掲載されたとある記事

 
前書き
「読者諸氏が異なる構成邦に行くときに私の忠告はただ一つだ――政治の話をするな、である。だが本著はそれが叶わぬ不幸な同盟の公益に対する奉仕者、あるいはアライアンス・ポリティカを読みながらカフェで熱弁をふるう血気盛んな政治学徒気取り(願わくば私の教え子ではないことを祈る!)の強い味方となるだろう各構成邦の現実政治にかかわる問題を”不幸な行き違い”で踏み荒らさない心得を身に着ける副読本としても使用できる――(後略)」

「『同盟公務員必読!~構成邦間の行政形態の違い~』(オリベイラ教授著)の前書きより抜粋」 

 
ディアレクティケー第XX回
793年総選挙を語る~交戦星域編~
自由惑星同盟は最高評議会議長選、同盟上下院同時選挙の結果に揺れている。
新たなる最高評議会議長(サプリム・チェアマン)ロイヤル・サンフォード氏を支えるのは主要同盟政党として知られる三党の大連立となった。地方と都心部の断絶や急進派の伸張など同盟民意の分断が指摘されている。
今回は793年総選挙を地方から読み解くをテーマとした連載の初回として、長らく同盟政府の顧問を務めてきたオリベイラ教授とアルレスハイム王冠共和国から構成邦の政治を研究してきたエプレボリ教授の二名とともに【交戦星域】からみた今回の選挙を二回に分けて読み解く。

・対談者

バーラト自治大学法学部教授
エンリケ・マルチノ・ボルジェス・デ・アランテス・エ・オリベイラ氏  
(専門分野:行政法・同盟諸邦比較行政論・銀河連邦法制史)
(公立法科大学院協会会長、自由惑星同盟諸邦首相会議最高顧問、国務委員会構成邦間係争調停委員会委員長を歴任、現在は最高評議会議長事務総局参与、法秩序委員会『リステイメント』編纂審議会会長を数期に渡り務めている)
(著作:『銀河連邦末期の治安行政と海賊ストリート』『ハイネセン主義~民主主義とは何か~』『公法論、構成邦の権利と同盟法』『同盟公務員必読!~構成邦間の行政形態の違い~』『多様なる民主共和制~自治の本懐~』など)

アルレスハイム国立ヴァルシャワ大学法学部教授
エーリッヒ=ヴァルデマー・フォン・エプレボリ氏
(専門分野:政治史、比較政治論)
(アルレスハイム王冠共和国セナト議員を一期務め、現在はゲルマニア王冠史編纂委員会顧問、アルレスハイム革命史調査編纂委員会顧問、ゲルマニア王冠守護者の最も高潔なる枢密院枢密顧問官を務める)
(著作:『党人文化の変遷~同盟政党と構成邦政党~』『アルレスハイム革命の省察と現代的ハイネセン主義への変化』『ロストコロニーと入植星域の政治文化比較』など)

対立は民主主義の脅威なのか

――自由惑星同盟総選挙を終えて、サンフォード議長は異例の三政党大連立による困難な政権運営が予想されます。
地方分権派のみならず、急進的な強硬派と和平派の躍進が著しく、自由惑星同盟の地域対立が深刻化しているように見えます。
お二人は今回の選挙結果をどのように捉えていらっしゃいますか。

エプレボリ氏
 まず前提として自由惑星同盟に限らずあらゆる社会において分断や政治的対立は人類に社会という概念が生まれて以来、ずっと存在しており、歴史上、人類が一つに統合したことはない、ともいえますの。
そもそも対立自体が悪いというわけでもなく、自由惑星同盟には建国の制憲議会から入植競争、コーネリアス1世の大侵攻からの復興の時期など、地方間のみならず様々な対立が生まれ、それをバネに、新たな均衡が模索されてきた歴史がありますわい。対立自体は活力をもたらすものである、ととらえるべきじゃのう。

オリベイラ氏
エプレボリ氏のご指摘の通り、同盟政治において、首都圏と地方の間には、自立を主体とする『個人主義的ハイネセン主義』か、万民の自由権を政治が保証し、自立のための共同体の互助を主体とするべきだというジョージ・パームが再興した労働組合運動を中心とした『共同体的ハイネセン主義』‥‥といった「伝統的な」対立の構図がありました。
 他方で、構成邦内の自治政界でも多様な意見があり、地域間で多様な文化、社会制度が生まれています。その為、一般に言われる『都市対地方』の対立構図のみで見るのもまた難しい。下院の議席の変動や得票率を統計でみると『パルム的ハイネセン主義』は組合活動や医療、社会保障の発展に伴い都市部にも受け入れられていることがわかります。
 このように、同盟政党内部で多様な構成邦を飲み込み、党内で合意や妥協が成立することも珍しいことではなく、さまざまな場面で地域対立の単純化が否定されてきたのも事実です。ところがイゼルローン回廊を押し上げられた760年代に入ると、構成邦の情勢が著しく変容してしまい、構成邦間の格差が広がりつつあり、国政政党内部における調整能力が衰えた結果が現れたといえるだろう。

エプレボリ氏
 あー‥‥オリベイラ殿の発言もごもっとであるが、この点においてはとくに『コルネリアス1世の大侵攻』が大きな転換点となっていることも指摘させていただきたい。
 わが故郷のアルレスハイムも注目されておりますが、ティアマト民国やアスターテ連邦共和国などの政治文化や意識改革、また同盟政府の存在感の高まりなどはこの軍事的危機から始まったのであるといえましょうぞ。一種、現在の国体を作ったのはこの点‥‥

オリベイラ氏
 エプレボリ氏のおっしゃりたいことはわかりますが、同盟議会からみた影響という点では聊か話がさかのぼりすぎているようにも思う。

エプレボリ氏
 オリベイラ殿のご指摘痛み入るが、この点においてはとくに構成邦の政治的変化に注目するべき点であると存じますわい。



同盟政府と構成邦の関係

――今回のテーマは【交戦星域】からみた同盟政界です。【大侵攻】を契機とした変化とはどのようなものでしょうか?

エプレボリ氏
 構成邦における政体の変化が大きくなったのはこの時期でしてな。 純粋な必要性からだが【交戦星域】で行政府への権力の集中が一気に進んだ点は注目に値する。一般的に軍事独裁のイメージが強いヴァンフリート民主共和国においても同盟全体の経済成長が進んでいた時期は多党制は1世紀近くかけて根付いておりました。
 また同盟政府への集権的改革が一挙に進んだことで、その反動として分権的連邦主義が広がったのもこの時期ですな。

オリベイラ氏
 あの大侵攻で最も長く占領を受け、抵抗運動に従事したことで今では国内でも使われている【交戦星域】という概念が生まれたという点は注目するべきだ。
 そして【大侵攻】から始まった変化が急速に進んだのがこの半世紀、特に30年前からだ。
 イゼルローン要塞は明確に【交戦星域】の社会構造を急速に変えた。ティアマトやアスターテのように土地を失ったものだけではない。エルファシルやアルレスハイム、ヴァンフリートなど同盟政府、軍と連携した広域的な避難、復興など広汎的な互助体制の確立が進んでいる。


エプレボリ氏
 【交戦星域】の構成邦で政体の変化が大きくなったのはこの時期でしてな、行政府への権力の集中が一気に進んだ点は注目に値するの。
 例えば一般的に軍事独裁のイメージが強いヴァンフリート民主共和国においても同盟全体の経済成長が進んでいた時期は多党制は1世紀近くかけて根付いておった。じゃが今は再び人民元帥が行政を掌握し議会はその輔弼を行う形態へと回帰しておる。アスターテも船団に避難民を受け入れたことで船団・宇宙港を管理する公社の総裁と連邦元首の一体化が行われ元首への権限集約が集約されたの。
 また同盟政府への集権的改革が一挙に進んだことで、その反動として分権的連邦主義が広がったのもこの時期ですな。

――つまりイゼルローン要塞が建造されたことに【交戦星域】と同盟政府の関係性も大いに変わったということでしょうか?

エプレボリ氏
 帝国という明確な脅威によりヴァンフリートを除くほぼすべての構成邦が本土を占拠されたこと、そしてそれに強力な統制を受けながら抵抗をつづけたこと、この二点により、よくも悪くも同盟政府と対等であるという意識と同時に軍事政策、復興政策など同盟政府の意向に左右されやすい状況になった‥‥これが現在の同盟政府と交戦星域の関係を形作ったといえるの。

オリベイラ氏
 この時期に共同体的ハイネセン主義が【交戦星域】を含めた戦災復興地域を席巻した。そのため、共同体的ハイネセン主義は親軍路線とも親和性が高い。これは地域的な必要と専制主義への断固たる抵抗という思考は個人主義的ハイネセン主義と同根であるからだ。

エプレボリ氏
 同盟政府とのつながりが強くなったことで逆説的に同盟政府との距離が生まれたといえるの。同盟政府の介入が必要になればなるほどバーラト首都圏と【交戦星域】の格差は広まってゆく。その代わり中央へ人を送り込むことに強い関心を抱くようになる‥‥‥
 この奇妙な関係が1世紀ほど緩やかに続き、そしてイゼルローン要塞の中で30年ほどで急速に固定化した。その結果が今出てきた、というところじゃの。


――固定化が続いた結果ということはどのようなことでしょうか

オリベイラ氏
第五次イゼルローン要塞攻略戦は大規模な動員を行い、”ついに攻略を行う”と喧伝されてから選挙が行われた。
 つまり【交戦星域】にとってはイゼルローンがなくなるという希望とその失墜が選挙の間に起きたことになる。もちろん、要塞に損害を与えるなどの戦果は多かったが実際にそこで暮らしている人々からすると政治的な関心が高まるのと同時に更生法としての国家意識を揺さぶられたといえるだろう。四半世紀以上の閉塞に目が向いた結果だ。

エプレボリ氏
 特にティアマトはそれが顕著であるといえる。ティアマト民国の連邦参事会議長となったタロット氏は叩き上げの商売人じゃ。
 彼の支持層の一つは、ティアマト民国の各自治領はどこも一次産業――農林水産業に従事する層であるがの。サジタリウス腕各地に散らばった彼らは良くも悪くも同盟全体の一次産業や無党派層の民意を反映する物とされてきた――つまり、自由惑星同盟全土で共通しているのは【現状維持を行う党人政治家】に対する不満が高まっていることじゃろう。
 アスターテ連邦では最強硬派のグラス氏が、エル・ファシル共和国では同盟懐疑主義正統が両翼で支持を伸ばし、同盟軍との連携強化を推進するタカ派のペイリン首相が再選された。

オリベイラ氏
 一方でバーラト首都圏でも変容してきた。この選挙で見えてきた地方と首都圏の世論の動向を中心にサンフォード政権の顔ぶれと動向についてもなかなか興味深い。


ーー次号では今後のサンフォード政権の方針の予想と【交戦星域】世論の動向を両教授から伺いたいと思います。

 
 

 
後書き
後編もおそらく来週には書きます、よろしくお願いします。 
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