歪んだ世界の中で
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五話 少しずつその七
そうしてだ。彼は話すのだった。
「いつも誰かに言われて。馬鹿にされてね」
「嫌で嫌で仕方なかったのね」
「陰口を言われたり馬鹿にされたりしても平気な人って相当強い人だよ」
心がだ。そうだというのだ。
「それならね。けれど僕はそこまで強くないから」
「普通の人はそこまで強くないの」
「ましてや僕は弱いから」
自覚していることだった。これも今までのことでだ。
「辛いよ。苦しいよ」
「そればかりだったの」
「だから幸せは一瞬のものだって思ってたんだ」
「幸せって感じたことはあるの?」
「それはね」
流石にあるとだ。希望はこのことは微笑んで答えることができた。
「やっぱりあるよ」
「それはあるのね」
「うん。けれどやっぱりね」
それは一瞬だった、過去はそうだったというのだ。
「けれどこれからは」
「それが変わってくるのね」
「そうなって欲しい、いや」
「いや?」
「そうするよ」
前向きだった。そうした言葉だった。
「幸せになるよ」
「なって欲しいのじゃなくて?」
「うん、幸せになるよ」
千春の方を振り向いて。そうして言ったのである。
「千春ちゃんと一緒にね」
「じゃあ千春もね」
「二人でだよね」
「だって。希望は千春がいるからだよね」
「うん、それで幸せを感じられるんだ」
「だったら千春も同じだよ」
彼女もまた、だ。希望と共にいてだというのだ。
「だって。千春も希望と一緒だと幸せだから」
「じゃあ僕達って」
「一緒だよ」
笑顔はここでもだった。
「一緒に幸せになろうね」
「そうだね。それもね」
「ずっとね」
「うん、ずっと一緒にいよう」
二人で話してだった。そうして家に帰ってだった。
希望は幸せを感じ取っていた。千春と別れてからもだ。そしてその幸せと共にだ。
日課になっていたランニングも行い勉強もした。そこには充実もあった。
そんな彼の顔を見てだ。真人もだ。
病室のベッドの中からだ。こう希望に言ったのである。
「晴れやかですね」
「そうなってるかな」
「はい、夏休みがはじまった時より」
「僕明るくなってるんだね」
「ずっと沈んだお顔でしたが」
その顔もだ。今はだというのだ。
「それが変わりましたね」
「そうした顔になってるんだね」
「はい、いいお顔です」
まさにだ。そうなっていると話してなのだった。
その希望にだ。真人はまた話した。
「それも全てその方のお陰ですね」
「千春ちゃんのだね」
「そう思います。その方は遠井君にとってまさに幸せですね」
「そうだね。じゃあ僕達はね」
「今日もですよね」
「うん、今日はプールはお休みだけれど」
だがだ。それでもだというのだ。
「それはそれで行くところがあるから」
「今日はどちらに行かれますか?」
「海か。それか」
「他の場所にですか」
「デートだからね。それじゃあね」
真人と話しているうちにだ。希望もふと考えてだった。そのうえでだ。
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