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歪んだ世界の中で

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第五話 少しずつその四

「子供の頃から太ってたし。勉強もできなかったし」
「それでだったの」
「うん、出来が悪いから」 
 それでだ。子供の頃からだったというのだ。
「僕お父さんにもお母さんにもそうしてもらったことないんだ」
「一緒に遊びに連れて行ってもらったことは?」
「本当に無いよ。遊園地だってね」
 子供が親に連れて行ってもらうだ。そこにもだというのだ。
「幼稚園で行ったのがはじめてで」
「そうだったの」
「一緒に行くのはいつも遠井君でね」
 真人はここでも彼の親友だった。彼は希望にあくまで優しかったのだ。
「その他の誰ともね」
「そうした場所に行ったことなかったの」
「そうだったんだ」
 寂しい笑顔での言葉だった。
「実はね」
「じゃあ映画館も?」
「遠井君と一緒に行ったことはあるよ」
「他の誰とも?」
「なかったんだ」
 だからだ。本当に女の子と一緒に行くというのはというのだ。
「はじめてなんだ」
「デートの時と同じなの」
「そうだよ。同じだよ」
 まことにそうだとだ。答える希望だった。
「そうだったんだよ」
「けれど今は違うわよね」
「今は?」
「そう、今は」 
 千春は話さなかった。話すのは。
 現在のことだった。千春はそれを見てだ。
 そのうえでだ。希望に対して話すのだった。
「今は千春と一緒だよね」
「うん、それはね」
「じゃあ一緒にいよう」
 このうえなく優しい微笑みでだ。千春は希望を誘った。
「映画館でもね」
「そう考えればいいんだね」
「後ろに向いたら前に進めないよ」
「前に進もうと思ったらなんだ」
「そう、前を見よう」
 これが千春の言葉だった。
「一緒にね」
「じゃあ」
「映画館行こうね、楽しくね」
「そうだね。そこにもね」
 希望は前も見た。そしてなのだった。
 前を見てそのうえでだ。彼は千春と一緒に映画館に入った。映画館のロビーは白と赤の奇麗なコントラストだった。そのコントラストの中でだ。
 希望はポッポコーンも買った。そしてだ。
 そこにコーラも買った。どちらも二つずつだ。
 そしてそのうちの一つずつをだ。千春に渡してからだ。
 彼はだ。少しだけ笑顔になれてだ。その笑顔で言うのだった。
「もうちょっとしたら上映時間だから」
「うん、中に入ってね」
「それで観よう」
 そのだ。映画をだというのだ。
「そうしようね」
「うん、じゃあね」
「とりあえず買ったけれど」
 中に入ることを決めてだった。その中でだ。
 希望は千春がそれぞれの手に持っているポップコーンとコーラを見ながらだ。そのうえでだ。
 彼女にだ。こう尋ねたのだった。
「ポップコーンとか好きかな。コーラも」
「好きだよ」
 ここでもにこりと笑って答えてきた千春だった。 
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