リュカ伝の外伝
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天使とラブソングを……?(第10幕)
前書き
こんなに長い外伝エピソードは初めてだ。
第8幕か第9幕くらいで終わる想定だったんだけどなぁ……
(グランバニア:芸術高等学校)
ピエッサSIDE
あの娘が学校に来てない!
如何言う事よ!?
陛下からの呼び出しをすっぽかす気なの!?
朝、教室に来なかったので、休み時間の度に学校中を探し回った。
それなのに見つからない。
つまり登校してないのだ。
一人でお城に行く訳にもいかないので、放課後になりダッシュであの娘の家へ行こうと校門へ向かうと、そこには着飾ったアイリーンが私を待っていた。
何で私が待たれる側なのよ!?
「ちょっとアンタねぇ……学校サボるって如何言うつもり!?」
「解ってる。言いたい事は解ってるわ。でも訳があるのよ。途次話すから、行きましょう……遅刻する訳にはいかないわ」
学校をサボったくせに私を急かすアイリーン。
でも遅刻は出来ないので黙って従う。
この場にレッ君が居れば嫌味の一つも言うのだろうけど……
校門を出て数十メートルでバス停に着く。
“バス”とは“魔道人員輸送車”の事であり、以前アリアハン(この時はまだ国が出来る前だった)からの技術提供で作られた“魔道運搬車”通称“トラック”を陛下のアイデアで人を運べる物にした魔道車だ。
何故“バス”なのか、何故“トラック”なのかは分からないが、陛下が命名したのでこの国ではその名で通用する。
きっと深い意味があるのだろう。
「昨日アンタのところに陛下がわざわざ足を運ばれたと思うけど、大体の事情は解ってるわよね?」
「えぇまぁ……仕事の依頼があったんでしょ?」
「そうよ。まだ仕事と内容は秘密だったけど、私を名指しで仕事のオファーにいらっしゃったのよ!」
「学校サボったくせにテンション高いわね」
「テンションも高くなるわよ。聞いて驚きなさい……仕事の報酬の前渡しをして頂いたのよ!」
「わぁ~すご~い、オドロイター(棒読み)」
「ムカつくわねアンタ。まだ驚く所じゃ無いわよ!」
「じゃぁ早く結論を言いなさいよ」
「報酬の中身よ」
「大金だったの?」
「馬鹿じゃ無いのアンタ。陛下は何でも金で解決する様な俗なお方じゃないわ!」
「ま……まさか!?」
何となく予想できてきた。
するとアイリーンは、左肩から右脇へ斜めがけをして巨乳をアピールしてた鞄から数枚の楽譜を取り出して私に見せつけてくる。
この娘も陛下から曲を頂いたんだわ。
「この曲を陛下より賜ったのよー!」
「ヘー、オメデトウ(棒読み)」
丁度魔道人員輸送車停に辿り着き、アイリーンが見せびらかす楽譜を手に取り見る。
「これ……アンタの字よね?」
「そうよ。本物の楽譜は今日陛下から頂ける予定なの」
「つまり『楽譜書いてて夜更かししちゃって寝坊して学校サボった』って事?」
「違うわよ。陛下から曲を頂いちゃってテンション爆上げになり、バイト先の店で20~30分練習のつもりが、気付けば2時間! 鍵締めの為に残ってた店員に謝罪しつつ帰宅後も興奮で眠れず、気持ちを落ち着かせる為に楽譜を何枚も書きまくってたら窓の外から太陽の光が……無理して学校に行っても寝不足でボロボロ状態。そんな姿を陛下にお目にかける訳にはいかないので、今日はサボる事に! 如何、理解できた?」
「理解出来ました。納得はしてないけど……」
はぁ……と溜息を吐いて楽譜に視線を移す。
解っていた事だが、それでも愕然とする。
多分1回か2回だろうが、聞いただけで楽譜まで起こせる彼女の能力と、この『春よ、来い』というタイトルの楽曲の素晴らしさに!
陛下とアイリーン……二人の天才に如何足掻いても辿り着けない凡人の存在……
「あ、魔道人員輸送車が来たわよ。アレに乗るんでしょ?」
「え……あ、うん」
はぁ……溜息しか出ない。
「ちょっと如何したの溜息ばかりして?」
バスに乗り後方の二人がけ席に並んで腰を下ろすと、アイリーンが問うてきた。
察して欲しい。
「二人が天才過ぎて、凡人は落ち込むしかないのよ」
「そんなことか。確かに私は音楽に関しては天才よ! そこは謙遜なんてしないわ。でもアンタだって私に無い才能があるじゃない。作詞作曲の才能が! 自分を凡人なんて卑下しない」
「ま、まぁ……確かに」
「それに目線を広く持ちなさいよ。確かに私は音楽だけは天才よ。でも陛下なんて如何よ!?」
「ど、如何と言われましてもぉ……」
「外を見てみなさい。魔道灯の魔道石を交換してる係の人たちがいるわ」
確かに魔道灯の魔道石を交換してる人が見える。
因みに魔道灯とは、陛下がアイデアを出され魔技高校の生徒らが中心となって技術を完成させた発明品だ。
魔道石も同じ……この国の魔法機械技術のエネルギー供給装置だ。
「遠くに見える列車も、ここからじゃ見えないけど海上を移動する蒸気船も、私たちが通う高等学校のみならず、その前身の義務教育も、全部陛下のアイデアで具現化されたものたちよ!」
「そ、そうね……」
「天才すぎるでしょ!? それでいて世界最強の強さ! そして優しく絶世のイケメン! 欠点があるのなら教えて欲しいわ!?」
「……宰相閣下は『性格が悪い』って言ってたわ」
「あのガキ、ぶっ殺すぞ!」
「気持ちは解るけど、私のスポンサーだから止めて」
この国では国家のナンバー2の悪口を面と向かって言っても、ほぼ罪にならない。
「まぁ兎も角……陛下に比べたら私もアンタも変わりないって事よ」
「比べる相手が間違ってる気がするけど、でも少しは気分が軽くなったわ」
そう言えば……
「慰めて貰ったお礼に、本当に数日前に解禁になった情報を教えてあげるわ」
「何々、陛下の事?」
「陛下の事というか……先刻も話題になった陛下のアイデアの事」
「何かまた凄い発明品でも?」
察しが良いわね。
「魔道力を使った新しい音響機器の開発を指示されたのよ。根幹のアイデアは陛下発よ」
「流石陛下だわぁ~……ところで音響機器って?」
当然の疑問ね。“新しい”と言っても、古い物がある訳では無い。
「アリアハンが作ったMHって通信機器が、王家の方々を中心に数台存在するんだけど、それは遠く離れた場所にいても、瞬時に姿と声を相互通信して会話が出来るアイテムなの」
「凄い……でもそれは陛下の発明では無いのよね」
「そうだけど、アリアハンの新王マスタードラゴン様に、アイデアを言って作らせたらしいわよ」
「やっぱり陛下のアイデアなのね! いやぁ~流石陛下……超天才!」
陛下の事になるとこの娘の性格が変わる……
「んで、そのMHを元にして音響機器を開発する為、魔技高校の優秀な生徒を中心に、開発チームが結成されたの」
「はぁ~学生だけを集めたんだ?」
「そ。未来への技術力を向上させる為に、伸び代がある学生をだけで構成したらしいわ」
「流石は陛下のお考え! 奥が深いわぁ~……ところで、何でアンタがそんなに詳しいのよ!? 彼氏からの情報で、国家機密に当たる事も聞き出しちゃっての?」
「残念。レッ君からでは無いわ。この情報に関してはレッ君とは何も話してない。……って言うか、国家機密情報を私に話したら別れてやる! そんな情報貰って面倒事に巻き込まれたくないわ!」
「はいはい。惚気はいいから、話の続きを……」
「そ、そうね。結論から言っちゃうと、その開発チームに“音響の専門家”として私が召集されたの」
「えぇー!! アンタばっかりズルい! 私も陛下のお役に立ちたいのにぃ!!!」
「まだアンタが私から『ドラクエ序曲』を盗む前の事よ……直ぐに使える芸高校の音楽専攻者が私しか居なかったんでしょ」
「それでも羨ますぃーわ」
「兎も角……そのチームで3つの音響機器を開発したの」
「3つも?」
「うん。集音装置の“マイク”。音声増幅装置の“アンプ”。音声拡散装置の“スピーカー”の3つ。この3つで1セットよ」
「ほほう……如何いった場面で使うのかね?」
「まぁ陛下的に開発させた一番の目的は、今度行われる武闘大会の為じゃないかしら?」
「と言うと?」
「建設中のスタジアムを見に行った事ある?」
「直接近くまでは行ってないが、遠目には見た事があるわ」
「じゃぁ解ると思うけど、かなり大きいわよね!」
「そうね。この国じゃ、お城の次に大きいわね」
「あれだけ大きい建物の中で、武闘大会などが催されるの。とてもじゃないけど地声じゃ隅々まで届かないわ……司会やレフリィーだって居るでしょうから」
「なるほどね……だから3つで1セットなのね。1つに纏めてない訳が解ったわ」
「実際に使ってみれば解るけど、感動するわよ……この装置の凄さに!」
「ふーん……凄そうね。内部の仕組みは如何なってんの?」
うっ……な、内部の仕組みと言われましても。
「……全然解んない」
「……アンタ開発側でしょ?」
そ、そうなんだけど……
「開発に携わったといっても、音は空気を振動させる事で発生するとか、波長があるとかそんなフワッとした情報を逐次供給してただけで……」
「肝心の装置開発は、魔技高校の生徒らだけで進められた……と?」
項垂れながら肯定する。
「ホント私なんか居なくても開発できたと思う……」
「馬鹿言わないの。陛下がアンタを招集したのよ! 役に立つか如何かじゃなくて必要だったのよ。直ぐ自分を卑下するの止めなさい」
「う、うん。そ、そう言えば……招集された魔技高校の生徒で凄い人が居たわ!」
「凄い人とな?」
「うん。超可愛い女の子なんだけど、超天才なの。ラインハットに実家があるそうなんだけど、飛び級のうえに海外留学。お淑やかで優しいんだけど、カリスマ的なリーダーシップ!」
「リーダーシップってことは開発チームのリーダーなの?」
「別に明確に決めてはなかったんだけど、開発を進めていくうちに彼女が実質のリーダーになってたわ」
「しかも美少女って凄いわね。私とどっちが美人?」
「断然向こう!」
「即答でムカつくわね」
「外見だけの評価で言えばマリーちゃんと同等の美少女よ」
「……あの娘レベルだったら負けを認めるわ、ムカつくけど」
アイリーンも美人だけど、何かマリーちゃん等は次元が違うのよねぇ……
「あ……そろそろ城門前に着くわ」
「そうね。私、お城に入るの初めてよ」
心なしか緊張で声が震えてる様に聞こえた。
「中は本当に広いから迷子にならない様にしてね」
「そ、そうするわ……ところで、緊張を紛らわす為に聞きたいんだけど、先刻話題に出た天才美少女の名前は? もし会えるなら一度見てみたいわ」
以外にミーハーね。
「ラインハット国籍だからPNだけだけど、リューナちゃんって言うのよ」
ピエッサSIDE END
後書き
物語的に影が薄いリューナちゃんですが、
裏では色々お父さんの為に活躍中。
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