魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~
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無印編
第65話:幕引きの時
前書き
どうも、新年あけましておめでとうございます!黒井です。
今年もよろしくお願いします!
颯人と透に向け8つある蛇の頭から火球を放ったファントムと化したヒュドラ。
その火球の爆炎から颯人達は辛くも逃れ、奏達と合流した。
「颯人! 大丈夫か!?」
「心配すんな、どうって事ねぇ! だがなかなかに面倒な事になったぞ」
「颯人さん、あれは一体?」
「元ヒュドラの化け物。今はそう覚えといてくれりゃいい。詳しくは後で話すから」
颯人はウィズから、ファントムがどのようなものかをある程度聞かされていた。
曰く、魔法使いが魔力の制御を失うと変異する姿であると。
ヒュドラはフィーネの一撃を喰らい、肉体が崩壊し魔力の制御を失ったが故に変異したのだろう。フィーネに颯人諸共に吹き飛ばされそうになった怒りに、膨れ上がった魔力が大きく傷付いた肉体に制御できなくなったのだ。
その証拠に、ヒュドラは颯人へ追撃を行わず巨大な赤き蛇竜と化したフィーネに対しても攻撃していた。
「どいつもこいつも俺をコケにしやがって!? 全部纏めて、ぶっ飛ばしてやる!!」
「ふん! 暴れるしか能の無くなった獣が。貴様も奴ら同様始末してくれる!」
忽ち始まる火球と閃光の応酬。余波が周囲を破壊し、被害がどんどん広がっていく。
「ヤバいヤバいヤバい!? どっちも頭に血が上ってやがる、このままじゃ辺り一面更地になっちまうぞ!?」
「止めるしかねぇ! 颯人、そっちはヒュドラの方を頼む! こっちはアタシ達で!」
「くっそ! 少しくらいデカくなった程度で、調子に乗ってんじゃねぇッ!」
一早くクリスが動き出し、アクロバットな飛行で飛び回りながらアームドギアによる一斉射撃をフィーネに放つ。
だがフィーネは頭部の外殻の聖堂の様な部分に引っ込み、クリスの攻撃から逃れてしまった。
「なっ!?」
「鬱陶しいんだよ!?」
「雪音ッ!?」
クリスのビームはフィーネの外殻に全て阻まれ、間に割って入ったからかヒュドラファントムが空中のクリスに向けて火球を放った。
更にフィーネからも、反撃のビームが蛇竜の背から広がった羽の様な器官から乱射された。ビームはクリスに向けてホーミングし、四方八方からビームと火球がクリスに襲い掛かる。
〈コネクト、ナーウ〉
クリスに迫る危機に、透が動いた。ライドスクレイパーを取り出し、クリスに接近すると彼女を庇ってビームと火球を一身に受けた。
「透!?」
「あのバカッ!?」
またしてもクリスを庇ってその身を犠牲にする透。だが今度は少し違った。
爆炎の中から、鎧を取り払った無傷のメイジが飛び出してくる。鎧を身代わりに、フィーネとヒュドラファントムの攻撃から身を守ったのだ。
〈イエス! スペシャル! アンダスダンドゥ?〉
クリスを守りフィーネとヒュドラファントムの攻撃から逃れた透は、再び鎧を纏いながらライドスクレイパーでクリスの隣に並んで飛行した。
「透、もうあれやるな!? 心臓に悪いから!!」
今度は無事だった透に、しかしクリスは目尻に涙を浮かべながら小突いた。先程の事もあって、もしもと言う事を考えてしまったのだ。
小突かれて透も彼女に心配をかけてしまった事に、透は仮面の頬の部分を申し訳なさそうにかく。
その間に奏と翼がフィーネに、颯人と響がヒュドラファントムに反撃する。
「はぁっ!」
[蒼ノ一閃]
「喰らえッ!」
[LAST∞METEOR]
「行くぜ響ちゃん!」
「はい! はああっ!」
翼と奏の一撃がフィーネの外殻を抉り、颯人のウィザーソードガンの斬撃と響の拳がヒュドラファントムに突き刺さる。
通常であればどちらも大ダメージ間違いないのだが、共に再生力が優れておりあっという間に再生してしまった。
「くっそ、手が足りねぇ!?」
「チッ! 伝承通りかよ」
その再生力に奏と颯人が思わず舌打ちをする。幾ら攻撃しても、直ぐに再生されては埒が明かない。
『いくら限定解除されたギアであっても、所詮は聖遺物の欠片から作られた玩具ッ! 完全聖遺物に対抗できるなどとおもうてくれるな』
フィーネは勝ち誇ったようにそう告げた。確かに聖遺物としての格はあちらが上なのだろう。しかし、それを態々告げたのは失策であった。
「……ははぁん」
「な~るほど」
颯人と奏がしめしめと顔を見合わせた。見ると他の装者や透達も、何かに気付いた様な顔をする。今のフィーネの一言に、勝利への道筋を見つけたのだ。
「これならいけそうだな」
「念話のチャンネルはオフにしろ」
「よし、もっぺんやるぞ!」
「しかしそうなると……あいつが邪魔だな」
颯人の視線の先にはヒュドラファントムが居る。これから何をするにせよ、あいつがどうしても邪魔になる。何とかしなければならない。
不意にメドゥーサが静かな事に気付き周囲を見渡すが、彼女の姿は見当たらない。この混乱に乗じて退避したようだ。ある意味懸命な判断だろう。
「メデューサが居ねえのは好都合だな。あれは俺と透で何とかする。上手くやれば一網打尽に出来るかもしれねぇ」
「大丈夫か? 結構手強そうだぞ」
「大丈夫だ、何とかなる。あいつが伝承通りの特性を持ってるなら、今の俺はあいつに対して有利の筈だ」
神話において、ヒュドラはヘラクレスに倒されている。その倒され方とは、傷口を火傷で塞ぎ再生能力を奪うと言うものだ。
今の颯人が変身している、フレイムドラゴンスタイルなら十分に対抗は可能。
「よし、行くぞ!!」
魔法使いと装者はそれぞれの目標に攻撃を開始した。
「えぇい、ままよ!」
「私と雪音、奏で露を払う!」
「よっしゃぁl!」
蛇竜の羽から放たれるビームを避けながら、奏と翼とクリスが突撃する。
クリスがビームの合間をすり抜け突き進み、翼と奏はそれぞれ巨大化させたアームドギアから攻撃を放つ。
「いっけぇぇぇぇ!」
[ULTIMATE∞COMET]
「はぁぁぁぁぁぁ!」
[蒼ノ一閃 滅破]
高威力の斬撃と熱線が如き刺突が、蛇竜の体を切り裂き爆煙を上げる。
その下の方では、颯人と透がヒュドラファントムを相手に大きく立ち回っていた。
「そこだ!」
颯人がヒュドラファントムに二刀流で挑みかかる。それに対してヒュドラファントムは颯人の二刀流を蛇頭で迎撃した。頭一つでも十分颯人の片腕の力と拮抗する事は可能なのに、ウィザーソードガン一本に対し頭三つで対応している。
颯人は両手の武器を一瞬で封じられた。その隙に残りの二つの蛇頭が火球を放つ体勢を取る。
その二つの蛇頭を、透が一刀両断した。颯人を踏み台にしてヒュドラファントムの頭上を取ると、颯人に火球を放とうとしている蛇頭二つに中央の頭を纏めて切り裂こうとしたのだ。
寸でのところで上半身を逸らされた為中央の頭は掠りもしなかったが、颯人に火球を放とうとしていた頭は切り落とす事が出来た。更に背後に着地した透は、振り返りざまに颯人の攻撃を受け止めている六つの頭を一気に切り落とした。
「がぁっ!?」
「頭に頼り過ぎだぜ!」
武器となる八つある蛇の頭を一気に切り落とされた事で、ヒュドラファントムの動きが僅かに止まる。
そこに颯人の乱舞が炸裂した。アクロバティックな動きを取り入れた剣舞は、ヒュドラファントムに反撃の隙を与えない。
しかしヒュドラファントムも一筋縄ではいかなかった。曲がりなりにも幹部として名を連ねていたのだ。
アクロバティックな動きで翻弄する颯人に対し、ヒュドラファントムは持ち前の防御力で堪え反撃に転じた。
「舐めんじゃねぇ!? 魔法使い如きが!!」
「お前だって元は魔法使いだろうが!」
「今の俺はもう違う! 中途半端なお前とはな!!」
颯人の連撃を受け流し、口から小さな火球を吐いて颯人の動きを牽制するヒュドラファントム。至近距離からだったので威力の低い火球でも颯人を怯ませるには十分だった。ヒュドラファントムを前に隙を晒してしまう颯人。
そこにヒュドラファントムの攻撃が襲い掛かる。再生させた蛇頭も駆使しての攻撃に、颯人は劣勢に立たされた。
それを透がサポートする。背後から接近し、颯人に掛かり切りになっている蛇頭を次々と斬り落とす。
「こんの、裏切りもんがぁ!?」
素早く蛇頭を再生させ反撃に回るヒュドラファントム。そうはさせじと透が再び切り落とそうとするが、素早く振り向いたヒュドラファントムが剣で透の攻撃を受け止めた。背中を颯人に晒す事になるが、そちらは蛇頭が対応する。
その瞬間、透の動きが変わった。透は執拗にヒュドラファントムの頭部を狙い、自分にヘイトが向くようにした。ヒュドラファントムも、中央の頭を切られるのは流石に不味いのか透にかなりの意識を割いた。
同時に切り裂かれた蛇竜の聖堂部分にクリスが突入する。
今が好機!
〈テレポート、プリーズ〉
颯人は自分と透、そしてヒュドラファントムを纏めてフィーネの蛇竜の聖堂内部へと転移させた。
突然居場所が変わり、周囲の様子に気を取られるヒュドラファントム。一方フィーネも、クリスだけでなく颯人達までが内部に侵入してきた事に驚愕を露にした。
「ここは!?」
「何ッ!?」
「フィーネェッ!!」
侵入したクリスは閉じられた外殻内部で、アームドギアの全砲門からビームを一斉掃射した。忽ち爆煙に包まれる外殻内部。
その煙の中で、颯人は隙を晒すヒュドラファントムの蛇頭に決め手となる一撃を放つ。
〈キャモナ・シューティング・シェイクハンズ! フレイム! ヒーヒーヒー! ヒーヒーヒー!〉
左手に持っていたウィザーソードガンを捨て、右手のウィザーソードガンのハンドオーサーに左手を翳す。銃身に魔法陣が幾重にも重なり、炎の魔力で形成された銃弾が至近距離からヒュドラファントムの背中に放たれる。
「うがぁぁぁぁぁぁっ?!」
爆煙に包まれた外殻内部で、無数の炎の銃弾が背後からヒュドラファントムの蛇頭を吹き飛ばす。銃弾は蛇頭を吹き飛ばすだけに留まらず、傷口を焼き再生能力を封じた。
報復とばかりにヒュドラファントムが残ったメインの頭の口から大きな火球を放とうとする。それを透が頭を蹴る事で火球が飛ぶ方向を変えさせた。向かうのはフィーネの方だ。
「くっ!?」
フィーネは結界を張り、ヒュドラファントムの火球を防ごうとする。
そこで颯人と透はヒュドラファントムから距離を取った。場所はヒュドラファントムとフィーネを直線で結んだ延長線上。2人は一に着くと同時に指輪を使用する。
〈チョーイイネ! キックストライク! サイコー!〉
〈イエス! キックストライク! アンダスダンドゥ?〉
火球を放った直後で隙だらけのヒュドラファントムに、颯人と透のキックストライクが突き刺さる。
「ハァァァァァァァッ!!」
「がぁぁっ?!」
2人の放ったキックストライクはヒュドラファントムを蹴り飛ばし、そのまま奴が自分で放った火球にぶち当たる。2人の必殺の蹴りの威力がヒュドラファントムの火球を押し込み、派手に爆発を起こすと同時に結界が砕け散る。
その衝撃でフィーネの手からデュランダルが離れ宙を舞った。
「よっしゃ!」
「響、行ったぞ!」
「そいつが切り札だ!」
宙を舞うデュランダルが響に向け飛んで行く。それを奪われまいとフィーネが手を伸ばして何かをしようとするが、颯人がそれを許さない。
「悪いがそいつは没収だ!」
「ちょっせぇっ!」
颯人のウィザーソードガンの銃撃がフィーネの行動を阻み、クリスのハンドガンに変形させたアームドギアがデュランダルの軌道を調整し響の元へと届ける。
もう十分だ。これ以上ここに居てはこれから響がやる事に巻き込まれる。颯人と透は転移魔法で蛇竜の外殻内部から脱出した。
同時に響がデュランダルを手に取った。
瞬間、響の瞳が赤く染まり純白のエクスドライブのギアが黒一色に染まる。
「ぐ、うウウウ、ウウウウウウウウ!?」
またしても現れた暴走の兆候に、颯人が仮面の奥で険しい表情をする。
その時周囲を警戒していた透が、ヒュドラファントムの姿を捉えた。あの爆発でヒュドラファントムもはじき出されたらしい。
問題はそのヒュドラファントムが、今正に響に向けて特大の火球を放とうとしている事だった。
「おおぉぉぉぉぉぉっ!!」
満身創痍にされた怒りを、無防備に叫んでいる響にぶつけようとしているのだ。もしくは地獄への道連れにでもしようとしているのか。
残った中央の頭の前に、頭の大きさを優に超える程の大きさの火球が集束していく。
させじと颯人と透は互いに顔を見合わせ頷き合うと、響の事を奏達に任せてヒュドラファントムへの対処に回る。
響には奏達や、地上の彼女の友人たちが必死に声を掛けて正気に戻そうとしている。
ならばそれを邪魔させる訳にはいかない。
正直な話、元々は人間だったヒュドラファントムにトドメを刺す事に躊躇いは無いかと言われると、全く無いとは言い切れない。しかし、もうヒュドラファントムが人間性を無くしているのは誰の目にも明らかだった。
今なら分かる。ウィズが倒したメイジの魔力を封印させたのは、厄介なファントムを生み出す事を防止すると同時に、命を奪うと言う事を避ける為でもあったのだ。
ファントムとなった瞬間、元の人間としての部分は消え去る。それは先程見て実感した事だ。だが、元は人間であり一つの命だったもの。これからやる事は、命を奪う行為に他ならない。
しかし──────
「……止めてやるよ、俺達がな」
助けるのは他ならぬヒュドラ自身。彼がどんな経緯でジェネシスに与する事になったのかは分からないが、洗脳されたにせよ何か理由があったにせよ、根っからの悪人ではなかった筈だ。きっと自ら与したとしても、そうするだけの何かがあったのだろう。
道を踏み外した結果、際限なく無関係な誰かに災厄を振り撒き罪を重ねる位なら、ここで引導を渡してやるのが慈悲と言うものだ。
言い訳に聞こえるかもしれない。命を奪う行為を正当化しようとしているように聞こえるかもしれない。だがここで出来る事をやらずに被害が増えるようなことになれば、それは一生消えない後悔として残る。
だから、やるのだ。きっと透も同じ気持ちだろう。
〈チョーイイネ! スペシャル! サイコー!〉
颯人が右手をハンドオーサーに翳すと、彼の背後に魔法陣が現れそこから炎で出来たドラゴンが飛び出る。ドラゴンは彼の周囲を旋回し、再び背後から魔法陣に飛び込んだ。
すると、ドラゴンの頭が魔法陣どころか颯人の体を突き抜けて彼の胸に頭を出した。だが颯人に苦しんでいる様子はない。
それと時を同じくして、透が構える剣の放つ輝きが最高潮に達した。
その瞬間、2人は示し合わせたように同時に攻撃を繰り出した。
颯人は胸のドラゴンの首から高熱のブレスを。
透はその剣から、翼の技『蒼ノ一閃』と見紛う様な一撃を。
2人の攻撃がヒュドラファントムに迫る。ヒュドラファントムはそれを迎撃しようと響に向けていた火球を放つが、2人の攻撃はその火球を一瞬の拮抗の後打ち破った。
「ッ!?」
火球を打ち破った2人の攻撃はそのままヒュドラファントムを飲み込み、ヒュドラファントムは体を全て焼き尽くされた。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「……ここがお前の幕引きだ、ヒュドラ」
颯人がせめてもの弔いの言葉を投げかけ、ヒュドラファントムは燃え尽き消滅した。
時を同じくして、仲間と友の言葉で正気を取り戻した響が振り下ろしたデュランダルが巨大な蛇と一体化したフィーネを打倒した。
「この身、砕けてなるものかぁぁぁぁッ!?」
断末魔にも等しいフィーネの叫びを響かせながら、赤黒い大蛇はその身を崩壊させていく。
その様子を、離れた所からワイズマンが眺めていた。彼の近くにはメデューサが控えている。
「……ふん。フィーネもこんなものか。つまらん奴だ」
「ミスター・ワイズマン。いかがいたしますか?」
「言った筈だ、今日はもう帰る。どの道、我らが起つのはもう少し後だ」
「御望みのままに」
メデューサが傅くと、ワイズマンは右手にテレポート・ウィザードリングをつける。そしてハンドオーサーに翳す直前、颯人と奏を一瞥してから改めて右手をハンドオーサーに翳した。
〈テレポート、ナーウ〉
ワイズマンはメデューサと共に決戦の場から姿を消した。
颯人達は勿論、ウィズすらその事に気付く事は無かったのだった。
後書き
と言う訳で第65話でした。
最終決戦はこれにて決着となります。
この戦い、当初は魔法使い組と装者組で完全に分かれ、装者組の戦いは原作とほぼ同じなので魔法使い側の戦闘のみをピックアップする予定でしたが予定変更して魔法使い組と装者組の混ぜこぜの戦いと相成りました。その方がクロスオーバーっぽいと思ったので。
次回はいよいよシンフォギア1期の最終話。ちょっとしたサプライズも用意してあるのでどうかお楽しみに!
今年もよろしくお願いします。それでは。
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