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女郎蜘蛛

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第二章

「そうだ」
「そうですか」
「それで取ろうとしたが」
「そうですか、ではお返しします」
「そうしてくれるか」
「はい、ただ」
 女は太助に鉈を差し出しつつ話した。両手に持っているそれを。
「一つお願いがあります」
「お願い?」
「この滝のことは聞いていますね」
「女郎蜘蛛がいるってな」
「ではおわかりですね」
「あんたがか」
「はい」
 女は静かな声で答えた。
「実は」
「やっぱりそうか」
「はい、そして私に会ったことはです」
「言うなっていうんだな」
「左様です」
「そうか、それで話すとか」
「その時もおわかりですね」
 女は太助にさらに言った。
「貴方のお命はです」
「そういうことか」
「そのことはお願いします」
 こう言って太助に鉈を返して滝の中に入っていった、後は滝は何もなかったかの様に静かであった。そして。
 太助は返された鉈に斧を使ってだった、木を充分に切るとその切ったものを背負って村に戻った。それからだった。
 暫くは何もない様に過ごしていたが次第にだった。
 滝のことを誰かに話したくなった、言うなと言われていること程そうなる人の性が出た。それでだった。
 話せないことに苦しく思っていた、だが。
 ここで彼は気付いたことがあり村の寺の住職に話した。
「わしはもう充分生きて」
「いつも言っていますね」
「それがどうも」
 これがというのだ。
「最近命が惜しいのかと」
「その様にですか」
「思う様なことがあって」
 それでというのだ。
「どうかとなっている次第で」
「そうなのですか」
「孫の顔も見て女房にも先立たれ」
 そしてというのだ。
「もう思い残すことはないと思ったが」
「人はです」
 住職はその彼に話した。
「これがです」
「そう思っていても」
「実はか」
「生きたいとです」
 その様にというのだ。
「思うものです」
「そうしたものか」
「はい、ですから」
 それでというのだ。
「今の太助さんもです」
「生きたいと思っているか」
「そうかと。ですが」
 住職はこうも話した。
「人は必ず死にそして魂はです」
「生まれ変わるんだったな」
「そうなるので」
 だからだというのだ。
「死ぬ時に死んでもです」
「いいか」
「そうではないかとです」
 若い住職はこう話した。 
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