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英雄伝説~灰の騎士の成り上がり~

作者:sorano
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第112話



~ノルティア街道~



「――――――皇太子殿下、よろしいでしょうか?」

セドリック達が話を続けていると一体のシュピーゲルが前に出てテスタ=ロッサを見上げて声をかけた。

「貴方は……?」

「申し遅れました。私の名はギルベルト・シュライデン。ノルティア領邦軍の”総司令”を務めている者にして、シュライデン伯爵家当主です。お初にお目にかかります、皇太子殿下。」

「シュライデン伯爵………聞いた事があります。確か、ノルティア領邦軍の武術教練を任されている”シュライデン流槍術”の”師範代”でもある方でしたよね?」

シュピーゲルを操作している人物―――シュライデン伯爵が名乗るとセドリックは自分が覚えている範囲の事を呟いてシュライデン伯爵に確認した。



「左様。”ヴァンダール”や”アルゼイド”のような”二大武門”でもないしがない地方武門に過ぎぬ私の名を覚えて頂き光栄です。それで殿下達の主張では、既にログナー侯爵家当主として……ノルティア州統括領主としての地位の剥奪が既に決まっている為、連合による侵略を防ごうとするお館様の指示は”不当”だとの事ですが………例えお館様が内戦の件に対する”処罰”でお館様の地位が奪われる事が内定していたとしても、ノルティアを……祖国を侵略者の手から守ろうとするお館様の判断や皇帝陛下に対する忠誠も”不当”だと仰るのですか?」

「――――――はい。オズボーン宰相の独断によって始まった戦争ではありますが……それでも僕達アルノール皇家は連合との和解もそうですが、内戦の件で多大な迷惑をかけたメンフィル帝国に対する”償い”をする事を心から望んでいます。」

「そもそも私達アルノール皇家は今回の戦争で連合もそうだがメンフィル帝国に私達の誠意をわかってもらう為にもルーレに限らず、メンフィル帝国が内戦の件でエレボニアに要求した領土の管理を一端メンフィル帝国に任せるつもりだった。例えばクロイツェン州のようにね。」

シュライデン伯爵の問いかけにセドリックが答えるとセドリックに続くようにオリヴァルト皇子も答えた。

「!まさか………帝国政府による”焦土作戦”によって大きな被害を受けたクロイツェン州を連合が占領後侵略者でありながらも民達に対して配給を行っていることもそうですが、復興に協力的なのも殿下達が連合と交渉した結果だと仰るのですか?」

二人の話を聞いてある事に気づいたシュライデン伯爵は血相を変えてセドリック達に問いかけ

「ああ。前アルバレア公の逮捕とルーファス卿の戦死によって、急遽クロイツェン州の統括領主であるアルバレア公爵家の当主を務める事になったユーシス・アルバレア卿も既に承知――――――いや、むしろ連合に嘆願したよ。彼はアルバレア公爵家としての誇りも捨ててでも”焦土作戦”によって家を……財を失ったクロイツェンの民達を救う為にもメンフィル帝国の皇族の方に地面に跪いて頭を下げてクロイツェン州の事を頼んだくらいだ。」

「なあっ!?」

「お、お館様と同じ”四大名門”の一角の当主が侵略者にそこまでしてでも民達の保護を頼むなんて……」

オリヴァルト皇子の話を聞いた領邦軍は驚いたり信じられない表情をしていた。



「………殿下達がこの戦争を”和解”という形で解決したい事や、内戦の件でメンフィル帝国に対して強い負い目を感じている事は事は理解しました。―――しかし、連合による侵略で既に我がノルティア軍からも犠牲者が出ています。殿下達はその犠牲になった兵達のお館様への忠誠や故郷を守りたいという”想い”すらも無下にされるおつもりなのですか?」

「……………………――――――はい。犠牲者が出る前に戦闘を中断させられなかった事は残念でしたが………例え貴方達もそうですがログナー侯を含めたノルティアの貴族達から恨みを買おうとも、それでエレボニアの民達である貴方達から一人でも多くの犠牲者が出る事を防ぐ事ができるのならば、”本望”です。」

「こ、皇太子殿下………」

「ううっ………」

シュライデン伯爵の問いかけに対して少しの間考え込んだ後決意の表情を浮かべて答えたセドリックの答えを聞いた領邦軍は複雑そうな表情を浮かべたり、戦意を喪失したりしていた。

「殿下達の決意は理解しました。しかしそれでもなお、我が軍の者達の多くは納得できないでしょう。よって、不敬ではありますが、”総司令”である私がその者達を代表して殿下達のなさろうとしている事を阻みますので、我が軍を降伏させたいのであれば私を制圧してみせてください。」

シュライデン伯爵は静かな表情で答えた後シュピーゲルを操作してシュピーゲルに槍を構えさせた。



「――――――わかりました。それで、この戦闘を止められるのであれば、受けて立ちます!」

「セドリック…………どうか無理だけはしないでくれ……!」

シュライデン伯爵の言葉に応じたセドリックはテスタ=ロッサをシュライデン伯爵が駆るシュピーゲルの前に着地させてテスタ=ロッサに得物である騎士剣を構えさせてシュピーゲルと対峙し、その様子を見守っていたオリヴァルト皇子は心配そうな表情を浮かべた後セドリックに応援の言葉を送った。

「それでは参ります、皇太子殿下――――――」

そしてシュライデン伯爵が駆るシュピーゲルとテスタ=ロッサは一騎打ちを開始した。



~ザクセン山道~



「バカです……まさかギュランドロス様のようなバカが他にもいるなんて………」

「まあ、内戦の時もログナー侯爵もそうだけどその娘のアンゼリカお姉さんは”一騎打ちによる親子喧嘩”でノルティアが貴族連合軍から手を引く事を決めたそうだから、そんな親子に仕えている事で”そういう所”も影響されているのじゃないかしら?」

「あはは、あたし個人としては面白い展開だし、それで皇太子が勝てばこっちとしては儲けものだから、別にいいんじゃないかな、エル姉。――――――という訳で、後の事は頼むね、エル姉!」

上空に映るクロチルダとローゼリアの魔術による映像でシュライデン伯爵が駆るシュピーゲルとテスタ=ロッサの一騎打ちを見ていたエルミナは疲れた表情で頭を抱え、レンは苦笑しながら推測し、パティルナは呑気に笑った後エルミナにとっては更に頭痛がするような事を口にした。

「パティ!?”後を頼む”って……貴女、今の状況で一体どこに行くつもりですか……!?」

「それは勿論、エル姉達みたいに”出し抜かれた”ルシエル達の”援軍”に決まっているじゃないか!ガイウスにも”トールズで学んだ全てをぶつけろ”って伝言もしたから、その伝言を頼んだあたしが確かめてあげるのが”筋”だし、それにひょっとしたら、”黒の工房”の時は”中途半端”だったあの女の”本気”を見れるかもしれないからね!―――それじゃあね!」

自分の行動にエルミナが驚いている中パティルナは不敵な笑みを浮かべて答えた後シュピーゲルの操縦席から降りてルーレに向かい始め

「待ちなさい、パティ!!~~~~~~~ああもうっ!ギュランドロス様といい、パティといい、ヴァイスハイトといい、何で私の周りはバカばっかりなんですか……!」

「クスクス、周りの人達に苦労ばかりさせられているエルミナお姉さんには同情するわ。(それにしても”黒の工房の時は中途半端だったあの女の本気”ね……そういえばリィンお兄さんから他の人達には内密で伝えられた話だと確か”死線”のお姉さんは………)」

パティルナに対して制止の声を上げたエルミナだったがそれがすぐに無駄であるからのように既にパティルナの姿が見えなくなると顔の青筋を立てて疲れた表情で声を上げ、エルミナの様子をレンは面白そうに見つめながら答えた後パティルナが呟いた言葉とリィンから内密に伝えられたある事実を思い返して意味ありげな笑みを浮かべていた。





AM10:45――――――



シュライデン伯爵が駆るシュピーゲルとテスタ=ロッサの一騎打ちが始まって少しすると、ザクセン鉄鉱山から非常連絡通路を使ってルーレに向かっていたリィン達がルーレに到着していた。



~ルーレ市内~



「ここがルーレ市内ですか………」

「随分と静かですね……」

ルーレ市内に出たエリスは周囲を興味ありげな様子で見回し、市内が静かである事を不思議に思ったオリエは眉を顰めた。

「もしかしたら外で起こっている戦闘を知って屋内に避難している事で、市民達の姿を見かけないからじゃないでしょうか?」

「恐らくそうだろうな。こちらとしても、市街戦によって市民達を巻き込まなくてすむから助かるが……ん?―――こちらシュバルツァーです。」

エリゼの推測に頷いたリィンだったが自身のエニグマから聞こえてきた通信の音に気づくと通信を開始した。

「ようやく繋がったわね。ちょうど今ルーレに到着した所かしら?」

「その声はレン皇女殿下ですか……ええ、そうですが……何かあったのでしょうか?」

「それがね――――――」

そしてリィンはレンから現在起こっている出来事―――オリヴァルト皇子とセドリックによって戦闘が中断させられ、セドリックがシュライデン伯爵が駆るシュピーゲルと一騎打ちをしている事を説明した。



「なっ!?という事は皇太子殿下――――――セドリックがシュライデン伯爵と一騎打ちを……!?」

「ほう。内戦では前カイエン公によって利用されていた傀儡の皇太子という印象だったが、中々の気概の持ち主だな。」

「というか、幾ら皇族の”勅命”だろうと今の状況で戦闘を中断することもそうですが、シュライデン伯爵とセドリック皇太子の一騎打ちを見守るノルティア領邦軍の考えが理解できません……」

「フフ、弟の急成長ぶりに貴女も姉として誇らしいでしょうね。」

「え、ええ………そ、それよりもセドリックやお兄様達がまさか、そんな強引な方法を取るなんて信じられませんわ………」

「はい……しかも、ログナー侯の立場まで陥れてますし………よく、アリサさん達―――”Ⅶ組”はその手段を取る事を受け入れましたわよね……?」

「そうですわね……皇族の威光を利用した強引な方法に加えて相手を陥れるようなやり方……今までの彼らのやり方ではありませんわ。」

リィンとレンの通信を聞いていたクルトは驚きの声を上げ、アイネスは感心し、アルティナは呆れた表情で呟き、静かな笑みを浮かべたエンネアに話を振られたアルフィンはセレーネと共に戸惑いの表情で答え、アルフィンとセレーネの話に頷いたデュバリィは困惑の表情を浮かべていた。



「フフ、なるほど。――――――”そういう事ですか。”どうやら皇太子殿下やオリヴァルト殿下もそうですが、アンゼリカお姉様達は後に発生する大きな”リスク”を覚悟の上で、そのような強硬手段を実行したようですわね。」

「わたくしとした事が……まさか、わたくし達の”紅き翼に対する先入観”を逆手に取られるなんて……!」

一方自身に備わっている”盤面を読める力”で僅かな時間で全ての事情を察したミュゼは意味ありげな笑みを浮かべ、ルシエルは厳しい表情を浮かべた。

「俺達の”紅き翼”に対する先入観を逆手に取られる”……一体どういう事なんだ?」

ルシエルが呟いた言葉が気になったリィンは真剣な表情でルシエルに訊ねた。



「Ⅶ組やオリビエお兄さん達の事をよく知っているリィンお兄さんやアルフィン卿達ならわかるでしょうけど、Ⅶ組やオリビエお兄さん達は今までの出来事―――”特別実習”や”内戦”で皇族の威光を利用して強引に相手に自分達の言う事を利かせることもそうだけど、相手を陥れるといった手段は決して実行しなかったわ。そこを紅き翼は利用してレン達の想定を上回ったのよ。」

「はい………彼らの今までの行動や思想を知っていたわたくし達が”紅き翼は皇族の威光を利用した強硬手段もそうですが、相手を陥れる手段を決して実行しないという先入観”を抱いていた事で、わたくし達が彼らがどのように動く事を考える際に”紅き翼がその手段を実行するという考えはありえないという前提で考えています”から、彼らはその前提を覆す事でわたくし達の想定を上回ったのです。」

「――――――そこに加えてそれらの出来事によって後にノルティア領邦軍もそうですが、ログナー侯やノルティア州の貴族達に大きな”しこり”を残す事に発展する可能性が高いでしょうから、戦後のエレボニアの為にも殿下達はそのような強硬手段は取らないと私達が殿下達を侮っていた事も要因の一つですわ。」

「なるほど………」

自身の疑問に対してルシエルの代わりに通信相手であるレンが答えるとレンに続くようにルシエルとミュゼもそれぞれレンの説明を補足するように答え、3人の答えを聞いたリィンは納得した表情を浮かべた。

「……どうでもいいが、お前達はこれからどうするんだ?今の話は俺達の”仕事”には関係ない為、どの道俺達は今から向かう敵将の屋敷に潜入するが。」

「フフ、まさか外の連中のようにそっちもここで足を止めるの?」

その時ジェダルはリィンに訊ね、フルーレティはジェダルに続くように嘲るような笑みを浮かべてリィンに問いかけた。

「しかもレン皇女殿下の話によると、”紅き翼”もルーレへの潜入ルートはあたし達と同じルートを使っているようだから、多分”紅き翼”もそれ程時間を置かずにここに到着するよね……?」

「どうする、リィン?」

「それは………」

ある事を察したアメリアは不安そうな表情を浮かべて自分達の背後にある非常連絡通路の出入口を見つめ、フランツに訊ねられたリィンが迷いの表情を浮かべて考えていたその時

「――――――問題ありません。リィン少将達は作戦通りこのまま敵将の屋敷を襲撃し、敵将を討ってください。”紅き翼”が敵将―――ログナー侯爵の領邦軍への連合の侵略に対する抵抗は”不当”である事やログナー侯爵が内戦に加担した”処罰”としてその地位を剥奪するという”主張”をしているのですから、皇家の意向を無視した挙句皇家の主張通り”不当な指示”を出し続けているログナー侯爵を討った所で、世間一般から見てもリィン少将達―――連合軍に”非”は発生しませんわ。」

「そうね。恐らくアンゼリカお姉さん達は”不当な立場で領邦軍に指示を出し続けているログナー侯爵を逮捕する事”を名目に介入するつもりだから、早く行かないとアンゼリカお姉さん達に先を越されるわよ。」

ルシエルがリィンに助言をし、レンは自身が推測した紅き翼の狙いをリィンに伝えた。



「わかった!自分達はこのまま作戦通りログナー侯爵家を襲撃し、ログナー侯の撃破を目指します!――――――来い、ユリーシャ、レジーニア!」

二人の話に力強く頷いたリィンは通信相手であるレンに自分達の今後の方針を伝えて通信を切った後ユリーシャとレジーニアを召喚し

「手筈通り二人はルシエル達と協力して俺達の後を追っているアリサ達の足止めをしてくれ。」

「はいっ!我が主の武勇を妨げる愚か者達はこの身が何人(なんびと)たりとも通しません!」

「了解。噂の”Ⅶ組”とやらの”力”、どれほどのものなのか確かめさせてもらおうじゃないか。」

リィンの指示にユリーシャは力強く頷き、レジーニアは頷いた後興味ありげな表情を浮かべてアリサ達が出てくるであろう非常連絡通路の出入口に視線を向けた。

「―――灰獅子隊ルーレ潜入班、これより行動を再開する。目標は四大名門の一角にしてノルティア統括領主を任されているログナー侯爵家。狙うはログナー侯爵家当主ゲルハルト・ログナー!総員、行動開始っ!!」

「イエス・コマンダー!!」

そして潜入班の面々を見回して力強い号令をかけたリィンは潜入班と共にログナー侯爵家に向かい始め

「わたくし達天使部隊はリィン少将達の行動を妨害しようとする勢力の足止めをします。全員一旦上空に上昇!」

「はいっ!!」

ルシエルも天使達に号令をかけて上空へと上昇してアリサ達を待ち構え始めた。



AM10:50――――



更に5分後、リィン達のようにザクセン鉄鉱山とルーレを結ぶ非常連絡通路を通ってルーレに急行していたアリサ達もルーレに到着した。

「フウ……やっとルーレに到着したか……!」

「どうやら市街戦は起こっていないみたいですね。」

非常連絡通路の出入口から出てきたマキアスはルーレ市内の景色を目にすると一息つき、周囲の状況を見まわして市街戦が起こっていない事を悟ったアネラスは安堵の表情を浮かべ

「クロチルダさんから聞いた話によるとルーレを含めたノルティア州はクロスベルの領土になる予定だから、クロスベルは軍需工場やジェネレータがあるルーレ市での市街戦はできれば避けたいという話だし、リィン君達の目的はログナー侯爵閣下だから元々リィン君達も市街戦を発生させるつもりはなかったと思うよ。」

「そ、それはそれで複雑だよね……」

「ま、”不幸中の幸い”だと思っておけばいいさ。それじゃあこのままアクセル全開でリィン君達の後を追うよ―――」

トワの説明を聞いたエリオットが複雑そうな表情を浮かべている中、アンゼリカが苦笑した後トワ達に先を急ぐように促したその時

「ふむ、君達が例の”Ⅶ組”とやらか。」

レジーニアが空から降りてきて空に滞空しながらアリサ達を見下ろして声をかけた。



「ほえっ!?背中に翼があって、それに頭の上の光の輪っかって事は……もしかして”天使”!?という事はあの”天使”がみんなの話にあったリィンの新たな使い魔メンバーの一人の人なの??」

「いや……目の前の天使はオレ達が知っているリィンの”守護天使”――――――”ユリーシャ”ではない……!」

「ハッ、どこのどいつかは知らねぇが天使――――――異種族って事はメンフィルの手先なのは違いねぇだろうが!」

レジーニアの登場にアリサ達が血相を変えている中驚きの声を上げたミリアムの疑問にガイウスは真剣な表情でレジーニアを見つめながら答え、アッシュは鼻を鳴らして厳しい表情でレジーニアを睨んだ。

「まあ、あたしの主はメンフィル帝国に所属しているから君のその指摘は間違ってはいないね。――――――おっと、自己紹介が遅れて失礼したね。あたしの名前はレジーニア。天使階級第六位”能天使”にして主――――――リィン・シュバルツァーの”守護天使”の一人でもあるよ。」

「へ…………」

「ええっ!?という事はレジーニアさんもユリーシャさんと同じリィンさんの”守護天使”なんですか……!?」

「一体どういう事……!?カレル離宮での戦いもそうだけど、”黒の工房の本拠地”を襲撃した時もアンタの姿はなかったわよ……!」

アッシュの指摘に肯定した後に答えたレジーニアの自己紹介によって驚愕の事実を知ったアリサ達が血相を変えている中マキアスは呆けた声を出し、エマは驚きの声を上げ、セリーヌは困惑の表情でレジーニアを見つめた。



「リィンやユリーシャを知っている君達があたしの事を知らないのは当然さ。あたしは君達とリィン達による共闘―――黒の工房とやらの本拠地を襲撃する作戦を完了後君達と別れて”灰獅子隊”としての活動の最中にリィンと出会った後紆余曲折があって”契約”したからね。」

「……なるほどね。レジーニアは黒の工房の件以降のリィン達の活動でリィン達の仲間になったから、リィンの新たな使い魔のメンツを知っていたわたし達も貴女の事を知らなかったのも当然だね。」

「まさかリィンがあれからベルフェゴール達のように更に”守護天使”――――――異種族を増やしていたとはな……」

「つーか、どうせお前も他の連中のように”性魔術”でリィンの”守護天使”になったんだろう?あんのリア充野郎……!今度はロリ巨乳なんてレアなジャンルにまで手を出しやがったのかよ!?」

「しかもそこに”天使族”というジャンルまで加わるからねぇ。リィン君の周りには様々なジャンルの女の子達が自然に集まるのは相変わらずだねぇ。」

「リ・ィ・ン~~~~~!?」

「ク、クロウ君……アンちゃん……それにアリサちゃんも今はそこを気にしている場合じゃないよ……」

レジーニアの説明を聞いたフィーとラウラは真剣な表情で呟き、クロウは疲れた表情で溜息を吐いた後ミリアムやアルティナのような小柄な体でありながら服を着ていてもすぐにわかる程の豊満な胸があるレジーニアの体つきを見て悔しそうな表情で、アンゼリカは苦笑し、アリサは膨大な威圧を纏って怒りの表情を浮かべてそれぞれリィンを思い浮かべ、三人の様子に仲間達と共に冷や汗をかいて脱力したトワは表情を引き攣らせながら指摘した。

「フム……そちらの金髪の君はあたしと主の関係に随分と嫉妬しているようだが……ははぁん、なるほどそうか。君がベルフェゴール達の話にあった”Ⅶ組”の女性達の中で主に情を寄せている事が一番あからさまでわかりやすい”アリサ”とやらか。」

「な、なななななな……っ!?ベルフェゴール達は貴女に私に関して一体何を吹き込んだのよ……ッ!?」

「あの痴女達に自分の知らない所で好き放題言われていることには同情するけど、今は無視しておきなさい。――――――それよりも、あたし達の前に現れたって事はまさかあたし達を阻むつもりなのかしら?」

意味ありげな笑みを浮かべたレジーニアに視線を向けられて指摘されたアリサは顔を真っ赤にして混乱した後声を上げ、アリサの様子に仲間達と共に脱力したサラは呆れた表情で指摘した後気を取り直してレジーニアに問いかけた。



「理解が早くて助かるよ。”研究者”であるあたしは”戦い”のような非生産的な事をするのは好まないが、主には色々と便宜を図ってもらっているからね。世話になっている主への”義理”を果たすのも”守護天使の務め”というものだ。」

「フン、”戦い”を好まないならば今すぐ退け。幾ら貴様が”天使”だろうと”研究者”を名乗るならばたった一人で俺達を阻むことが”不可能”や”非効率的”である事くらいは理解しているのではないか?」

サラの問いかけに対して答えたレジーニアの答えを聞いたアリサ達がそれぞれ血相を変えて武装を構えている中ユーシスは鼻を鳴らしてレジーニアを睨んで問いかけた。

「おや、あたしが”いつ一人で君達を阻むと言ったのかな?”」

「何だと……!?」

「その口ぶり……どうやら他にもいるようね……!」

ユーシスの指摘に対して意味ありげな笑みを浮かべて答えたレジーニアの答えを聞いたアリサ達が血相を変えている中アガットは厳しい表情で声を上げ、シェラザードが警戒の表情で呟いた仲間達と共に周囲を見回したその時

「――――――その通りです。」

「な――――」

ユリーシャの声が空から聞こえ、声を聞いて仲間達と共に空を見上げたラウラは空から降りてきてレジーニアと見下ろすユリーシャやルシエル達天使達の光景を目にすると驚きのあまり絶句した。



「て、”天使”があんなにたくさん……!」

「一、二、三……レジーニアとユリーシャも含めて20人か。」

「レン皇女殿下達から聞いた話だと、メンフィル帝国に所属している”天使族”の人達は数が少なくて、ましてや”軍”に所属している人達は数人程度しかいなくて、今回の戦争には参加していないという話だったけど……」

「チッ、大方”本来の歴史”の件のように情報を出し渋ったか、俺達を欺く為に騙したんじゃねぇのか……!?」

天使部隊の登場にエリオットは信じられない表情で声を上げ、フィーは警戒の表情で天使達の数を素早く数え、不安そうな表情で呟いたトワの言葉に続くようにクロウは舌打ちをして厳しい表情を浮かべ

「ユリーシャ……まさかとは思うけどその天使達もレジーニアのようにリィンの”守護天使”になった人達なの……!?」

「違います。彼女達はレジーニアのように”灰獅子隊”としての活動の最中にそれぞれ瀕死の重傷を負っている所を偶然主やこの身達が彼女達と出会い、彼女達を”救う”ことを決めた我が主の慈悲によって命を救われ、その恩返しや主の”正義”に共感し、我が主の”協力者”として力を貸してくれている同胞達です。」

「ハアッ!?」

「一体どのような事があって、リィンさんがそちらの天使の方々の命を……」

一方ある可能性を抱いたアリサの問いかけに対して答えたユリーシャの答えを聞いた仲間達が驚いている中セリーヌは困惑の表情で声を上げ、エマは戸惑いの表情で天使達を見上げていた。



「――――――それについては彼女達を率いている身であるこのわたくしが答えてさしあげましょう。」

するとその時ルシエルがレジーニアとユリーシャの傍に降下してアリサ達を見下ろしながら答えた後自己紹介を始めた。

「わたくしの名はルシエル。天使階級第六位”能天使”にして”リィン隊”の部隊長の一人であり、”灰獅子隊”の”参謀”を任されている身です。」

「なっ!?という事は君や周りの天使達もリィンが率いる部隊の……!」

「しかも”部隊長”どころか”参謀”まで任されているなんて、”灰色の騎士”もそうだけどレン達も貴女の事を相当高評価しているようね……」

「い、言われてみればそうですよね……?特に人の評価に厳しいあのレンちゃんが正式にメンフィル帝国軍に所属している訳でもない人が”参謀”を務める事を認めるなんて……」

「ああ……ましてや、出会ってから間もない新顔にそんな重要な役目を任せるんだからな。」

「一体何があってリィン達の仲間になったの~?」

ルシエルの自己紹介を聞いた仲間達が驚いている中マキアスは驚きの声を上げ、真剣な表情で呟いたシェラザードの言葉に同意したアネラスは不安そうな表情でルシエルを見つめ、アネラスの言葉に頷いたアガットは厳しい表情でルシエルを睨み、ミリアムは真剣な表情でルシエルを見つめながら答えた。



「わたくし達はわたくし達の世界―――ディル=リフィーナで長い年月の間、とある場所の防衛を任され、その場所を攻めてくる魔族勢力と戦い続けていました。……しかし、最近様々な想定外の出来事によってわたくしが率いていた多くの部下達は戦死し、わたくし自身も瀕死の重傷を負っている所にわたくし達が守っていた場所を襲った魔族を率いている将の一撃を受けて奈落へと落とされました。……しかし、”並行世界の零の至宝”とやらは一体何を考えていたのかは知りませんが、そんなわたくしを救う為に”灰獅子隊”としての活動をしている最中のリィン少将達の近くに奈落へと落とされたわたくしを転位させ、そして重傷を負って気を失っているわたくしを見つけたリィン少将達がわたくしを保護し、わたくしの治療をしてくれたのです。」

「何ですって!?」

「チッ、ここでも”並行世界の零の至宝”とやらかよ。」

「やれやれ、レン皇女殿下から聞いた話によると”並行世界の零の至宝”が一番親しい相手は”特務支援課”の諸君なのに、何故リィン君ばかり贔屓にするんだろうねぇ。せめて”特務支援課”もそうだが私達に保護させて欲しかったよ。」

ルシエルの説明を聞いたサラは驚きの声を上げ、アッシュは舌打ちをし、アンゼリカは疲れた表情で溜息を吐いた。

「という事はルシエルが今率いている天使達はもしかして、ルシエルの”部下”だった天使達なの~?」

「ええ。彼女達はわたくしを失ってもなお、抵抗を続けていましたが彼女達もわたくし同様”並行世界の零の至宝”によってゼムリア大陸に転位させられ、わたくしのように瀕死の重傷を負っている所をリィン少将達に発見してもらい、治療・保護をしてもらったのです。――――――ちなみに、彼女達が転位させられた場所はメンフィル軍と灰獅子隊によるトリスタ侵攻の際に、リィン少将やセレーネがかつて通っていた学院にして貴方達の母校――――――”トールズ士官学院”のグラウンドです。」

「彼女達がオレ達の母校――――――トールズ士官学院のグラウンドに………」

「それもリィン達がトリスタを攻めていた際とはね……ったく、冗談抜きで文句を言いたくなってきたわ、”並行世界の零の至宝”には。」

ミリアムの疑問に答えたルシエルの説明を聞いたガイウスは真剣な表情でルシエルの部下達を見つめ、サラは疲れた表情で溜息を吐いた。



「で、軍事作戦中でありながらもルシエルの部下だった天使達の治療を優先してくれた主に自分を助けてくれた時以上の恩義を感じたルシエルが恩返しの為に主達に戦闘型の天使であり、また”知”にも優れているルシエル自身を最大限に有効活用するように申し出て、その申し出を受け入れた主達がルシエルに今の立場を任せたという訳さ。」

「……その口ぶりから察するにルシエルは其方達以上の使い手にして”参謀”を任せられる程”知”も優れているのか?」

ルシエルの説明を補足したレジーニアの答えを聞いたラウラは真剣な表情で問いかけた。

「ああ。そもそもあたし達”天使”には君達人間の戦闘スタイルのように様々なタイプがあってね。例えばあたしやユリーシャは後方から魔術で支援するタイプだが、ルシエルは前線、後方のどちらもこなせるまさに”戦いの為に生み出された天使”――――――”戦闘型”の天使である事から戦闘能力も当然他のタイプの天使達より圧倒的に秀でているが、ルシエルはそれ以上に優れた智謀で状況に合った戦術を導き出して戦場を駆ける知と力を併せ持つ”頭脳派”の天使なのさ。」

「その話が本当ならば、貴族連合軍の”総参謀”を務めながらも剣術やアーツも相当な使い手であった兄上のような文武両道タイプの天使という事か……」

「だからリィン達は貴女に”参謀”を任せたのね………――――!!ま、まさか今回の侵攻作戦も貴女の発案によるものなんじゃ……!」

レジーニアの説明を聞いたユーシスは真剣な表情でルシエルを見つめ、複雑そうな表情で呟いたアリサはある事に気づいて血相を変えた後不安そうな表情でルシエルを見つめた。



「ええ。”灰獅子隊”の全ての部隊の配置もそうですが、リィン少将達のルーレの潜入ルートも全てわたくしの”策”によるものです。」

「という事はアンタがリィンやセレーネにラインフォルトグループの非常連絡通路の存在を聞き出してそれを今回の件に利用したのね……!」

アリサの疑問を肯定したルシエルの話を聞いたサラは怒りの表情でルシエルを睨んだ。

「それにしても幾ら命を救ってもらった”恩返し”の為とはいえ、何でテメェらとは無関係だった戦争にわざわざ首を突っ込む事を決めたんだ?ましてやメンフィルは”闇夜の眷属”――――――テメェら天使達からすれば”魔族”と見る連中によって建国された国で、皇族達も”闇夜の眷属”だぞ。」

「さっきそちらの黒の工房の襲撃の時にもいた灰色の騎士の守護天使――――――ユリーシャは灰色の騎士の”正義”に共感したって言っていたけど、一体どういうことなのかしら?」

一方ルシエル達がリィン達に協力していることを不思議に思ったアガットとシェラザードはそれぞれ疑問を口にした。

「言葉通りの意味です。貴方達も存じているように、我が主は呪われた地であるこの国をこの戦争によって”呪い”もそうですが”呪い”を利用する愚か者達を抹殺し、戦争で得る名声によってこの国を”救う”事を目的としています。そしてルシエル達は”正義の象徴たる天使”として、”巨イナル黄昏”によって呪いに満ちたこの国を放置することはできず、”呪いに満ちたこの国を呪いや呪いを利用する邪悪なる者達を滅することでこの国の多くの人々を救う”という”正義”に共感し、我が主達に協力してくれているのです。」

「ハッ、”正義”の為だけにリィン達に手を貸すとか意味わかんない連中だぜ。それにその言い方だと、エレボニアの衰退や滅亡には興味がないように聞こえるぞ?」

ユリーシャの説明を聞いたクロウは鼻を鳴らした後厳しい表情でルシエル達を見つめた。



「ええ。わたくし達は”エレボニアという国がどうなろうとも興味はありません。”わたくし達は”巨イナル黄昏”の”呪い”によって呪われた地であるこの国に住まう多くの人々を”呪いから解放する事で救う事”を”正義”としているのですから、人間の(まつわりごと)や国家の存亡には興味がありません。」

「”国”じゃなくて、”人”を”救う”為か……その考えはある意味、”民間人の保護”を最優先にしているあたし達遊撃士に近いわね。」

「その……エレボニアの領土を占領した連合がエレボニアの人達に酷い事をする可能性とかは考えなかったのかな?」

ルシエルの答えを聞いたシェラザードは複雑そうな表情を浮かべ、アネラスは複雑そうな表情でルシエルに訊ねた。

「既に占領したトリスタもそうですが”焦土作戦”による被害を受けたクロイツェン州の人々への対応から見ても、連合は占領した領土の民達を苦しめないどころか、自国の民達のように様々な支援を行っている事からそのような可能性がない事は明白ですし……何よりもわたくし達はリィン少将を信じています。――――――どれ程険しく、苦しい道のりであろうともエレボニアによって故郷や両親が傷つけられながらも、エレボニアという国を救う為に歩み続けているわたくし達の恩人を。」

「それは………」

「ふむ………」

迷う事なく答えたルシエルの答えを聞いたガイウスが複雑そうな表情で答えを濁している中、レジーニアは興味ありげな表情でルシエルを見つめていた。



「………君達の気持ちもわからなくもないが、私達にも譲れないものがある。悪いが、”力づく”でもリィン達の後を追わせてもらうよ……!」

「アンちゃん……うん、そうだね……!みんな、わたし達の目的はアンちゃんのお父さんの捕縛だから勝つは必要はなく、アンちゃんの実家に辿り着くことだから、戦いつつアンちゃんの実家に向かうよっ!!」

「連中は空を飛行していて厄介だけど、飛行が制限される屋内戦に持ち込めばこっちにも勝機があるわ!全員で連携してログナー侯爵家へ急ぐわよ!!」

「おおっ!!」

「よーし……!天使達にボク達の力を見せつけてやるよ、オーちゃん!!」

静かな表情で呟いた後決意の表情で答えたアンゼリカの言葉に頷いたトワはサラと共に号令をかけ、二人の号令に仲間達と共に力強い答えを口にしたミリアムはアガートラムを失った事で戦闘手段がなかった為、それを知ったティータの申し出によりティータから借り受けた兵装――――――”オーバルギア”のステルスモードを解除して”オーバルギア”に乗り込んだ。

「リィン・シュバルツァーの”守護天使”が一人、”能天使”ユリーシャ、これより我が主の武勇の為、”正義”を執行します!」

「同じくリィン・シュバルツァーの”守護天使”が一人、”能天使”レジーニア、主とあたしの研究の為に”正義”を執行する。さー面倒だが雑事を片付けないと研究がはかどらないから、戦ってさっさと無力化するか……」

対するユリーシャは堂々と宣言して戦いの構えをし、ユリーシャに続くように宣言したレジーニアは面倒そうな表情を浮かべながら戦闘の構えをした。

「貴方達にどのような事情があろうと、わたくし達は大恩あるリィン少将の為にわたくし達に求められる責務を(まっと)うするのみ。この知を以て、勝利を掴みましょう。さあみんな、大恩あるリィン少将の”正義”を理解してなお、”力無き正義”を掲げて決して叶わぬ夢物語を夢見てリィン少将の”英雄への道のり”を阻もうとする哀れな者達にわたくし達の”正義”を思い知らせてあげなさい!」

「はいっ、ルシエル様っ!!我らの”正義”はリィン少将の為に!!」

二人に続くように静かな表情で呟いたルシエルは号令をかけ、ルシエルの号令に天使達は力強く答えた後アリサ達との戦闘を開始した――――――!



 
 

 
後書き
という訳でついにⅦ組陣営VSリィン陣営ですww今回の話で判明しましたが、ガーちゃんを失ったミリアムの武装はティータから貸してもらっているオーバルギアでした。次回の戦闘BGMはコンキスタの『深淵に眠るしらべ』、テイルズオブシンフォニアの『Beat The Angel』、東京ザナドゥの『Horrifying Disaster』、ソウルキャリバーⅡの『Unwavering Resolve -その決意に』、神のラプソディの『争いを望む者と望まぬ者』のどれかだと思ってください♪ 
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