百点でなくても
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第一章
百点でなくても
蒲生沙織はとにかく凄い。
黒髪は奇麗に伸ばしていてやや切れ長のはっきりとした二重の目に長い睫毛が映えていて白い先が少し尖った細面で唇はピンクで小さい。背は一六六位でモデルの様なスタイルだ。
成績優秀で運動神経もよく社交的で明るく面倒見のいい性格で公平でもある。だが。
同級生からも先輩からも後輩からも評判は決してその見せる能力程よくはない、それは両親からもで。
母親の淳美、沙織が四十代になった様な外見の彼女はよく娘に溜息混じりに言った。
「沙織は出来る娘なのよ」
「それでもっていうの」
「いざって時はね」
そうした時はというのだ。
「本当にね」
「駄目だっていうのよね」
「詰めが甘くて」
そしてというのだ。
「何処か抜けてるのよね」
「皆にそう言われるから」
沙織も困った顔で言った。
「本当に」
「そうでしょ、お母さんから見てもお父さんから見てもね」
どうしてもというのだ。
「抜けてるのよ」
「自分でもわかってるわよ」
沙織は母に項垂れて述べた。
「本当にね」
「そうよね」
「何かしても」
それでもというのだ。
「最後の方までは順調でね」
「それでもよね」
「最後の最後になると」
「そうでしょ」
「何でもね。テストでもね」
学校のそれでもというのだ。
「何処か間違えていて」
「その分点数が落ちていてね」
「クラスで一番になったことがないのよ」
「いつも二番とかよね」
「そうなの、運動でも」
こちらでもというのだ。
「ここぞって時に少しミスして」
「一番じゃないわね」
「ええ、他の何をしても」
「そう、あんたは確かに凄いけれど」
このことは事実でもというのだ。
「完璧じゃないし最後の最後で何かね」
「ミスがあるから」
「そこがね」
どうにもというのだ。
「今一つって感じなのよ」
「だから評判もよくないのね」
「悪くはないでしょ」
「けれどよくもないわ」
「今一つってことね」
「そうなの、いつもここぞって時に今一つだから」
「漫画で言うとキャラクターの目が弱い様な」
ある巨匠は何があってもキャラクターの目は自分で入れるという、それがキャラクターに命を入れ完成させることだからだという。
その目が弱い、それはというのだ。
「そうなのよね、まあそれでもね」
「それでも?」
「結局人間って完璧じゃないからね」
それでというのだ。
「そうなったら神様だしね」
「だからなのね」
「それもね」
沙織が二番手で完璧でなくともというのだ。
「いいのよ」
「そう、だからね」
それでというのだ。
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