魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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最終章:無限の可能性
第267話「神界を穿つ」
前書き
所々巻きで行きます。
前哨戦ラストといった所です。
ちなみにですが、司達がいる場所は海鳴市に面する海の上空なため、一応アリシア達の戦場からは離れています。
『こちらミッドチルダ。サフィアさんとルビアさんが来てからだいぶ安定したよ』
『ベルカも、優輝さん達が一掃したからかなり楽になっとるよ』
「『了解。そっちはもう大丈夫と見ていいかな』」
各世界からの念話を受け取り、司はそう返事を返す。
周囲には相変わらず神界の神々がいるが、優奈達に押し留められている。
「くっ……!こんな、格下の相手に……!」
「神界の存在は、確かに規格外よ。それこそ、各神話の主神による権能で、ようやく張り合えるくらいにはね。でも、さすがに慣れたわ」
司を守っているのは、優奈と祈梨だけではなくなった。
別の場所で戦っていた椿や葵も戻ってきており、共に司を守っていた。
「概念、空間、事象、状況。“性質”はその“性質”に関するあらゆるものに干渉できる。……つまり、“性質”は“法則を上書きする”という事と同義」
「がはっ!?」
椿は淡々と分析した事を口にしながら、神力で拘束した“天使”を射抜く。
「本来であれば、自分にとっての“法則”なのだから、ほぼ全ての面で自身に有利になるのでしょうね。でも、理屈がわかれば対処は可能よ」
神力がうねる。
すると、“性質”が上手く働かずに、迸った神力に一人の“天使”が貫かれる。
「私達も神の端くれ。自分本位の“法則”だって敷けるわ。……神界の神は“神”であって“神”ではない。正しくその通りね」
優輝に聞いていた情報は正確だったと、椿は噛み締めるように呟く。
その背後を一人の神が転移で不意を突く。
「あたし達にとっての神も、似たようなモノとはいえ“法則”の上書きが出来る。……だから、神界の神は“神”と呼ばれているんだよね」
「ッ、ちぃっ……ッ―――!?」
「その通り」
それを、葵が阻止した。
防がれた神は舌打ちをして転移しようとするが、その前に首が落とされる。
神力を用いた鎌鼬で斬り飛ばしたのだ。
「“領域”の削り合い、望む所よ。理解してしまえば、そう簡単に負けないわよ」
神速の矢が次々と“天使”を射抜く。
理力の障壁も容易く突き破り、その矢が致命傷となる位置に当たる程、大きく“領域”が削られていく。
「単純な強さで勝てなくても、“意志”は負けないよ?」
そんな椿を葵は守るように立ち回る。
肉薄してきた“天使”を弾き、霊術と魔法を伴って弾き飛ばす。
力や速さでは葵は勝てていないが、それらを“意志”で覆していた。
「……ここに来て、神界の法則を理解するなんてね……さすが椿」
大規模な攻撃は、優奈と祈梨が阻止していた。
また、椿の射撃も敵の攻撃を阻止する要因として成り立っている。
今の状況は、完全に椿達のペースに乗せられていた。
「さぁ、私達の土俵に降りてきなさい。わかりやすく、白兵戦で決着をつけようじゃない。概念や事象の操作なんて、無粋よ」
不敵に笑う椿に、敵は苦虫を噛み潰したような表情で攻め込む。
本来なら、“性質”に伴った理不尽な攻撃が椿達を襲うはずだったのだ。
それが、この世界の法則に引きずり込まれ、こうして物理的な戦闘で決着をつける事しか出来ないようになっていた。
「(……こっちも、余程じゃない限りもう大丈夫だね)」
そんな様子を見て、司は安心したように目の前の事に意識を向ける。
そこには、途轍もない程圧縮された、世界全ての“祈り”があった。
「……ジュエルシード……ううん、プリエール・グレーヌがなかったら、制御出来ないねこれは……。アンラ・マンユもそうだけど、世界全ての感情や意志を集束させたモノって、ここまでやばいんだ……」
現在、司は全てのプリエール・グレーヌと共に淡い光に包まれている。
天巫女としての力を最大限使いつつ、目の前の“祈り”を制御しているのだ。
「(祈梨さんの方が確実。……でも、人間である私がやるべき……か)」
世界中の“祈り”を集束させるのは、祈梨にも可能だ。
むしろ、天巫女として最強である祈梨の方が確実と言える。
しかし、それではダメだと、優奈と祈梨が却下した。
「(理力を使う祈梨さんだと、神界で待ち構えている神に気づかれるから……だと思ったけど、既にこっちで感づかれている時点で、向こうにも知られるよね)」
その理由を、司は知らされていない。
いくつか仮説を考えたが、どれもピンと来なかった。
「(私と祈梨さんの違い。それは、人と神界の神に成り上がった元人間。理力の有無が関係している?それとも―――)」
『司!一人抜けたわ!』
「ッ!」
優奈の念話に、司は目の前に意識を戻す。
同時に、肉薄してきた“天使”をノーモーションで吹き飛ばした。
“祈り”の一端を開放し、理力の障壁ごと弾き飛ばしたのだ。
それだけで、司は深追いしない。
後は優奈達が倒してくれるからだ。
「(……そっか、“領域”が違うからだ。祈梨さんは、元人間とはいえもう神界の神。その“性質”を根本から変える事は出来ない。元人間だから例外かもしれないけど、今も人間である私と比べると……)」
“領域”の違い。それが司が選ばれた理由だった。
人間の“領域”は不定形であり、だからこそ神界の存在に打ち勝てる。
そんな人々の“祈り”なのだから、制御するのも人間である司がやるべきだったのだと、司は確信した。
『半分正解よ、司』
「『優奈ちゃん?もしかして今の……』」
『表情を見ていれば、大体何を考えているかわかるわよ。祈梨じゃなく、貴女が選ばれた理由を考えていたのでしょ?』
「『うん』」
『で、答えは“祈り”の“領域”と司……同じ生命の“領域”は相性がいいから、貴女が選ばれた。多分、貴女の推測と同じはずよ』
その通りだった。
一部の言葉や内容は違うものの、言っている事の意味合いは司が推測したものと全くと言っていい程同じだった。
「『でも、半分……?』」
『ええ。貴女が選ばれた理由はもう一つあるの。尤も、司自身が拒否するなら、この話はなかった事になるのだけどね』
「『……どういう事?』」
戦闘を続けながらも、二人の念話による会話は続く。
『祈梨は、貴女を眷属……“天使”へと昇華させるつもりよ。同じ天巫女であり、ここまで神界に深く関わってきたのなら、不可能ではないのよ』
「『“天使”、に……?』」
今まで、敵としてしか戦ってこなかった“天使”。
その存在に自分がなれると聞いても、司にはいまいちピンと来なかった。
『まぁ、無理にとは言わない話よ。飽くまで昇華する条件を揃えるというだけだから、さっきも言った通り貴女が嫌なら“天使”になる事はないわ』
「『“天使”になる事の、メリットとデメリットは?』」
『メリットは神界の存在になる事で、今まで以上に戦いやすくなるわ。デメリットは、当然ながら人間ではなくなる事と、“天使”になると言っても馴染ませる必要があるから、半人半“天使”といった状態でこの後戦い続ける事になる、と言った所かしら?』
後者はともかく、前者の“人間ではなくなる”は、簡単にはスルー出来ない事だ。
寿命、肉体、精神、魂。あらゆる分野に変化が起こる。
それが司にとって重大な事になるかどうか、それすらわからない。
だからこそ、安易に選ぶ事は出来なかった。
『……優輝と、人間のまま添い遂げるかどうかで考えなさい』
「『優輝君と……?』」
『優輝は、どんな結末であれ人間を止めるわ。いえ、もう既に人間を止めていると言っても過言じゃないわね』
「『………』」
優輝を引き合いに出され、司はさらに悩まされる。
「『……それ、先送りに出来ないかな……?』」
『いいわよ。一度、落ち着いてから考えるべきだもの。今は、目の前の事に集中しなさい。……話を振った私が言うのもなんだけどね』
一旦、考えるのを止めて司は目の前の事に集中する。
そうしなければ、悩み過ぎて“祈り”の制御が疎かになるからだ。
「………」
だが、一度考えてしまえば、思考にちらついてしまう。
人を止めるかどうか、それに伴う優輝との関係。
その二つが何度も何度も司の思考に現れる。
『……“何”に悩んでいるのか、一度明らかにした方が目の前の事に集中できるわよ。司、貴女は何に悩んでいるの?』
「(私が、悩んでいる事……)」
人を止める事……否。
今は敵として戦っている“天使”になる事……否。
優輝との関係の変化……否。
それらの、どれもが違う。
無関係とまではいかないが、肝心な部分そのものではないと、心が断じる。
「(……そうだ。優輝君と、一緒にいられるか……)」
人を止める事も、優輝との関係の変化も、それに帰結する。
前世と違い、女性になってから司は優輝を異性として好きになった。
だからこそ、一緒にいたいと、そう心から思っていた。
だが、これからの未来、ずっと一緒にいられるのかと、疑問に思ったのだ。
「(人を止める事も、そんなのおまけでしかなかった)」
転生や神界での戦いを経験したからこそ、肉体だけが全てではないと理解している。
その上で、ずっと大好きな優輝と共にいられるのかと、不安になったのだ。
そこに、人を止めるかどうかなど、関係なかった。
単に、未来も自分は彼の傍にいられるのかと、漠然とした不安に駆られただけだ。
「(……悩む必要なんてなかったんだ。そんなの、私の“意志”次第なんだから)」
優輝が好きだからこその不安だった。
彼が好きだから、こうして悩んでいたのだ。
司が乗り越えたとはいえ、まだ心の弱い部分があっただけなのだ。
……だから、後はそれを克服すればいいだけの話。
『……いい表情になったわね。もう、心配はいらないかしら?』
「『うん。ありがとう優奈ちゃん。気づかせてくれて』」
『さぁ、どうかしら?気づけたのは貴女自身の力よ』
念話でおどけて見せる優奈だが、司は確信していた。
わざと、自分がこの心に気づけるように誘導していたのだと。
「……よし」
“祈り”の制御はそのままに、司は気合を入れ直す。
同時に、司自身の“祈り”が棘となって周囲の“天使”を貫く。
「天巫女は、祈りを現実にする。……その感情が、正であろうと、負であろうと。だから、自分の感情がコントロールできるなら……!」
司の制御する“祈り”が厄介なのだろう。
捨て身で司を倒そうと、“天使”達が突貫してきた。
「ッ!?なっ……!?」
「私への妨害を、拒絶するッ!!」
その“天使”達を、障壁で完全に阻む。
単なる祈りの障壁ではなく、拒絶の“意志”を込めた障壁だ。
負の感情をを利用したその障壁は、攻撃を受け止めるのではなく、弾いた。
「ふっ!」
さらに、その障壁が攻撃へと転じる。
まさに圧殺と言わんばかりに、障壁は“天使”を押し出し、潰した。
「無駄だよ」
別の“天使”が、司に向けて極光を放つ。
本来であれば優奈辺りが逸らすのだが、今回は敢えて司に任せたらしい。
そして、司は極光へ手をかざし、空間を歪ませた。
「(……行ける。感情の切り離しが出来れば、さらに戦術の幅が増える……!)」
不安な感情を利用した事で発生させた空間の歪みは、極光を受け止める。
そして、その理力を霧散させるように、勢いを削いでしまった。
「……ふふ……」
ここに来て、司はさらに天巫女として強くなった。
その喜びを、さらに攻撃へと転じさせる。
“バチバチ”と、稲妻が走るように“祈り”の力が発現し、“天使”を焦がす。
司からではなく、優輝達の創造魔法と同じく、突如その場所に発生する類の攻撃なため、“天使”達は軒並み躱す事が出来ずに直撃していた。
「今まででも十分だったけど、さらに一皮むけたわね。……さすがに、羽目を外し過ぎたらフォローしないといけないけど」
「それでも、後輩が成長するのは良いものです」
「まだ“天使”になると決まった訳じゃないわよ。それと、どちらかと言うと子孫と言うべきだと思うけど」
それを見て、優奈は祈梨とそんな会話をする。
もちろん、その最中も敵との戦闘は続く。
数は増減を繰り返しているが、確かに倒してはいる。
未だに増援は止まらないが、それも時間の問題だ。
『こちらミッドチルダ!敵の数が目に見えて減ってきたよ!』
『ベルカも同じや!多分、優輝さんがゆうてたように、地球……いや、司さん達が集めた“祈り”に戦力を集中させてる!』
そこへ、なのはとはやてによる通信が入った。
それ聞き、作戦が次の段階へ移ろうとしているのだと、優奈は確信する。
目で合図を送り、祈梨もそれに応える。
まだしばらくは現状維持ではあるが、もう一つ変化が起きれば行動は変わる予定だ。
「ッ!ちぃっ……!」
「剣と魔力の矢……優輝と緋雪ね!」
「理力の奴もあるよ!」
戦闘を続ける“天使”達に、攻撃が降り注ぐ。
意識外だったのもあってか、一部の“天使”は直撃していた。
「ルフィナとミエラも来た……という事は、次の段階へ移るのね」
優輝と緋雪、そしてルフィナとミエラ。
各自の戦闘を終え、様々な世界で敵を倒してきた四人が地球へと帰還してきた。
傍らには、消耗しているものの戦える程度には回復した天廻やズィズィミ姉妹もおり、スフェラ姉妹以外の神界勢+αは集合したという事になる。
「『アリシア、聞こえる?こっちの戦闘は見えていたかしら?』」
『見えていたよ。私達もそっちに行く感じ?』
「『そっちの敵がこっちに来ているならね』」
『了解。アリサとすずかにも伝えておくね』
椿が伝心でアリシアに連絡を取りつつ、目線で葵に合図を送る。
葵はその合図に頷く事で答え、自身の周囲にレイピアを生成する。
『反撃開始だ!』
優輝の号令が念話によって響き渡る。
直後、全員の動きが変わる。
即ち、“現状維持”から“殲滅”へと。
「なっ……!?こいつら、急に動きが……!?」
その動きの変化に、敵も驚愕していた。
何せ、司の護衛をかなぐり捨てたかのような攻勢だったからだ。
「厄介な……だが!」
そうなれば、是が非でも司へと攻め入る者が現れる。
「無駄だよ!」
だが、司もそれを読んでおり、“祈り”の制御をしつつ、自身の“祈り”で肉薄してきた“天使”を漏らさず叩き落していた。
『集まった敵は全滅させろ!出来るだけ逃がさないつもりだが、無暗に追う必要もない。とにかく、この周囲一帯を安全にするまで倒し尽くせ!』
各々が、敵に攻撃を与えていく。
ここで敵との戦闘経験による“差”が生まれた。
元々想定したいたのもあるが、優輝達は苛烈且つ、連携を取って動いている。
だが、“天使”達はどう動くのが正解なのか戸惑い、陣形を保てていなかった。
「がっ!?」
「俺以上に上手く戦えないとはな……!」
空中にいる“天使”の一人が、背後から頭を蹴り飛ばされる。
「本来、“性質”で関わっていない限り神界では戦いと無縁ですからね……。かつての戦いから、戦闘技術を磨く神もいましたが、どの道洗脳されていれば……」
「その力も十全に発揮できないって訳だね……なるほど」
見れば、敵の数が増えていたが帝やスフェラ姉妹、なのは達も来ていた。
はやて達やアリシア達も集合しており、優輝達のほぼ全ての勢力が終結していた。
「前哨戦ラスト……!張り切っていくよ!」
「あんた達が洗脳されていようと、関係ないわ。全員、ぶった切る!」
各々の世界の英雄や神々、現地人に後を任せ、ここに集まっていた。
全ては想定していた戦略通り。
地の利を生かし、一気に殲滅していく。
尤も、敵も一人一人が強敵なため、倒すにも時間はかかる。
だからこそ、戦力を集中させたのだ。
「最初に力尽きた分、挽回させてもらおうかの」
「私達も、姉妹としての強さを見せてやろうじゃないか」
「はいっ!」
天廻達も参戦し、戸惑う者から倒されていく。
まさに一転攻勢。その様は、“流れ”となって敵の“意志”を挫く。
「なぜ……なぜ、ここまで足掻ける!?」
優輝達が“意志”を挫けるその“可能性”を排除しているとは知らない神々は、その勢いにさらに気圧され、さらに優輝達が優勢となる。
「が、ぁ……!」
「これで……安全は確保できたかな」
しばらくすれば、大量にいた敵は一掃されていた。
途中から、とこよや紫陽なども参戦した事で、さらに殲滅に拍車がかかっていた。
あれほど苦戦した神界の神が、いくら完全有利な状況に持ち込んだとはいえ、ここまで優勢なまま倒し切れたのは司達にとっても驚きだ。
「これで司が用意したアレが……っ!?」
「す、凄い……あれが、この世界全ての“祈り”なの……!?」
アリシアやなのはが、改めて司が制御する“祈り”を見る。
そこには、眩いとすら思える程の輝きを持つ巨大な光球があった。
七色に常に色を変える光球は、確かに巨大だが、その状態の上でかなり圧縮されていると、一目でわかってしまうほどだ。
「皆、お願い!」
司が大声で周囲に呼びかける。
ここまでで、集めた“祈り”は飽くまで戦っていない者の“祈り”だ。
実際は、召喚された英雄達や、一部の現地人の“祈り”もあったが、優輝達主要メンバーだけはまだ“祈り”を捧げていなかった。
「ッ……!」
そして、彼ら彼女らの“祈り”は、一人一人がかなりの強さを持つ。
これまで、何度も神界の神達と戦ってきた。
その“意志”から放たれる“祈り”は、当然並大抵の人とは比べ物にならない。
「これで……後は……!」
さらに一際大きくなった光球が、脈動を繰り返す。
その様は、なのはが放つ前のSLBのようだ。
「装、填………!」
重いものを持ち上げるかのような司の声と共に、魔法陣が展開される。
その位置はちょうど光球の真下だ。
司もその魔法陣のさらに下に転移し、シュラインを魔法陣にかざす。
「―――誓いをここに。我が祈りは無限に続き、夢幻に届く……!」
光球の周囲に、プリエール・グレーヌが囲うように展開される。
直後、司の詠唱が始まる。
「遍く全ての祈りを束ね、今こそ世界を穿つ!」
詠唱と共に、光球はさらに圧縮され、小さくなっていく。
敵が見れば、いち早く止めなければならない程の“祈り”だ。
だからこそ、神界の神々は司を狙っていた。
だが、今この周囲に敵はいない。
司の詠唱を止める者など、誰もいなかった。
「束ねられた想いよ、現となれ!!“この世全ての祈り”!!」
極限まで圧縮された“祈り”が、解き放たれる。
それは、一筋の極光となって、天へと伸びていく。
標的は空……ではない。
「行っけぇええええええええええっ!!!」
虚空に浮かぶ、神界への入り口。
そこへ、極光は吸い込まれるように命中した。
「“祈り”。それはつまり“意志”の一種だ。僕らによって昇華されたその“祈り”は、確実に神界にも届く。今までの戦闘からわかるように、“領域”すら砕く事も可能だ」
「その“祈り”を以って、神界を穿つ。これが、作戦の第一段階の要だ」
極光は入り口から突き進み、待機していたイリスの軍勢を呑み込んでいた。
司一人の“祈り”では、その軍勢も倒せて数人だっただろう。
だが、叩き込まれたのは全世界の“祈り”。
まともに食らえば、イリスすら倒す事が可能な一撃だ。
「誘いこみ、数をある程度減らした直後に、一気にカウンターの一撃を叩き込む。これで、僕らが突入するための前準備は完了だ」
「後は、突入するだけよ。……準備はいい?」
優奈の呼びかけに、突入する全員が頷く。
疲労なども今はない。あれほどの戦闘をしておきながら、既に回復していた。
「行くぞ!」
優輝の号令と共に、突入組は上空にある虚空へと飛び込んでいく。
それを見送る居残り組は、ひと段落ついたように肩の力を抜く。
「―――さぁ、向こうもこっちも、ここからが本番よ」
そして、代表するように椿がそう言って、矢を射る。
向かう先には、優輝達を追おうとしていた“天使”の一人がいた。
「私達は、この世界に来た敵を一人たりとも通させない。その役目を全うするわよ!構え直しなさい、こちらの土俵に踏み込んだ敵を、一人残らず倒すのよ!」
霊力や魔力が迸る。
残った者は、その土地や世界由来の力を存分に発揮するため。
そして、突入した者達の帰る場所を守るため、この世界に残った。
その覚悟は、イリスを倒そうと突入した者達の“意志”に決して劣らない。
「私達で守るのよ。この世界を!!」
イリス攻略作戦。その第一段階、最終事項。
神界から来た敵を、神界に帰さないように押し留める。
それが、決行された。
後書き
この世全ての祈り…文字通り、この世全ての祈りを束ねて発動する天巫女の魔法(を超えた代物)。フランス語で“希望の祈り”。今回は神界を穿つ極光だったが、祈りの内容によっては、世界全てを癒すといった、可変型の技。
イリスが待ち構える場所までは届かないとはいえ、司が放った一撃はガチで本体のイリスを倒せます。最低でも大ダメージを与える程強力でした。
ちなみに、この一撃でイリスの軍勢だけでなく、イリスの分霊や“天使”もほとんど殲滅してしまいました。
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