魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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最終章:無限の可能性
第266話「再会の王達」
前書き
ベルカに行った優輝&緋雪Sideです。
はやて達も出てきます。
「“ジャガーノート”!!」
「“デアボリック・エミッション”!!」
魔法が炸裂し、何人かの“天使”がダメージを受ける。
だが、敵の数が多く、多勢に無勢だ。
「ええい、キリがない!」
「他に手が回らんのは歯がゆいなぁ……」
魔法を放ったディアーチェとはやてが、まだまだいる敵を見て歯噛みする。
まさに多勢に無勢だ。
既に何度もはやて達は攻撃を食らっており、本来であればとっくに死んでいる程、戦い続けていた。
「しゃあない。他は他で何とかしてもらうしかないなぁ」
「歯がゆいが……仕方あるまい。なに、過去の英雄共が召喚されたとなれば、この程度の劣勢なら覆す事すら可能だろう」
ディアーチェの言う通り、ベルカにも過去の英雄は召喚されている。
特に、ベルカは戦乱の時代があったために、ミッドチルダよりも戦力は上だ。
……尤も、比例して襲ってくる敵の数も増えているが。
「……あれ、私の見間違いやないんやったら、間違いなく……」
「うむ。我も詳しくはないが間違いないだろう」
はやて達とはまた違う場所で、理力の爆発が起きる。
だが、それをものともせずに突破して“天使”に攻撃を叩き込む者達がいた。
方や金髪の女性。方や碧銀髪の男性だ。
見るものが見れば、女性の方の魔力を見て即座に何者か気づけた。
「……聖王、オリヴィエ……やな」
「であれば、同じく格闘スタイルで戦う片割れは覇王イングヴァルトであろうな」
圧倒的な力を持つ神界の者相手では、過去の英雄とてまともに勝つ事は出来ない。
しかし、件の二人は的確に敵の数を減らすように戦っていた。
「私には絶対できひん戦い方やなぁ……」
「貴様は殲滅に重きを置いた魔法適性だからな。あのような、的確に仕留めるような戦法は合わんだろう」
オリヴィエもクラウスも、決して大規模な魔法は使っていない。
飽くまで格闘を中心とし、遠距離技は牽制や間合いの調整に使う程度だ。
一見すれば派手さはないが、だからこそ確実に敵を減らしていた。
「くっ……!」
「ッ……!」
そこへ、シグナムとシュテルが押しやられたように後退してくる。
他のメンバーも目の前の相手に手一杯となっており、一度仕切り直しにしなければ競り負けるとはやて達が判断した直後……
「がっ……!?」
敵に対して大量の剣と魔力の矢が降り注いだ。
「剣と……この魔力は……!」
「間違いなく、あの兄妹であろう」
広範囲に放った分、その攻撃は牽制にしかならずにほとんど防がれた。
だが、そのおかげではやて達は仕切り直す事ができ、体勢を立て直した。
「我が主!」
「わかってる!もうひと踏ん張りやで、皆!」
アインスの呼びかけを聞いて、はやてはすぐさま指示を出す。
驚きはしたが、起きた事自体は“援軍が来た”だけだ。
ならば、すぐに切り替える事は可能だ。
自分に出来る事、それだけを意識して、はやて達は戦闘を再開した。
「クラウス、まだ行けますか!?」
「当然!」
一方、オリヴィエとクラウスは、僅かとは言え疲労が蓄積していた。
英雄として召喚され、神界の“天使”と戦える程の後押しも受けている。
実際に“天使”を何人も仕留めているが……それでも、苦戦は必至だった。
それでも、まだまだやれると奮い立ち、襲い来る敵を迎え撃つ。
「ッ!?」
その時、迎撃しようとした敵が二筋の緋い極光に呑まれる。
さらに周囲の“天使”には剣が飛んで行っていた。
「久しぶりだな。オリヴィエ、クラウス」
「っ、その声は……!?」
「まさか……ムート……!?」
オリヴィエとクラウスの目の前に、優輝が降り立つ。
遅れて、緋雪が砲撃魔法を弓矢として放ちつつ降り立った。
「私もいるよ」
「シュネーまで……」
「あは、さすがに驚くよね」
姿は若干変わっている。
それでも、オリヴィエとクラウスにはわかった。
目の前の優輝と緋雪が、かつてのムートとシュネーである事に。
「……そうですか。再会、出来たのですね」
「えっ!?そんなに泣くほど!?」
もう悲しみを持たない緋雪の目と、優輝と普通に並び立っているその様子を見て、オリヴィエが感極まったように涙を流す。
自分達では成し得なかった光景を見たかのように。
「僕たちと同じように召喚された……という訳じゃないみたいだね」
「ああ。二人の知るムートとシュネーは確かに死んだ。……でも、世界や時代を経て、生まれ変わったんだよ」
「なるほど……」
詳細を説明する暇はなく、簡潔に伝える。
クラウスも詳しく聞こうとせず、今の状況に向き直る。
「再会の喜びを分かち合いたい所だが……」
「……どうやら、そうはいかないようですね」
涙を流していたオリヴィエも、上空にいる神々を見て気持ちを切り替えていた。
優輝と緋雪が来た影響からか、このベルカを襲撃する数も増えていた。
それだけ、二人……特に優輝を敵も警戒しているのだ。
「……一人で十人ぐらい倒せればいけるか?」
「……やるしかないでしょう」
一対一でさえ、負けるかもしれない強さなのだ。
それが、三桁近い数いる。
「大丈夫。私達なら勝てるよ」
だが、それでも勝てると、緋雪が断言する。
「その通りだ。聖王、覇王、そして導王に狂王がここにいるんだ。……これぐらい、乗り越えて見せようじゃないか!」
そして、優輝の激励がオリヴィエとクラウスをさらに奮い立たせる。
同時に、敵も動き出し、開戦となった。
「ッ!」
「ふっ!」
肉薄してきた“天使”を、オリヴィエとクラウスがそれぞれカウンターを決める。
さらに優輝が創造魔法で牽制を繰り出しつつ、真っ向からの極光は緋雪が魔晶石を利用した砲撃魔法を束ねる事で相殺した。
「行くぞ!活路は僕と緋雪……シュネーで適宜開く!敵は各個撃破だ!」
直後、四人は散開する。
白兵戦に持ち込めば四人の方が有利だ。
だからこそ、その状況を優輝か緋雪が作り出し、確実に敵を仕留める。
「ふっ!」
「はぁっ!!」
オリヴィエが肉薄してきた“天使”の攻撃を受け流す。
同時にクラウスが掌底を放ち、理力の障壁を穿つ。
すかさず、優輝の創造魔法による剣が飛び、“天使”を貫いた。
「容赦は」
「しません!」
優輝の攻撃で僅かに怯んだ。
それだけで二人にとっては格好の的となる。
受け流しの勢いを生かしてオリヴィエは“天使”の背後を取る。
そして、クラウスと挟み撃ちする形で、拳を叩き込んだ。
「ッ……!?」
一方で、上空から極光で焼き払おうとする“天使”達に、先手の閃光が迫る。
障壁で防がれはしたが、牽制となって攻撃は阻止できた。
「させないよ」
閃光を放ったのは緋雪の魔晶石だ。
さらに、緋雪による弾幕も放たれ、遠距離からの蹂躙をさせない。
「せぇりゃっ!!」
「ぐっ……!?」
「そこだ!!」
緋雪も加わり、三人で攻め立てる。
魔晶石による牽制は、分身魔法による分身に制御を任せ、緋雪自身も数を減らすために攻撃に加わった。
「ごはっ……!?」
「“性質”を相殺された“天使”なんて、恐れるに値しないよ!」
オリヴィエが受け、クラウスが崩し、緋雪が倒す。
シンプルな連携だが、全員が同じ格闘スタイルを使えるために、これ以上ない程に“天使”の“領域”を砕いていた。
「一対一でも負けはしないんだ。三対一なら、これぐらい当然だな」
一方で、優輝はその三対一の状況を崩さないように、三人が相手にしている以外の敵を近づけさせないように立ち回っていた。
創造魔法や理力によって動きを阻害しつつ、妨害を排除しようと肉薄してきた敵は即座に導王流でカウンターを決め、吹き飛ばす。
さらに地面に大量の術式を仕込み、それもまた妨害として利用していた。
優輝を倒さなければ確実に妨害され、その優輝を倒そうとも肉薄して近接戦が出来る技量が必要となり、まとめて焼き払う攻撃は緋雪の分身と魔晶石で阻止している。
完全に優輝達のペースに引き込んでいた。
「(元々、二人だけでも数を減らせていたようだしな。今更負ける道理はない)」
世界そのものの後押しに加え、優輝が理力を広げて“性質”を相殺している。
今の状況ならば、敵も素の力で戦うしかない。
そして、素の実力が高いのは戦闘に関する“性質”の神がほとんどだ。
他は戦闘経験が浅いため、そこを上回る優輝達四人に翻弄されていた。
「ちぃっ……!」
「(遠距離主体に変えてきた。……当然だな)」
近づけば緋雪達に確実にやられる。
そうなると、立ち回りを変えてくるのが定石だ。
緋雪達に近づかないようにし、遠距離から仕留めるつもりだ。
「さすがに相殺しきれないよ!」
「最低限でいい!」
緋雪だけでは遠距離攻撃を相殺できず、極光が降り注ぐ。
即座に四人は散らばるようにその極光を避け、上空へと跳躍する。
「強力な一撃のみ回避!全ての経験、技術を生かして肉薄だ!」
その言葉と共に、優輝は迫る弾幕を全て捌く。
導王流を用いれば、弾幕であろうと受け流す事が可能だ。
そして、この場にいる四人は全員が導王流を扱える。
緋雪はこの中で最も練度が低いものの、地力で攻撃を弾く事が出来る。
「っ、せいっ!」
「はぁっ!」
優輝が攻撃を捌き、緋雪が突貫。
緋雪に注目が集まった隙にオリヴィエとクラウスが一人の“天使”に肉薄する。
さらに緋雪が一人の“天使”を捕まえ、掌底で二人の方へ吹き飛ばす。
肉薄された“天使”は緋雪が吹き飛ばした“天使”に当たり、体勢を崩された。
その隙を逃さず、クラウスが渾身の拳を放つ。
「ふっ!」
さらに、優輝の創造魔法による剣が突き刺さり、バインドによって拘束もされる。
すかさずオリヴィエが追撃を繰り出し、そこまで来て全員が飛び退いた。
「(だが、対処が遅い!)」
飛び退いたのは他の敵の攻撃を躱すため。
しかし、その攻撃までが優輝にとっては遅かった。
創造魔法によって衝撃と斬撃を生み出し、それを周囲に放つ。
さらに転移魔法を並列展開し、四人ともその場から移動する。
「ぁ……!?」
直後、一人の“天使”が二度吹き飛ばされ、紅刃に切り裂かれ、極光に呑まれた。
転移と同時に、四人で連携攻撃を叩き込んだのだ。
「まず、一人」
「ッ……やれ!!」
極光が放たれる。
優輝達の位置は包囲されているとは言い難い微妙な位置となっている。
そのため、敵から放たれた極光はでたらめに飛び交い、回避が難しい。
だが、その上で隙間を縫うように極光の側面を滑り、敵に肉薄する。
規模の大きい攻撃を誘った上で、それらの攻撃を目晦ましに使っているのだ。
「ぐっ……!?」
「はぁっ!」
優輝が掌底を当て、“天使”を怯ませる。
そして変装魔法と転移魔法をその“天使”に使い、極光の嵐に突っ込む。
「ぁああああああああああああっ!?」
「……二人目!」
理力を使った変装魔法のためか、その“天使”は優輝に見間違えられた。
あっという間に集中砲火を受け、あっさりとその“領域”が破壊される。
「(すぐ気づかれたとしても、その時点で攻撃を放っていればこっちのものだ。乱戦状態を生かして、同士討ちをさせる……!そして……!)」
敢えて乱戦のような状況にする事で、同士討ちを狙う。
単純な流れ弾では大したダメージにならないが、優輝の変身魔法で騙すことで、“流れ弾”ではなくれっきとした“攻撃”となり、ダメージを蓄積させていた。
「がはっ……!?」
「(攻撃の嵐を駆け抜けるのは、僕らの得意分野だ……!)」
飛び交う極光を滑るように避けながら、一人、また一人とカウンターを決める。
それはオリヴィエやクラウスも同じで、余波でダメージを負いつつも肉薄していた。
「せぇえいっ!!」
「はぁっ!」
さらに、四人が反撃する相手は全て同じ相手だ。
“領域”を砕くために、集中攻撃をしていたのだ。
「邪魔だ!」
「く、ぁっ!?」
「はぁっ!」
「ふっ!」
「シッ!」
優輝が他の“天使”を変身魔法を掛けつつ投げ飛ばし、緋雪が強烈な一撃を狙った“天使”に叩き込む。
そんな緋雪の隙を埋めるように、オリヴィエとクラウスが連撃を浴びせる。
乱戦になってもなお、確実に仕留めていくスタイルに、敵も数を減らしていく。
「ッッ……嘗めるな!!」
その時、痺れを切らした神々が、無理矢理理力で優輝達を叩き落す。
「ぐっ……!?」
「これは……!」
オリヴィエとクラウスが苦悶の声を漏らしつつ、叩きつけられた地面に膝をつく。
「ぬぎぎぎぎ………!一人だけじゃなくて、複数の神で押さえつけてるよこれ!」
さしもの優輝と緋雪も、神一人ならともかく、複数の神に押さえつけられるのには抗えず、その場に縫い付けられていた。
「く、はは……手間取らせてくれましたね……!」
「これで、終わりだ!」
“天使”達が一斉に極光を放ってくる。
先程までと違い、躱す事も出来ない状態だ。
そして、防御できるほと低い威力でもない。
「“意志”があれば、耐え抜く事も可能だ」
「ムート……?」
「何か、策が……?」
そんな中、優輝は落ち着いていた。
緋雪も、そんな優輝を見て慌てる事なく、“意志”を固めていた。
「生命の底力、見せてやる!!」
―――“可能性の一筋”
掌に“性質”と共に理力が集束する。
そして、その理力が大剣のように伸び、迫る極光を穿った。
「(……やはり、神界の存在は集団戦に弱い)」
理力の量で見れば、敵の圧勝だっただろう。
だが、その理力の極光には“性質”がない。
その“性質”の有無による差だけで、優輝は攻撃を凌ぎ切った。
「ッ……!」
そして、それに動揺した神々の隙を、他の三人は見逃さなかった。
オリヴィエとクラウスはそのまま跳躍して突貫し、緋雪は転移で肉薄する。
「なっ……!?」
「本命は私じゃないよ!」
死角への転移且つ、一撃が強力な緋雪。
それは敵もよく理解していたため、緋雪の攻撃は防がれた。
だが、その攻撃は一撃だけではなく、威力が減った代わりに連撃だった。
明らかな、緋雪の攻撃への意識の誘導だ。
「本命は……」
「こいつらか!」
「はぁっ!!」
「せぃっ!!」
緋雪が“破壊の瞳”で理力の障壁を破壊する。
そして、間髪入れずにオリヴィエとクラウスが渾身の一撃を放つ。
「だがっ!」
「ッ……!」
しかし、それすら新たに展開された理力の障壁に阻まれた。
「動きを―――ッ!?」
“止めたな?”と言葉が続く前に、その神は仰け反る程の衝撃を受けた。
やったのは、優輝だ。
「……防いだと思った直後の攻撃だよ」
そう。本当の本命は、オリヴィエとクラウスの攻撃を防ぎ、油断した直後。
優輝がさらに体勢を崩した事で、二人の第二撃が完全に入る。
「本当に、集団戦が苦手だな」
「しまッ―――がぁっ!?」
さらに、そちらへ意識が向かった隙を、優輝が転移と同時に突く。
体を捻った強烈な蹴りによって、叩き落す。
「同じ“性質”同士や、眷属と共に戦うならいざ知らず、ただ洗脳された者同士で、互いに“性質”で干渉しないように純粋な理力で戦う……さすがに人間嘗めすぎだ」
迫る攻撃を全て受け流し、転移でさらに一人捕まえつつ、優輝は言う。
“性質”が世界そのものの“領域”で相殺されているとはいえ、“性質”を使わない純粋な理力で戦うのは優輝からすれば愚の骨頂だ。
純粋な理力はそれこそただのエネルギーの塊だ。
導王流でなくとも、その攻撃は受け流そうと思えば受け流せてしまう。
そして、優輝の“性質”による攻撃の相殺も容易となっていた。
「……捉えた」
「こちらには、確実に“領域”を削る技があるんだぞ?」
―――“破綻せよ、理よ”
戦いながらも、緋雪は“瞳”を見ていた。
ここに来て、近くにいる敵全ての“瞳”を捉え、握り潰す。
最早“破壊の瞳”は“破壊の性質”と同等の力を持つ。
その攻撃が直撃すれば、確実に“領域”は削れるだろう。
「“覇王断空拳”!!」
「導王流奥義……“刹那”!!」
周囲の敵全てが怯んだその瞬間、さらに優輝の理力の棘が貫いた。
そして、その内二人に対し、オリヴィエとクラウスが仕掛ける。
クラウスは、自らの一族が紡いだ武術の奥義を。
オリヴィエは反撃を誘い、ムートに習った導王流の奥義をそれぞれ叩き込んだ。
「これでまた二人、数が減ったな」
「くっ……!」
痺れを切らしたのか、一人の神が“性質”を使いつつ優輝に肉薄した。
理力による身体強化と“性質”の合わせ技で、確かに優輝よりも早かった。
……だが、それだけで導王流は破れない。
「かはっ……!?」
「ここらで、神も一人ぐらい退場してもらおうか」
「はぁああっ!!」
カウンターが神の胸を穿つ。
さらに、緋雪が背後から一刀両断し、さらに“瞳”を握り潰した。
ダメ押しに優輝が理力の光球で包み込み、完全に“領域”を破壊する。
「僕らの“意志”は、より鋭く、強固になる。そう定めた」
「シッ!」
「はぁっ!!」
優輝がそう発言してからは、ほとんど一方的だった。
優輝達の攻撃が、徐々に“領域”をより多く削るようになっていく。
特に、捨て身のカウンターによる渾身の一撃は“意志”も強く込められているためか、一撃で決定打になる程だ。
「41」
「ッ……!」
敵がいくら理力で攻撃しようとも、四人はそれを掻い潜る。
一人、また一人と数を減らしていき、敵の表情は焦りを通り越して恐怖が出ていた。
「がっ……!?」
「33」
気が付けば、最初に四人を襲った時から半分以下に数が減っていた。
神が倒れれば、その眷属も道連れになる。
その事も相まって、相当な速度で数が減っていく。
「25」
優輝のカウントダウンは止まらない。
例えカウンターを避けるため遠距離から攻撃しても、転移で肉薄されてしまう。
そして、“可能性の性質”によって定められた“意志”により、一撃で“領域”を一気に砕かれるのだ。
「……6」
緋雪達三人も、同じように数を減らしていた。
そして、ついに一グループの神と“天使”だけとなった。
「追い詰めたも同然。……と言いたいけど」
「どうやら、倒れないように“性質”で逃げていたか」
優輝は同じ“性質”が残らないように、満遍なく数を減らしていたつもりだった。
だが、実際に残ったのは同じ“性質”の神と“天使”だけだ。
攻撃ではなく回避や防御だけなら、あの数でも“性質”を使えたのだろう。
「来るか」
干渉しあわないように純粋な理力で戦っていたが、今はその制限がなくなる。
いくら世界そのものの“領域”に相殺されているとはいえ、強力には変わりない。
「ッ……!」
「あ、がっ……!?」
理力の動きを感知した瞬間、オリヴィエとクラウスが潰された。
空間そのものを圧縮し、それで二人も一緒に圧縮したのだ。
「さっきまでと同じと思うな!」
「くっ……!」
「これは……!」
優輝と緋雪も無事ではなかった。
理力の防御と生物兵器としての回復力で耐えたが、物理的ダメージは深刻だ。
「空間ごと圧縮か……なるほど、だから僕らの攻撃から逃れていたのか」
優輝達を中心に、半径数百メートルに渡る大地が半球状に抉れていた。
これは、優輝達を中心に球状に空間を圧縮した事による影響だろう。
そして、そんな空間に関する“性質”なため、優輝達の攻撃から逃れられたのだ。
「“空間の性質”。転移で逃げなくて正解だったな」
「……そっか、遠い方が一方的だもんね」
先ほどの攻撃は、優輝だけなら範囲外まで転移で逃れる事は出来た。
しかし、そうしていれば遠距離から一方的に空間圧縮を連打されてしまう。
どの道、肉薄しなければ倒す事が出来ないのだ。
「僕が引き付ける。緋雪はオリヴィエとクラウスを頼む」
「うん!」
会話している時間は惜しいため、すぐに行動に移す。
優輝は転移し、敵陣の中へ。
敢えて相手の懐に入る事で、大規模な技を使えなくさせるつもりだ。
「なっ!?」
それだけではない。
空間を切り離す事で、一切の干渉を受け付けなくする“性質”による障壁。
それが、まるで存在しないかのように破られたのだ。
「理力を用い、“性質”を使う。もしくは、相応の“意志”を込める。……いかなる“性質”だろうと、そうすれば突破できる“可能性”は、ゼロじゃない」
「ッ……無茶苦茶な!」
一人の“天使”が理力に呑まれ、別の“天使”が思わずそう叫ぶ。
つまり、優輝は“意志”を込め、障壁を破れる“可能性”を生み出し、その“可能性”を“性質”を使う事で引き当てたのだ。
「貴様ッ……!」
「今のこの世界に攻めてきた時点で、お前たちにも敗北する“可能性”はある。……後は、その“可能性”を引き寄せればいい」
―――“破綻せよ、理よ”
優輝の言葉と共に、数人が爆ぜる。
地上を見れば、緋雪が“破壊の瞳”を握り潰していた。
さらに、間髪入れずに魔晶石による砲撃と弾幕が展開された。
優輝もそれに便乗し、一人の“天使”の“領域”を砕いた。
「つまり、“チェックメイト”だ」
理力の剣が振るわれ、神が斬り刻まれる。
同時に、復帰していたオリヴィエとクラウス、そして緋雪が残りの“天使”に仕掛け、渾身の一撃で障壁ごと“領域”を砕いていた。
「“性質”を用いた防御……確かに強力だけど、それが破られるとダイレクトに“領域”にダメージがいくからな」
「だから、あんなにあっさり倒せたんだね」
終わりは呆気なく、クレーターになった地面に四人は降り立った。
「……もう行くのかい?」
「ああ。僕らはこれからが本番だからな」
「……例え、仮初でも再会できて嬉しかったです」
「私達もだよ。オリヴィエ」
語りたい事、伝えたい事は沢山あっただろう。
だが、四人で交える言葉はごく僅かだった。
……それだけで、想いは伝わったのだから。
「ご武運を」
「ああ」
その言葉を最後に、優輝と緋雪は転移してその場を去った。
後書き
“空間の性質”…文字通り空間に干渉できる“性質”。空間と空間を切り離す事で防御できる上、空間断裂で攻撃も出来る、攻防一体の“性質”。
オリヴィエとクラウスはFateにおける近代英霊のように、生前よりもかなり強化されています。特にオリヴィエはベルカにおける信仰のせいで半ば現人神化しています。
“可能性の性質”による“可能性”の操作。TASさんの乱数調整みたいなものです。なお、フレーム単位で待つ必要はない模様(チート)。さすがに無理矢理引き当てる場合は時間がかかりますが。
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