魔法科高校の劣等生の魔法でISキャラ+etcをおちょくる話
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第二百五十三話
八月二十二日。
あの女から電話がかかってきた。
時期的にあの件だろう。
「はいユートピア」
『やぁやぁ一夏君。久し振り。夏休み満喫してるかい?』
「そっちこそいたいけな男子高校生虐めて楽しそうじゃん」
八九寺真宵はもう居ない。
彼女の魂は地獄へと堕ち、閻魔大王の裁きを受けている事だろう。
彼女の消失、いや、成仏は成された。
阿良々木暦の物語は一つの章を終え、次の章へと進む。
いや、違うか。
既に彼の物語は新たな章へと進んでいるのだろう。
出逢いの章を終え、清算の章へと。
史実とは異なる、否、俺が歪めたこの物語に於ても、章分けは然程変わりはしない。
それに清算の章の開始は既に告げられている。
『おや、知っていたのかい? 意外だね』
「そうかな? 俺は彼の物語を応援しているからね。知っていても不思議ではないと思うよ?」
清算の章の始まりの話、その中間地点が過ぎ去った。
今俺は、その裏側の延長線上ににいる。
「それで、要件は?」
『うん。キミになら言わなくてもわかってくれると思うけれど、万が一があるから報せておこうかと持ってね』
「はいはい」
『キミの町で眠っていた吸血鬼が復活した』
「死屍累生死郎。初代怪異殺し。キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードの最初の眷属。
で、それが?」
『彼を討伐する。ついでに阿良々木暦と神原駿河の資質を見ておきたいんだ。こよみんの参加は取り付けたし彼に駿河の説得を頼みはしたけどけど、彼女はキミになついているからね。キミに電話を掛けたってわけさ』
「ん。わかったよ。でどうすればいいんだ? 駿河に電話して向かわせればいいのか? それとも俺もついていった方がいいのか?」
『私としてはキミにも来てほしい所かな』
「時間と場所は?」
『メメが拠点にしていたビルがあっただろう? 明日の夜にそこに来てくれ』
「OK。遅れるかもしれないが文句は言うなよ。お前のせいでこっちはIS一機大破したんだからな」
ホロウィンドウを閉じて、目の前のボロボロ…というか半身が抉られた半有機素体が横たわっている。
それはキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードの若かりし時の姿を模したものだ。
これを回収してラボに運び込んだのが昨日の事である。
これがこうなったのも昨日の事である。
直江津高校の始業式の日。その午後の話だ。
その時の事はコアをモニタリングしていたので即座に確認することができた。
side out
八月二十一日午後
一夏はモニタリングしていたコアの異常を察知して、即座に学習塾跡へと向かう事に決めた。
念のために、超重装備をコアの量子格納庫に入れてのことだ。
カンヘルを除く各種装備は勿論の事、対怪異専用装備などである。
なぜなら現在の直江津町には復活した死屍累生死郎に加え、”くらやみ”が存在しているかもしれないからだ。
(死屍累生死郎にはおそらく勝てるだろう。彼は復活したばかりだ。ユートピアとして今も吸血鬼である俺が負けるはずがない。
が、問題は”くらやみ”だ)
一夏は”くらやみ”という存在を自分なりに考察し、答えを出していた。
(世界の修正力そのもの、意思無き神。定義を外れた怪異を修正する力)
故に一夏は家にカンヘルの外装、フレームを置いてきた。
今この町で吸血鬼である自分が現在世界中で信仰されつつある神を纏うことは危険であると判断したからだ。
考えすぎかも知れなくとも、くらやみという完全な未知に対して万全を期す事を選んだのだ。
体内を流れる流体化したコアと予備のISだけが今の一夏の装備である。
最高戦力のカンヘルを持っていない不安はあっても、一夏は行くしかない。
各種欺瞞術式を展開し、飛行術式で飛び立った一夏が数分と経たずに学習塾跡に到着した。
そこで目にしたのは上下の教室を繋げるぽっかり空いた大穴、半身を抉られたキスショットの半有機素体、床に寝転ぶ忍野忍だった。
半有機素体は内部の有機部分と機械部分が露出した状態だ。
疑似血液とオイルが傷口からあふれ出ており、これが本当に人であったならば助かることのない重体だろう。
コアは辛うじて無事であることを目視でも確認したのちに、一夏は忍へ話しかけた。
「ひどい有様だね、我が姉上」
「嫌味か、ユートピア」
「単純な心配だよ。俺はあんたのファンだからな」
「お前に好かれるようなことをした覚えはないんじゃがのぅ」
「そっか」
一夏が半有機素体に手をかざす。
情報の遡及を試みる一夏であったが、その表情は曇っていた。
苦痛に歪む表情ではない。
自分の力が及ばない事への不満とでも言うべきだろうか。
その他に、納得したような表情も入り混じる。
予想が当たったとでも言わんばかりの表情である。
「再生も発動しない…か」
情報を上書きする再生を以てしても半有機素体を復元することは叶わなかった。
なぜなら、その部分に該当する物質が存在しないからだ。
完全にこの世界から消失していた。
「姉上」
「なんじゃ?」
一夏が忍に抜き取ったコアを投げ渡した。
コアは忍の手のひらの上で髪留めに変化する。
「これ、コアね。これさえあれば何かあってもどうにかなるから。もっとも」
現在の忍がどういう状態であるか。
それによって何が起こりえるか。
「ペアリングが切れている姉上にとってはこれは不要かもしれないけどね」
「愚問じゃな」
「うん。知ってる」
忍が立ち上がる。
「この体、気に入っておったんじゃがな」
半有機素体を眺めながら、忍が残念そうに呟いた。
「これがこうなったとき、中に居たの?」
「否。影の中に置いておったんじゃが、唐突に"くらやみ"が来てな。
影の中で半分食われた。急いでこれを掴んだ瞬間に主様の影から弾き出された」
「そっか…うん。兎に角姉上が無事で良かったよ」
一夏が半有機素体を量子格納庫に収納する。
それと同時に分解で擬似血液とオイルを消し去り、証拠を消した。
「姉上、これからどうする?」
「ん。主様を探しに行こうかのぅ。ユートピア、お前も来るか?」
「ごめん姉上。俺は俺でこれから恩を売る予定があるんでね」
「良からぬ事を考えとる顔じゃな」
数時間後。
「………………」
「出会い頭に顔をしかめられると流石の俺も傷つくんだよ?」
「ねぇ、羽川翼さん?」
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