戦国異伝供書
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第百九話 白から水色へその三
「若様の右目は病のせいです」
「病で見えぬ様になりました」
「赤子の頃のことで」
「それでなのです」
「そうか。最初は見えておったのだな」
母店丸はあらたまって述べた。
「わしの右目も」
「左様でした」
「ご幼少の頃は」
「そうでありました」
「そうであったか。そして」
梵天丸はさらに言った。
「わしは右目が見えぬ、だからか」
「まさかと思いますが」
「お袋様のことですか」
「あの方のことですか」
「わしが右目が見えぬからな」
悲しい、そして苦い顔での言葉だった。
「母上はわしをよく思っておられぬか」
「いえ、それは違います」
「そのことはご安心下さい」
「子を愛さぬ親なぞいませぬ」
「決して」
「ですからお袋様もです」
「決して」
「そうか。わしの思い違いか」
そう感じていた、だがそれはと言われてだった。
梵天丸は思いなおした、それでこう言ったのだった。
「ではじゃな」
「はい、どうかです」
「お袋様を疑われぬ様」
「そのことはお願いします」
「どうか」
「ではな。しかしな」
ここで梵天丸はこうも言った。
「独眼龍というな」
「異朝の将でしたな」
「確か」
「左様でしたな」
「その異朝の将の様に」
まさにというのだ。
「大きなことをしてみるか」
「隻眼であるから」
「それ故にですか」
「そう思われますか」
「この米沢からな」
さらにというのだ。
「奥羽を制しな」
「奥羽をですか」
「制する」
「そうお考えですか」
「そうじゃ、大きなことをしようぞ」
まさにというのだ。
「独眼龍に相応しいな」
「それはまた」
「大きいですな」
「この奥羽をとは」
「そして天下もな」
それもというのだ。
「制するか」
「奥羽だけでなく」
「天下もですか」
「そうされるのですか」
「うむ」
家臣達に強い声で応えた。
「そうしようとな」
「思われていますか」
「その様に」
「天下人になられる」
「そうですか」
「まずは米沢の周りを制し」
そしてというのだ。
「それからな」
「奥羽ですか」
「奥州も羽州も」
「どちらもですか」
「制して」
「そのうえで」
「関東もな、そして西に進み」
そのうえでというのだ。
ページ上へ戻る