戦国異伝供書
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第百八話 関東管領上杉家その八
「贈ろうぞ」
「ですな、お礼として」
「それも忘れてはなりませぬな」
「我等も」
「お陰で助かったしな」
そうであるからだというのだ。
「ならばな」
「お礼をせねばならぬ」
「贈りものをせねば」
「左様ですな」
「領地は渡せぬが宝や銭ならよかろう」
「殿、ならです」
ここで幻庵が言ってきた。
「よいものがあります」
「贈りものにですか」
「左様です」
「それは何でしょうか」
「茶器です」
幻庵はあらたまって答えた。
「そちらを両家に贈りましょう」
「茶器、そういえば」
茶器と聞いてだ、氏康はすぐに幻庵に言葉を返した。
「近頃上方等では茶道が流行り」
「そして茶器もです」
それもというのだ。
「価値あるものになっておりまして」
「宝にもなっていますな」
「ですから」
「それで、ですか」
「近頃武田家にも茶道が入ってきておるとか」
「武田殿は元々和歌がお好きでしたな」
氏康は晴信のこのことも知っていた、戦と政だけでなくそうした文にも秀でている人物であるのだ。
「そうでしたし」
「武田家はそもそも清和源氏の流れを汲んでおります」
「名家と言っていいですな」
「はい、ですから」
それでというのだ。
「文についてもです」
「興味がおありで」
「それで近頃は茶道にもです」
こちらにもというのだ。
「興味を持たれていますので」
「それで、ですな」
「茶器を贈りましょう」
「今川殿にもですな」
「今川殿は尚更です」
武田家以上にというのだ。
「今川家は将軍にもなれる家です」
「将軍家の血筋だけあり」
「その家柄は武田家以上であると言ってよいですな」
「確かに」
「その家柄故にです」
まさにというのだ。
「古来より上方文化に造詣が深く」
「そしてですな」
「駿府に多くの公家の方々を迎えています」
応仁の乱からの戦乱を逃れて都落ちした彼等をというのだ。
「そして和歌や蹴鞠等の文化を共に楽しまれているので」
「茶道もですな」
「されているので」
「尚更ですな」
「茶器を贈るとです」
その様にというのだ。
「よいかと」
「それでは」
「すぐに上方に人を贈りよい茶器を買いましょう」
「そしてですな」
「その茶器を武田殿と今川殿に茶器を贈り」
「お礼としますな」
「そうしましょう」
こう氏康に話した。
「この度は」
「それでは」
「そして我等もです」
「これからはですな」
「茶道をしていきましょうぞ」
北条家もというのだ。
「これからは武家の嗜みとなりますので」
「上方のものだけでなく」
「そうであるので」
だからだというのだ。
「そうしましょうぞ」
「それでは」
氏康も頷いた、そうしてだった。
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