宇宙戦艦ヤマト2199~From Strike Witches~
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出航編
第2話 星の海への船出
前書き
ついに出航です。
西暦2199年2月7日 冥王星某所
太陽系外縁部の位置にある準惑星、冥王星。その地表の何処かにある基地施設で、2人の男が話し合っている。彼らが見るモニターには、戦艦の残骸が映っていた。
「…大昔の鉄屑だと思っていたが、まさか艦船の熱源反応があったとはな。『テロン』の大型移民船か、それとも本土決戦兵器か何か、と言ったところか」
「バランのゲール少将には何と報告しますか?」
「強襲空母1隻とネウロイの前線での行方不明などありふれた話だ。大きな戦果の前には小事となる。散った同胞には今は耐えてもらわねばならん」
「では司令、艦隊を差し向けて破壊しますか?」
「いや、動かぬ標的に物量を投じる必要はないし、空母を撃ち落とされた以上さらに犠牲を出す訳にもいくまい。惑星間弾道ミサイルの発射準備をせよ」
「了解!」
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地球・極東管区 国連宇宙軍極東管区司令部
坊ノ岬での戦闘から数分後、司令部では藤堂平九郎極東管区行政長官らが話し合いを始めていた。
「迎撃には成功したが、これで敵にも存在が知れたと見るべきだな」
「だが、最後のピースが届いた以上はこちらも動く事が出来る。計画の進行具合はどうか?」
沖田の問いに対し、眼鏡の士官が答える。
「現状で3パーセント程の遅れが生じておりますが、許容範囲内です」
「うむ…後は艦を動かすためのエネルギーと乗員だが…」
沖田がそう言ったその時、森が報告を上げてきた。
「藤堂長官、沖田提督。国連本部及び宇宙軍最高司令部より通信が入ってきております」
「うむ、繋いでくれ」
藤堂の言葉に頷き、森は一つのモニターに1人の女性の映像を映し出した。
『オキタ提督、お帰りなさい。そしてありがとう。これで人類の未来への希望が繋がりました』
「エルドレッド事務総長、そちらは…世界各地はどうなっていますか?」
エルドレッド国連事務総長の言葉を聞き、沖田は彼女に尋ねる。その問いに対してエルドレッドは表情を暗くする。
『各ブロックはガミラス軍の攻撃によって寸断され、エネルギーも物資もおぼつきません。リベリオンやブリタニア、東煌はまだ耐えておりますが、『カールスラント』や『ロマーニャ』、ガリアは慢性的な食料不足に見舞われ、『オラーシャ』に至ってはモスクワ地下都市が壊滅し、沿海州以外は壊滅的打撃を被っています。現在、本計画のための人員と装備を『扶桑』ブロックに派遣しておりますが、主要な宇宙港は潰され、ウィッチと各種支援要員を派遣するのが限界でした』
地球上にてリベリオン合衆国やブリタニア連邦、オラーシャ帝国に東煌人民共和国といった国々は扶桑皇国以上の国力を有していたが、それ故に以前からガミラス軍にマークされ、艦艇は優先的に狙われて沈められ、遊星爆弾の着弾位置もリベリオン大陸やユーラシア大陸、ブリタニア構成国に優先的に落ちる様に調整されていた。そのため1国当たりの人口で一番数が多いのは扶桑という状態になっており、このまま遊星爆弾が降り続けば、扶桑人が地球全体の人口の3分の1を占める事となるという試算が組まれていた。
「そうですか。実施の期日ですが、3日後には抜錨します。それまでどうか辛坊を…」
『それを聞いて安心しました。本計画の成功をお祈り申し上げます』
映像が切れ、予想以上の惨事に一同に沈痛の表情が浮かぶ。すると技術科所属の士官である真田志郎少佐が彼らに話しかけてきた。
「提督、カプセルの解読が完了しました。メッセージ部分をご覧になりますか?」
「頼む」
沖田は真田に向けてそう言い、小さなドーム内に収容されているカプセルの方へ向かって行った。
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地下都市 国連宇宙軍極東管区総司令部 病院区画
「随分と無茶をやった様じゃのう。随分と良い顔になって帰ってきおって」
佐渡が笑い声をあげるなか、頬にガーゼを貼っている古代と島はもの言いたげな様子で椅子に座る。その傍では加藤が衛生士の原田真琴に右手に包帯を巻いてもらっていた。
「駄目ですよ、手は人を殴るためにあるものじゃないんですから」
「じゃあ、何?」
「え~と、御茶碗とお箸を持つとか?」
原田がそう言ってまぶしいばかりの笑顔を浮かべる中、碇が古代達に声をかける。
「しかし、放射線も問題ない程度だし、治癒魔法も使わなくて問題ない範囲でしょう。それと古代に島、召集がかかっているわよ。というよりも、この部屋にいる全員が、みたいだけどね」
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国連宇宙軍極東管区司令部 中央広場
古代達は召集命令に従い、司令部の中央広場に来ていた。すでにその場には2000人以上もの人員が集まり、これより行われる発表に耳を傾けようとしていた。その中にはどう見てもこの極東管区を出身とする扶桑人ではない、ヨーロッパ系の兵員も多数見受けられた。
「イズモ計画の発動発表かなぁ?」
「という事は、ついに脱出船が完成したという事か」
「でも、地球を捨てる事になるなんて」
その場に集まった面々が思い思いの言葉を口にする中、島が古代の肩を叩く。
「おい、沖田提督が来たぞ」
島の言葉を聞き、古代は檀上の方に目を移す。周囲の兵員も揃って視線を移し、背筋を正す。そして沖田以下数人の将兵が敬礼をしてきたのに合わせて、古代達も揃って敬礼を返す。
そして一同の準備が整った事を確認した沖田は、静かに口を開いた。
『今回、この場に集まってきた諸君は地球脱出計画、イズモ計画の選抜メンバーとして、これまで特殊任務の訓練を課してきた者達だ。その君達に、ここで正式に任務を伝える』
イズモ計画とは、扶桑神話において大国主命が出雲の地に降り立った事になぞらえ、太陽系から別の惑星系へ脱出・移住するという計画である。しかし火星のテラフォーミングである程度の実績はあるとはいえ、元々宇宙船技術でガミラスに対して劣っている地球の現状で、生き残った者全てを脱出させ、なおかつ敵の攻撃と長期間の航行にも耐えうる性能を持つ宇宙船を複数隻建造する技術も資源も無いのが現実であり、これが成功する確率は低く見られていた。
ここまでは彼らも予想していた言葉である。しかし沖田が続けて言った言葉は衝撃的なものだった。
『だがこれは、周知の地球脱出移民を目的とした計画ではない。イズモ計画は1年前に新たなる『ヤマト計画』へと発展・吸収された』
沖田の言葉に、その場が騒めき立つ。沖田は予想通りといった様子で言葉を続ける。
『次の映像を見てもらいたい。先日のメ号作戦にて回収された、通信カプセルに納められていたメッセージだ』
沖田の言葉に、古代と島は一瞬顔を見合わせる。火星にて回収したあのカプセルが脳裏にちらついたその時、その場が一瞬暗闇に包まれたかと思いきや、満点の星空がその場を埋め尽くし始める。直後、何処からともなく女性の声が聞こえてきた。
『―私は、イスカンダルのスターシャ。貴方がたの星、地球は今まさにガミラスの手で、滅亡の淵に立たされています』
スターシャと名乗る女性の言葉とともに、古代達にとって見覚えのある星々が浮かび出してくる。天の川銀河が映されたと思えば、今度はマゼラン銀河が浮かび上がり、そしてその間を、1隻の金色の宇宙船が駆け抜けていく。
『私はそれを憂い、1年前、妹のユリーシャに次元波動エンジンの設計図を託して、使者として地球へ送り出しました』
宇宙船が天の川銀河へ向かって行く中、その一角が急速にズームアップされ、地球の姿がその場に投影される。スターシャの言葉は続く。
『貴方がたがそれを理解し、エンジンを完成させていたならば、イスカンダルへ来るのです。私達の星には惑星を再生する事の出来るシステムがあります。残念ながら、私がこれを地球に届ける事はもう叶いません。このメッセージをご覧になっている事は、波動機関最後のユニットを、私のもう1人の妹、サーシャがお届けしたという事ですね』
映像が切り替わり、今度はマゼラン銀河の一角がズームされる。そして古代達の目に、一つの青い海に包まれた星が浮かび上がってくる。
同時にその星をバックに、1人の金色の髪と水色のドレスが特徴的な女性が浮かび上がってくる。恐らく彼女がスターシャだろう。
『イスカンダルは地球を離れること16万8千光年、貴方がたがマゼラン銀河と呼ぶ銀河系内恒星系サレザーの第4番惑星です。私は、貴方がたが未知の苦難を克服し、ここへ来ることを信じています。私は、イスカンダルのスターシャ…』
映像はそこで終わり、一同に困惑の表情が浮かぶ。しかし沖田はそれを払拭するかの様に口を開く。
『―1年前、地球は、メッセージにあった様に、イスカンダル星からの技術供与を受けて現在、恒星間航行用の新型エンジンを搭載した宇宙船を完成させている。諸君らの使命はこのイスカンダルへの往復の旅だ。諸君も理解している様に、往復33万6千光年の旅は、未だ地球人類の経験した事の無い、深宇宙への遠大な航海だ。それを人類の生存が許された1年の期間内で行う、危険で苦しい旅になろう。よってこの命令は強制ではない。出航は明後日の0600、坊ノ岬を抜錨する。遅れた者は残留希望者と見なす。以上だ』
沖田はそこで説明を終え、騒めきが戻ろうとする中、今度は森が口を開く。
『集合等詳細の通達の前に、各部門の責任者を読み上げます。イスカンダル遠征任務部隊総司令官、沖田十三。任務部隊第1群司令、有賀幸樹。同技術科、真田志郎。機関科、徳川彦左衛門。航海科、島大介。戦術科、古代進…』
彼女によって読み上げられた各部門責任者の名前に、古代と森は思わず互いを見返す。加藤と眼鏡の士官は予想外の上官に困惑気な表情を浮かべ、碇はその様子に静かに笑みを浮かべていた。
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極東管区扶桑ブロック 鎌倉地下
国連が地球の統一政府として大成する前、かつて扶桑皇国と呼ばれていた国の地下にある、一つのアパート。そこでは1人の女性が土方や藤堂を話し合っていた。
『…では、貴女も行かれるのですか?如何に戦場に慣れているとはいえ、何も貴女が自ら向かわれなくても…』
「…甘いわよ、竜ちゃん。これから自分達が対峙する事になるのはガミラス軍だけじゃない。恐らく私達の知らない新兵器や新たなネウロイ、そしてまだ私達の認識していない敵対勢力が現れる可能性もある。何よりこの任務は、時間が一番の敵となるわ。地球人類の誰しもが私みたいに頑丈じゃないから…」
女性から竜ちゃんと呼ばれた土方は、普段から渋いと評される顔をさらに険しくし、藤堂は肩を竦める。この扶桑皇国にて土方と藤堂でさえも逆らう事の出来ない存在は、彼女以外では今や国家としての象徴程度の存在でしかない皇族以外いない。その皇族でさえも、ある理由から彼女に対しては易々と苦言を呈する事が出来ず、今の扶桑を影から支える存在と言っても過言ではなかった。
『…分かりました。では報告を。先程天体観測と冥王星域の偵察望遠鏡が敵の動きを捉えました。大型の弾道弾が地球に向かって飛んでいます。到達予測は明日0600、標的は恐らく…』
「…遊星爆弾ではピンポイント攻撃が出来ないし、かといって空母を落とされた直後に艦隊を送り込んで、本土防衛部隊の抵抗に遭う訳にもいかないから、か…分かりました。エネルギーに関しては真田少佐からの腹案がありますので、それで何とか解決してみましょう」
女性はそう言って会話を終え、着替えを済ませてから一つのタブレット端末を手に取る。それには、古代の顔写真と履歴が映されていた。
「…あの大戦から2世紀半、この世にへばりついていた成果があったわね。後は、飛ばすに足るエネルギーを得るのみだけども、今はまだ擬死の狸を演じさせねばならないからね…」
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西暦2199年2月10日
ついに訪れたこの日、古代達の乗る何十両もの兵員輸送車は、90式戦車型ストライカーを装備した陸戦ウィッチに護衛されながら、坊ノ岬地下に移動していた。
「見ろ、あれがそうらしい」
1人の乗組員の言葉を聞き、古代達は揃って視線を前に移す。そして車列は駐車場に到着し、下車した古代達はただ静かに真上を見上げた。
「あれが…あのスクラップの真下にあった…」
それは、巨大な宇宙船のロケットノズルだった。鼠色の非常に巨大な可変式ノズルの周りには3枚の尾翼があり、先端には鋭い針型のアンテナが装備されている。その真下には4基の二回りも小さいロケットノズルがあり、そのノズルも金剛型のメインロケットノズルの倍近い大きさを持っているため、推力は比較にもならない程に高いものになると思えた。
そこから船首側の方に目を向けると、下面に向けて一つの構造物が出っ張っており、後方からハッチが開いて宇宙船への乗降口を形成していた。そして何故か全体的に右側に沈み込む様に傾いているが、思えば坊ノ岬で見た戦艦の残骸も右側に傾いており、沈没船に見せかける際の影響でそうなったのだと考えれば合点はつく。
また別の地点に目を向ければ、岩の合間に白い物体が会間見え、第2群の乗る宇宙船だと察せさせる。
「掌帆長、これを自動航法室へ慎重に運んでくれ」
真田の指示に従い、榎本勇曹長率いる甲板部は一つのコンテナを船内へ運んで行く。そして古代達は艦内服を受け取り、船内へ乗り込んでいった。
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艦内服に着替え終わった古代は、艦橋を一通り見た後にエレベータでその上へ上がり、途中から続く階段を上って、司令官室に着く。そしてドアをノックして入室許可を得、入室した。
「沖田提督、自分は何故二階級特進の上に戦術長を拝命したのですか?その資格が自分にあるとは思えません」
「経歴、能力、資質…お前を始めとした責任者の全員、私がそれを見て、十分責務を果たせると判断したのだ。だが人材の多くを失ってきた上での選任であるのも事実だ。そして私は、本来戦術長の席に座る筈だった男も死なせてしまった。お前の兄だ」
沖田の言葉に、古代は目を丸くする。沖田は続けて言う。
「メ号作戦は確かにイスカンダルからの使者を無事に迎えるための陽動作戦だった。だが同時に本気で冥王星のガミラス軍を撃破しようともしていたのも事実だ。戦場は常に命がけだ。ガミラスの冥王星基地を殲滅するという気概無くして作戦の成功はない。例え、それが陽動であったとしても、敵を討ち、地球を守るその思いのどこに濁りがあるものか」
沖田の言葉を、古代は静かに聞く。そして聞き終わり、口を開いた。
「…兄の意志は自分が受け継ぎます。ですがそれだけではなく、貴方という人を見るために乗艦をさせて頂きます」
話を終え、古代は先に艦橋へ戻る。そして艦橋に再び入ると、既に有賀を始めとする艦橋要員が集まっていた。
艦長を拝命した有賀と副長兼技術長の真田を手始めに、古代とともに大尉へ二階級特進して航海長を務める島に船務長の森雪大尉、砲雷長を務める眼鏡の士官こと南部康雄中尉、気象長の太田健二郎少尉、情報長の新見薫少尉、通信長の相原義一少尉、機関長の徳川彦左衛門少佐の計9名はすでに席に就いており、古代は艦橋前面中心にある席に座る。そして司令官室から専用エレベータで降りてきた沖田を迎え入れた直後、通信が入る。
「提督、藤堂長官から通信が入っております」
「繋いでくれ」
直後、メインパネルスクリーンに藤堂の顔が映し出され、沖田達が敬礼で迎えてから口を開く。
『沖田君、弾道弾の詳細な到達予想時刻が判明した。0558、ジャミングが強く
正確な時間の解析が遅れてしまった。すまん』
「長官、こちらはエンジンが始動次第抜錨します。現在の状況は?」
『うむ。現在宇宙軍は総力を以て弾道弾の迎撃部隊を編成し、出撃させている。遊星爆弾に比べれば毒素をまき散らさない分迎撃時のリスクは少ないだろうが、それでも被害が出るのは間違いない。そして電力供給だが、今極東管区全てのエネルギーをそちらへ回し始めたところだ。だが、エンジンを始動させるた…には、まだエネ…ギーが足り…な―』
映像を送るための出力すら足りなくなったためか通信が途絶し、その場に暗い空気が立ち込めてくる。しかし沖田と有賀はただどっしりと構えて席に座り、事の趨勢を見守る。その中、コスモレーダーで状況を捕捉していた森から報告が上がる。
「提督、艦長、レーダーに捕捉しました。現在75光秒の位置です。到達まであと12分30秒」
森がそう声を上げた直後、機関席にてエネルギーゲージを見ていた徳川が声を上げる。
「提督、エネルギー供給量が急激に増えました。間もなく42番コンバーターの1段目スイッチが入ります」
「間に合ったか…」
徳川の報告に、有賀がそう呟いて安堵の様子を見せると、真田が一同に説明し始めた。
「通常、三相三線の交流で送電されている超電導ケーブルを、直流送電にする事でその三倍を損失無く送る事が出来るんだ。そして宮藤重工の協力のもとに敷かれた予備ルートと私の構築したアルゴリズムを使えば、途中断線があろうとも、何処かここへ必ず届くルートが1本でもあれば、網の目を通り、必ずここへ届くスマートグリッドを構築できる。だが全人類が血の一滴にも等しいこのエネルギーを、国を超え、相手を信じ、委ね合う人類の意志があって初めて、私の算式は意味を成したと言える。つまりは世界そのものの我らに対する希望をも表しているという事だ」
真田がそう説明した直後、森が続けて報告を上げる。
「提督、月軌道に地球艦隊が展開!敵弾道弾に向けて攻撃を開始しました!」
メインスクリーンパネルに、光学望遠鏡で補足した地球艦隊が映り、沖田達はその艦隊を指揮しているのが誰なのか察する。
「霧島」を始めとする12隻の冥王星会戦で生き残った艦艇は、一斉に高圧増幅光線砲を撃ち、同時に大量の艦対空ミサイルを発射。地球のどの艦船よりも余りに巨大な弾道ミサイルの一点にレーザー光線とミサイルをぶつける。
その衝撃か、ミサイルは軌道を狂わせ、着弾地点からずれていく。しかし尾部に大量に装備されているロケットノズルの推力を調整して軌道を修正し、逆に弾道弾全体から発するプラズマの衝撃波で地球艦隊を蹴散らした。
「地球艦隊、離脱始めました!ですが攻撃により着弾時間は1分50秒遅れました!」
「…そうか。徳川機関長、エンジンはどうか?」
「エネルギー充填率104パーセント、釜に火を入れられます」
「よし、機関始動。エンジン回せ」
有賀からの指示に従い、徳川は機関席のコンソールにある幾つかのスイッチを入れていく。同時にインカムで機関室に報告を送る。
「機関始動、プラグ点火」
『プラグ点火、波動エネルギーの物理エネルギー変換を確認』
『フライホイール接続、室圧120で安定』
「波動エンジン、回転数良好。いけます!」
ジョイスティックタイプの操縦桿を握っていた島からも報告が上がった直後、今度は別の場所から通信が入る。
『こちら支援艦「天城」、艦長の杉田。本艦もエンジン始動完了。間もなく抜錨します』
「よし、船体起こせ。偽装解除。「天城」と同時に浮上を開始する」
直後、船体が大きく揺れ始め、前方の窓に張り付いていた赤茶けた鉄が剥がれ落ちていく。そして右側に傾いていた船体が水平に保たれたその時、古代は改めて窓の外に見える光景を見つめる。
かつて青い海で覆われていた地表に突然生じた裂け目から、青みがかった黒と表現すべき色をした甲板に、今の地球艦では全く見られない、砲身付きの三連装砲塔3基が浮かび上がり、それら全てから錆びた鉄が剥がれ落ちる。
「これが、あの赤錆びた沈没戦艦…」
「…そうだ、これが地球の最後の希望を抱きし船、宇宙戦艦「大和」だ」
沖田の言葉に、多くが息を呑み、今自分達が乗っている艦の名を改めて知る。
過去の第二次ネウロイ大戦と地球で最初にして最後の世界大戦にて多大な武勲を上げ、21世紀に記念艦としてその場にあった扶桑海軍最大最強の大和型戦艦、その1番艦。ガミラスとの戦争にて遊星爆弾の着弾によって海が枯れ果てる危険性を目の当たりにした国連宇宙軍によって他の姉妹艦とともに解体され、地下都市や戦時急造艦の資材となった艦がこの場に蘇った事に、多くの乗組員の心が揺さぶられる。
「全艦、発進準備完了しました!」
「うむ…抜錨!「大和」発進!」
沖田の命令一過、伝説の戦艦の名と姿を受け継ぐ宇宙戦艦「大和」は、各所に繋がれていたケーブルを切り離し、艦首より伸ばしていた錨を巻き上げながら上昇を開始する。
遅れて別の地点の地表が左右に分かれて開き、純白の三角形の船体を持つ大型宇宙船が姿を現す。水上艦の面影を持つ「大和」に対して支援艦「天城」は航空機に近いフォルムを持ち、こちらも艦尾の7基備えたロケットノズルから炎を吐き出しながら上昇に転じる。
「古代、ここで敵弾道弾を迎撃する。主砲、発射準備」
「はっ!主砲、射撃準備!」
古代の命を受け、南部は主砲塔内にいる乗員とともに主砲管制を開始する。
先のガミラス空母迎撃時に右側に旋回していた2番砲塔以外の上部2基、船体下部に装備してある1基の三連装砲塔が右側に指向し、「大和」は船体を左側に傾けながら主砲身の角度を調整する。
「1番から3番、仰角10度。4番、俯角5度。主砲、集中射撃モードに切り替え。自動追尾装置、定点固定」
「弾道弾、着弾まであと20秒!」
「エネルギー伝導、完了。主砲全門、発射準備完了!」
射撃シークエンスが整い、各所からの報告を聞いた沖田は有賀に目配せする。そして有賀は古代に向けて怒鳴った。
「よし…撃ちー方、始め!」
「撃てぇ!」
命令一過、4基12門の99式50口径46センチ三連装砲より、青白い閃光が迸る。
「大和」の主武装である99式50口径46センチ三連装砲は、これまで地球艦隊が主武装としていた高圧増幅光線砲ではなく、ガミラスのよりも遥かに強力な陽電子衝撃光線砲を採用している。
陽電子光線砲自体はすでに艦首に固定装備されている対小惑星迎撃・遠距離狙撃用装備として実用化されていたものの、レーザービーム状に構成出来る程の陽電子の生成と凝集に多量のエネルギーを必要とした上に装備場所から使い勝手が悪く、対ガミラス戦にて有効に使うのが難しかった。
しかし波動エンジンの採用によってエネルギーの問題を解決出来た他、イスカンダルからもたらされた波動エンジンの設計図を参考にした陽電子エネルギーの新たな生成・制御技術により砲塔化する事に成功し、同時により強力な破壊力を持つ陽電子衝撃光線を撃つ事の出来る武装として「大和」に搭載されたのだ。
12門の砲門から放たれた青白い光線は、途中で3門ごとに一つの束となる様に絡みあい、4本の光の束となって弾道弾の真正面に突き刺さる。そして大気圏突入にも耐えうる表面を瞬時に融解させた一撃は弾道弾自体を貫通し、そしてついに爆発を引き起こした。
轟音とともに炎がその場を包み込み、坊ノ岬に巨大なキノコ雲を生じさせる。そして域内のあらゆるものが蒸発した中、雲をかき分けて2隻の宇宙艦が姿を現した。
「波動防壁、正常に作動中」
「各部、異常なし」
『こちら「天城」、航行に影響なし』
真田と有賀から報告が上がり、通信越しに「天城」からも異常がない事が伝えられると、沖田はどっしりと真正面を見据えながら指示を発する。
「本艦隊はこれより成層圏を抜け、宇宙空間に出る。そして地球残存艦隊の援護を受けながら火星宙域まで向かう。全艦、前進全速」
沖田の命令一過、2隻はロケットノズルから勢いよく炎を噴き出し、上昇を始める。そして成層圏を抜けて、宇宙空間に躍り出ていくのだった。
こうして、西暦2199年2月10日。2隻の宇宙戦艦が地球を救うために、星の海に漕ぎ出でた。
1年という僅かな期間、遥か16万8千光年先にある希望の星を目指して。
後書き
本作の「大和」は2199ヤマトと色々違った箇所があります。ご了承ください。
それと感想・コメントもよろしくお願いします。
次回、早速色々と新技術が出てきます。
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