宇宙戦艦ヤマト2199~From Strike Witches~
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出航編
第1話 遠き星からの使者
前書き
基本的に別の二次サイトで書いてたもののリメイクですが、リメイクというよりは書き直した感じですね。
西暦2199年1月17日 太陽系冥王星付近
太陽系外縁部の準惑星、冥王星の近くを、1隻の赤・黄・白三色で彩られた小型宇宙艦が駆ける。
A級/磯風型宇宙駆逐艦Fタイプ5番艦の「雪風」は、2180年代に地球国連政府と火星自治政府との間で繰り広げられた第二次内惑星戦争後に開発された駆逐艦で、当時戦争の主力だったミサイル攻撃艇の系譜に連なり、シュモクザメを彷彿とさせる錨型の艦首と上下から船体を挟み込む三連装砲塔、安定翼下に2基装備した重水素タンクと三方向に飛び出た一対の細い尾翼といった特徴を持つ。
主武装はガンマ線レーザービームである高圧増幅光線を放つ2基6門の12.7センチ口径三連装無砲身砲塔に加え、艦首に3門の80センチ空間魚雷発射管に艦尾側8セルの艦対宙ミサイルVLSを武装とし、実体弾による宙雷戦をメインにした戦い方を得意とする。
その「雪風」の艦橋で、艦長の古代守少佐は、ただ静かに耐熱ガラスの窓の外に見える星の海を見つめつつ、呟いた。
「ねぇお兄ちゃん、お父さんとお母さんの星はどこにあるの…か…」
「間もなく作戦宙域に到着します…艦長、いきなりどうしました?」
報告する序でに聞いて来た副長の問いに対し、古代は視線を直ぐに窓の方に戻し、答える。
「ああ…昔、弟がまだ小さかった頃に俺に言った言葉なんだ」
古代の言葉に、副長は彼の弟が何故そんな事を尋ねてきたのか察する。
「ご両親は確か、遊星爆弾で…」
「ああ…銀河の星はこれまで産まれて生きた人の数と同じだけあるって言うけど、沢山あるよな」
「確かにそうですね。どこにあるんですかね、ご両親の星」
2人がそう話していたその時、レーダー士が古代に報告を上げてきた。
「艦長、レーダーに感!方位横4時、縦3時の方向!距離7光秒、速度30Sノット!」
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冥王星付近・衛星カロン軌道上
先発隊である「雪風」より遥か後方60万㎞、国連宇宙軍連合艦隊本隊は時速1000万km余りという速度で冥王星に向かって進んでいた。
インヴィンシブル級/金剛型宇宙戦艦6隻とカウンティ級/村雨型宇宙巡洋艦30隻、「雪風」を含む磯風型宇宙駆逐艦72隻の計108隻からなる大艦隊は、現時点での地球の出せる外征戦力として最大級のものであった。
「世界各国からかき集めて、ようやく108隻か…ここまで疲弊していたとは…」
その中で、艦隊旗艦を務める戦艦「霧島」の上部二番砲塔と一体化している艦橋にて、艦隊司令長官の沖田十三大将はそう呟いた。
地球史上初の地球外生命体との戦争にて幾つもの武勲を上げた彼と言えども、『敵』との圧倒的な戦力差を縮めるまでの力はなく、開戦当初700隻以上はあった国連宇宙軍連合艦隊も、今や戦時急造艦を含めて200隻足らずにまで大きく数を減らしていた。
手駒の少なさに多少の不安を抱えながらも静かに外を眺めていたその時、レーダー士が「霧島」艦長の山南修大佐に報告してきた。
「レーダーに感あり!敵艦隊我が方の後方より接近中!距離5光秒の位置に展開する模様!」
「電波管制解除、艦種識別急げ!」
「出て来たか…悪魔め」
レーダー士の報告に山南が指示を出し、その様子を聞いていた沖田がそう呟く中、遂に『敵』がその場に現れた。
深緑色に身を包み、艦首に生物の目玉をも彷彿とさせる発光部を持つ、爬虫類を彷彿とさせる外見をした宇宙艦が、地球艦を上回る速度と機動性を以て迫り、何十隻もの大艦隊となって地球艦隊に迫りくる。
地球と『敵』との間は5光秒程。光の速度であれば5秒程かかる距離は、レーザー光線を主武装とする宇宙艦艇にとってみれば、近世の戦列艦同士の砲戦距離に等しい距離だった。
加えて恒星系内は惑星軌道を成す恒星からの重力の影響で航行可能領域や観測可能領域が想像よりも狭いため、天体の位置を利用した待ち伏せや奇襲も容易である。この形だと、地球艦隊は敵艦隊に後方から回り込まれ、同航戦に持ち込まれた形となっている。
「『ガミラス』艦隊、識別完了!大型戦艦Aタイプ3、戦艦Bタイプ4、戦艦Aタイプ7、巡洋艦Aタイプ22、駆逐艦多数!30Sノットで急速に接近中!」
「全艦、右砲雷同時戦準備。取り舵30」
「了解、取り舵。右舷照準合わせ」
レーダー士が照合情報を言って、数の上では自分達とほぼ同等である事が伝えられる中、沖田は指示を出す。すると今度は、通信士が沖田に報告してきた。
「敵艦隊旗艦より入電、『地球艦隊に告ぐ、直ちに降伏せよ』…どの様に返信しますか?」
その問いに対し、沖田は短く答えた。
「…『馬鹿め』だ。『馬鹿め』とだけ伝えろ」
「はっ…こちら「霧島」、『バカメ』以上」
通信士が返信を終えた直後、右側に展開する敵―ガミラス艦隊が光った。
150万kmという長大な距離を何十、何百もの光が駆け抜け、僅か5秒で地球艦隊に到達する。
その数は余りに多く、「霧島」は上甲板部の一か所のみで済んだが、近くにいた巡洋艦「鞍馬」は右舷側に数十発もの陽電子光線弾を受けて大破し、炎上。そして艦内弾薬庫と核融合パルスタービンエンジン用の重水素ガスがプラズマの炎を浴びて臨界状態になり、引火。大爆発を起こして粉々に砕け散った。
その後も「鞍馬」の後を続く様に数隻の艦が敵の砲撃を受けて損傷し、機関と武装に致命傷を負った艦は爆発を起こして戦闘も航行も出来ない、『沈没』状態となっていく。
「『東煌』駆逐艦「長春」轟沈!続いて『ガリア』巡洋艦「ガリソニエール」大破!」
「まだだ、まだこちらの主砲の射程内に納められていない…」
地球艦隊の主武装たる高圧増幅光線は、艦船の大気圏突入にも耐えうる船体と対放射線防護処理が施された対ビーム発散装甲を貫くのに十分な熱量とエネルギーを維持出来る有効射程距離がたったの4光秒程度しかなく、5光秒以上遠くから接触した物質との対消滅で船体と装甲を貫通する事の出来る陽電子光線に比べると非常に弱い。しかし十分に接近すれば、ガミラス艦隊にも有効な威力を発揮する事が出来る。
だがその事は8年近くも戦っている相手方も分かっている事であり、接近すればするほど陽電子光線の到達時間が短くなるとともに密度も増してくる。そして被弾する艦も増え、数は少しずつ減って行く。
たった2光秒の距離を詰めるのに2分以上もかかり、それまでに10隻以上の友軍艦を喪失したその時、ようやく全艦が敵艦隊を自軍の有効射程圏内に納める事が出来た。
「主砲、射程に収めました!」
「撃て!」
沖田がそう発した直後、各艦の主砲が光り、大量のガンマ線レーザーが放たれる。敵のレーダー観測射撃を妨害する電子攻撃の中で、血のにじむ様な訓練で磨き上げた光学観測射撃の精度は高く、放ったビームの殆どが敵艦に命中する。
しかし、ガミラス艦はエネルギー放出式バリアを常時展開しており、宇宙空間に蔓延する放射線よりも数倍強い程度のガンマ線レーザーは悉く跳ね返され、一番出力の大きい「霧島」の砲撃でさえも、駆逐艦クラスの姿勢制御スラスタとおぼしき装置を破壊するのみに終わった。
その中もガミラス艦隊の砲撃は続き、撃沈艦や離脱艦が増えていくのと同時に1隻に対する砲撃の密度も濃くなっていく。「霧島」も右舷装甲を切り裂かれ、幾つかの通路が宇宙空間に露出する。そして隔壁が閉まる前に逃げ遅れた乗組員は真空の空間に吸い込まれ、さらにそこにビームが突き刺さって機関に異常をきたし始める。
『機関、出力低下!フェーザー砲の出力回復まで30秒!』
『右舷4番通路、被弾!乗員居住区にも被害発生!』
各所からの悲痛な報告が飛び込んでくる中、レーダー士が叫んだ。
「提督、有賀中佐の「鳥海」が敵艦隊に突入します!」
沖田達は一斉に窓の方に目を向け、1隻の村雨型巡洋艦が敵艦隊へ突撃していくのを目の当たりにする。
その巡洋艦は軽やかな足取りで敵艦隊に肉薄し、ガミラス艦隊は懐に入り込まれて混乱を来し始める。巡洋艦は敵が同士討ちを恐れて砲撃を躊躇っている間に、一斉に4発の空間魚雷を艦首から放つ。
ミサイルとは異なり、弾頭と機関の両方を小型核融合炉が担っており、なおかつ誘導には艦自身の直接照準に依存するという特徴を持つ空間魚雷は時速1000万kmの速度で駆け抜け、敵戦艦の背後に命中。何故か実体弾相手には弱いガミラス艦はたちまち炎に呑まれて爆散した。
しかし数と兵装の性能では圧倒的にガミラス艦隊の方が有利にあり、1隻また1隻と沈んでいく。その状況に多くの将兵が悲痛な表情を浮かべる中でも、沖田は負傷した右腕を押さえつつその場に立ち続ける、直後、レーダー士が声を上げた。
「提督!レーダーに反応あり!急速接近する物体を確認!現在外宇宙航行速度で海王星域より予定の進入コースに入った模様!」
「続いて『アマテラス』より入電!火星到達まであと10分!」
通信士からも報告を受け取り、沖田は直ぐに指示を出した。
「来たか…司令部に暗号打電、『アマノイワトヒラク』と」
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火星 旧アルカディアポート
かつて西暦2100年代に開拓されたものの、2170年代から80年代にかけて二度も起きた内惑星戦争によって破棄されたコロニー都市跡地に、一つのドームがある。
その内部では、2人の青年が携帯食糧を齧りながら待機していた。
「ここにおとされて三週間、平和なのはいいが、暇すぎるのもあれだな」
国連宇宙軍第七航宙団に属する島大介少尉の言葉に対し、同じ団に属する古代進少尉は頷いて答える。
「そうだな…兄さん達は冥王星で戦っているというのに、俺達はここでただじっとしているだけ…焦れてくるよな」
「お前、ホント士官学校の時から変わらないよな」
携帯食糧を齧りながらそう話していたその時、傍に置かれていた量子波通信機が鳴り、島はヘッドホンを耳に押し当てつつ、マイクに答える。
「はい…了解。古代、司令部から通信だ。間もなく『アマテラス』が来るから出迎えに行け、とさ」
「ああ…ついに来たか」
2人は急いでヘルメットを被って空間服と一体化させ、放射線防護システムと空気循環システムの正常を確認し、ドームの外に出る。そして傍に停めてあった100式空間戦術偵察機に乗り込む。
宇宙空間では液化状態で搭載される推進剤を気化させてそれに高周波を与える事によってプラズマ状のジェット気流に変えて推進力とする熱核ターボファンが動き出し、100式偵察機は主脚と前輪に取り付けたそりで地面を滑りつつ、開けた場所に出る。そして機体下部の熱核ターボ式リフトファンで垂直に上昇しながら離陸した。
100式偵察機は火星の空に上がり、現在この火星に接近している『アマテラス』に接触を試みる。そしてようやく古代達が探していた『それ』が目に入って来た。すると、島が異変に気付く。
「おい、何か妙だぞ?」
「本当だ、進入角が急すぎる」
古代も異変に気付いたその時、突如、『アマテラス』―金色の宇宙船のエンジンノズルから火が噴き出してくる。そしてその宇宙船は勢いを落とす事無く火星の地表へと突撃していった。
「まずい、あれじゃ墜落するぞ!」
「―待て。何か脱出ポッドの様なものが射出された。その方角に向けて飛んでみよう」
古代はサイドスティック式操縦桿を倒し、脱出ポッドらしき物体が落下していった地点へと向かう。そして先程の金色の宇宙船が地表に激突して爆発した直後、100式偵察機は脱出ポッドの近くに降り立った。
「あれだ。地球のものともガミラスのものとも違う様だが…」
島がそう呟きながら、長さ10メートル程度のカプセル型の物体を見上げる。古代はカプセル内に生体反応感知器を当てながら調べるが、カプセルの一角にあるボタンを押したその時、カプセルの一部が開いた。そしてその中にいたものに目を見張った。
「これは…」
「…女性、か?だが…」
自分達の目に入って来たそれに、2人は声を失う。そこには、1人の長い金髪を持つヨーロッパ系の女性が横たわっていた。そして彼女の手には一つの赤いカプセルが握られていた。
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3週間後 2月7日 火星上空
火星に見知らぬ星から来た宇宙船が落ち、それから3週間後、2人は100式偵察機に乗り、火星を後にしようとしていた。
熱核ターボファンがプラズマ化させた推進剤のジェットを吐き出しながらごうごうと唸りを上げ、慣性によって低出力でも十分に推進力が維持出来る宇宙空間に出る。
やがて、自分達を火星まで運んだ地球艦隊の姿が見えてきたが、2人はその有様に愕然となった。
まず戦艦は「霧島」と『ブリタニア』の「ウォースパイト」、『リベリオン』の「ミズーリ」しか残っておらず、巡洋艦も4隻、駆逐艦に至っては5隻と、出撃時の9分の1まで減少していた。どの艦も大小様々な損傷を負っており、無傷でいられた艦は殆どいなかった。
「酷い有様だ…ここに落とされた時には108隻もいたというのに、今や12隻しか残っていないなんて…」
島がその有様に苦々しく呟く中、古代は周囲をきょろきょろと見回していた。
「…「雪風」は、兄さんの「雪風」は、一体何処に…」
「古代…」
100式偵察機はそのまま「敷島」に収容され、艦隊はゆっくりとした足取りで地球へと向かう。するとその真横を、一つの岩塊が通り過ぎていった。
否、岩塊ではない。それは全身を黒く染め上げ、各所から赤い炎を噴き出しながら進んでおり、禍々しさを醸し出していた。
「遊星爆弾、衝突コースを進行中」
「…駄目だ、我々にはあれを止める力はもう殆ど残されていない」
自分達の真横を通り過ぎた『遊星爆弾』が地球へ飛んで行くのを見て、沖田は小さく呟いた。
今から4年前、火星宙域で返り討ちにあったガミラス軍が、拠点を置く冥王星より発射する遊星爆弾は、着弾時に周囲の物体を破壊しながら有毒物質をまき散らし、大気や土壌は汚染され、海も悉くが蒸発し、かつて宇宙飛行士ガガーリンが見ていたであろう蒼き星としての姿を失っていた。
多くの将兵がその荒れ果てた故郷に絶望する中、沖田は表情を一つも変える事無く、地球を見つめる。そして12隻は極東管区大隅半島沖の地下宇宙港へ降り立って行った。
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優勢爆弾による汚染後、地球人類は居住区を地下の奥深くに移し、現時点で地球の持てる全ての資源と技術を使い、生存圏の確保に努めていた。
しかし絶え間なく降り注ぐ遊星爆弾の汚染は地下にも及び始め、科学者はあと1年程で地球は22世紀の終わりを迎える前に生命の存在を許さぬ星へとなり果ててしまうと主張している。
その人類の最後の砦である地下都市の中心、国連宇宙軍極東管区司令部の宇宙港と繋がる中央ターミナルに、古代と島の姿があった。
「よう古代に島、元気そうでよかったな」
突如何処からともなく声が掛けられ、2人は声をかけてきた男に目を向ける。
「有賀先生、来ていたんですか」
「何、俺もメ号帰りでね。しかしお前達、火星で敵軍監視を行っていた筈だったろうに、もしかしてあの時回収した100式に乗ってたのか?」
男―有賀幸樹中佐の問いに、古代は静かに頷く。有賀は士官学校時代2人の教官を務めていた事があり、こと実戦においては敵に肉薄しての水雷戦で名を馳せていた。
「古代、兄貴の「雪風」については聞かされているかもしれないが、撤退時艦隊の殿を務めて消息不明になった。俺も殿を務めたかったが、舵を壊されて思う様に動けなくされてな…」
有賀が冥王星宙域での戦闘について語り始めたその時、たまたまその場を歩いていた士官の言葉が耳に入って来た。
「そう言えば大尉、知ってるか?実家の筋からの話なんだけども、メ号作戦は実は陽動作戦で、本当は別の目的があったそうだけども、その事は艦長クラスの士官にも秘匿されていたらしいんだ。つまり自分が囮だってことを知らないまま僚艦は沈んで―」
黒縁眼鏡が特徴的な司令部付き士官の言葉に、古代達は目を丸くする。そして気付いた時には古代はその士官の肩を掴んでいた。
「おい、それは本当か!?」
「えっ、なんだいきなり!?」
「メ号作戦が陽動だと?君は司令部付きだな、艦隊司令は今どこにいるんだ!」
突然声を掛けられて眼鏡の士官がたじろぐ中、その士官の隣にいた女性士官が声をかけた。
「ちょっと、何なのあなたは!少し失礼じゃなくて?」
「あ…」
女性士官を見て、古代と島は思わず固まる。その女性は、火星で見た別の惑星から来た女性にそっくりだったからだ。
流石にこのまま見てはいられないと、有賀が助け舟を出す。
「すまないね、君達。私達は丁度メ号作戦帰りで、そいつはその時の会戦で身内を亡くしてしまったばかりなんだ。無礼を許してやってくれ…それよりも沖田提督は今どちらに?実は私も提督に用事があってね」
有賀の説明に、2人の士官は納得したかの様な素振りを見せ、古代は眼鏡の士官から手を放す。そして士官は有賀に向けて言う。
「沖田提督なら、病院区画に行かれている筈です。じゃあ森さん、行こう」
眼鏡の士官は有賀にそう答え、森と呼ばれた女性士官とともエレベータに乗り込む。それを3人は見送る中、島が古代に話しかけた。
「あの女性、火星で見たのと似てたな」
「ああ…」
「それじゃ、病院に向かうか。序でに火星で何を見たのかも、話せる範囲でいいから話してくれ」
3人はそう話しながら、地下鉄駅ブロックへ歩き始めた。
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極東管区大隅地下市 病院区画
「おや有賀さんに古代、久しぶりね」
地下都市の中央部にある病院区画に着いて、沖田が入院している部屋に向かう途中で、1人の女性の医者が話しかけてきた。
「碇少尉、この病院に急用ですか?」
「ええ、沖田提督の怪我の本格的な治療のためにね。生きてるのが奇跡と言われる程の怪我をして帰ってくるなんて、医者にとってはただ驚きしかないわ」
女性―碇美里少尉はそう言いながら、古代達3人とともに病院内を歩く。そして一つの部屋の前に到着し、ドアを開けると、そこには数人の男女の姿があった。
「おや有賀君、来たのか」
「来たのか、じゃないですよ提督。貴方が呼んだんでしょうが。しかも校長もいらっしゃったんですか」
有賀が沖田と、その近くに座る土方竜宇宙艦隊司令長官にそう答える中、碇は沖田の方に向かう。
「佐渡先生、具合は?」
「よく大事にならんかったなと驚く程じゃよ。だけど一応治療を施しておいて下さい」
病院区画の医者の1人である佐渡酒造が碇に説明する中、古代は前に出て沖田に尋ねた。
「沖田提督にお伺いしたい事があります!」
「君は…?」
「自分は、第七航宙団空間戦術科所属、古代進と言います。階級は少尉です」
古代の名乗りを聞き、沖田の眉がぴくんと上がる。
「古代…もしかして君は、「雪風」艦長の―」
「…弟です。提督、メ号作戦が囮だったというのは本当なんですか!?兄も、そして他の艦長もその事を知らずに死んで行ったんですか!」
古代が声を荒げて問い詰めようとし、傍にいた土方が睨みを効かせて抑えようとする。しかしその前に沖田が口を開いた。
「…君のお兄さんは立派だった。立派な男だった。多くの艦が傷を負って退くしか出来なかった中で「雪風」1艦のみが無傷で敵艦隊を食い止め、生き残った者達が地球へ帰れるまでの時間を稼いでくれた。その男を死なせてしまったのはこの私だ。すまない…」
沖田はそう言って、深々と頭を下げる。その様子を見ていた土方は席から立ち上がり、古代達に声をかけた。
「有賀、お前はここに残れ。古代、島、ちょっとついてこい」
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「しかし、まさかあんなところに校長がいるとはな…」
話を終え、古代と島の2人は土方に連れられ、第7航宙団基地の航空機格納庫でモップをかけていた。
「すまないな、島。迷惑をかけた」
「いいって事よ。しかし土方校長もいるとはね~あの2人は確か士官学校の同期なんだっけか」
2人がそう話す中、古代は1機の航空機に目が止まった。
国連宇宙軍の主力戦闘機である97式空間戦闘攻撃機〈コスモファルコン〉や100式偵察機の中に混じって、1機の赤と銀の二色に彩られた単発機が佇んでいた。2人はその航空機に近付き、まじまじと眺める。
「見た事もない機体だ」
「本土決戦用の試作機かな?」
「そいつは防空任務には使わないよ。何せ『イズモ計画』で移民船の護衛に使う艦上戦闘機らしいからな」
2人が航空機の正体について話し合っている中、別の方から声がかけられる。そこには、一組の男女の姿があった。
「宮菱重工と宮藤重工の『二宮』コンビが開発した、零式空間艦上戦闘機二一型…ブリタニア語通称〈コスモゼロ〉。今後の国連宇宙軍の主力戦闘機として開発されているという意味では、確かに防空任務にも使われる可能性はありそうだがな」
後ろで縛った黒髪と右目を覆う白地に二本の青いラインが入った眼帯が特徴的な女性はそう説明し、古代達は驚く。すると遠くから2人を呼ぶ声が聞こえてきた。
「加藤中尉―、坂本少佐―!」
「おう、今行く。お前ら、そいつには触るんじゃねぇぞ。そいつは文字通り『乗る奴を選ぶ』からな」
2人が自分を呼んできた同僚の方に向かう中、古代達はその後ろ姿を見送る。ふと、島が古代に話しかけてきた。
「古代、加藤に坂本って…」
「ああ…加藤三郎に坂本美優。宇宙軍第7航宙団きってのエースだ。その撃墜王とこの場で会えるなんてな…」
2人がそう呟いていたその時、格納庫内にサイレンが鳴り響き始める。同時にアナウンスが流れ始めた。
『敵偵察機と思われる機体、防衛ラインを突破!衛星軌道より侵入!敵の目標は北緯30度43分、東経128度04分、九州・坊ノ岬沖と思われる!繰り返す…』
敵偵察機の侵入を知らせる警報が鳴り響き、古代達は揃って顔を上げる。加藤に坂本も同様に顔を上げ、指示を出し始める。
「っ、直ぐに迎撃機を出す準備をしろ!整備と燃料・弾薬の装填急げ!」
「相手は偵察機だ、1機や2機で足りる可能性があるから直ぐに回せる機を優先しろ!」
そうして指示を出す中、突如、エンジンの始動音が聞こえ、一同はその方向に目を向ける。すると、1機の〈コスモゼロ〉が滑走路の方へ移動しているのが見えた。その機のキャノピーからは2人のヘルメットが見える。
「おい、〈ゼロ〉に乗っているパイロット!その機体から降りろ!そいつは―」
加藤が慌てて止めに入ろうとするが、〈コスモゼロ〉はそのまま電磁カタパルトで射出され、飛び立って行った。加藤は短く舌打ちしつつ、黒字に黄色のラインで彩られた空間服の上に羽織っていたジャンパーを脱ぐ。その中、美優は小さく呟いた。
「動かせた…?まさか、アイツらのどちらかが『仲間』だったのか…?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
自分達の生まれ故郷の空を、1機の航空機が駆け抜ける。コクピットでは島が感想を口に漏らしていた。
「中々の飛び心地だな。今までのとは全然違う。しかし、まさかお前さんが『ウィザード』とはな…しかも隠してたのか?」
そう言う島の前で、古代は操縦桿とスロットルレバーを握りしめたまま真正面を見る。その古代の被るヘルメットの一部からは、光で構成された犬の耳が浮かんでいた。
「…志望してたのは『ストライカー部隊』じゃなくて通常の航宙機部隊だったからな。まさかここでこの力を使う日が来ようとは思いもしなかったが…それに『魔法』を使うたびに耳と尻尾を生やすのも恥ずかしいしな」
「確かに、『ウィッチ』ならともかく、20代のガタイのいい男が獣の耳と尻尾生やしてるのは何とも写真映えしないけどな」
2人はそう話しながら、機体を飛ばす。直後、目前のディスプレイモニターにアイコンが浮かび上がった。
「見つけた!」
古代は操縦桿を傾け、機体を右の方へ滑らせる。直後、視界に1機の緑色の全翼機が入って来た。
相手も〈コスモゼロ〉に気付き、2機は酸素は残るもののそれより圧倒的に多い毒素の舞う大気圏内を駆ける。すっかり赤く染まった大地の上を踊る様に旋回し、航空科を主席で卒業する程の腕前を持つ古代はヘッドマウントディスプレイに投影されたレティクルに敵機を合わせ、そして操縦桿の引き金を引いた。
が、プラズマ弾を連続射出するパルスレーザー砲がうんともすんとも動かず、古代は「あれ?」と呟く。そして左側のモニターに目を移して『銃撃不可』と『未搭載』のテロップが出ているのを見て愕然となる。
「こいつ、武装を有してないぞ!?」
「お前らしくないミスだな、古代…」
島が古代の落ち度に苦笑を浮かべる中、敵偵察機は急加速し、大気圏を抜けていく。直後、〈コスモゼロ〉自身が揺れ始めた。
「げ、エンジンが不調になってるぞ!どうやら整備途中だったみたいだ」
「島、お前―っ!」
直後、〈コスモゼロ〉はエンジンノズルから黒煙を噴き出しながら失速し、地表に向かって落ちていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「こりゃ、後で怒られるな…」
結局、〈コスモゼロ〉は不時着し、古代と島は一応救難ビーコンを発して機外に出る。救難機に見つけてもらうために丘に向けて登って行く中、島は古代に話しかける。
「しかしあの偵察機、こんな辺鄙な場所で何を探していたんだ?大隅方面ならともかく、沖縄周辺なんて都市以外には珊瑚の欠片ぐらいしか見当たらないぞ?」
「確かに…ん?」
すると、丘の向こうに何かが見えて、古代は目を細める。そして丘を登り切ったその時、『それ』の全貌が見えた。
「な、何だありゃ…」
「これは…戦艦…?」
目前に見えたものに、島も思わず目を見張り、そう呟く。
それは、戦艦の残骸だった。船体や武装の殆どはかつて海底を形成していた土に埋もれ、僅かに上部構造物や煙突が露出して赤茶けた色となっており、まるで8年も続く宇宙人との戦争とは無縁であるかの様に聳え立っていたのだ。
と不意に、古代が島に尋ねる。
「…なぁ島、あれどう見ても大和型、だよな…だが…」
「ああ…戦争で全艦解体され、宇宙艦と地下都市建造のための資材に変えられた筈だ。それにそもそも、大和型が『ここで沈んだ』なんて聞いた事も無いぞ?」
自分達の知る歴史とは相反しているかの様な光景に、2人の脳裏には疑問符が付きまとう。しかし、空に二つの光点が見えた時、古代のヘルメットに再び二つの耳が現れた。
「っ、この気配は!」
古代は島とともに丘の影に潜み、双眼鏡で上空を見上げる。そして最大望遠で設定した電子レンズに、二つの十字の物体を捉えた。
「あれは…ガミラスの空母と艦船型『ネウロイ』だ!」
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『ネウロイ』。それは有史以前より存在する、人類の敵。
無機物の身体を持ち、周囲を瘴気で汚しながら自分達の巣を作り上げる生物とも言い難きその存在は西暦1910年代から急激に勢力を増し、ヨーロッパを巡る二度の戦乱を引き起こした。
1960年代以降は人類側の科学技術がネウロイの駆逐を容易にし、アフリカやアジアの僅かな地域にのみ生息していたが、ガミラスとの戦争にて遊星爆弾が投下され始めた頃から急激に勢力を拡大させ、地球の汚染をより一層深刻なものにしていた。
また、ガミラスはこのネウロイを使役する技術を有しており、これまでの戦いでは何度も艦船型ネウロイを差し向けて地球艦隊を苦しませていた。
四本足のヒトデの様にも見える空母型ネウロイはその一種で、モデルと思しきガミラス空母とともに外に突き出た四つの突起からブーメラン型の小型ネウロイを射出し、小型ネウロイはモデルと思しき全翼機とともに降下して戦艦の残骸にミサイルを撃ち始めた。
地表に幾つもの火柱が聳え立ち、舞い上がった土埃が残骸の周辺に赤茶けた靄を起こす。それでも不十分と考えたのか、2隻は高度を落とし、中心部から一斉に光線を発した。
青白い高出力の一撃が地面を切り裂き、土埃をさらに舞い上がらせる。かつて第二次ネウロイ大戦時にレーザービームの概念もまだなかった人類側連合軍を苦しませたネウロイの赤いビームも同様に地面を抉り、残骸のほど近くに爆発を引き起こす。
「あの偵察機、アイツから発進した奴か…」
「あいつら、なんであの残骸に執拗に攻撃を…」
島と古代がそう呟きながら、ガミラスの攻撃を見つめていたその時だった。
突如、地響きのような音がしたと思うと、地面を割りながら1基の三連装砲が動き出す。そして左側に旋回して砲身を上げたかと思うと、轟っ、と三つの砲口が火を噴いた。
まるで長きの眠りを妨げられた事に対しての怒りであるかのように放たれた砲弾は成層圏を易々と突破し、余裕を決め込んでその場に佇んでいた艦船型ネウロイを貫いた。
外壁は愚か、体内の最奥部に位置するネウロイの文字通りの心臓部である核が粉砕され、一瞬で急所を貫かれたネウロイは爆散し、無数の白い破片となって散った。
その予想外の事態に敵攻撃機全機は動揺し、攻撃の手を止めてしまう。直後、1機が何処からともなく飛んできた火線に絡めとられ、火だるまとなって落ちていった。
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「1機撃墜!」
『ナイスキル!』
ガミラス攻撃機を落とした加藤に対して坂本がインカム越しにそう声をかける中、2機の〈コスモファルコン〉は2人の女性達とともに赤みがかった空に舞い上がっていた。
有史以前から続くネウロイとの戦いにおいて、人類の希望となった存在、魔女。かつてはキリスト教普及下にて悪魔の使者としてカトリック教会から迫害を受けていたが、ネウロイを天使だと崇める異端が宗教戦争を起こした事を契機にウィッチを復権させる動きが起こり、東西合わせて対ネウロイ戦の切り札として重宝する様になった。
そして飛行機が発明された20世紀初頭、ウィッチの有効性を最も理解していた極東の地で彼女らの新たな『箒』が生み出され、ウィッチという存在の戦略的重要性を増した。
「落ちろ!」
空戦ストライカーユニット型〈コスモファルコン〉を装備して来た美優はヘッドマウントディスプレイが仕込まれたヘルメットでネウロイを捕捉し、自身の装備するバックパックに納められた空対空ミサイルを放つ。
21世紀以降、ミサイルや機銃の大型化、ジェットエンジンの性能向上のための大型化によってストライカーユニットはパワードスーツに匹敵する規模となり、両足に嵌めて運用するメインユニットを中心に、ミサイルキャニスターと一体化したシールドや機銃を保持するマニピュレータ、ミサイルや機関砲を装備するハードポイントを備えたバックパックを合わせて装備・運用するのが標準的となっている。しかし逆にそういったオプション装備の重量と慣性の法則を活かした空戦戦術が考案されて以降、ウィッチは引き続き空軍戦力の主役として戦場に立つ事を許された。
魔導通信システムを使った視線誘導によって目標を追尾するミサイルはネウロイに命中し、弾頭の炸裂が核もろとも粉砕する。そのうち数機が反撃してきたが、加藤と美優はただではやられなかった。
「そんなんで墜ちるかよ!」
加藤のヘルメットから猛禽類の羽を彷彿とさせる光の塊が生じ、同時に〈コスモファルコン〉の表面に青白い魔方陣の描かれたサークルが現出する。そして航空機型ネウロイの発したビームを跳ね返し、ハイスピードヨーヨーで背後を取った加藤機は機首の20ミリパルスレーザー機銃を発射。主翼を光速で飛んで来るプラズマの礫に引き裂かれて堕ちていった。
美優もマニピュレータで保持している12.7ミリ三連装パルスレーザー砲を撃ち、ネウロイの核を撃ち砕く。直後に再び砲声が轟き、狼狽していたガミラス空母を戦艦の残骸が撃ち抜いて撃沈したと同時に空戦は僅か2分足らずで終わり、落ち着く暇を得た加藤は、丘の上で手を振る2人の人影を見つけた。
「あいつら…」
『ともかく、救援部隊に出動を要請しよう。スパロー1よりオオスミ・コントロール、墜落した〈コスモゼロ〉パイロット2名を目視。救援機の派遣を要請する』
美優が防空司令部に連絡を飛ばし、4機はその場から飛び去って行く。その一方で真下では、古代達が目前で起きた光景にただ茫然となっていた。
「…生きていた…?大昔の軍艦が…?」
古代はただそう呟きながら、主砲を二度も撃って敵艦の撃沈を確認するかの様に再び沈黙した戦艦の残骸を見つめた。
これが、彼らとこの先旅を共にする艦の、最初の出会いだった。
後書き
はい、クロスオーバー先が明らかになりました。ちなみにアニメ第二期以降は劇場版やブレイブとは全く異なる時間を過ごしたという設定になっています。
次回、船出。
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