不死身の男
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第一章
不死身の男
船坂弘、その彼の銃剣術を見てだった。
教官だった准尉は思わず彼に言った。
「腰だけでも三段に匹敵するな」
「腰だけでもですか」
「いい腕だ、剣道もしているな」
「はい」
その通りだとだ、船坂は准尉に答えた。
「そちらも」
「そちらも段を持っているな」
「そのことを認めてもらっています」
「そうだな、しかも擲弾筒の部隊だが」
船坂はそちらの分隊長であったのだ。
「小銃も使えるな」
「何か肌に合っております」
「中隊一だな」
そちらはそこまでの腕だというのだ。
「そうだな、何で賞状、感状が三十か」
「それだけだったでしょうか」
「凄いものだな、敵はお前と戦うと大変だな」
准尉は笑ってこうも言った。
「これだけ強いならな」
「ならです」
強いならとだ、船坂は准尉に意気を見せて応えた。
「是非です」
「皇国の為にだな」
「最後まで戦い」
「勝つ為にだな」
「全てを捧げます」
「頼むぞ、今我が国は戦っている」
中華民国、この国とというのだ。
「そして今の相手だけでなくな」
「志那との戦に」
「ソ連もあるしだ」
「米英もですね」
「ある、だがお前のその強さは」
是非にという言葉だった。
「その敵達に向けてもらうぞ」
「承知しております」
船坂は准尉に毅然として答え敬礼をした、彼は戦場に出たならば自身の言葉通り死力を尽くして戦うつもりだった。そして。
一九四四年四月の終わりにパラオのアンガウル島に来た、もうそこにアメリカ軍が迫って来るのは時間の問題だった。
それで誰もが緊張の極みにあり船坂もだった。
普段は穏やかな顔に緊張をみなぎらせて戦友達に話した。
「ここを死に場所と定めてだ」
「最後まで戦うか」
「死ぬまでな」
「そして護国の鬼となってやる」
「そうなってみせようぞ」
「靖国にで会おうぞ」
戦友達も毅然として応えた、そしてだった。
船坂は死ぬまで戦おうと決意した、そのうえで上陸してきたアメリカ軍と戦った。
「既に他の島は落ちたぞ」
「後はこの島だけだ」
「このアンガウル島さえ攻略すれば」
「パラオは我々のものだ」
アメリカ軍の者達はこう言って上陸した、その彼等を見てだった。
船坂は部下達にこう命じた。
「いいか、擲弾筒も臼砲もだ」
「両方ですね」
「両方を使ってですね」
「そのうえで、ですね」
「攻める、そしてだ」
そのうえでというのだ。
「いいな、敵は一人でも多くだ」
「倒しますね」
「そうしますね」
「ここは」
「いいか、最後の一発まで最後の一兵までだ」
それこそという言葉だった。
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