GATE ショッカー 彼の地にて、斯く戦えり
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
間章2 解放軍の光と影
前書き
今回はショッカーの占領政策と帝国の反応についてです!!時系列的には第14〜18話の千堂とレレイ達がショッカー世界に行った辺りの出来事です。
注意!!
・残酷かつ非人道的な描写があります。
・目線がコロコロ変わって読みにくいかも……。
それでも読みたい!という方は下記のポーズと掛け声をしてから読んでください!!
それではッ! (`゚皿゚´)/イーッ!!
イタリカ
この街からオ・ンドゥルゴに至る一帯は現在、ショッカーの占領下に置かれている。
圧倒的な戦力で盗賊を撃退し、イタリカを救った異形の軍勢に占領されたことで彼らの技術力、軍事力をまざまざと見せつけられ、今になって帝国がどんな相手と戦争しているのかをイタリカ市民は実感させられていた。
占領直後はショッカーの改造人間や獣人の姿を見て恐れおののき、「奴隷にされるのではないか」という噂が独り歩きしたことで市民達の混乱が起きたが数日も経てば市民生活は平穏を取り戻した。
占領民達からすれば信じられないことにショッカーの世界には奴隷制度が存在しないらしく、またありとあらゆる種族がショッカーの前では公平なのだという。
またショッカーが強制しているものがあるとすれば『帝国国旗の掲揚禁止』と『公共の場でのショッカー式敬礼の義務化』ぐらいなものであり、どれもこの世界の占領政策の常識からすれば比較的、楽で意味不明なものばかりであった。
イタリカの市民の殆どはフォルマル家に忠誠を誓う者ばかりで帝国に対して愛国心を一切、抱いていなかった。そのため国旗の掲揚の禁止など全然、気にならなかったし、ショッカー式敬礼も最初こそどこか恥ずかしさがあったが数日間も続けると何とも言えない不思議な団結感が生まれ、ショッカーの一員としていることに誇りを持つようになった。
そんなある日―。
黒人系と白人系の2人組の軍人がイタリカに入城し、街並みを眺めていた。
街の目利き通りに目を移せばショッカーの軍人や戦闘員が闊歩し、市民は日常の生活を続ける。
「ここがイタリカか…」
「どことなくゲルマニアエリアのミュンヘンやドレスデンに雰囲気が似てるな」
「それでも中世レベルの都市と現代都市じゃ大違いだけどな」
占領直前の盗賊の出現による社会的混乱と物資不足の状態は改善されていた。
イタリカを始めとした占領地では現在、定期的にオ・ンドゥルゴ基地から往来するトラックに物資によりインフラ整備が着々と進められ、かつてないほどの繁栄を迎えている。街頭が整備されたことで往来する軍の車両も増え、それに子供が群がって飴などの菓子をねだる光景も見られるようになった。
また、財団Xやノバショッカーなどの企業では占領地の若者を中心に職業研修を行っており、ゆくゆくは占領地の人民を低コストで雇うことを検討しているという。
勿論、ショッカーもこれらの支援を可愛そうだからとか人情だとかで行っているわけではない。曲がりなりにも元『世界征服を狙う悪の秘密結社』である。
イタリカを対帝国の為の工作拠点にする為というのもあるが、インフラ整備などの都市開発や医療支援は占領に不満を持った市民が団結し、レジスタンス化されるのを警戒してのことであり、企業による職業訓練に至ってはイタリカ市民の人的資源としての価値を高めるために行っているのである。
はっきり言ってショッカーは異世界征服の野望の為にイタリカ市民を利用しているのだが、結果的に市民達は街の発展を促進してくれるショッカーに大きな感謝をせずにはいられなかった。
実際、住民による大規模な抵抗を覚悟してやって来た兵士や戦闘員が市民達から頭を下げて礼を言われて拍子抜けしたという報告があちこちで起こっていた。
「しかし、あれだな。ここに住んでる連中、一応、敵国人だろ?この世界の通例に倣って奴隷化するなり、粛清するなりしてもよさそうなのものだが……」
「非人道的に扱い過ぎても占領政策の支障にしかならないという政府の判断らしいがな……でも俺はあの亜神の嬢ちゃんが一枚噛んでいると思うんだよな」
「……?……どういうことだ?」
「噂だがお前も聞いただろ?あの亜神にはこの世界のバランスを乱す因子を摘み取る役割があるって……それにこの世界にも『神』の存在があるらしいからな。そんな奴らに介入されると面倒なことになる…政府はそう判断したって話だ」
これは事実であった。
千堂がロウリィと接触したことでショッカーの異世界征服計画は大幅な修正を余儀なくされた。当初の計画では占領地の人民は人心掌握をして全員、洗脳。その後は奴隷化、或いは粛清するはずだった。
しかし脅威的な身体能力と再生能力を持つ亜神の登場により、その計画は大規模な修正を余儀なくされた。
ゾル大佐や暗闇大使がオ・ンドゥルゴ基地に派遣されたのも万が一、ショッカーが亜神と戦闘になったとしても無力化できるほど強力な基地司令官の存在が異世界征服計画に求められたからだ。
ちなみにゾル大佐、暗闇大使以外にも対亜神要員は複数人、基地に待機している。
「まぁ政府、いや、大首領様がそうご判断されたのなら仕方がないか……。俺達はそれに従うまでだ。大首領様の御判断に間違いは無いからな」
2人はそのまま市内を巡回し、やがて城門の外に出た。
イタリカの外には奴隷を積んだ馬車と軍の灰色バスが停まっていた。馬車の中にはヒトもいたがエルフやドワーフなどの亜人種の奴隷が多かった。
彼らが目にしたのはちょうど、ショッカーの軍人が奴隷商人に金貨が大量に入った袋を手渡しているところだった。奴隷商人に代金を支払ったのでこれから奴隷達をバスに乗せ、基地に連れて帰るのだろう。
「奴隷か……そういえばショッカーはイタリカの商人から帝国の奴隷を購入して彼らをショッカーの人民として再教育してるんだったな」
黒人系の兵士が呟く。彼は購入された奴隷達がオ・ンドゥルゴ基地内で教育を受け、コダ村避難民のようにショッカー人民になるべく努力しているのを見かけていた。
さらに再教育後はイタリカなどの占領地で就職させるか、軍に入れると上官から聞かされていた。
ふと黒人系の兵士が相方の白人系の兵士の方を向いた。急に静かになったので気になったのだ。
相方の反応は奇妙なものだった。
というのも白人系の兵士の1人がマズイものでも見たかのように奴隷の乗ったバスから顔を背けていたからだ。
身体はガクガクと震え、顔は真っ青でまるでブルーベリーを思わせた。
「どうした?顔色が悪いぞ?」
「ああ、大丈夫だ。何でもない」
「大丈夫なわけあるか……どうした?理由を話してみろ」
すると白人系の兵士は観念した様子でため息をついてゆっくりと話し始めた。
「あのな……俺、見ちまったんだよ……」
「はぁ、何を?」
「基地で見たんだよ……夜中に俺が便所に行ってたらよ…。血まみれで動かなくなった元奴隷達が袋に詰められて基地の地下室から運び出されるのをな……」
「なッ!?それってまさか!!」
黒人系の兵士が叫びそうになったところで白人系の兵士が口元に指を当てて黙らせる。
「余計な詮索はしない方がいい。じゃないと俺達の身が危なくなる……」
そういう白人系の兵士はチラチラと辺りを見回して聞き耳を立てている人間がいないか探していた。
―――――――――――――――――――――――――――――――
オ・ンドゥルゴ基地 極秘地下研究所
「ギャァァァァ!!!」
「やめてくれぇぇ!!!」
今日も極秘地下研究所では哀れなモルモットが死の断末魔を上げた。
そしてその音に続くのは鋭利な刃物で肉を切り刻む音、或いは悶苦しむ声、はたまた被験者を"処分"する音である。
「どの実験も順調。ほんと、モルモットが多くて助かるわ」
様々な機械や実験器具、薬品、書物や論文の所蔵されてある手狭な部屋では黒いレオタードの上に白衣を纏った女性が実験の様子を監視カメラを通じてテレビで見ていた。
「綾小路博士!デッドマンガス使用実験の結果が出ました!それとこれがウルフビールス感染実験の経過報告書です!」
部屋に科学戦闘員が入室し、綾小路博士に報告書の挟まったファイルを手渡す。
ショッカーの女科学者、綾小路律子はファイルに書かれた実験結果に目を通すと満足したのか薄っすらと笑みを浮かべた。
「ふーん、この世界でも化学兵器や生物兵器は猛威を奮うようね。デッドマンガスやウルフビールスも絶大な効果を見せている……。フフ、次はどんな実験をしようかしら」
そう言うと彼女は重い金属製の扉を開けて、廊下に出る。
彼女の歩いている無機質なコンクリートの廊下には左右に巨大な檻があり、中にはショッカーの購入した奴隷達が何十人も入れられていた。
「出して!!何でもするから!!」
「俺達を解放してくれるんじゃなかったのか!?!?」
「この悪魔!さっさと俺を出しやがれ!!」
うるさく喚く奴隷達を戦闘員達や怪人が檻の中に入り、殴りつけて黙らせる。
「諦めな。お前らは購入した奴隷の中でもショッカーにとって『無能』な人的資源と判断されたんだ。無価値な奴隷は我が世界の科学の発展に寄与できることを喜ぶんだな」
ショッカーは連合諸王国軍や帝国軍の捕虜達を『利用価値の有無』で分けたように購入した奴隷を『優秀』、『無能』という基準で選別していた。
『優秀』と判断された奴隷は地上で再教育を受け、『無能』と判断されたものが地下でモルモットになる……非常に明快かつ残酷な論理だった。
この奴隷購入作戦の利点は帝国の主要な労働力となっている奴隷を合法的に奪える上、優秀な人的資源とモルモットも手に入れられることである。ショッカーにとって一石二鳥どころか一石三鳥の素晴らしい作戦であった。
さらに、この研究所ではオ・ンドゥルゴ基地の広大な土地を活かして、地下に科学者一人一人に実験室を設けていた。そうすることで様々な専門分野の実験を一気に、より効率的に行うことができるからだ。
「♪〜♬〜♫〜」
とある実験室ではサングラスを掛け、返り血で血まみれの白衣を着た初老の白人男性がワーグナーのクラシック音楽をレコードでかけながら踊るように手術台の上にいるモルモットにメスを走らせていた。
薄暗い室内にはホルマリン漬けにされた臓器や腕。さらに人一人ほどの大きさのガラス管が何個も置かれ、中には標本と化したエルフやキャットピープルなどの異世界異種族が謎の液体に満たされて入っていた。
「うーん、分からん。どうしてなんだ?」
男は解剖を終え、手術台の上に寝転がる人間"だった"肉の塊を前にして頭を悩ませていた。
「なぜだ?なぜなんだ?肉体の構造や細胞はこちらの世界の人類と変わらんのになぜ、魔法なんて大逸れたものが使えるんだ?」
元ナチスの老科学者であり、悪名高きアウシュヴィッツ収容所でヨーゼフメンゲレと共に人体実験の限りを尽くしたショッカーの狂科学者、ハインリッヒ博士は困ったように呟いた。
ここまで来れば誰もが分かるように、ショッカー オ・ンドゥルゴ基地には2つの顔がある。1つは帝国の支配から異世界を解放する解放軍の拠点という表の顔。もう1つは異世界征服のため、占領民や千堂ら表で活動する人間が知らないところで人体実験や暗殺などの非人道的行為を行う裏の顔。
光が強まる程、影もまた強まるようにショッカーが異世界で帝国を打ち負かし、占領地の人民に希望を与えれば与えるほど、裏での顔もより醜悪に、より残虐性を増していった。
ハインリッヒ博士も表では改造人間達やコダ村避難民の医師として健康管理を行い、軍の防疫任務に従事する一方、裏ではショッカーが購入した奴隷の一部を使った人体実験を行っており、本来のマッドサイエンティストとしての顔を見せていた。
尤も、コダ村避難民の診察を行うのも異世界人の健康データ及び異世界特有の疾病に関するデータ採取という思惑もあるのだが……。
「ハインリッヒ博士。そちらの進捗状況はどうですかな?」
実験室のドアが開き、蝶ネクタイに白スーツ姿の男が部屋に入ってきた。この男もまたショッカーの誇るマッドサイエンティストであった。
「プロフェッサー・ドクか……。はぁ、こっちは正直言って余り進んでいない。ヒトにエルフにドワーフ……何種類も生体解剖してあらゆる細胞も採ったが、何故、魔法なんていう未知のものを使えるのか全く分からんのだ。もっとモルモットと時間が必要だ」
「よろしければ手伝いましょうか?こっちの研究は一段落着きそうなんです」
「いいのか?それは有り難いが……確か、プロフェッサーは異世界生物の研究だったか」
「はい、ゴブリンやオーク、ワイバーンなどですが……すごいですよ!奴らは!我々の世界では考えられないほど高い生殖能力と生存本能、そして凶暴性!特に炎龍!!炎龍の特性と能力を利用すれば最強の怪人が出来ますよ!!千切れた左腕とはいえ、貴重なサンプルを持ってきてくれた千堂大尉には感謝です」
ハインリッヒはフッと笑って得意な顔になった。
「当然だ。彼は私が造った最高傑作だからな。紅いトカゲモドキの腕くらいは簡単に取って来てみせるさ」
プロフェッサー・ドクには軽く興味のないように言い放ったが内心では自分の最高傑作である『最高傑作』である千堂印一ことアングヴォルフの活躍を讃えられ、まるで自分の息子が学校のテストで百点を採って親戚に褒められたかのように喜んでいた。
「それにしても……奴隷か…。安定的にモルモットが手に入るとは……。最近では不穏分子がめっきり減ってモルモットに困っていたところだ。それに比べて奴隷制のある異世界は我々、科学者にとって楽園のような場所だな」
「全くです。犬神博士にリモート会議で同じ事を言ったら悔しそうな顔をして『俺も異世界の異種族奴隷で機械合成怪人を作ってやる!』って叫んでましたよ」
「ほう、犬神博士もか……。黒松教授がゴルゴム州で『マグロやゴルゴメスの実を食べなくてもいい異世界のゴルゴム怪人を作って見せる!』と啖呵を切ったという噂は知ってたが…」
「皆、自分の研究が上手く行かなくて焦ってるんですよ……」
そう言うと2人はガラス管に入った若いエルフのホルマリン標本を眺める。
プロフェッサー・ドクはガラス管を撫でると―。
「この世界はいい。魔法といい、異世界生物といい、未知のものに溢れていますからね…。科学者としては興味に尽きません」
「そうだな。我々は科学者だ。未知のものを解き明かすのが仕事だ。そのためには手段は選ばん……ショッカーのためにもな」
綾小路博士、ハインリッヒ博士、プロフェッサー・ドク……ショッカーの誇る狂科学者達は今日も残虐な研究を続ける。全ては自らの探求心と偉大なるショッカー、そして大首領様の為に……。
―――――――――――――――――――――――――――――――
帝国 帝都 元老院
「イタリカが占領されただと!?!?」
円形の壁面に沿って並べられたひな壇に座っている元老院議員達が興奮気味にざわめく。平時なら月に数度しか開かれない元老院も国家の非常時ということでほぼ毎日のように開かれていた。
「帝国軍は何をしていた!?蛮族如きに手も足も出ないとは!!」
「うるさい!!壊滅寸前の状態でこちらの常識が通じない異世界軍相手にどう戦えというのだ!!」
元老院議員のみならずこの場にいる誰もが後悔していた。
そもそも開戦前に2つの『門』の向こうから住民を数人ばかり攫ってきて、片方を「軟弱で戦う気概のない怯懦な民族」、もう片方を「ダイシュリョウなる邪神を盲信する愚鈍な民族」と判断して攻め込んだこと自体が間違いだった。
攻め込んだ先にまさか怪異に変身できるヒト種の悪魔の軍勢がいるとは思ってもみなかった。
こんなことになるならもっと長い時間をかけて偵察し、与し易い相手かどうか調査すべきだった。
現在、アルヌスとオ・ンドゥルゴを陣取るこれらの敵がこれ以上、侵攻してきても何もできないように帝国軍は自滅覚悟で焦土作戦まで行っているが今のところ、十分な効果は確認できていない。
戦争の行く末について議員達が紛糾する。帝国の穀倉地帯であるイタリカが占領されたことは確実に帝国上層部に激しい動揺を産んでいた。
当初は主戦派が多数だった議員達だが戦況が悪化するにつれて講話派の議員が増え、今や元老院の半分が講話派である。
「この辺で講和すべきだ!」
講話派議員の1人が勢いよく立ち上がって演説をする。
「なにしろ兵士が足りない!アルヌスとオ・ンドゥルゴでいきなり50万人も死亡したのだ!それを再建させる為に植民地の維持兵や各都市の治安維持部隊まで引き抜いている!!」
ここまでの戦いで帝国軍は総兵力の6割を損失していた。それを補うべく植民地の維持兵から主要都市の治安維持部隊、はたまた何の訓練も施していない平民まで徴兵している始末だった。
それらに追い打ちをかける形で治安維持部隊や都市を守る男手がいなくなったことによる盗賊の台頭で治安の悪化が帝国各地で起こっていた。
「物資を確保する為の属国での徴収、収奪も限界に近い!!ニホンとショッカーだったか?そのどちらか一方とだけでも講和を検討すべきだ!!」
「何を言うか!!」
「ふざけるな!」
軍人や主戦派の議員からヤジがとぶ。
中には「帝国内の帝国軍全軍でアルヌス、オ・ンドゥルゴに総突撃すべき!」と叫ぶ乱暴な末期論者まで出てきた。
「そうだそうだ、連中は攻めあぐねているに違いない」
「世界に冠たる帝国が蛮族と講話など寝言も寝てから言え!!」
しかし講和派も負けじと反論する。
「希望的観測で戦況を語るな!!」
「連中はこちらが降伏するのを待っているんだ!」
「今ならまだ幾らか権益を残したまま戦争を終結されることができる!!」
それから間もなくして、主戦派と講和派の双方から猛烈な言葉の応酬が始まる。
「イタリカを奪還せよ!!」
「どうやってだ!?まともな方法があるのか!?」
「この愚か者が!帝国軍全軍をかき集めればまだ勝機はある!!」
「帝国が今すぐ滅ぶかもしれないんだぞ!そんな悠長なこと言ってられるか!」
「今までだって負けたことはないんだ!時間さえかければ勝てる!」
「そんな時間はない!早く講話すべきだ!」
「異世界の蛮族に講話など出来るか!」
「面子を気にしている場合か!?このままでは敗けるぞ!?」
両陣営共に立ち上がり、議場は掴み合いになりかねない雰囲気に包まれた。
中には押し合いに発展している議員もいた。
(内政を司る議員同士で争いを始めるとは……帝国ももう終わりかもしれんな……)
玉座に座る帝国の皇帝 モルトは頭を抱えてその光景を眺めていた。
モルト自身はどちらかと言えば主戦派に近い考えをしていた。
現状での講話は帝国にとって『敗北』と変わらない。ここで敗北と同義な講話を結んでしまえばこの世界に覇を唱える最強の国家としての帝国の権威は失墜してしまい、積年の恨みから属国や植民地で大規模な反乱が起きる可能性があった。
連合諸王国軍をアルヌス、オ・ンドゥルゴに差し向けたのも反旗を翻す可能性のある属国の始末を敵にさせるためである。
仮に100歩どころか1000歩譲って講話するにしても『異世界の敵を屈服させた!』と喧伝できるほど帝国に有利な条件でなければならなかった。
尤も、日本はともかくショッカーとしては『増えすぎた人民の植民』、そしてそのための『異世界征服』が至上命題であるので帝国に対して一歩も譲るつもりはないのだが。
一方、講話派議員達は「イタリカを奪還すべきだ!」、「帝国の名誉にかけて講話はできない!」と主戦派がずっとオウムのように具体的な方法もないまま繰り返し叫んでいるのを聞いて飽き飽きしていた。
勿論、主戦派の言うとおり、穀倉地帯のイタリカを占領されているということは敵にこちらの胃袋を握られているということであるため、奪還せよというのはもっともな意見である。同都市の占領は帝国の威信に泥を塗る行為でもあるからすぐに奪還すべきというのも分かる。
しかし、帝国軍は壊滅寸前、焦土作戦による税収の著しい低下、行き過ぎた徴兵による治安の悪化及び盗賊の台頭、周辺国からの憎悪。おまけに敵に傷一つ与えられていない。
それが今の帝国の現状だった。
見ての通り、帝国は国家としては末期状態であり、このままでは戦争に関係なく帝国という国家が内側から滅びかねなかった。
(速やかに講和して立て直しを行わなければ帝国が滅ぶ!!!)
講和派議員達はこの現状を冷静に見抜いており、焦っていた。
主戦派の議員達や軍人達を少しでも目を覚まさせようと必死に説得しようとするも彼らは依然として受け入れようとしない。
そんな中で突然、皇帝であるモルトが意を決したように立ち上がった。
さっきまで罵り合っていた主戦派と講話派の議員も口を噤んで静かになった。
「まだ講話は時期尚早だ。講話するにしてもせめて敵に打撃を与えてからにしようではないか」
モルトはそう言うと一方的に元老院を閉会した。その余りの横暴さに講話派議員達から抗議の声が上がるがすぐに周囲の主戦派議員達が黙らせたことで不満を残しながらも議場は落着きを取り戻し、講和派議員達を残して次々と退室していった。
「全く!何なんだ!さっきの議会は!?本当に帝国の将来を憂いているのか!?」
先程の元老院での出来事に不満をこぼしながら昼間の帝都を散歩しているのは講話派議員であるキケロ卿である。彼は一方的に元老院を閉会した皇帝、そして現状を見ようとしない主戦派議員達に憤慨していた。
彼がこんな昼間から散歩しながら思索にふけっているのも余りの怒りに中々、落着きを取り戻せず気分転換に帝都内を散歩することにしたからだった。
今日も帝都では青空の下で小鳥が囀り、吟遊詩人が詩を歌う。傍から見ればいつもの覇権国家たる帝国の帝都の日常であり、とても滅亡に向けて走っているようには見えない。だがキケロ卿には目に映る物すべてが空虚に、色あせて見えていた。
「なんだこりゃ!!!」
突然、白昼の目利き通りに男が騒ぎ立てる声がし、キケロ卿は思わず声のした方を見る。何事だろうか?
「この虫だらけの穀物が銅貨10枚!?1週間前はもっと質のいいやつがこの半額だったじゃないか!!」
「仕方ないだろう!何故か帝都のあちこちの商会や問屋が潰れちまって供給が追いつかないんだ!それに質のいいやつは片っ端から軍や貴族が持っていきやがる!」
「なぁ、頼むよ。これじゃあ生活できないんだ。安くしてくれ」
「いくらお得意さんでも無理だ。俺達だって売らなきゃ生活できん」
通りにある店では店主と客が争っていた。確かに店の主人の言うとおり、ここのところ帝都にある商会や問屋が数軒、潰れていた。貴族や元老院議員の御用商人達も何人も家業を畳んだ。
実はこの現象にキケロ卿は心当たりがあった。というより自ら関わっていた。
遡ること数週間前、行商人を名乗る男が自身の屋敷を訪れ、象牙や宝石などの装飾品、酒などの嗜好品、はたまた鮮やかな刀身を持つ刀剣などを見せてきた。
どれもこれも貴族出身であるはずの自分が今まで見たこともない位、高品質で美しく、それまでの御用商人と関係を持つのが馬鹿らしくなった。
始めは美術品、次に嗜好品と徐々に御用商人との取引を減らしていくうち、とうとう完全に手を切ることになってしまった。それから間もなく、御用商人の商会は顧客不足で潰れたらしかった。
どうも行商人は自分だけでなく、他の議員や貴族の元にも訪れ、御用商人達から顧客を奪って回っていたようだ。
しかし、そんなこと自分には関係ない。自分の満足のいく商品を卸せなかった御用商人達の方が悪いのだ。
そう思っていたのだが……。
その影響がこんな平民の店に現れるとは……。本来、栄えある帝国の元老院議員である自分がわざわざ平民の生活にまで気を使う必要はない……がにしても自分のせいで彼らが苦しんでいるのならば心が痛む。
せめて御用商人達も"謎の商人達"に負けず劣らず高品質な商品を仕入れることができればここまでの事態にはなっていなかっただろう。
自分も彼ら、謎の商人がこのような品々をどこから入手しているのか気になるところではあったが聞く度に「企業秘密です」とはぐらかされてしまい、いつしか聞く気すら無くした。
「おら!どけどけぇい!!」
突如、豪華な服装の男が他の客との間にズカズカと割り込んで貨幣が大量に入った袋を投げるように店主に渡した。
「その穀物は俺がもらった!見ての通り、金ならたんまりある!さあ売ってくんな」
彼はキケロ卿の顔見知りの奴隷商人である。顔見知りといっても数人程、彼から奴隷を買っただけの仲だが……。
どうも彼の取り扱っている奴隷が高額で、それも大量に売れているらしく最近では贅沢三昧な生活を送っているようだった。
いや、彼だけではない。今や帝国の奴隷産業全体が謎の好景気を迎えていた。何故か奴隷が飛ぶように高く売れるらしく、帝国中の奴隷商人達が腕をふるって売りまくっていた。
これまで労働力を奴隷に頼っていた鉱山や農場などの生産現場からこれ以上、奴隷を売らないで欲しいと苦情が入るほどに……。
今の帝都で羽振りの良さそうな者といえば謎の新参者の商人と奴隷商人ぐらいなものである。
(気分転換中なのに嫌なものを見てしまった)
キケロ卿はため息をついてその場から去ろうと足を進めたがふと、足を止めた。
(それにしても…あの謎の商人から買った宝玉は美しかったな……妻へのプレゼント用にもう2つ程買っておくか)
そう思うと自分の屋敷の方へと歩みを進めた。
キケロ卿、いや元老院議員達は気づいていなかった。
彼の買った宝石や嗜好品が帝国の経済を徹底的に破壊する為にショッカーがイタリカの商人経由で送り込んだものだということも……、
奴隷を見かける数が減ったのは帝国の労働力を奪うためにショッカーが買い漁っているからだということも……、
既に帝国内には相当数、ショッカーの息のかかった人間がいることも……。
帝国の気づかない間にショッカーの静かなる侵略は行われていた。
後書き
いかがでしたでしょうか?
今回はショッカーの悪の秘密結社としての漆黒のDNAは異世界でも健在という話でした。
まぁ元々、世界征服の野望の為に拉致、洗脳、暗殺なんでもありの組織ですからね……。これくらい裏でやります。
次回は舞台が日本世界に移ります!
「イッー!!!」
ページ上へ戻る