曇天に哭く修羅
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第四部
準決勝第一試合
前書き
_〆(。。)
Aブロック代表《橘花 翔》
Bブロック代表《島崎向子》
翔は震えていた。
まさか公式戦で上司かつ、何時か挑もうと思っていた向子とこんなにも早く戦うことになるとは思っていなかったから。
「観客さえ居なければ思い切り戦えると言うのに間が悪いものだな。せっかく【破降】を使っても良い相手なんだが……」
入場口から現れた翔が花道を歩いて武台の上へ登っていくと、同じタイミングで武台の上にやって来た向子の姿が有った。
「やあやあ翔くん。君がクリスちゃんを倒してセミファイナルまで上がって来るのか気になってたんだよ。アタシ達は別に優勝を狙う必要は無いわけだしね」
「【プラン】の目標からすればそうなんですが、俺は『闘技者』としても戦ってるんで力を出せる場が欲しいんですよ」
翔からすれば、向子と闘える今日の試合は絶好の機会であり、もし今のような場所でなく、市街地戦用の舞台を用意してくれていれば、間違いなくフィールド全てを廃墟にしていただろう。
「翔くんと戦るのは2ヶ月ぶりだったかな? 何時もは【破降】無しだけど、今日は使って来るつもりなんだろう?」
「あんまり大勢の前でばらしたくない力なんですけど、向子さん相手に使わないというのは、俺にとって『負け』を意味しますからね。今の俺だと使っても勝てないでしょうけど」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
試合が始まると翔は赤いスポーツシューズ、向子は馬上で使うような黒い短鞭を出す。
二人が開始直後に自分の【魔晄外装】を見せるのはかなり珍しいことだ。
入学して初めてのことだろう。
「向子さん、前の試合で春斗に使うまで公式試合で外装を使ってなかったみたいですけど、もう隠すのは止めたんですか?」
「別に隠してたわけじゃないよ。必要ないから使わなかったっていうのが理由。これからもそれは変わらないんじゃないかな。使うべき時は使うし負けても良い時や勝っちゃいけない場合にもあんまり見せないと思う」
向子が短鞭を持つ右手を後方に引くと、翔は姿勢を低くして下半身へ力を込める。
「踏み躙れ。【ギルミルキル】」
「頭を垂れろ。【禁鞭】」
外装を解放して性能強化と形状変化。
翔のスポーツシューズは膝から爪先までガードするように覆う赤い脚甲となり、向子の黒い短鞭は褐色で威圧感の有る長鞭に。
「どうやら最初から外装を解放するという考えは同じだったらしいですね」
「長引かせたらこの会場が持ちそうにないからしょうがないと思うよ?」
向子はこの試合に備えて客数を規制し、会場のあちこちに結界の発生装置を増設。
武台、観客席、会場まるごと、そしてこの会場が在る龍帝学園の敷地と其処に存在する全ての建築物に結界装置を配備。
更には観客一人一人に対して個人用の結界装置を配布する程に手を回した。
翔が気兼ねせず闘えるように。
それでも未知数な翔の本気は不安だ。
「この限られた状況の中で今の翔くんを見せてくれ。君が【聖域】の精霊やレイアくん達相手でしか使おうとしない破降もね」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
禁鞭が唸り、空気を引き裂いて軌道を真空に変えながら衝撃波を起こす。
禁鞭は数十、数百の残像を生む。
翔に向かって到るところから襲いかかり、打ち据えてしまおうと弧を描いた。
正直なところ、ここで攻撃を受けようが受けなかろうが、勝つつもりで来ている向子に対して翔が敵うことは有り得ない。
あらゆる面で違いすぎる。
向子は今の翔が、まだ戦ってはいけないレベルの領域で棲む住人なのだから。
例え
《立華紫闇/たちばなしあん)》
《クリス・ネバーエンド》
《江神春斗/こうがみはると》
《黒鋼焔/くろがねほむら》
の4名が翔と協力しても、真の実力を発揮した向子と渡り合えるかは甚だ疑問である。
翔個人の考えでは副会長の《春日桜花》を足しても勝つことは無理。
龍帝で勝てるのは
《的場聖持/まとばせいじ》
《エンド・プロヴィデンス》
この2人だけというのが結論だ。
(まあ簡単にやられる気は無いが)
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
翔は解放前から使える【高速移動】でスピードを数倍にした上で、ギルミルキルの魔晄機能である【超速移動】を使って数十倍の機動性を得るが、向子の禁鞭は悠々と追い付いてきた。
「だろうな……!」
江神春斗が【神速斬光・三ノ段】で運動速度を数百倍にした状態から更にスペックの底上げをしても上回ってきた向子が振るう禁鞭なら何もおかしいことではない。
翔は超能力【超人加速】で肉体だけでなく思考も300倍まで加速するが、そこには当然、高速移動や超速移動の分も加わっている。
それでやっとスレスレ躱せる程度。
翔は直撃こそ避けられているが、体のあちこちに禁鞭が掠っていく。
(今の禁鞭だと【領域内戦争】の決勝で紫闇と戦ったAランク相当の《佐々木青獅》でも一発で肉片にされそうだ)
それどころか2A(ダブルエー)ランクの魔術師でも特殊防御や再生の異能が無ければ三発以内、3A(トライエー)ランク相手でも五発以内で禁鞭によって確殺されるだろう。
翔は背筋が冷やりとするどころか体が凍り付きそうになるほど緊張した。
一方の向子はというと、思ったよりも粘っている翔に対して感心を持つ。
(力を出し切る前に終わるかなとも予想してたんだけど、知らない内に強くなってたみたいだね。じゃあもっとやっても大丈夫か)
禁鞭の動きが激しくなり、少しずつ残像が増え、翔の逃げ道を塞いでいく。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「折角だから、彼の望み通り、出せるだけの力を出してもらおう」
数千に及ぶ鞭の残像が武台の上で荒れ狂い、翔を狙って次々と殺到。
(躱し切れん!)
彼は両手に魔晄を集める。
握った拳は金色に輝いた。
黒鋼流の【禍孔雀】だ。
「【紫電孤虐】」
更に魔術師の異能で紫の雷電を纏う。
身体強化に加えて高速移動。
翔は迫り来る禁鞭を禍孔雀で殴り、爆発させて迎撃していくも、禁鞭は特に破損することは無く、少し押され気味な状態。
【盛者必衰】
翔がその超能力を発動させた途端、急に禁鞭の動きが遅くなっていった。
それだけでなく、翔の動きも上がる。
難なく禁鞭の連撃を打ち払う。
「お、とうとう公式戦でそれを出したね。じゃあこっちも行かせてもらうよー」
向子は思っていた。
春斗より力を使うことになると。
翔なら彼より頑丈なので、少々手荒になっても死なないだろうとポンポン攻める。
「【繽紛無垠】」
既に『衝撃』を付与された空間となっている武台でその【異能】を使えばどうなるか。
(是非とも生き残ってほしいもんだよ)
見えない衝撃は数千ケ所で同時に炸裂。
その衝撃は連続で発生し途切れない。
舞台上の空気を揺らし、目視できない大気中の小さな物質ならびに分子を過剰に運動。
熱が生まれて燃焼を開始。
縦横無尽に重なる衝撃と火炎は武台を覆う結界をあっさりと粉砕した。
「今の翔くんなら【破降】を使わずとも案外平気な顔をして出てくるかもしれない」
後書き
_φ(゚Д゚ )
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