| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

熊祭り

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第二章

「熊はわしがやる」
「村の人達に言われたあれはか」
「そうだ、わしがやる」 
 こう言うのだった。
「おめえは撃つな」
「おらじゃ無理か」
「ああ、多分な」
「そんな相手なんだ」
「おめえはまだ仕込んでる最中だ」 
 太吉が五平に顔を向けて真剣な顔で話した。
「兎や狐や狸なら充分だ」
「的が小さくてすばしっこいから狙いにくいぞ」
「違う、熊はまた違うんだ」
「すばしっこいとかじゃないのか」
「そうだ、ましてや年取った熊はな」
 今回の獲物の話もした。
「化けものの一歩手前になる位だとな」
「違うか」
「もうとんでもなく大きくてな」
 それでというのだ。
「弾も下手なところに当てるとな」
「仕留められないのか」
「そうだ、それこそ眉間か口の中か」
 そうしたところにというのだ。
「当てないとな」
「死なないか」
「兎や狐が襲って来るか」
 こうもだ、太吉は五平に言った。
「狸も」
「いや、おら達を見たら逃げる」
 そうするとだ、五平は祖父に答えた。
「あと鹿や猿もな」
「そうした相手はすばしっこくでも狙える」
「襲って来ないからか」
「そうだ、しかし熊は違う」
 この獣はというのだ。
「あの獣は襲って来るな」
「そだな、あいつは」
「襲って来る相手に撃つのは簡単じゃねえんだ」
 太吉は孫に真剣な顔で話した。
「怖いからな」
「それでか」
「ああ、その怖い気持ちを抑えてな」
 そしてというのだ。
「撃つんだ、しかもその相手の眉間か口の中だ」
「そういうところを撃たないと駄目だからか」
「だからな」
 それ故にというのだ。
「簡単なことじゃねえんだ」
「それでか」
「ああ、だからな」
「おらじゃ無理か」
「まだな、わしがやるのを見とけ」
 熊を退治する場をというのだ。
「いいな」
「わかった、じゃあな」  
 五平は太吉の言葉に頷いた、そうしてだった。
 二人は犬達と共に山の中を進んでいった、途中兎や鹿も見たが太吉は五平に言った。
「後だ」
「兎とかはか」
「ああ、今はな」
 こう言うのだった。
「いいな」
「まずは熊か」
「一発で仕留めるが」
 それでもというのだ。
「相手も馬鹿じゃないんだ」
「それでか」
「鉄砲の音を出したらな」
 その大きな音をというのだ。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧