Fate/WizarDragonknight
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二つの赤
「さあ! 絶望してファントムを生み出せ!」
人々が逃げる。誰もが悲鳴を上げながら、一目散に逃げ回る。
休日のにぎやかな市街地にそぐわない、絶望の肉声。
「アッハハハハハ! 愉快愉快!」
ファントム。
魔力を持つ人間、ゲートより生まれる魔人。
今、仲間を増やすために、人々を絶望させようと町を闊歩していた。
燃える炎を模った頭部の黒い怪人。全身にも炎の模様が描かれており、歩く姿は見るものを生命の根源的恐怖に陥れる。
ファントムは両手に炎を宿し、それを投げる。綺麗なショッピングモールがどんどん破壊されていき、悲鳴が空間を埋めていく。誰も自分に逆らう術を持たない。その事実を理解したファントムは、気分がよくなった。
「んんんん?」
破壊活動を続けるファントム。首を曲げれば、階段の裏に隠れていた人物と目が合う。
「ひっ!」
隠れていた無力な人間は、顔を引きつらせる。穏やかそうなおさげ髪の少女は、ファントムの一睨みで動けなくなった。
「クククク……どうした人間? 絶望しろ。そのまま我らファントムを生み出すのだ!」
「ひっ……」
人間は、まるでかかしのように立ったその場で動けなくなった。
ファントムは悠々と、その顎を掴む。
「さあ? どうすれば絶望してくれる? 痛めつけるのが鉄板だが、それでいいか? それとも……?」
「助けて……くいなちゃん……まゆちゃん……」
「ほれほれ? キキ、逃げられないか?」
ファントムが、人間を煽る。すると、どこからともなく、ファントムの視界を邪魔するものが現れた。
ファントムを目くらましのように、少女から視界を奪うもの。
妙に声がダンディなヒヨコと、どこにでもいるスズメたちだった。
「なあっ⁉ 邪魔するな! この鳥どもが!」
ファントムは鳥たちを振り払う。その隙に我を取り戻した人間は、逃走を図ろうとしている。
「逃がすか!」
「鳥太郎!」
すると、人間の呼びかけに、鳥たちも解散する。
どんどん小さくなっていく人間。他にはいないので、ファントムは彼女をターゲットにすることにした。
「待て! 人間!」
「ひいいいいいっ!」
人間は全力で逃げ惑う。
見滝原と呼ばれる街のショッピングモール。人間の方が詳しいが、獲物の匂いを逃がすほど、ファントム、ヘルハウンドは甘くない。
鋭い嗅覚を駆使し、逃げ遅れた獲物を探す。
「ふうん……人間……そこだ!」
口から吐いた炎。それが自動販売機を焼き払い、ターゲットのかかし女の姿を露にした。
「ひいいいいっ!」
また、かかしのように固まる人間。
改めて、ファントムとしてお決まりの言葉を口にする。
「終わりだ、人間。さあ、絶望してファントムを生み出せ!」
「た、助けて……! 大家さん……! ゆあちゃん……!」
「キキキ……」
にじり寄るファントム。
これで、目的が果たされる。と思ったその時。
全身に、鋭い痛みが走った。
「なっ……?」
ファントムは驚く。
ポロポロと落ちた、金属片。やがて、再び弾ける音が聞こえた。
銃弾。
何とか見切れたものの、その軌道は普通のそれとは違う。捻り、放物線を描き、まるで生き物のようにファントムの体に突き刺さる。
「なんだと……⁉」
転がったファントムは、そのままターゲットの人間から離れてしまう。
その時、銃を発射した人間の姿が見えた。
銀でできた銃を持つ少年……いや、青年だろうか。
ボロボロの革ジャンと、赤いシャツ、ジーンズ。彼はクルクルと銃を回転させた。
「やあ。ファントムさん」
「貴様っ!」
怒りのあまり、完全に彼に目線を集中した、その時。
「逃げて!」
「は、はい!」
その声が、ファントムをターゲットに引き戻させる。
すでにターゲットにしていた少女は、一目散のもとに逃げていた。
彼女を逃がしたのは、ダウンジャケットの青年だった。長めの茶髪の彼は、少女が離れていったのを見て、最初の邪魔ものと合流した。
「あれがファントムか?」
ダウンジャケットが言った。それに革ジャンは頷き、
「そう。あれが、人間を絶望させて生まれる怪人」
こちらを指差した。
ファントムは鼻を鳴らす。
「貴様ら……我々の邪魔をするか」
「そりゃするよ。悪いけど、人を守るために頑張ってるもんですから」
そう答えるのは、革ジャン。
彼は右手に指輪をはめた。人間の手がプリントされたそれを、腰のバックルに当てる。
『ドライバーオン プリーズ』
すると、そのバックルを中心に、銀のベルトが出現した。銀でできたそれを操作し、革ジャンのベルトから、奇妙な音楽が流れ出す。
『シャバドゥビタッチヘンシーン シャバドゥビタッチヘンシーン』
不自然なほどに明るい音声。だが、発生源本人はそれに構わず、左手に新しい指輪を取り付けた。
彼の中指を彩る、ルビーの指輪。
同時に、ダウンジャケットもまた、動きを開始した。ポケットより取り出した、黒いエンブレム。龍の顔の紋章が描かれたそれを真っ直ぐ突き出すと、彼の腰にどこからか現れたベルトが装着される。
革ジャンが、指輪のカバーを下ろし、ダウンジャケットが右手を斜めに伸ばす。
二人は、同時に叫んだ。
「「変身!」」
『フレイム プリーズ ヒー ヒー ヒーヒーヒー』
「っしゃ!」
それぞれのベルトに、革ジャンがルビーの指輪をかざし、ダウンジャケットがエンブレムを装填する。
すると、変化が起こった。
革ジャンの左側に、赤い円陣が出現する。それは、ゆっくりと革ジャンの体を通過し、その体を変化させる。
同時に、ダウンジャケットも見過ごせない。幾重にも重なる虚像。それらが何度も重なり合い、やがて実体となる。
見れば、ファントムの前にいた人間たちは、もういなくなっていた。
その代わり、その場には、黒と赤の宝石を散りばめた者と、赤い騎士だけだった。
「な、何だお前たちは……?」
ファントムの問いに、革ジャンだった赤い宝石は、その腰のスカートをはためかせながら答える。
「俺はウィザード。人間を守る、魔法使いだ」
「龍騎だ。人を守る、仮面ライダーだ!」
隣の鉄仮面も後を追うように付け加える。
頭に血が上ったファントムは、全身をわなわなと震わせる。
「ふざけるな……! このヘルハウンドを怒らせたことを、後悔させてやる!」
ファントムは両手から炎を放つ。それは二人を通過し、その背後を爆発させた。
しかし、ジャンプした二人は、その勢いを利用し、こちらに攻め入ってきた。
「はっ!」
ウィザードの蹴り。彼は何度も回転しながら、こちらに蹴りを放ってくる。
「だっ!」
龍騎のパンチ。単純ながらも力強さを感じるが、対応は簡単だった。
ファントムは二人の攻撃を受け流し、逆にそれぞれに拳と蹴りを返す。二人は逆に返され、距離を置く。
「それ程度、恐れるに足らず!」
ファントムはにやりと口元を歪めた。
しかし、ウィザードと龍騎は動揺の様子もなかった。
ウィザードは右手の指輪を、新しいものに交換した。
時を同じく、龍騎はベルトのエンブレムから、カードを引き出した。
『コネクト プリーズ』
『ソードベント』
ベルトとガントレットから、そんな電子音が流れた。
ウィザードは、魔法陣の中から銀でできた銃剣を引っ張り出す。
龍騎の頭上より、どこからか飛来した龍。その尾と同じものが、その手に握られた。
武器を持つ相手が二人というのは不利。
そう判断したファントムは、手に持った小石を投げる。
「グールども!」
ファントムの掛け声とともに、小石たちは魔力を帯び、それぞれが灰色の人型となる。
グールと呼ばれる下級ファントムたち。意思もないそれらが、ゾンビのように鈍い動きで二人を襲う。
しかし、ウィザードも龍騎も、簡単にグールたちを蹴散らしていく。
「こいつら……」
次々に倒れていくグールたちに、ファントムは追加のグールを差し向ける。
「囲め囲め! 周囲から一気に攻め立てろ!」
ファントムの命令で、グールたちは二人を中心に円陣を組む。これで、彼らがどこかに攻撃すれば、残りが一気に殲滅するという流れだ。
龍騎も、キョロキョロと対応を考えていた。
「おいおい、どうすんだよ? けっこう不味くないか?」
「……大丈夫」
少し考えたウィザードが余裕そうに答えた。
「こういう時こそ、新しく作った指輪の出番だ」
「え? え?」
龍騎が二度振り向く。ウィザードは、右手の指輪を切り替え、再びベルトに読ませた。
『コピー プリーズ』
すると、彼の体を、またあの赤い魔法陣が通過する。今度は、上から下へ。丁度彼の隣にも、同じように魔法陣が出現し、上から下へ移動する。
すると、その魔法陣んが通過した場所には、もう一人のウィザードがいた。完全なるウィザードのコピーのようで、彼の動きを完全にトレースしている。
「ふ、双子?」
「もう一回」
『コピー プリーズ』
驚く龍騎に同意する。だが、渦中のウィザードは、それらを全く気にしなかった。
二人のウィザードが、同じように魔法を発動。倍々ゲームにより、四人のウィザードが円状のグールたちに向かい合う。
「一気に突破するよ!」
「ああ!」
龍騎も、なぜか調子付いている。新たなカードを、左手の籠手らしきものに装填した。
『ストライクベント』
「_______」
あの赤い龍が吠える。
龍騎の右手に、その頭部を模したグローブが装着される。
『『『『キャモナシューティング シェイクハンズ キャモナシューティング シェイクハンズ』』』』
「はあああ……」
四人のウィザードが、鏡写のように銀の銃を操作する。ルビーの指輪を読み込ませることで、その銃口に炎が宿る。
同時に、龍騎が腰を落とす。引き戻した龍の口に、炎が沸き上がる。
『『『『フレイム シューティングストライク』』』』
「だああああああ!」
四人のウィザードと、龍騎のストライクベント。合計五つから発射された炎が、爆発的に広がり、グールを焼き尽くしていく。
ファントムが顔を覆い、視界を取り戻したとき、あれだけいたグールたちは跡形もなくなっていた。
「な、何だと……?」
炎が強すぎて、二人の姿が見えない。だが、『ルパッチマジックタッチゴー』などというふざけた音声から、間違って焼身してしまったという考えは捨てた。
「何なんだ……? お前たちは……?」
炎の合間より見えてきた、二人の姿に、ファントムはむしろ恐怖さえ感じた。
ウィザードは静かに告げた。
「お前がこれまで絶望させてきた人たちの報いだよ」
ウィザードと龍騎は、同時に次の、そして最後の一手を繰り出した。
『チョーイイネ キックストライク サイコー』
『ファイナルベント』
ウィザードが指輪をベルトにかざすと同時に、龍騎が左手の機械にカードを挿入する。
すると、上空より現れた無双龍が咆哮とともに、二人の周囲を回る。
ウィザード、龍騎。ともに腰を低くし、その周囲に火が集う。
ファントム自身が発生させた火が、まるで彼らを補助するように集まっていく。
そして、二人は同時に跳び上がる。
体を回転させ、こちらに右足を向ける二人。さらに、その背後に赤い龍が加わる。
「はああああああああああああああああ!」
「だああああああああああああああああ!」
龍の吐息が火となり、二人の飛び蹴りを包み込む。
二つの火は龍とともに炎となる。
「おのれええええええええ!」
ファントムは作り出した炎で攻撃するが、ファントムの小さな火では、龍が作り出した炎には到底及ばない。
そのまま、ファントムには、二人の戦士が迫っていた。
最期にファントムが思い浮かべたのは。
(私が絶望……この私が……)
「ぎゃあああああああああ!」
ファントムが、自身の断末魔の終わりを聞くことはなかった。
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