父と猫
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第二章
父は会社から帰るといつもチョビと一緒にいた、それこそ風呂とトイレの時以外は。
それで家族にもいつもチョビのことを話していた。
「いい娘だよな」
「ええ、何かとね」
妻が微笑んで応えた。
「人懐っこくて愛嬌があって」
「本当にな」
「猫ちゃんって我儘で悪戯好きだけれど」
それでもというのだ。
「あの娘は違ってね」
「そういうこともしなくてな」
「あまり動けないせいがあってだけれど大人しいし」
「本当にいい娘だな」
こんなことを話してだった、父は。
ある日ペットショップからあるものを買って来て家族に話した。
「猫用の車椅子買って来た」
「そんなのあったの」
「猫ちゃん用の」
「ああ、これを使ったらな」
父は娘達に笑顔で話した。
「チョビも普通に動けるだろ」
「そうね、今は殆ど動けないけれど」
「それで辛そうだけれど」
事実上の下半身不随でだ、トイレをするにもそこまで這ってで苦労しているので父を中心に家族が連れて行っている。
「それでもね」
「車椅子があったらね」
「かなり楽になるわね」
「そうなるわね」
「だからな」
それでというのだ。
「これからはな」
「チョビに車椅子付けて」
「それでなのね」
「ああ、これまでよりずっと楽になるからな」
こう話してチョビに車椅子を付けた、すると。
チョビはこれまでとは全く違ってかなり動ける様になった、父はそんなチョビに対して笑顔を向けて尋ねた。
「チョビ、楽しいか?」
「ニャン」
チョビは父の問いに一声鳴いて応えた、そのうえで車椅子下半身に付けられているそれで動いていた。これでトイレだけでなく食べる場所飲む場所に行くのもかなり楽になった。
やがて父は定年し娘達も結婚して独立しそれぞれぞれの過程で暮らす様になった、父は妻とチョビだけになった家の中にずっといる様になったが。
妻に自分の膝の上にいるチョビを撫でつつこんなことを言った。
「母さんにチョビもいて」
「それでなのね」
「凄く幸せだよ」
こう言うのだった。
「今はな」
「そうなのね」
「ああ、奥さんがいてな」
そしてというのだ。
「猫がいるとな」
「それだけでなのね」
「幸せだよ、チョビは満足に動けなくても」
そのハンデがあるがというのだ。
「いつも頑張ってるしな」
「そうよね」
「生きているからな」
「そのチョビを見ているとよね」
「一緒にいるとな」
そうしていると、というのだ。
「家の中でな」
「それだけで幸せなのね」
「趣味は読書とインターネット位で」
この二つが父の趣味だ。
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