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父と猫

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第一章

                父と猫
 一家は家の父親である深津千弘が帰ってきて言った言葉に驚いて言った。
「車にはねられた子猫を拾ってなの」
「獣医さんに連れて行ったの」
「そうだったの」
「ああ、放っておけなくてな」
 初老の細面の穏やかな顔の初老の男が答えた、彼はその千弘である。
「そうしたよ、けれどな」
「危ないのね」
 妻の祥子が応えた、優しい顔立ちで黒髪をショートにした四十代後半の女性だ。
「そうなのね」
「どうもな」
「助かったらいいわね」
「それで助かったらな」
 その時はとだ、父はさらに話した。
「その時はな」
「うちで飼うのね」 
 黒髪をセミロングにしているはっきりした母親譲りの目の二十代の女だ、家の長女である美代子である。
「そうするのね」
「ああ、お父さんもあと少しで定年だしな」
「定年したらなのね」
「もうな」 
 その時からはというのだ。
「ずっと猫と一緒に暮らすな」
「そうするのね」
「助かったらいいわね」 
 次女の由美子も言ってきた、小柄で黒髪をおかっぱにしている。二人共もう学校を卒業して働いている。
「本当に」
「そうだな、神様にお願いするか」
「猫ちゃんが助かる様にね」
 妻は夫にこう述べた、そうしてだった。
 家族はその猫のことを毎日気にかけた、特に猫を助けた父は毎日動物病院に通って猫を見舞った。そして。
 猫は助かり家に引き取られた、だが。
 父か妻と娘達に暗い顔で話した。
「腰を強く打ってな」
「それでなの」
「下半身がな」 
 どうしてもというのだ。
「麻痺していてな」
「それでなのね」
「動かないんだ」
 こう妻に話した。
「事故のせいでな」
「そうなのね」
「けれどな」
 父はその猫を見つつ話した、小さな三毛猫である。
「助けたからにはな」
「それならよね」
「ああ、絶対にな」
 何があろうともというのだ。
「育てような」
「そうしようと決めたらね」
「もうな」
「飼うわね」
「俺が面倒を見るからな」
 父はこうも言った。
「だから皆安心してくれ」
「何言ってるの、その子家族になるから」
 妻は夫にすぐに言葉を返した。
「だったらね」
「家族皆でか」
「そう、面倒を見るものでしょ」
 こう夫に言うのだった。
「そうでしょ」
「それじゃあ」
「皆で可愛がってあげましょう」
「家族になるならね」
「それが当然よね」
 娘達も言ってきた。
「だからお父さんだけじゃないから」
「私達も面倒見るから」
「家族全員でね」
「猫ちゃん大事にしていきましょう」
「それじゃあな」
 父は笑顔で頷いた、こうして猫はこの家の家族となり名前はチョビと名付けられた。種類は雑種で雌だった。 
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