キリトである必要なくね?~UW編~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第八話 赤薔薇
「ユージオ、さっき親子を誘導した。父親は負傷してるから、手を貸してやれ。それでギガスシダーまで避難しろ」
「わ、わかった」
背中越しにユージオが走り去っていく音を拾う。
これで思う存分、狩れる。
「やっぱり低能だなぁ。こんな簡単に挑発に乗ってくれるとはよっ!!」
迫りくるゴブリンに、基本単発技・《ホリゾンタル》をくれてやる。
何のひねりもないただの水平斬りだが、一撃で複数体ものゴブリンを葬り去った。
拝借した剣とは比べものにもならない威力だ。
「ぐるらっ……」
さすがに脅威に感じたのか、ゴブリンは距離を取り始めた。
無意識に頭に血が上る。
「村を壊して、村人を殺しといてよォ………なに逃げようとしてんだ?」
左手を前に突き出し、剣を構える。
そしてそのまま突き出した。
「「ぐるあぁぁぁ!!!!!!」」
単発重攻撃・《ヴォーパルストライク》
前方にいたゴブリンを一掃する。
「足りねぇなぁ!! 村を襲った罪、てめぇらの命で償えッ!!」
ゴブリンを斬り殺すたび、《青薔薇の剣》は、赤黒く染まっていく。
それに呼応するように、過去の自分に戻っていってるような気がした。
「死にさらせこのカスどもがぁ!!」
あぁ、クソ!!
何で思い通りにならない!!
この村は俺を助けてくれた。
受け入れてくれた。
なんでそんな村をこんなゴミどもに壊されないければならない!!
「どうしたぁっ!! もっとかかって来いよぉ!!」
手当たり次第に殺していく。
殺す。殺す。殺す。
斬っても斬っても湧いてくる。
他の場所にいたゴブリンも集まってきたのだろう。
心臓を突く。
首を跳ねる。
頭をかち割る。
口から突き刺す。
耳から串刺す。
殺す。
殺す。
殺す。
気づけば、死体の山が出来ていた。
服も、赤黒く染まっている。
よく見れば《青薔薇の剣》も、刀身の半分くらいまで赤く、黒く染まっていた。
「よくもやってくれたなぁ、このクソイウムゥ!!」
うるせぇ声がしたと思って顔を前に向ければ、図体のでかいゴブリンがいた。
コイツがリーダー格か。
無言で剣を構える。
「てめぇ、この《蜥蜴殺しのウガチ》と殺り合う気かぁ!! あぁ!? どうなんだクソガキィ!!」
「弱ぇヤツほどよく吠えるって、本当なんだなぁ」
「ガルルァアッ!!!!」
ウガチは蛮刀を振り上げながら怒り心頭で襲ってきた。
蛮刀を受ける。
想像以上の重さに思わず仰け反る。
「さっきの余裕はどうしたぁ!? 白イウムのガキィ!!」
「確かにアンタは強ぇなぁ、でも頭の出来はあんまし良くねぇみてぇだ!」
相手の力が緩んだ瞬間、回し蹴り・《水月》を食らわす。
意識外からの攻撃に怯んだウガチの隙を突き、左腕を切り落とした。
「ガルルルァァァァァアアア!!!!!!!」
耳障りな悲鳴を上げながら、隊長ゴブリンは距離を取った。
ヤツは怒りが浮かぶ目でこちらを睨みつけながら止血をする。
「バカにしてたガキに腕を落とされる気分はどうだ? えぇ? イウム如きにやられる蜥蜴殺しのウガチさん?」
「こんのガキャァァアアアアア!!!!!!!!!!!!!!」
コイツは同じだ。
あのゲームで俺が殺してきたヤツらと同じ。
他人を身勝手に殺しておきながら、いざ自分が狩られる側に立たされると逆上してくる。
あのレッドプレイヤーどもと全く同じだ。
「ガルルルァァァァァアアア!!!!!!!」
殺してやろう。
あのクソどもと同じように。
剣を振り上げる。
あとは間合いに入った瞬間に振り下ろせばいい。
例え剣で受けてきたとしても、神器であるこちらが競り勝つ。
なぁ。
お前も同じじゃないか?
身勝手な理由でレッドプレイヤーを殺してきたお前も、アイツら
と同じなんじゃないのか?
お前はまた殺すのか?
あのゲームに居た時のように。
少し霧が晴れたような気がした。
ここでウガチを殺したところで、コイツは死ぬだけだ。
だがウガチを央都に引き渡せば、この惨状の原因を突き止めてくれるだろう。
そうすれば、きっともう二度とこんなこと悲劇が起きないはずだ。
そうだ。
俺のすべきことは殺しじゃない。
無力化することだ。
「死ねぇぇぇぇええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
単発垂直斬り・《バーチカル》
これで相手の右腕を蛮刀もろとも切り落とす。
そして刀身が足の位置に届いた瞬間、単発水平斬り《ホリゾンタル》を繰り出し、ウガチの両足をも切り落とす。
これでもう、コイツは何もできない。
「てめぇの負けだ、ウガチ」
俺がそう告げると、四肢を失いダルマのようになってた隊長ゴブリンが、突然笑い出した。
「俺の負けぇ? ブヒャッヒャヒャ、何を言ってやがる。この場合は引き分けだろぅ?」
「……この惨状を見てもわからないのか? 仲間は全員死に、お前は手足を失った。どこを見たら引き分けなんだ」
「最初から引き分けだったんだよぉ、てめぇとの殺し合いはなぁ!」
何を言ってやがる。
他に仲間がいるとでも言うのか。
ならなぜ助けに来ない。
このまま止血しなければ、コイツは確実に死ぬぞ。
そもそも、コイツは俺と何を競っているんだ?
途端、背筋に冷たいものが走った。
「てめぇ、村の人たちをどこにやったッ!!」
「教えるワケねぇだろぅクソガキィ」
吐き気のする笑顔を浮かべた。
「ブチ殺されてぇのか?」
「殺したきゃ殺せ!! 言う気はねぇけどなぁ」
ニタニタと化け物が笑う。
首を刎ねたい衝動を無理やりに抑え込んだ。
「急いだ方がいいぜぇ。もう手遅れかもしれねぇけどなぁウヒャッヒャヒャ」
コイツは本当に場所を吐くつもりはないらしい。
仕方なしに全速力で村を駆け回る。
「どこにいるッ!」
広い建物を手当たり次第に開けていく。
だが見つからない。
自ずと、俺は教会の前に立っていた。
めぼしい場所はもうここしかない。
扉をゆっくりと開ける。
漂ってきたのは鉄の臭い。
部屋は薄暗かった。
黄昏時の今、光は届いてなかった。
何の、音もない。
静寂だった。
目が慣れてくる。
だんだんと全体が見えてくる。
地面を染める、赤黒い色。
前に向ければ。
地獄だった。
死体、死体、死体。
人体とわかるものから。
ただの肉塊。
首だけ。
「そ、んな。なんで、どうして………?」
見覚えのある顔があった。
「シスター」
パン屋のおばちゃん。
果物屋の店主。
靴屋のおっさん。
知った顔が、落ちてる。
「あ」
見つけてしまった。
見慣れた髪色。
「あ、ああ」
無意識に手を伸ばす。
顔をこちらに向けた。
「セ、セル、か」
セルカ。
「ぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
また俺は。
救えなかったのか?
なぁ……?
なんでだよ。
なんでいつも。
俺ばっかりなんだよ?
なんで?
「なんでなんだよぉぉぉおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
そうだ。
ユージオは?
アイツは今どこにいる?
その場から駆け出した。
ひたすら駆け回る。
最後の希望だった。
ユージオが生きていれば。
ユージオさえ生きていれば俺は。
浅ましくも、そんなことを考えていた。
もう、一人を失っているのに。
自分の心を保つために。
その希望に縋った。
村からギガスシダーへと向かう出入口。
そこに、ユージオはいた。
ユージオは親子を守るように倒れていた。
「ユージオッ!!」
「カ、ガト」
腹を、斬られていた。
血が止め処なく溢れていた。
「しっかりしろユージオッ!」
傷口を掌で塞ぐ。
けれど止まらない。
「カガ、ト。ア、リスを…………頼ん、だ……よ」
瞳が光を失っていく。
魂の輝きが尽きようとしていた。
「お前がッ!! 助けにいくんだろッ。なぁ、ユージオ、おいユージ」
首が、重力に従うように垂れ下がった。
「ユー、ジオ、おい、ユージオ……頼むよ、お前がいなくなったら俺は、もう………」
頭が、痛い。
「ユージオォォォォォ!!!!!!!!!!!!」
記憶が、縫い付けられるように蘇る。
両親の葬式のとき。
妹が息を引き取ったとき。
そして――――――仲間を、殺されたとき。
「がぁ゛ぁ゛あぁ゛あ゛あぁぁ゛あ゛あぁ゛あ゛ぁあ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
また、俺は。
大事な人を失うのか?
なぁ。
なんで?
どうして?
教えてくれよ。
俺は、これからどうすればいいんだ?
「ブヒャッヒャヒャ!!!! どうだぁ、今の気分はよぉ? いやぁ殺したときの、イウムどもの顔を思い出すと笑けてくるぜぇ。あの絶望に染まった顔! ありゃあ、傑作、うぐぅッ!!!」
心臓に剣を突き立てる。
次に頭。
胸。
目。
鼻。
口。
何度も。何度も。
念を押すように。
「死ね、死ね、死ね、死ね、死ね」
何度も。
何度も。
何度も。
繰り返した。
やがて。
ただの肉塊になった。
殺して、しまった。
ユージオの。
セルカの。
村の人たちの仇を。
次は、誰を殺せばいい?
誰に復讐すればいいんだ?
ああ、そうだ。
そもそもどうして村は襲われた?
ユージオは言っていた。
『あれが、《果ての山脈》。あの向こう側に、ソルスの光も届かない闇の国があるんだ。闇の国には、ゴブリンとかオークみたいな呪われた亜人や、いろいろな恐ろしい怪物……それに、暗黒騎士たちが住んでいる。もちろん、山脈を守る整合騎士がそいつらの侵入を防いでいるけど、ごくたまに地下の洞窟を抜けて忍び込んでくる奴がいるらしい。僕は見たことはないけどね』
ゴブリンどもが山脈を抜けれたのは、整合騎士の警備に穴があったからだ。
つまりこの惨劇は、整合騎士が原因の一端だった。
そうだ。
ゴブリンを全員殺した今。
やるべきことは決まった。
やめろ。
レッドプレイヤーを殺し回った。
あのときと同じように。
やめろ。
整合騎士どもを。
やめ、
殺せ。
殺せ。
殺せ。
殺せ。
殺せ。
殺せ。
殺せ。
殺せ。
殺せ。
殺せ。
殺せ。
殺せ。
殺せ。
殺せ。
殺せ。
殺せ。
殺せ。
殺せ。
殺せ。
殺せ。
殺せ。
殺せ。
殺せ。
殺せ。
殺せ。
殺せ。
殺せ。
殺せ。
殺せ。
殺せ。
殺せ。
殺せ。
殺せ。
殺せ。
殺せ。
殺せ。
殺せ。
殺せ。
殺せ。
殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。
「あぁ゛あ゛あぁぁ゛あ゛あぁ゛あ゛ぁあ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!!!!!!!
《青薔薇の剣》が徐々に朱殷に染まっていき。
そして。
先端までもが、赤く。
染まってしまった。
「はぁ、はぁ」
ああ、懐かしい。
長い間忘れていた。
俺は。
復讐者だ
その日から。
剣に染み付いた血の色が、取れなくなった。
ページ上へ戻る