天才少女と元プロのおじさん
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入部編
1話 ゴールデンウィークなのになー······
時刻は正午前。正美はゴールデンウィークであるにも関わらず、彼女の通う学校、新越谷高校に来ていた。宿題を片付けようと鞄を開いたところで、教科書を持って帰るのを忘れていたことに気付いたからだ。
――ゴールデンウィークなのになー······。
校門を潜ったところで、そう思いながら溜め息を吐く。
校舎へ向けて歩いていると甲高い金属音が定期的に聞こえてきた。
――野球部はゴールデンウィークも練習してるんだー。
正美の通う新越谷高校の野球部は、以前は強豪として知られていた。しかし、近年は低迷しており、去年、部内で不祥事があって活動を休止していたのだ。
少し興味が湧き、正美は野球場に立ち寄ることにした。
元強豪校だけあり、野球部の設備はかなり良い。専用のグラウンドがあることからも、その事は窺える。
そんなに時間も掛からずに、正美は野球場に着いた。ライトのフェンス外から様子を伺うと、グラウンドではバッティング練習を行っている。
――お、大村さんだ。
二人ずつバットを振っており、そのうちの一人は、正美のクラスメイトである大村 白菊だった。白菊は度々ホームラン級の鋭い打球を飛ばしていたが、まだ確実性に欠けるのが見てとれる。
暫く眺めていたら練習が終わったようで、各々グラウンドから出ようとしていた。
正美は白菊に声を掛けようとグラウンドの出入り口に向かった。
「大村さん!」
白菊は正美の声に気付き、振り返る。
「三輪さん!?どうされたのですか?」
ゴールデンウィーク中に正美が学校に居る理由が分からず、白菊は尋ねる。
「教科書を持って帰るの忘れちゃってさー。にしても、凄いバッティングだったねー」
「ありがとうございます。ても、まだなかなか打てなくて······」
そう言って白菊は肩を落とす。
「白菊ちゃん、先に行ってるね」
「あ、はい。分かりました」
白菊の部活仲間が先に行き、ここに残ったのは正美と白菊だけとなった。
「大村さんは今日は練習終わり?」
「ううん、まだ午後も練習があるんです」
「あらら。結構練習があるんだね」
「はい。特に今は学校で合宿しているんです」
これに、合宿中だと思いもしなかった正美は驚く。
「へー、そうなんだ。なら、あまり邪魔しちゃ悪いから、もう行くね。…………あ、そうそう」
正美は思い出したように言う。
「バット振る時はもっと後ろを広く使った方が良いよー」
「え?」
白菊は正美の予想外のアドバイスに疑問符を浮かべた。そんな白菊に正美は動作も交えバッティングのアドバイスをする。
「三輪さんは野球をされていたのですか?」
「そうだよー。今もパパと同じチームでやってるんだー」
「そうなんですね。ありがとうございます。午後の練習で試してみます」
「うん。シュバッとかっ飛ばしてよ。それじゃあねー」
正美もグラウンドを後にする。教室で無事に教科書を回収した正美は学校を後にするのだった。
午後の練習にて、白菊はシート打撃でいつも以上に快音を響かせた。
「さっきの打撃凄かったな。どうしたんだ?急に調子良くなって」
練習が終わり、みんなで片付けをしていた時、野球部の部長、岡田おかだ 怜れいは嬉しそうに問い掛ける。
「実はお昼にクラスの娘から助言を頂きまして」
「グラウンド出た時、話しとった娘?」
博多弁を話すのは福岡っ娘の中村 希。午前練習後にグラウンドから出た時に白菊と一緒に居たうちの一人である彼女は会話に混ざった。
「はい。同じクラスの三輪さんです」
「なになに~、うちにまだ野球経験者がいたの?」
目を輝かせて尋ねるのは生粋の野球オタクであるマネージャーの川口 芳乃。
「今もお父様と一緒に草野球をしているそうですよ」
「そっか~。うちは人数ギリギリだし、入ってくれないかな~?」
「そうだな。誰かが負傷した時に交代できるやつが居た方が良いもんな」
芳野の言葉に怜が同意する。現在、新越谷高校野球部はマネージャーの芳野を入れて10人しかいない。誰かが怪我したり体調不良になったりしたら芳乃が試合に出なければいけなかった。
「よーし。学校始まったら三輪さんに会いに行こー!」
すぐ横で話を聞いていた新越谷高校野球部のエース、武田 詠深は元気良くそう提案するのだった。
後書き
三輪 正美のキャラはハチナイで私の押しキャラである『椎名 ゆかり』のキャラをちょちょっといじったイメージで書いています。
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