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水の国の王は転生者

作者:Dellas
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第六十二話 未知との接触


 シュヴルーズら地質調査隊が大森林へ入ったのは、マクシミリアンら民兵軍がフォート・ノワールへ入った時刻とほぼ同時だった。
 夕方になってもシュヴルーズ達が帰って来なかった為、大森林の外で待機していた待機班が、フォート・ノワールへ急を知らせてきた。

 義姉のエレオノールの危機を感じたマクシミリアンは、捜索隊の編成を命じた。

 編成は、大人数での捜索は二次遭難の危険を嫌って、コマンド隊を中心にして100名の民兵を5班に分けて構成されていた。
 ちなみに捜索隊の中にマクシミリアンの姿は無い。

 当初、マクシミリアンも捜索隊に参加する積りだったが、

「殿下は、ヌーベルトリステインの長です。前線に立つことは控えて下さい」

 と、ウルグに大反対された。
 マクシミリアンとしてもウルグの言う事に一理あったが、何が起こるかわからない未知の領域において、『待つ』という選択肢は無かった

「駄目。この新世界は何が起こるか分からない場所だ。ウルグ将軍にはすぐに援軍を出せるようにフォート・ノワールで待機していて欲しい」

「ですが……!」

「将軍の言う事は分かるよ。だけど大海獣の様な化け物が現れないとも限らない」」

「大海獣?」

 ウルグは眉間にしわを寄せた。

「北海の王とはですね将軍……」

 コマンド隊のヒューゴがウルグに説明をした。ちなみに大海獣とは北海の王の事だ。

「100メイルを越す大海獣? しかも先住魔法を使う? 何だそれは聞いたことが無い」

「そういう訳で、殿下が同行された方が、我々が手におえない化け物が現れても安心なわけなのですよ」

「ううむ」

「ヒューゴだったか? 説明ありがとう」

「いえいえ、大した事ないですよ」

「ヒューゴ、余り調子に乗るな」

「うへっ」

 デヴィットが、お調子者のヒューゴを諌めた。

「コホン。と、まあ……そういう訳だ。僕を行かせて欲しい」

「……」

「頼む」

 ウルグは瞑った目を開きマクシミリアンに言った。

「……駄目です」

「うう、駄目か?」

「駄目です。もう一度言いますが、殿下はヌーベルトリステインの長です。総督です。いくら遭難者の中に義姉が含まれていたとしても、一兵卒の様に捜索隊に参加するのは許されません。後方で見守る事を学んでください」

「うう」

 ウルグの正論に、マクシミリアンはたじろいだ。
 そこにデヴィットが入ってきた。

「王太子殿下。どうか、我々を信用して下さい。決して殿下のご期待に背くような事はいたしません」

「手に負えない化け物現れた場合はどうする?」

「その時こそ殿下にご出馬を願います。それまでどうか、長として我々の働きを見ていてください」

「……」

「……如何でしょう?」

「分かったよ。僕はウルグと共にフォート・ノワールで待機している。その代わり『彼ら』を連れて行ってくれ」

 マクシミリアンが杖を振るうと、32基のウォーター・ビットが現れた。

「このウォーター・ビットには新たな能力が加わり、ウォーター・ビット間で通信が出来るようにした」

 マクシミリアンは、紙を一枚取り出しウォーター・ビットの下に置いた。
 すると、ウォーター・ビットから、黒い色をしたインクの様なものが噴射され、真っ白な紙に文字が書き込まれた。

「凄い!」

 見ていたスタッフ達から驚きの声が上がった。

「紙はなるべく多く持っていってくれ。」

「御意」

「後は文字のやり取りだけでなく、GPS……あ~……自分の位置を知らせる機能も付いているから、大森林の中で迷う事は無いだろう」

 正確には『GPSの様な魔法』だが……とマクシミリアンは心の中で突っ込んだ。
 次にウォーター・ビットが震えると、別の紙にインクジェットを噴射しフォート・ノワール周辺の簡単な地図が書きこまれた。しかもカラーでだ。

「殿下にここまでして頂くとは……必ずや、地質調査隊を救出してご覧にいれます」

 と、コマンド隊のデヴィットが深々と頭を下げた。

「良い報告が聞けるよう、各員の努力に期待する」

『御意!』

 デヴィット以下コマンド隊の面々と、捜索隊の士気は高い。







                      ☆        ☆        ☆






 
 ホォート・ノワールを出発した捜索隊は3時間ほどで大森林外延部に到着し、早速大森林の廃部へに入った。

 大森林に入った捜索隊は、五つの班に別れ、それぞれ護衛用と偵察用と通信用のウォーター・ボールが周りに展開し、シュヴルーズら地質調査隊を捜索を開始した。

 大森林の中は100メイル超の背の高い針葉樹が鬱蒼と生い茂り、昼間でも50メイル先も分からないほど暗かった。

「暗くて先が良く分からんな」

 捜索隊隊長のデヴィットが、目を細めて闇の先を見ようとしていたが何も見えない。

「俺がライトを唱えるから、他の者は警戒を厳に」

「了解」

 メイジであるデヴィットがライトを唱えると、薄暗かった大森林の中は眩しいばかりの光に包まれた。

「さあ進もう。でも慎重にな」

 捜索隊は大森林の中へと深く深く入っていった。

 ……どれ位進んだだろう。一時間おきに送られてくる偵察ビットの情報を参照しながら五班に分かれた捜索隊は、大森林を進み続けた。

 時折、頭上から降ってくる雪の塊を避けつつ捜索隊が進むと、太陽の光が差し込み、開けた場所に出た。

「隊長、あそこに火を焚いた後が!」

 アニエスが指を差すとその方向には、焚き火の後があった。

「何か手掛かりが有るかもしれない、周辺を調べてみよう」

「了解」

「了解です」

 捜索隊は焚き火跡とその周辺を調べる事になった。

「何か見つかったか?」

「デヴィット隊長、これを」

 デヴィットの所に民兵が空き缶を持って現れた。

「食べ終わった缶詰の空き缶が見つかりました」

「捜索隊が使った物に違いないな。他には?」

「焚き火の跡ですが、ほんの少し熱が残っていました」

「と、なると数時間前までここに居たという訳だな……よし、この事を他の捜索隊に連絡しよう」

 一つ一つが小マクシミリアンでもあるウォータービットは、直ちに他の捜索隊と本陣のフォート・ノワールに情報を転送した。

「そろそろ、出発しよう」

「了解。出発するぞぉ~!」

 ヒューゴが、民兵達に声を掛けた。
 デヴィットら捜索隊が先に進もうと準備を始めると、ウォーター・ビットから大量の情報が送られてきた。

「ああっ!」

「どうした!」

「大量の情報が……ああ、紙が足りない」

 アニエスが、いそいそを予備の紙束を用意してビットの側に置いた。
 すると、ビットは真っ白の紙に周辺の地図を描いた。

「アニエス、ちょっと見せてくれ」

「どうぞ」

 デヴィットはアニエスから地図を受け取り見てみると、地図の中心に青い点が固まっていて、それを囲むように無数の赤い点が青い点を半包囲していた。

「この青い点は我々を指している様だな」

「……では、この赤い点は何でしょう?」

「……」

「……」

 沈黙が辺りを支配した。
 その沈黙に応えるように、大森林の奥から獣の臭いが風に乗ってやって来た。

「獣の臭い!?」

「糞っ、戦闘準備だ! 他の捜索隊と本陣に敵の奇襲を受けたと連絡しろ!!」

「了解!」

 開けた場所で奇襲を受けた事に、デヴィットは奥歯を噛み鳴らし悔しがった。

 ……

『アース・ウォール!』

 デヴィットの唱えたアース・ウォールで、2メイル程の壁が盛り上がった。
 捜索隊の民兵達が、アース・ウォールの壁を盾代わりにして待ち構えていた。民兵の武装は、新型の後装ライフルが本国で出回り始めた為に旧式となった前装ミニエーライフルだ。

「配置完了です」

「命令するまで発砲は禁ずる」

「了解」

 上空から見たら凹の形を逆さにした形、正面と左右を壁で守ったに捜索隊は、既に戦闘準備を終えていた。

 木々の向こう側から、獣の臭いが漂い、地響きと共に何かが突進してくる。

「……来い!」

 アニエスは後装ライフルを構え、デヴィットの命令を待った。

 木々の間にあった茂みから、ひょっこりと毛むくじゃらの顔が現れ、こちらを見ていた

「……ゴクリ」

 誰かが生唾を飲み込む音が聞こえた。

「……」

「……」

 一瞬の沈黙。そして・・・・・・

「ヴオオォォォォ!!」

 毛むくじゃらの顔が吼えると、木々の向こう側から一斉に咆哮が響き、3メイル程のバイソンの群れが捜索隊の篭もる壁へと突進してきた。

「う、牛!?」

「かまわん。撃てぇぇぇぇ~~~!」

 パパパパパパン!

 と銃声が響き、先頭集団のバイソン達が血を噴き出し倒れた。だが『肉の壁』は止まらず捜索隊へと迫る。

「続けて撃て!」

 待機していた別の民兵達が発砲し、バイソン達は血にまみれた。

 一方のアニエスは、最新鋭の後装ライフルでバイソンを一頭づつ狙い撃った。

「敵が多すぎる!」

 弱音を吐くアニエスに、同僚のジャックが声をかけた。

「弱音を吐く暇があるなら、敵を撃て。銃剣を突き立てろ」

「は、はい!」

 優しさの欠片も無いジャックに、アニエスは逆に奮起したようで、腰に差した38口径リボルバーで応戦した。

 コマンド隊屈指の銃の使い手のジャックは、『場違いな工芸品』のブローニングBARを的確にバイソンの頭部に撃ち込み戦果を上げていた。
 一方のお調子者のヒューゴは、M1ガーランドを恐怖に歪んだ顔で乱射し一応の戦果を上げていた。

「あっ」

 『ピーン』という音と共にM1ガーランドのクリップが飛び出た。
 M1ガーランドは弾丸を全て撃ちつくすと、クリップが飛び出る構造になっている。
 ヒューゴは素早く装填しようとしたが、手が滑って弾装を落としてしまった。

「援護します!」

 アニエスが38口径リボルバーで援護をした。

「助かった!」

 ヒューゴは落とした弾装を拾い手早く装填し戦線に加わった。アニエスらコマンド隊は隊員同士、相互に援護する事が板についていた。

「弾はたっぷり有るから、気にせず撃ちまくれ!」

『了解!』

 先鋒だったバイソンに混じり、別の獣や亜人も混じり始めた。
 ブタのような顔のオーク鬼がぶよぶよの腹を揺らし突進してきた。

「何なんだコイツら!」

 ヒューゴが悲鳴を上げる。

「オーク鬼もコッチに居たんだな」

「ジャックさん、のん気な事を言わないで下さい」

「そうでもない。オーク鬼程度なら、何度もやり合っているから大して脅威ではない」

 ジャックは弾切れのBARを地面に置き、愛用のウィンチェスターM70で次々とオーク鬼の頭を撃ち抜いた。

「凄い……ボルトアクションなのに、あんなに早く!」

 アニエスがジャックの早業を見て呟いた。

「呆けている暇は無いぞ、撃ちまくれ!」

「了解!」

 撃っても撃っても、敵の勢いは止まらない。
 暫くすると、ビットから敵の第三波の情報が送られてきた。

「敵、第三波きます」

「次はどんなのだぁ? 裸の女なら大歓迎なんだが……」

 等とボヤキながらヒューゴが、壁から顔を出し、新手の敵を見定めようとした。

「……犬?」

 新手はコヨーテの群れだった。
 コヨーテは、先ほどのバイソンやオーク鬼とは違い俊敏な動きで壁へと迫る。

「……各隊員、銃剣を付けさせろ、白兵戦もあるぞ」

「了解、その様に通達します」

 その時、通信用ウォーター・ビットが新たな情報を描き始めた。

「ビットから新たな情報が!」

「第四波か?」

 アニエスは、新鮮な情報の描かれた紙をデヴィットに渡した。

「なんと書かれているんですか? 援軍が近いんですか?

「……後ろに敵!?」

「えっ!?」

「後ろから何か来るぞ!」

 誰かが警告を発したと同時に、後方から5メイルの巨大なクーガーが壁を乗り越え襲ってきた。

「うわぁぁぁ!」

「後ろから!? ぎゃああああ!」

 クーガーの爪は、人間など紙切れの様に切り裂き、民兵達に多数の死傷者を出した。
 巨大クーガーのその姿は、犬歯が異常に発達していて、差し詰め『サーベルクーガー』というべきだった。

「くそっ、迂回された!」

 壁の内側に乱入したサーベルクーガーは、その巨体に似合わず俊敏な動きで暴れまわった。

『シャァァァァァ!』

「コイツを何とかしろぉーーー!」

「クソッ、撃て撃てぇー!

「待てっ! 撃つな、同士討ちになる!!」

 碌な訓練の受けていない民兵は大混乱に陥った。

「負傷者を下がらせるんだ!」

「はい!」

 アニエスが、デヴィットの命で負傷者の所へ向かおうとすると、黒い巨体が目に前に振ってきた。








                      ☆        ☆        ☆






 目の前に振ってきたサーベルクーガーの目を見て、アニエスは足がすくんでしまった。

『グルル……』

「あ、ああ……」

 サーベルクーガーから放たれる未知の殺気に、今まで訓練してきた経験がそして闘志が一気に吹き飛んだ。
 怯えるアニエスを見て、サーベルクーガーは口を歪ませた。それはまるでアニエスの臆病を笑っているようだった。

「……クッ!」

 自分が笑われたことを感じ取り、アニエスはギリリと奥歯を噛み、恐怖をねじ伏せた。

 38口径リボルバー『S&W M36』を、腰のオルスターから出してサーベルクーガーへ向けて撃つのと、サーベルクーガーの前足が目に止まらぬ速さでアニエスを切り裂いたのはほぼ同時だった。

 パァン!

 乾いた銃声が混乱した現場に響き、そして鮮血も散った。

「あああああああっ!」

 アニエスの顔から鮮血が飛び、左の顎から頬まで深い裂傷が出来た。
 一方、アニエスが放った銃弾は、サーベルクーガーを外し地面の小石を跳ね上げただけだった。
 吹き飛ばされたアニエスは、地面に叩きつけられた。すぐに起き上がろうと身体に力を入れたが、全身の感覚が消え、まるでで動かない。

(あ、あれ? 身体が動かない……?)

 何とか身体を動かそうとするが、大量のアルコールを摂取したかの様に目の前がぼやけてしまった。更に痛みすら消え思考も回らない。

(あれっ? なんで私ここに居るんだっけ?)

 思考の回らないアニエスに、サーベルクーガーは前足を腹に乗せ、アニエスの身体を押さえつけた。

『美味ソウナ、『メス』ダ……!』

(あ、動物って喋れたんだ)

 舌なめずりをするサーベルクーガーに対し、アニエスの思考は定まらず、的外れな事を思った。

 サーベルクーガーの胃袋に収まるかと思われたが、アニエスの身体は戦う事を忘れていなかった。
 アニエスは自動人形の様に、手に持っていたM36の引き金を無意識に惹いた。

 パァンパァン!

 二つの銃声が響き、至近距離で放たれた銃弾はサーベルクーガーの腹に食い込んだ。

『ガアァッ! ヨクモォッ!!』

 怒ったサーベルクーガーは、引っ込めていた爪を突き出し胸を貫こうとした。
 あわや、と思ったその時、護衛のウォーター・ビットがウォーター・ショットの集中攻撃で、サーベルクーガーを蜂の巣にした。

『グワアァァァァッ!』

 蜂の巣にされたサーベルクーガーは倒れずに周囲の民兵を蹴散らすと、壁を飛び越え何処かへ逃げ去った。

「アニエス、大丈夫か!」

「あう、あ、デヴィット隊長」

「喋るんじゃない! 顔が血塗れで凄い事になっている。誰か秘薬を、大至急だ!」

 サーベルクーガーを追い払ったものの、アニエスを始め捜索隊の被害は無視できないものだった。

「誰が秘薬を!」

「早くしてくれ、血が止まらない!」

 救護班が負傷者の手当てを始める。
 遂にヒューゴがデヴィットに泣きついてきた。

「隊長、このままじゃ押し切られます。ジリ貧ですよ~」

「弱音を吐くな! もうすぐ他の部隊が救援に来る!」

 他の部隊にはウォーター・ビットを使って救援を要請している。

「そうなんですか?」

「そうだ! もうすぐだ、援軍はもうすぐ来る!」

 デヴィットは民兵達を激励しながら、『アース・ウォール』の重ね掛けすると、正面に何枚もの壁が出来た。だが、多勢に無勢。獣の軍団は『アース・ウォール』の壁に到達しつつあった。

 重傷を負ったアニエスは、地面に寝かされ救護班の治療を受けていた。幸いと言うべきか、薬の効果と疲労で眠っていた。

「眠っていて良かったよ。この傷を見たらきっと耐えられないよ。女の子なら尚更だからね」

「ああ、まだ若いのに……この傷は一生残るぞ」

 救護班は同情的な眼差しでアニエスの傷を治療した。
 アニエスの傷は、左の頬の顎から鼻までかけて鋭い爪で深く切り裂かれてた出来た傷だった。

「はあ……目覚めたら何て説明しよう」

 救護班は、ため息をついて治療を続けた。

 ……

 ドカン!

 と轟音が鳴り響き、棍棒を持ったオーク鬼が最初の壁を破壊した。
 破壊された壁の隙間から、コヨーテが侵入してきた。

「撃てっ!」

 パパパパン!

 銃声が響き、コヨーテが倒れる。

「よしっ、良いぞ。絶え間なく弾幕を貼り続けるんだ!」

 再び一斉射。
 しかし、倒しても倒しても、仲間の死体を踏み台にして獣の軍団は迫ってくる。
 壁一枚を残し、全ての壁を突破された捜索隊に未だ救援は来ない。

 事ここに至り、デヴィット決断した。

「どうも援軍は望めそうに無い。ヒューゴ、民兵と他の負傷者を集めたら大森林の外までへ退避してくれ、殿(しんがり)は俺とジャックがやる」

「ええ!? ……し、しかし」

「悪いが議論をしている時間は無い。早くしろ!」

「りょ、了解!」

 ヒューゴは、撤退準備をするべく後方へと去った。

「事後承諾になるが、ジャックも良いな?」

「もちろんです」

「……ありがとう」

 デヴィットはニヤリと笑いジャックは表情を変えず口元だけ歪める、戦友同士が発する独特の場の雰囲気が辺りを包んだ。

「ゴーレムよ!」

 デヴィットが『クリエイト・ゴーレム』を唱えると、剣と盾を持ったゴーレムが八体現れた。

「さあ来い!」

「……!」

 覚悟完了の二人に、撤退の準備に向かったはずのヒューゴが戻ってきた。

「隊長! デヴィット隊長~!」

「どうしたヒューゴ? 早く撤退準備をしないか!」

「て、撤退どころじゃないですよ。実はですね……」

 だがヒューゴの声は、敵軍のど真ん中に落ちた爆発の音によって消されてしまった

「ひゃぁ~~!」

「どうした!?」

 耳を劈く爆音に、デヴィットは耳を押さえた。

 次々と降り注ぐ死の爆発は1分ほど続き、爆発の跡には獣の軍団の死体が山積みになっていた。

「……なにがどうなったんだ?」

 火薬独特の鼻を突く匂いが辺りを漂った。

 いち早く正気に戻ったジャックが辺りを見渡すと、木々の先に馬を駆る新たな集団を見つけた。

「騎兵です、我々の方へ向かっています」

「援軍か?」

「いえ、トリステインの旗は持っていないようです」

「ならば……敵か?」

 第三の軍勢は、大森林から捜索隊の居る開けた場所へ抜け、獣の軍団へ突撃をした。

「に、人間だ! こっちにも居たんだ!」

 ヒューゴは、突如現れた謎の軍勢が人間だという事を知り驚きの声を上げた。
 謎の騎兵は、その全てが軽装で半裸に近い服を着ていた。手にはレバーアクション式の小銃を持ち、腰には手斧をぶら下げていた。
 騎兵達は銃や斧で獣の軍団を蹴散らし、堪らなくなった獣の軍団は撤退を始めた。

「こっちだ! 付いて来い!」

 騎兵の列から、半裸に近い民族衣装を服を着た女が現れデヴィット達に捲くし立てた。

「女だ、結構可愛い」

「ヒューゴ黙れ……隊長どうしますか?」

「着いて行こう。このままでは留まっていてら、獣の軍団がまたやって来るかも知れない」

「了解です」

「負傷者は丁寧に扱ってくれ。それと、本部と他の部隊に『先住民と接触した』と連絡をしてくれ」

 虎口を脱した捜索隊は、先住民達に着いて行く事にした。
 
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