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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第8章:拓かれる可能性
  第248話「それでも、届かない」

 
前書き
単純な戦闘の厄介さで言えば、イリスや優輝がかなり高いです。
それ以外は、まだまだやりようがあったり、帝達のように圧倒する事すら可能です。
“性質”による特殊攻撃も、司が世界そのものの“領域”を一度強化した事で、弱体化。気合だけで無効化出来たりもします。
ただ、イリスの“闇”で強化されているため、総合的には全然弱くありません。
 

 














「ぉおおおおおおおおおおおおっ!!」

 ザフィーラの咆哮と共に、障壁が展開される。
 一枚ではなく何枚にも重ねられた障壁で、理力による攻撃を受け止める。
 拮抗はした。威力も半減はさせた。しかし、防ぎきれなかった。

「させへん!」

 はやてが展開しておいた魔法陣から砲撃魔法を放つ。
 これにより、防ぎきれなかった攻撃を相殺する。

「はぁっ!!」

「でぇりゃぁあああああ!!」

 さらに、追撃をさせないようにシグナムとヴィータが突貫する。
 倒しきるには厳しいが、それでも引き付ける事は出来た。

「何とか守れるけど……これ以上来られたら厳しいわ……」

『踏ん張ってください、はやてちゃん……!』

「分かってるよリイン。……この障壁を破られる訳にはいかへん」

 はやて達が守るのは、祈梨が張った障壁だ。
 その内側に、未だ目覚めていない者と、上空で戦っていた管理局員と退魔士がいる。
 それを、シャマルが必死になって目を覚ませるぐらいまで治療していた。

「主!次弾来ます!」

「ッ……!」

 またもや障壁を狙った攻撃が飛んでくる。
 一撃一撃は、そこまで危険ではない。
 ……と言うよりは、はやて達も順応出来てきたというべきか。
 単純な威力で言えばザフィーラとはやて達を合わせてギリギリだ。
 それを、別の要素となる“意志”や“領域”で何とかしていた。

「(……大丈夫や。さっきよりも、上手く行ってる……!)」

 それでも、ギリギリなのは変わらない。
 攻撃を相殺した後、息を整えはやては次の攻撃に備える。

「ッ……!」

「これで……17人目!」

 そして、攻撃の直後に障壁の中に転がり込む者がいた。
 フェイトとレヴィだ。

「レヴィ、次行くよ……!」

「待って待って!……よし!」

 それぞれ背負って来た管理局員と退魔士を降ろし、再び障壁の外へ飛び立つ。
 二人の役目は落ちてきた者の回収だ。
 スピードが一際速い二人だからこその役目でもある。
 だが、戦闘の只中を動き回るのは危険だ。
 そこで、ユーノがバインドや防御魔法で支援していた。
 そんなユーノも危険なのだが、そこはクロノの采配で上手く動いている。

「シャマル!治療は!?」

「運び込まれている人以外は終わりました!」

「分かった!引き続き、運び込まれている人を頼むわ」

「了解!」

 最初に障壁で保護されたメンバーは全員治療が終わった。
 後は目を覚ますのを待つだけで、既に何人かは戦線復帰している。
 
「(打開する方法を見つけたい所やけど……私達が無茶する訳にはいかへん。今は、耐えて戦える人を増やすのを待つべきや……!)」

 シャマルに状況を聞いたはやては、そう分析する。
 今はまだ無理をする時ではない。
 復帰するのを待ってからの方が、手段は多くなる。

「(……問題は、それまで私達が耐えられるか、って事やけど……)」

 戦況は常にギリギリだ。
 今は持ち堪えるだけに留めているが、それでも敗北と隣り合わせだ。
 時間稼ぎが出来なければ……否、そもそも本命である優輝を正気に戻せなければ、全てが無意味になってしまう。

「(……そこは、信じるしかないか)」

 要となるのは結局司達だ。
 彼女達を信じて戦い続けるしかないと、はやては内心結論付けた。











「ふッッ……!!」

「………!」

「はぁっ!!」

 圧倒的な“闇”に穴が開く。
 優奈が“闇”を切り裂き、直撃を避けたのだ。
 さらに、祈梨が容赦なくイリスに極光を叩き込む。
 他の“闇”に相殺されたが、イリスは鬱陶しそうに顔を顰める。

「ちょこまかと……!」

「物量で圧倒している癖に、よく言うわね……!」

 導王流でも受け流せそうにない攻撃を、優奈は一点突破で何とか凌ぐ。
 転移が使えれば話は違うが、生半可な転移はイリスの力で無効化される。
 “闇”による力場で、空間跳躍の類が出来なくなっているのだ。

「(転移出来ても、一回!連続は不可能……!)」

 絶対に出来ない訳ではなく、“領域”を上手く使えば可能だ。
 しかし、連続は不可能であり、転移で攻撃を躱す事は出来なくなっていた。

「(祈梨も力が落ちてる……“エニグマの箱”が止まっていないから、侵蝕でどんどん弱くなっているのね……)」

 一人でもイリスと戦えていたはずの祈梨の力も落ちている。
 厳密には、世界そのものの“領域”が弱まっている。
 戦闘における法則こそ、まだこの世界に寄せられているが、それだけだ。
 最早、祈梨に対する強化など、微々たるものだった。

「くっ……!」

 祈梨が“闇”を相殺し、相殺しきれなかった“闇”も優奈は突破する。
 だが、それでも押されている。
 真正面からの質量で、イリスは二人を上回っていた。

「はぁっ!」

 気合一閃。“闇”を切り裂いて前進する。
 しかし、直後に“闇”を避けきれずに防御に回る。
 “闇”の表面を滑るように、横に転がり避けるが、前進した分後退させられた。

「(前に進めない……!)」

 祈梨は頑張っている方だ。
 イリスの“闇”を半分請け負ってくれなければ、優奈はもっと苦戦していた。

「(前衛後衛の陣形だと、これ以上はダメね……)」

 しかし、例え一人でも……否、一人だからこその戦い方もある。
 それは二人だとしても変わりない。

「『陣形を変えるわ!私へのフォローはやめて、とにかくイリスの隙を狙って!』」

「『はい!』」

 連携を放棄し、お互いに隙を作り出し、それを突くように動く。
 疎かになってしまう部分を補い合うタイプの連携ではなく、自己完結型の戦力同士を組み合わせるタイプの連携だ。

「(……動きを変えてきましたか)」

 攻撃の手応えが減った事で、動きに変化が出た事をイリスも悟る。
 直後、砂塵の中から一つの煌めきが飛んでくる。
 優奈が放った理力の矢だ。

「はぁっ!!」

 矢を“闇”で弾き、後方に“闇”の閃光を放ち、障壁も張る。
 同時に、後方に祈梨が放った極光が、目の前には優奈が迫って来た。
 連続では使えない転移を用いて、無理矢理間合いを詰めてきたのだ。

「ぐっ……!?」

「まだ軽いですね」

 だが、足元から生えた“闇”の触手に剣が弾かれる。
 そして、別の触手が棘のように優奈に襲い掛かった。
 咄嗟に優奈は創造魔法で展開した理力の針を触手に突き刺し、相殺する。

「ッ……!」

「なるほど、個々に動いた方が厄介ですね」

 優奈に気を取られている所に、両サイドから極光の斬撃が迫る。
 それを障壁で防ぐと、頭上から祈梨が極光を纏った槍を振り下ろした。
 こちらも単発の転移で間合いを詰めたようだ。

「くっ……堅い……!」

「変に型に嵌った動きでは、本領を発揮できない……確かに、良い判断です」

 それでも、通じない。
 優輝の攻撃は“闇”の触手と障壁に阻まれ、祈梨の一撃も“闇”の盾で防がれた。

「ッッ!」

 二人が同時に飛び退く。
 直後に、“闇”がイリスの周囲を圧し潰した。

「ですが、それは私も同じですよ?」

「ちっ……!」

 何度も自身を圧し潰そうとする“闇”を避けながら、優奈は舌打ちする。
 イリスの“闇”はその気になれば予備動作なく出現する。
 予めどこを攻撃するか予測しなければ防御すら厳しくなる程だ。
 常に動き回っても避けきれる訳ではない。

「(反撃のチャンスが少ない……!)」

 圧し潰す攻撃だけではなく、爆発するもの、棘となって襲い来るものもある。
 それらを避けつつ反撃するのはかなり難しい。
 普通の戦闘であれば、攻撃の対処をさせる事で他の動きを制限すると言った戦法が取れるが、残念ながら神界の存在にそれは通じない。
 “性質”の力を行使するのは、神界の者にとって呼吸となんら変わらない。
 意識せずとも扱う事すら可能なのだ。

「(だったら、その“可能性”を手繰り寄せる!)」

 近接戦を仕掛けても無意味だと悟った優奈は、意識を切り替える。
 無意味ならば、意味のあるようにすればいい。
 その“可能性”は残っており、優奈はそれを手繰り寄せる事が出来る。

「ッ……!」

 苦し紛れの反撃を、祈梨が飛ばす。
 しかし、簡単に防がれ、またもや防戦一方になっていた。
 その僅かな間を利用し、体勢を整える。

「シッ……!」

 細工を施した創造魔法を、イリスへと飛ばす。
 当然撃ち落とされるが、その際に散った破片をイリスの足元へ飛ばした。
 同時に、同じく創造魔法でまき散らすように武器を創り出していく。

「無駄な事を……!」

「(まぁ、破壊するわよね)」

 当然、イリスがそれを放置するはずもなく、破壊する。
 イリスとて、優奈も祈梨も侮ってはいない。
 ()()()()()()()()()()があるからこそ、イリスは侮る事はない。

「(でも、忘れない事ね。相手は、私だけではないわ!)」

「はぁっ!!」

 再度、祈梨が突貫する。
 “闇”に阻まれるも、その上から極光を放ち打ち破ろうとする。

「足を止めましたね?」

「ええ……動かなくても良いようにしましたから……ッ!」

 障壁を破ったものの、至近距離で避けられる。
 そのまま、回避不可能の包囲とイリスからの直接攻撃が迫る。
 しかし、祈梨は避ける素振りを見せない。

「……転移、ですか」

 直後に祈梨の姿が掻き消え、攻撃は空ぶる。
 イリスはそのまま“闇”の極光を放つ。
 転移の行き先を予測しての攻撃だ。

「来たれ、諸人を守りし盾よ!」

 回避と共に刻んでおいた理力を基点に、魔法陣が展開される。
 それによって出現した障壁で、イリスの極光を完全に遮断した。

「事前に少しずつ魔法陣を刻んでおいたのですか……小細工を……!」

 イリスにとって、少し予想外だった。
 それもそうだ。神界の神は、基本“性質”に沿った戦法を取る。
 祈梨の“性質”はそういった小細工とは無縁のはずだ。
 だからこそ、イリスは見落としていた。
 相手が優輝や優奈であれば、見落とさずに済んでいた。……()()()()()()()()

「ッ……まさか!?」

 気づいた時には遅い。
 同時進行で回避し続けていた優奈が不敵な笑みを浮かべる。
 直後、創造した武器でカモフラージュしておいた魔法陣が呼応する。
 創造した武器はフェイクだったのだ。
 本命は、破壊された後の破片。
 砕かれた破片を小さな魔法陣の基点として展開したのだ。
 そして、その魔法陣から組み上げられた大きな魔法陣が起動する。

「(フェイクを混ぜ、彼女が動いた一連の流れが連携だったと……!?……いえ、違う。これは、“可能性”を手繰り寄せた!)」

 咄嗟に、イリスは魔法陣を消し去ろうと“闇”を放つ。
 だが、紙一重の差で先に魔法陣から極光が放たれた。

「(破片で複数の魔法陣を作りあげ、その魔法陣でさらに大きな魔法陣を組み立てた。……そして、呼応するのは私の理力だけじゃない。貴女の力もよ、イリス!)」

 最初に破片をイリスの足元に散らせたのはこのためだ。
 相手の理力さえ利用し、イリスへと渾身の一撃を放った。

「甘いですよ!!」

 しかし、それでも。

「私の“闇”は、その程度で祓えません!!」

 イリスには、届かない。

「ッ……!?」

 イリスの攻撃を打ち破った極光は、そのまま障壁さえも破る。
 短時間で組んだとはいえ、複数の魔法陣を介した一撃は強力だ。
 それを、イリスは真正面から受け止めた。

「ッッ、ぐ……!」

 膨大な“闇”がイリスから放出される。
 極光すら呑み込まんとするその“闇”は、攻防一体の鎧だ。
 攻撃を受け止める事で無防備になるはずの体は、その“闇”に守られていた。

「ふっ……ッ!」

 そして、そのまま極光を完全に受け止めてしまった。
 瘴気のような煙も出ている事から、ノーダメージではないのだろう。
 だが、大ダメージでもない。

「……はぁっ!!」

 最後に、“闇”を周囲に解き放つ。
 先程の極光を受け止める程の“闇”が周囲に放たれるのだ。
 それだけで、回避不可能な強力な一撃となる。

「人から天へ、天から神へ。我が祈りは無限に続き、夢幻に届く……!」

 しかし、それを祈梨は予想していた。

「(第二波……!?)」

「想いを束ね、祈りを束ねる!撃ち貫け!!」

   ―――“夢幻に届け、超克の祈り(アンフィニ・プリエール)

 仕掛けておいた障壁で隙を作り出し、それで“溜め”の時間を得た。
 そして、優奈の一撃に意識を向けた所で、祈梨の攻撃準備を整えたのだ。
 祈りと理力が束ねられ、周囲の空間を歪ませる程の極光が放たれた。

「これが……神へ至った天巫女の力です……!」

 “闇”を解き放った衝撃波は非常に強力だ。
 祈梨が放った一撃と拮抗さえして見せた。
 だが、祈梨も全力だ。威力は軽減されたものの、ソレを打ち破る。
 
「ッ……舐めるな……!!」

 ……そして、イリスはそれをも上回る。
 否、ギリギリではあったのだろう。それでも、火事場の馬鹿力が働いた。
 “闇”による障壁が多重展開され、さらに相殺のための砲撃も放たれた。

「これすら……耐えますか……!」

 障壁は全て破ったが、それでも威力はほぼ殺された。
 ダメージは通ったが、先程の優奈と同じく大きなダメージにはならなかった。
 その事に、祈梨は歯噛みする。







「―――ようやく、隙を見せたわね」

「ッ……!?」

 そして、耐えきった直後のイリスを、優奈が理力の剣で切り裂いた。
 祈梨の攻撃を防いだ直後を狙い、転移で肉薄したのだ。

「ぐっ……!」

「(ここで決める……!)」

 追撃を放つも、“闇”の棘で防がれる。
 それでも突破してさらに追撃を当てようとした。

「こ、のっ!」

「っづ……!?」

 だが、イリスの周囲を圧し潰そうとする“闇”に、撤退を余儀なくされる。

「(防御態勢に入った……生半可な攻撃じゃあ、突破出来ないわね)」

 球状の“闇”に身を包んだイリス。
 先程優奈の極光を防いだ“闇”とは違う、防御特化の“闇”だ。
 最低でも、先程の優奈や祈梨の一撃でなければ、破る事も出来ない。

「ぐっ……まさか、あそこで、一太刀入れる、とは……!」

 逆袈裟の一閃を喰らったイリスが、その“闇”の中で傷を癒す。
 尤も、それは物理的なものなので、“領域”へのダメージはそのままだ。

「(本当に……油断なりませんね……!)」

 ここに来て大きなダメージを喰らった。
 それこそ、次まともなダメージを喰らえば、確実に戦闘に支障が出る程だ。

「………不得手ですが、こちらも白兵戦と行きましょうか」

 “闇”の中でイリスが呟いた直後、その“闇”を極光が呑み込んだ。

「これで……どうです?」

 放ったのは祈梨だ。
 防御態勢に入った分、準備も整えられたのでその威力は先程より大きい。
 放ち終わった時には、“闇”はボロボロに崩れていた。

「……いない?」

「ッ!」

 しかし、その中にイリスはいなかった。
 刹那、優奈が転移で祈梨の後ろに回り込む。

「っつ……!」

「反応しますか……!」

 イリスが転移して、祈梨を不意打ちしようとしていたのだ。
 転移を用いた不意打ちを優奈も得意としていたからこそ、咄嗟に気付けたのだ。

「くっ!」

「……!」

 すぐさま祈梨が理力の弾で攻撃する。
 あっさりと防がれはしたものの、優奈が一度間合いを離す隙は作れた。

「『“闇”の密度が上がってる……!さっきまでの大規模な戦法じゃなくて、私と同じように白兵戦で仕掛けてくるわ!』」

「『わかりました!』」

 戦い方を変えてきた。ならばそれに対応すればいい。
 優奈と祈梨はすぐに意識を切り替え、イリスに斬りかかった。

「ッ!」

「ふっ……!」

 転移で攻撃が空振り、背後からイリスが“闇”の爪で引き裂こうとする。
 転移を予想していた優奈が祈梨を守るように割り込み、カウンターを放った。
 導王流によるカウンターだったが、“闇”で受け止められてしまった。

「っ、ぁ……!」

 それを狙っていたかのように、“闇”の棘が優奈を襲う。
 咄嗟の障壁で一瞬だけ止め、弾かれるように飛び退く。
 掠ったものの、その判断は合っていたようで、直撃は免れた。

「(イリスには転移の制限がない。その事も相まって、かなりやりづらい……!)」

 祈梨が再び斬りかかり、またもや転移で躱される。
 今度は祈梨も想定していたのか、閃光で転移先を薙ぐ。
 “闇”で閃光は防がれ、お互いに肉薄した。
 しかし、近接戦でもイリスは転移を連発し、祈梨の攻撃が命中しない。
 単純な技量では祈梨が上なのだが、イリスはそれ以外の要素で上回っていた。

「シッ!」

 優奈も加わり、二対一で対処する。
 転移で攻撃は躱されるが、その後の反撃を二人で対処する。
 依然不利ではあるが、当初の目的である時間稼ぎは出来るだろう。

「(あのチャンスで倒せなかったのが悔やまれるわね……!)」

 こうなってしまっては、先程のようなチャンスは巡ってこない。
 結局、優奈達は時間稼ぎをするしかなかった。











「ッッ……!」

「くっ……!」

 一方で、司達と優輝の戦いも不利になっていた。
 元々、優奈の見立てでは緋雪も加えてやり合えるものだったのだ。
 その緋雪が欠けている今、劣勢になるのは当然の事とも言えた。

「また……!」

「そこよ!」

 葵と奏の攻撃が転移で躱される。
 即座に椿が察知して、遠隔で草を生やす事で動きを妨害する。
 その間に司が牽制し、後衛二人が襲われる前に葵と奏が割り込む。
 先程から、この一連の流れを繰り返している。

「ぐっ……!?」

「ッ……“ディレイ”!」

 葵は二振りのレイピアを、奏は両手にハンドソニックを生やしている。
 手数を重視して、カウンターに出来る限り対処するようにしているのだ。
 ……そして、その上で圧倒されていた。

「っ、ぁ……!」

 カウンターの直撃は辛うじて防げていた。
 だが、イリスによる“闇”の加護が攻防一体の鎧として二人を苛む。
 カウンターのために手数を増やしているのに、その“闇”が手数の差を潰す。
 結果、何度も致命的なカウンターを食らいそうになっていた。

「葵!」

「奏ちゃん!」

 すぐさま司と椿による牽制によって追撃を阻止する。
 しかし、辛うじて間に合わせた防御の上から、二人はダメージを負っていた。

「しまっ……!?」

 そして、それがついに致命的なミスに繋がってしまう。
 もう何回も繰り返した攻防で、ついに奏が防御に失敗する。
 カウンターの手刀が胸を貫き、さらに体を遠くに吹き飛ばした。

「(まずい!均衡が破れた!!)」

 すぐさま葵がフォローに入る。
 だが、支援ありとはいえ、導王流の極致に対応出来るはずもない。
 否、“闇”さえなければ対応出来たかもしれないが……

「がっ……!?」

「葵……まさか!?」

 “闇”を弾き、椿達への攻撃を阻止する。
 そこに生じた隙を突かれ、手刀で一閃、肩から胸に掛けて浅く切り裂かれる。
 それだけではない。追撃の手刀が葵の喉に突き刺さった。

「ッ!!」

 しかし、葵もタダではやられない。
 吸血鬼の体なのを活かし、その状態から腕を掴もうとする。
 片手は優輝の片手に弾かれたが、もう片方の手で何とか掴む。
 さらに、体の一部を蝙蝠に変え、優輝に纏わりつかせる。

「っづ……!?」

 ……そこまでだった。
 優輝は転移で葵の拘束を容易く抜け、椿達の攻撃を躱した。
 それだけでなく、葵の後ろに回り込み、手刀で首を落としに来た。
 葵は片腕を犠牲に首を守るが、その攻撃で吹き飛ばされた。

「司!」

「うん……!」

 椿が矢と神力で葵と奏に追撃させまいと攻撃を連打する。
 当然、転移と導王流を扱う優輝にその攻撃は命中しない。
 それでも、攻撃を対処させる事には成功した。

   ―――“Poussée(プーセ)

「……!」

 そして、司の重力魔法が優輝にのしかかる。
 如何に攻撃を受け流す導王流の極致とはいえ、重力そのものは受け流せない。
 無差別な魔法故に、この戦いでは使うのを控えていたが……

「来るわよ!」

 優輝は、さらにその上を行く。
 否、そもそも転移を瞬時に使える相手に重力魔法は効果が薄い。
 あっさりと重力の拘束を転移で抜け、椿と司に肉薄してきた。

「ッ!」

 椿は神力で構成していた弓と矢を、司はシュラインを構えて迎え撃つ。
 当然、二人は葵や奏に比べれば近接戦に弱い。
 だからこそ、近接戦以外の技術で対抗する。

「……堅いな」

「初見じゃなければ、対処できるわよ……!」

 “闇”による攻撃を、障壁で防ぐ。
 元々、単純な近接戦ではすぐに負けると分かっていた。
 だからこそ、事前に障壁を用意して、それで防ぐ事にしたのだ。

「(後数回攻撃されれば、突破される……!)」
 
 尤も、それすら焼け石に水でしかない。
 障壁を掌底が穿とうとする度に、司の魔力が、椿の神力が悲鳴を上げる。
 優輝が障壁に合わせて“闇”を流し込んできているのだ。
 
「ッッ!!」

 そして、すぐにその時は訪れた。
 椿の障壁が破られ、手刀が目の前に迫る。

「ふっ……!」

 間一髪、椿はその一撃を避け、“闇”の攻撃を受けながらも優輝を投げる。
 柔術による投げ技。それならば確かに導王流でも攻撃が通じる。

「ぐっ……!」

 ……転移さえなければの話だが。
 優輝は投げられる瞬間に転移し、椿を背後から手刀で貫こうとした。
 辛うじて神力による矢と弓でそれを防ぐも、吹き飛ばされる。

「くっ……!」

 間髪入れずに司が魔力弾で包囲するが、一部を受け流されて抜けられる。
 それどころか、より苛烈に転移を併用しつつ司に襲い掛かって来た。

「う、ぐっ……!」

 天巫女の特性か、防御態勢に入った事で椿より耐える。
 しかし、衝撃が貫通して司を打ちのめす。
 防戦一方になり……

「“呪黒剣”!!」

 そこで、葵と奏が復帰した。

「ふっ……!」

 吹き飛ばされ、体勢を立て直した椿も矢で援護し、何とか司から引き剥がす。

「シッ……!」

「はぁっ!」

 息を切らしながらも葵と奏が斬り込み、先程までと同じ陣形に戻す。

「(仕切り直し……!……とは、行かないみたいね……)」

 椿達全員に一度はダメージが入った。
 問題なのは、その攻撃が全て“領域”へのダメージとなっている事だ。
 普通のダメージなら無視出来ても、“領域”のダメージは無視できない。
 砕かれれば最後、普通の戦闘と同じように即敗北となる。

「(まだなの……緋雪……!)」

 戦況が好転しない事に、焦りも募っていく。
 既に限界以上の力を発揮し続けているというのに、全く通じない。
 実際には、もっと力を発揮する事は可能なのだろう。
 しかし、肝心の優輝がそれを阻止してくる。
 意識を切り替える暇すら与えてくれないのだ。

「(このままだと……!)」

 まだ戦えはする。しかし、どう見てもジリ貧だ。
 焦りが募り、さらに勝利のビジョンが霞んでいく。
 
「っ、ぁあっ……!?」

 そしてまた、連携が崩された。

















 
 

 
後書き
夢幻に届け、超克の祈り(アンフィニ・プリエール)…ルビはフランス語の“無限大”と“祈り”。祈梨が持つ技の中でトップクラスの力(威力ではない)を発揮する。今回は攻撃に使ったが、様々な用途に使える。


他は何とか渡り合えているものの、本命たる二つの戦闘が圧倒的劣勢です。
ちなみに、祈梨が弱体化したと書いてはいますが、厳密には祈梨自身の力は全く弱体化していません。飽くまで、世界そのものの“領域”が弱まった事で、その分の力が弱まっているだけです。 
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