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ペルソナ3 困惑の鏡像(彼が私で・・・)

作者:hastymouse
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中編

 
前書き
中編です。正直、今回の話はあまり物語が無いです。ただ状況の中で会話しているばかりで、ある意味ドラマCDっぽい気もしますね。もっと短くあっさり書くつもりだったけど、会話を書いていると際限なく長くなる。でもまあ、たまにはそんな話があってもいいのかな。 

 
「おっはよー。」と、いつも通りに元気よく声をかけて教室に入る。
教室内にいた人がみんないっせいに注目してきた。数名が「おはよう」と返してくるが、残りはなぜか固まっている。
あれ、またその反応? 朝の挨拶だけで?
私は何が問題なのか、今一つつかみきれずに、首をかしげながら席に着いた。
「どうしたの今朝は。随分、上機嫌じゃない。」
近くにいた友近君が声をかけて来る。
「えっ、別に・・・普通だけど・・・。」
友近君のことはよく知らないのだけど、順平と仲がいいようだ。ひょっとしたら『彼』とも仲がいいのかも。
そういえば、岩崎 理緒といるときに何度か会ったことがある。確か彼は理緒の幼馴染だったはず。しかも実は理緒の片思いの相手なんだよね。理緒は私と同じ部活ということもあって、何度か相談されたこともあるので、私の彼に対するイメージは微妙なものだ。
「今日、また岳羽さんと一緒の登校だったろ?」
ゆかり は朝練に行くとのことで、校門で別れて弓道場に向かった。
でも、それまではずっと一緒に来たのだから、どこかで見られていてもおかしくはない。
「見てたの? まあ、同じ寮に住んでるんだから、電車が一緒になることもあるよ。別に ゆかり だけじゃなくて、他の・・・。」
そこまで聞いた友近君が急にひきつった表情を浮かべる。
「なに?」
「お、お前、今、さらっと『ゆかり』って呼び捨てたろ。なんだその気安さは。二人の仲はそこまで行ってるのか?」
あっ、ヤバ!またやったか。どうしても普段の癖がでちゃうな。
えい、こうなったら反撃してごまかそう。
「何言ってるのさ。君だって岩崎のことを理緒って呼び捨ててるじゃない。そっちこそどうなってるのさ。」
私は勢いよく言い返した。
「えっ・・・あれ? 何で理緒を知ってるの?」
私の予想外の反撃に、友近君がたじろいだ。
驚いたか!こちとら部活仲間で恋愛相談にも乗っている仲だ。せっかくだから、男という立場からひと言っといてやろう。
「同じ部活・・・じゃなくて・・・たまたま君と話してるとこ見かけたんだよ。二人のあの気安さは、ただの仲ではないでしょ。」
「いやあ、理緒とはそういうんじゃなくて、幼馴染で兄弟みたいなもんだから。」
友近君がテレ隠しのように手をパタパタ振りながら笑った。
「でも、結構美人だし、テニス姿もかっこいいのに~。女性としていいな、とか少しは思わないの?」
「まったくないね~。理緒ってガキっぽいだろ。ほら、俺はもっと大人っぽい色気のある女性が好みだから・・・。」
あっ、こいつ、なんか腹立つな~。
まったく、理緒もどこがいいんだ? こんな奴。
「そういうこと言ってると、岩崎に見捨てられるよ。」
私は少しにらみつけて言う。
「いやいや、理緒ならそんな心配いらないよ。・・・それにしても、お前、今日少し変だな。なんだかテンション高くない?」
いきなり話の矛先を変えられて、私は戸惑った。
「えっと・・・そう?・・・いつもそんなにテンション低い?」
「う~ん。いや、なんとなく・・・いつもは、わりと無口だし、そんなにグイグイ攻めてくるような話し方もしないだろ。」
「あっ・・・そう。」
この件についてこれ以上話を続けるのはマズイ・・・と思っているところに、もう一人、別の男子が近づいてきた。
「何の話で盛り上がってるの? 女性の話なら僕も混ぜて欲しいな。」
ニコニコしながら、屈託なく話しかけてくる。つい先日、転校してきた望月君だ。
「お前も転校してきたばかりだってのに、恐れ気もなく人の話に入ってくるのな。大したコミュ力だよ。」
友近君があきれたように言った。
望月君は転校してきてまだ数日なのに、初対面の女生徒に親しげに声をかけまくっているということで、既に噂になってきていた。
「そう? どうせなら早くみんなと打ち解けたいじゃない。」
望月君は平然としている。
「いいんじゃない。みんなとどんどん仲良くなった方がきっと楽しいよ。」
私は自分から話題が逸れればありがたいので、これ幸いと同意をした。
「そうだよね。君とは気が合いそうだなあ。」
にこやかに笑いながら私にぐいっと近づいてくる望月君の前に、いきなり金髪の女性が立ちふさがった。
キョトンとして身を引く望月君。
「おはようございます。」
アイギスがそう挨拶をして、私の隣の席に着く。
「ああ、アイギス。おはよう。」
あっけにとられて私がそう挨拶を返すと、彼女はこちらに向き直った。
「今日は、ずいぶん朝早く出たのでありますね。」
「え、ああ、ちょっと早く目が覚めちゃってさ。朝練に出る ゆかり と一緒になっちゃった。」
そう話す私を、何故かアイギスがじっと見てくる。
「何、どうしたの?」
「なんでしょう?・・・よくわかりません。あなたであることは間違いないのに、何かが違う感じがします。」
うわっ、こっちも感づくのか~。予想以上に難儀だな。
「まあ、私だって、日々変化しているってことだよ。」
笑ってごまかす私。
「そんなことより、また『ゆかり』って言った。やっぱりなんかあったろう。」
そこに、再び話を蒸し返して突っ込んでくる友近君。
「なになに? その話、聞きたいな。僕も混ぜて・・・。」
望月君もまた首を突っ込んでくる。
ああ、まったくこいつらは~!!!
「あなたはダメです。」
アイギスがいきなりズバリと切り捨てた。
「えっ、今日もまたダメ出し・・・?」
転校当初からアイギスはなぜか望月君に対して冷たい。
本人もその理由はよくわかっていないようだが、ともかくここ数日、望月君にだけは容赦なくダメ出しする。
あまりの容赦のなさに、さすがの望月君も情けない表情で退散し、ついでに友近君も沈黙した。
ありがたいことに、アイギスのおかげでなんとかその場はうやむやになった。私はとりあえず胸をなでおろした。

「やきそばパン、売り切れだったよ~。」
昼休みの屋上、少し遅れて来た順平が嘆くように言う。
屋上に2年生の巌戸台寮メンバーが集まっていた。何を思ったのか、突然、順平が招集をかけてきたのだ。
今日は、いい天気で風もなく、この季節とは思えないくらいに暖かい。海を見下ろす景色も一段と素晴らしい。
もうすぐ寒くなってくるし、こうしてのんびり屋上ですごせるのもあと少しだろう。
そんなこともあって、今日は屋上で昼食を取りながら話すことになった。
「順平が遅いんだよ。私は真っ先に購買に走ったから2つ買えたよ~。」
私はニカッと笑って、自慢げにパンを見せびらかした。
「お前、2つも食うのかよ。そうやって買い占める奴がいるから、俺にまでまわってこないんだ。それだけが楽しみで学校に来てるのに・・・。」
順平が大げさに喚いた。
「そんなに、やきそばパン欲しかったの?。仕方ないなあ。じゃあ、1個あげるよ。」
私は片方を順平に差し出した。
「え・・・いいの? おお。やきそばパンの君!」
順平はうやうやしく焼きそばパンを受け取ると、ラップをはがしておもむろにかぶりついた。そして芝居がかった調子で片膝をつく。
「うまい! うますぎる!! それも当然。やきそばパンだ!」
「なあにそれ?」風花が笑いながら訊いた。
「まあ、やきそばパンを称える儀式みたいなもんよ。」
順平が嬉しそうの残りをほおばりながら答える。
「順平のいつもの馬鹿でしょ。そんなのいちいち聞いてもしかたないって。」
ゆかり が いつも通り冷たく切り捨てた。
「それで、なんだってみんなを集めたわけ?」
私も焼きそばパンを食べ終えると、剛健美茶を飲みながら訊いた。
「何って、そりゃあ・・・お前の話だろう。結局、どうなってんのさ。」
順平が私に向き直って言う。
「私? 何が。」
私は新たにサンドウィッチをつまみながら聞き返した。
「何がじゃねーだろ。自覚ねーのかよ。そのテンション。明らかにキャラ違うだろ。鳥海先生までびびってたぞ。」
(そういえば、授業中、指されて発表した時に変な顔してたな。)
「なんでだろ。別に普通だと思うんだけどなー。普段、そんなにテンション低い?」
私は困って周りを見回した。
別に騒いだつもりもないし、ごく普通にみんなと接しているつもりなのに、こんなに問題視されるとは思わなかった。
『彼』って、いったい普段どんななんだろ。
どうせ人間関係はほとんど同じ・・・とか軽く考えてたけど、難しいもんだなあ。
「お前のキャッチフレーズと言えば、無口・無表情・不愛想で、口を開けば『どうでもいい』・・・だろ。」
「なあに? じゃあ、ずっと無表情に黙ってて、なんか訊かれたら『どうでもいい。』って答えてればいいわけ?」
私はあきれて聞き返した。
「そう、それでこそお前よ。それで・・・こう、歩くときは両手をポケットに突っ込んで、うつむき加減でだな・・・。」
順平がその場で歩き方の物まねをする。
「なんか聞いてるとやな奴だね。・・・どう思う? ゆかり。」
私は不思議に思って ゆかり に話を振ってみた。。
「ま、そりゃ確かにそんな感じだけど・・・でも別に嫌では・・・。」
ゆかり が困ったような顔で言った。
「そう、そう、それよ。お前がいきなり『ゆかり』とか名前呼びするからさ。男連中、大騒ぎになってっぞ。もしかすると、ゆかりっちと付き合い始めたせいで、お前が舞い上がってハイテンションになってるんじゃないか、ってのがもっぱらの見解だ。」
「えっ・・・彼のテンションが高いと、なんで私まで巻き込まれるのよ。」
ゆかり が動揺を隠すように声を上げた。
(あっ、この反応・・・順平は、本当に ゆかり と『彼』が付き合い出したってこと知らないのか・・・。)
「でもいつもより明るくて、おしゃべりだし・・・私はそういうのも楽しくていいなって思うな。なんだか意外な一面が見れたなって。」
すかさず風花が取りなすように言った。
(おっ、このフォロー。もしかして風花は知ってる?)
「意外な一面っていうか・・・ほとんど別人だろ。」
かまわずに順平が食い下がってきた。
「まあ、まあ、明日までには元に戻るだろうから、とりあえず今日のところは、『意外な一面』ってことで、ヨロシク!」
私はニカッと笑い、びっと親指を突き立てて手をのばす。
「ほら、やっぱりおかしいって。そういうキャラじゃねーだろ。なんか変なもんでも食ったんじゃないか? シャドウの精神攻撃とか受けて混乱してないか?」
「まあ、確かに朝からなんか変なんだよねー。なんて言うか、ちょっと軽すぎって言うか・・・。話しやすいんだけどさ。いつもとギャップがあり過ぎて調子が狂う。」
ゆかり もぼやくように同意した。
「そりゃまあ、ノリが良くて、俺っちとしても感じ悪くはないんだけどな。そのテンションだとちょっと俺とキャラかぶるかな~って。」
「ええっ、順平とかぶるのはやだな~。」
私は笑いながらズバッと返す。
「ひどっ!」順平が嘆いて声を上げた。

それでも ゆかりの同意を得て満足したのか、飽きたのか、順平はそれ以上の追及をしてこなかった。
昼休みも終わりに近づき、順平が「トイレに行きたい」と駆けていったのをきっかけに、みんな屋上から引き上げることにした。
クラスが違う風花とも別れて二人りになったところで、「順平はまだ知らない・・・か。」とぼそりと言ってみた。
「タルタロスやシャドウの件が片付くまで、みんなには言わないでおくことにしたでしょ。」
とゆかり が静かに答えた。なるほどそういうことか。
「でも、風花は知ってるよね。」
私の問いに ゆかり が首を振る。そして、少し悩まし気な表情を浮かべた。
「私は言ってないよ。・・・でも・・・なんとなく気づいてるんだと思う。」
「随分 鋭いんだね。」
「たぶんだけど・・・あの子、君の事が好きだったんだと思う。だから見ててわかっちゃったんじゃないかな・・・。」
(そっ・・・そうなのか・・・! 風花も・・・ !! なんでそんな無口で無愛想なキャラがモテるの?)
内心、動揺しつつも二人で教室に戻ると、扉の前で眼鏡をかけた女生徒が私を待っていた。1年生の伏見 千尋ちゃんだ。生徒会の書記をしていて、桐条先輩の手伝いで生徒会に顔を出したときに何度か会っている。真面目で内気な子だ。
「あの・・・先輩。」
千尋ちゃんがはにかみながら声をかけてくる。
「ああ、千尋ちゃん。どうしたの。」
私が笑顔で声をかけると、千尋ちゃんは少し驚いた表情で赤くなった。
「ん・・・?」
(えっとこの反応・・・こいつ、ここでもモテてるのか!)
ゆかり が横で小さくため息をついた。
(・・・しまった。いつもの癖で「千尋ちゃん」なんて気安く呼んじゃったけど、「伏見さん」とか言わなければいけなかったのかな。無口・不愛想キャラだもんな。)
なかなか自分の中で、『彼』のイメージが定着しない。
「あ、すみません・・・その、今日の放課後、お時間があったら生徒会室でお手伝いいただけないかと・・・。」
「えっ? ああ・・・えーと、どうしようかな。」
ちらっとゆかりを見る。
「別にいいんじゃない。私は部活に出るし・・・。」
ゆかり が目をそらして、ぼそっと言う。
(あれ? なんか微妙な空気。なにこれ、・・・。二股してるわけじゃないよね。何も悪いことしてないよね。・・・まったく、こいつのせいだ・・・このムッツリスケコマシ。)
私はどう反応したら良いのかわからなくなって、固まってしまった。
そこで私の携帯電話が鳴った。
「あ、ちょっと待って。」
地獄に仏とばかりに慌てて電話に出る。
『テオドアでございます。ご迷惑をおかけしております。応急ではありますが、一応の修復が完了しました。』
テオが明るい声で報告してきた。
「ほんとに。良かった~。実はもう、どうしようかと思ってたとこだったんだ。」
朗報に思わず声のトーンが上がる。
『本当にご迷惑をお掛けしました。つきましては、なるべく早めにこちらにおいでください。』
「わかった。じゃあ学校終わったらすぐ行くから。よろしくね。」
そう言って、私は電話を切った。ようやく元の体に戻れる。難儀な思いから解放される。
ウキウキしながら目を千尋ちゃんに向けて・・・あっ・・・いけね!
「今日はご予定があるみたいですね。」
残念そうに千尋ちゃんが言った。
「あ・・・ご、ごめんねー。ちょっと・・・その、どうしても行かなきゃならない急用でさー。次は必ず手伝うからー。」
私は必死に頭を下げた。
「いえ、いいんです。こちらも急な話でしたし・・・すみませんでした。それでは失礼します。」
彼女は健気にも笑顔を見せて丁寧に頭を下げた後、肩を落として歩いていく。その後姿がさみしそうでやたらと罪悪感にかられた。
「ああ、悪いことしちゃったな―。」
「ちょっと、タイミング悪いよね。・・・それにしても学校で携帯電話に出るのまずいって。」
ゆかり にピシリと言われた。
「そ、そうだね。その・・・急ぎの連絡待ちしてたもんで。」
「ふーん・・・。それで、なあに急用って。」と、ゆかり が聞いてきた。
「えっ・・・い、いや。まあ、ヤボ用なんだけどさあ。ともかく一刻を争うと言うか・・・なんというか・・・ははは。」
私は必死に笑ってごまかす。ゆかり がじっとこっちを見つめてくる。
うわあ、怖いなー。何、考えてるんだろ。
私がビクビクしていると、ゆかり は軽く首を振って、
「・・・そう。まあ、いいけど・・・。じゃあ、今日の帰りは別々だね。」と小さな声で言った。
「うん・・・。そうだ! 多分、夜にはいつもの私に戻ってると思うから、また寮でね。」
私が取り繕うように言うと、ゆかり は怪訝そうな顔をしたが、それ以上は、もう何も言わなかった。
 
 

 
後書き
中盤に出てくる「焼きそばパン」の話は、同じアトラスから出ている「十三機兵防衛圏」というゲームからの流用です。やったことの無い方がいらっしゃったら、大変面白いゲームですし、キャラも魅力的で可愛いのでお勧めします。是非、試してみてください。
さて、ダラダラと続いてきたこの話も、次回、ベルベットルームに戻って締めくくりたいと思います。せっかくだから、あの部屋に関わるいろんな方に顔出ししてもらおうと思っています。 
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