ペルソナ3 困惑の鏡像(彼が私で・・・)
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前編
前書き
またしても入れ替わりネタですが、主人公同士の入れ替わりなら、男性主人公の中に女性主人公が入る方が面白いですよね。逆パターンだと、男性主人公ではリアクションが乏しい上に、冷静に対処しそうで・・・。まあ、真田さんや天田君に熱列にアタックされたら、それも面白いのかもしれないとも思ったのですが・・・ちょっと変則BLみたいになるのでそちらは得意な方にお任せします。
「それでは・・・ごきげんよう。」
イゴールさんは口元に笑みを浮かべて話を締めくくった。
彼はこの非現実な部屋であるベルベットルームの主人で、日頃 私の戦いのサポートをしてくれている。常に慇懃な物言いなのだが、ギョロ目で鼻の長さが目立つという怪しさ大爆発の御面相をしていて、笑いを浮かべるその表情もすさまじい。
もっともすっかり慣れてしまった私は、そんなイゴールさんにもにこやかに応対している。
今日も愛想よくにこりと笑って「それじゃあ・・・」と別れを告げようとしたところで、突然、ものすごい爆発音と激しい振動に見舞われた。
意表を突かれて思わず悲鳴を上げる。
「な・・・なにごと・・・」
イゴールさんも動揺して立ち上がると、大きく声を張り上げた。
揺れはすぐに治まったのだが、果てしなく上昇し続けていたエレベーターが停止してしまっていた。
そして、常に聞こえていた歌声とピアノの音の代わりに、真っ赤なランプが点滅して警報が鳴り響いている。
どこかから「あーら、まあ、たーいへん。」という、若い女性の素っ頓狂な声が聞こえてきた。
「よ、様子を見て参ります。」
イゴールさんの横に控えていたテオが、慌てて声のする方に駆けて行こうとするのを、イゴールさんが呼び止めた。
「これ、テオドア。その前にまずお客様をお帰ししなさい。何があったにせよ、これ以上の失礼があってはいけない。」
どこかから白い煙のようなものが漂ってきて、部屋の中が白く霞んでくる。
普段、この上もなく落ち着いた雰囲気のベルベットルームが、大混乱の様相を呈してきた。
「わ、わかりました。それではこちらへ。」
落ち着かない様子のテオに導かれて、私はドアへと向かおうとした。
ところが足を踏み出したところで、いきなり周囲がぼやけてきた。急に足元もおぼつかなくなる。体が浮き上がるような、どこか落ちていくような、ふわふわした感覚にとらわれ、そしてついには目の前が真っ暗になって意識を失った。
はっと気づくとベッドの中にいた。
しかし、謎の事故については鮮明な記憶があるので夢とも思えない。
どうやらベルベットルームからは、なんとか帰還したらしい。
それにしてもいったい何事だろう。あんな夢みたいな非現実な場所で、事故なんて起きるのだろうか。
(テオもイゴールさんも大丈夫かな?)
そう思いつつ窓に目をやれば、外はもう明るくなってきている。
とりあえずベッドを出ようとして、ふと違和感を感じた。
まず第一印象として部屋が妙に殺風景に思えた。気づけば、壁のポスターや飾ってあった人形が見当たらない。
改めて周りを見回すと、ハンガーに月光館の男物の制服がかかっているのを見つけた。
(あれ? これ私の部屋じゃない?)
寮の部屋には違いないのだが、明らかに男性の部屋だ。
(昨日、遅くまでタルタロス探索して疲れてたんで、部屋を間違えたかな?)
しかし、だとしたらこの部屋の主に起こされそうなものだ。
第一、昨夜は ゆかり と部屋の前で別れた記憶がある。男性は2階、女性は3階。それぞれ階が違うのだから、間違えたとは思えない。
では、寝ている間に誰かに部屋を移動させられた?・・・誰に?
首をかしげたものの、見当もつかない。
(まあ、とりあえず着替えてから、状況を確認しよう。)
服を脱ごうとして・・・・またまた違和感。
(・・・・あれ?)
はっとして自分の体のあちこちをさわって確かめる。そして壁にかかっていた鏡を、慌てて覗き込んだ。
細面の整った顔。前髪が長く、右目が隠れかかっている。それは見覚えのない男性の顔だった。
「誰?」
思わずそう言って、硬直した。私の声ではなかった。
(これ私の体じゃない。!)
「えええええ・・・!!」
自分で出した結論に驚いて、声を張り上げる。
(な・・・何が起きたの。体が誰かと入れ替わってる? 有り得ないでしょ、こんなこと・・・。)
困惑して頭を抱えながら部屋の中をぐるぐると歩き回った。
(こんなの非常識だ。・・・非常識と言えばベルベットルームだ。何かあったとすれば・・・やっぱりあの事故のせいに違いない。すぐにテオと連絡取らないと・・・。)
そう考えているタイミングで、机の上に置かれた携帯電話が鳴り響いた。反射的手に取って耳に当て、(あっ・・・でも、これ私の電話じゃない・・・)と思い当たったところで
『私です。テオドアです。』という声が耳に飛び込んできた。
「テオ?」
『大変驚かれていることと思いますが・・・。』
「驚いてるよー。これどういうこと?」
私は情けない声を上げた。
『どうやら事故の影響で歪みが生じたらしく、こちらからお帰りになる際に、他の方の体に戻ってしまったようでして・・・。ご迷惑をおかけして大変申し訳ありません。現在、なんとか復旧のため努力しているところです。ご不便かと思いますが、今しばらくお待ちください。』
原因はベルベットルームの事故ということで間違いないらしい。そしてなんだかわからないが、その何かが直れば、元の体に戻ることができるようだ。
状況が見えてきて、少し気持ちが落ち着いてきた。解決する問題なら、そう慌てる必要はない。冷静になると同時にいろいろなことに頭が回り出した。
「事故は大丈夫なの? 怪我してない? イゴールさんも・・・。」
『ご心配、ありがとうございます。とりあえず、こちらは皆大丈夫です。』
ベルベットルームの住人たちにも問題はないらしい。
「いったい何があったの。」
私は改めて尋ねてみた。
『その・・・ちょっと私の姉がハメを外して・・・あ痛!』
テオドアが話の途中で悲鳴を上げた。
『その・・・姉が粗相を・・・痛!・・・姉上、痛いです。今、お客様とお話し中で・・・。痛!』
電話の向こうで、何か言い争う声がする。どうもテオが誰か、女性に叱られているようだ。
待つことしばし、テオの声が戻ってきた。
『しっ失礼しました。と・・・とりあえず、何とか復旧を急ぎますので・・・。』
「よろしくね。どれくらいかかりそうかな?」
『そらくそちらの感覚で半日くらいか・・・遅くとも夕方までにはなんとか・・・。』
(・・・ってことは今日は、この格好か。)
ともかくそれまではこの男性の体で過ごすしかないようだ。
しかしまあ、そういうことなら、一時的に男性の姿で過ごしてみるのも一興かもしれない。
「ところで、これ誰なの? 寮にはこんな男子はいないよ。」
『えー、説明が難しいのですが、あなたのいる現実には存在しない方です。そこは本来あなたのいらっしゃる現実とは別の現実でして・・・。その男性はあなたの代わりにあなたと同じ役割を担っている方です。』
なんだか急にSFじみた話になってきた。
「えーと、良くわかんないんだけど・・・つまりここは私がいつもいる世界じゃないってこと?」
『はい。そこはあなたのいない世界です。』
「【私だけがいない世界】ってわけね・・・で、代わりにこの男の子がいるのか。パラレルワールド?」
『さすがです。ご理解が早い。その方は男性ですが、あなたと同じ役割を担う同位存在で、やはりベルベットルームのお客人でもあります。』
「そっかー。私の他にもベルベットルーム利用者っていたんだね。」
『はい。その方は私の姉が担当しております。』
私がこの体に入ってしまったということは、この『彼』はどこに行ったんだろう?
「えーと、ひょっとすると、代わりにこの人が私の体に入ってるの? ・・・それはなんだかいやだなあ。」
さすがに自分の体に知らない男の人が入っているというのは、いい気持ちはしない。まあ、お互い様なんだけど・・・。
『その点はご安心を。その方は今、こちらにいらっしゃいます。』
「へ?・・・ベルベットルームに?」
『はい。体に帰れなくなってしまって、こちらで待機していただいております。』
「え・・・じゃあ、私の体はどうなってるの?」
魂の抜けた状態の自分の体が気になった。
『寝ています。』
「・・・寝てるんだ。」
ああ、そりゃそうですよねー。
「じゃあ、まあいいか、直るまで寝かせておけば・・・。とりあえずこっちはなんとかこの体で過ごすよ。」
私がそう言うと、突然に相手の声が女性に代わった。
『く・れ・ぐ・れ・も・その体におかしな悪戯 など、なさらないようにお願いします。』
『あ、姉上・・・やめてください・・・。』
また言い争う声がする。
『でも。私の大切なお客人の あんなところ、や・・・こんなところ、を・・・興味本位でおもちゃにされては困ります。』
という声が聞こえてきた。
「そんなことしません!」
私は思わず赤面して大声で返した。
『と・・・とりあえずそういうことですので・・・ご迷惑をおかけして申し訳ないのですが、よろしくお願いいたします。復旧次第、ご連絡を入れさせていただきます。』
改めて代わったテオが、焦ったような早口でそう言い終えると、電話が切れた。
しばらく電話を耳にあてたまま、私はため息をついた。
ちょっとどきどきしながら座ったままトイレを済ませ、それから制服に着替える。
鏡を見て自分の姿を確認。
(よく見ると、なかなかいい男なんじゃない?)
今日は学校を休んで、部屋で大人しくしていようかとも思った。しかし、いずれ戻れるということであれば、別の世界や男性の目から見る日常にも興味がわいてくる。
人間関係は大体 私と同じだろうから、ぼろを出さないように気を付ければ、なんとかなるだろう。部屋でじっとしているのも性に合わないし、ここはひとつ「異世界探訪」としゃれこんでみようか。
「それじゃあ、行ってみるか。」
まだ時間は早いが、寮を出て学校へ向かうことにした。
『彼』が普段 朝食をどうしているのかわからなかったので、途中、コンビニでおにぎりを買って駅で食べることにした。そしてちょうど食べ終えたタイミングで、ゆかり がホームに上がってくるのが見えた。
「おっはよー。ゆかり!」
つい、いつもの調子で大きく手を振りながら元気よく声をかける。
こちら気づいた ゆかり がギクッとして表情を引きつらせた。
そのまま、その場所に硬直している。
「どうしたの~。こっちが挨拶してんのに・・・。」
返事を返して来ない ゆかり に歩み寄って問いかけると、
「どうしたの、はこっちだって・・・。なにそのテンション!」と返された。
「えっ、どこかおかしい?」
まだ、朝の挨拶をしただけだけど・・・もうボロが出た?
「いや、・・・別にいいけど・・・その・・・ずいぶんキャラが違うんじゃない?」
ゆかり が不思議そうな顔でこちらをじっと見つめてくる。
「あっ、そう? えーと、いつももっと大人しい感じなのかな?」
ゆかり のその視線が気になりつつ、私は聞いてみた。
「何言ってるの? 自分の事でしょ。」
「いやあ、意外と自分の事ってわかんないもんだよ~。ゆかり だってそうじゃない?」
「いや・・・その・・・」
ゆかり が妙に赤くなっている。
「どうかしたの?」
「・・・なんで、急に名前呼び?」
「あ・・・えーと、そういうことか!」
今、私は別人に成り代わっているのだった。
女同士じゃないわけだし、さすがに名前の呼び捨てというのはちょっと気安いか・・・。
「な、なんて呼んだらいいのかな。・・・ゆかりっち?」
「順平かっつーの! いつもは『岳羽』って呼んでるでしょ。
・・・まあ・・・べ、べつに名前で呼んでくれていいんだけどさ。」
ゆかり がもじもじしている。いつも歯切れよくスパッとものを言う彼女らしくない。私は今までこんな素振りの ゆかり を見たことが無かった。
「・・・なんか真っ赤になってるよ・・・? 」
不審に思って聞いてみる。
「だって、恥ずかしいじゃない。そりゃあ、私達、付き合うことになったわけだし・・・名前で呼ばれるの、うれしい気もするけど・・・。」
ゆかり の口からとんでもない言葉が出てきた。
「付き合う・・・私と ゆかり が・・・?」
あっけに取られて、口をぽかんとあけたまま、ゆかり の顔を凝視する。
「何よ~その反応。お互いに好きだって告白し合ったんだから・・・君は私の彼氏ってことでいいんでしょ。」
ゆかり は少しにらむような目つきをしつつも、甘えるような口調で言ってくる。
「あっ、そういうことか!!・・・ わお!」
私は仰天して声を張り上げた。
「な、なによ。」
その反応に ゆかり も驚いた表情を浮かべる。
(『彼』は ゆかり と、そういう仲なのか。しかも、どうやらつい最近付き合いだしたばかりらしい。)
私は意外な展開にただただ驚いていた。
ゆかり は学校でも人気がある。ちょっとキツいところはあるが、美人だし、明るいし、まじめでやさしい。男子に告白されたことも何度かあるようだが、これまであまり興味を示している風ではなかった。
「そっかー、ゆかり って男に興味ないなーと思ってたけど、こういうのがタイプだったのか。」
私は衝撃の事実に感心して、うんうんとうなずいた。
「な~にそれ? ・・・ねえ、なんかさっきから変だよ。妙にテンション高いし・・・自分のことも『私』とか言ってるし。それに、しゃべり方がなんだか少しオカマっぽい。」
「ええ~っ。そうなんだ・・・やっぱそうだよね。」
(元のキャラを知らないから、なりすますのも難しいな。男っぽくするのもよくわかんないし・・・。察するにもっとクールなタイプなのかな。・・・クールってどうすればいいんだろ。)
ちょっと考えて、少し低い声で気障っぽく
「ふっ、悪かったな。機嫌直してくれよ。俺は今日、ちょっと自分を見失ってるのさ。」と言ってみる。
「な・・・何それ。」ゆかり が吹き出した。
「へ・・変・・・キャラが違い過ぎる。」
こらえきれずにとうとう笑いだす。
「あっ・・・やっぱり違うか。うーん。」
私は困って空を見上げた。でもいくら考えてもわかるわけがないのだ。考えるだけ時間の無駄だ。私はすぐにギブアップした。
(わかんないからいいや。素のままでいこう。)
「いや、実はさ。ゆかり が彼女・・・とか意識すると、緊張しちゃってどんな態度を取ったらいいのかわからなくなるんだよ~。そのうちだんだん馴染んでくると思うから、今日のところは少々おかしくても勘弁して。ね!」
「そんな、別に今まで通りでいいのに。そのままの君が・・・す、好きなんだから・・・。でも・・・なんか意識されてるって、ちょっと嬉しいかな。いつもクールなのに、今日は君の違った面が見れてるみたいで新鮮な感じがする。」
やや顔を赤らめて、微笑みながら上目遣いに見上げてくる。目がうるんでキラキラしている。
(うわ~恋してるな~ ゆかり。こんな乙女な顔、初めてみたよ。
あっ、これってなんか言ってあげた方がいいのかな。こういうとき、男子って彼女にどういうこと言うものなんだろ?)
「えっと・・・可愛いよ。 ゆかり。」
今度はなるべく気障にならないように、ぼそっとささやきかけてみた。
「ば・・・馬鹿。」
ゆかり が茹でたように真っ赤になった。
後書き
女性主人公の天然+能天気マシマシでお送りしています。刺激を増やすために男性主人公とゆかりが付き合いだした直後にしてみました。デレデレの ゆかり も可愛いでしょ。
ところでベルベットルームって、体は現実に置いたまま精神だけが訪れている、と解釈しているんですが、その割に現実で購入したものを持ち込んだりする展開もあったりして、微妙に気になります。この小説では体は現実世界にあるということで考えています。
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