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釣瓶落とし

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第二章

「わしが取り除いてくれよう」
「あやかし達を退治してくれますか」
「そうしてくれますか」
「この度は」
「うむ、それではな」
 こう言ってだった、そのうえで。
 柴田は供の者達を連れてそうして妖怪が出るという森に入った、この時柴田も供の者達もそれぞれ腰の刀だけでなく。
 鉞も持っていた、供の者達はその鉞を手に柴田に問うた。
「あの、この鉞は」
「一体何でしょうか」
「あやかしをこれで成敗するのですか」
「頭を割って」
「それはすぐにわかる、しかし頭を割るならな」
 妖怪のそれをとだ、柴田は落ち着いた声で話した。
「刀があるであろう」
「ですな」
「そう言われますと」
「特に権六殿はお力も強いですし」
「剣術もおありです」
「ならですな」
「あやかしの頭もな」
 それもというのだ。
「叩き割ってみせるわ」
「そうしますか」
「その様にしますか」
「刀で」
「その様に」
「だから鉞はそちらには使わぬ」
 妖怪を成敗することにというのだ。
「というかあやかしの頭自体じゃ」
「今回は割らぬ」
「そうして成敗されませぬか」
「それはせぬ」
 こう言うのだった。
「今から言っておくが」
「今から?」
「といいますと」
「ここは」
「どうされるのですか」
「刀は使わぬ」
 この度はというのだ。
「槍も弓矢も鉄砲も持って来ておらぬが」
「では鉞ですか」
「それを使うのですか」
「鉞だけを」
「左様、そうしていく」
 こう供の者達に言うのだった。
「いいな」
「ううむ、どういうことか」
「我等にはわかりませぬ」
「鉞だけを使ってあやかしを倒すとか」
「それは」
 供の者達はわからなかった、彼等の考えではあやかしは刀若しくは弓矢で倒すものだった。これは酒呑童子や大百足の退治の話から考えていることだ。
 だがそれでも柴田は鉞を持って行くだけだ、それでだった。
 釣瓶落としが出て来るその木の傍に来た、妖怪は今は出て来ないが。
 その木の傍に来て供の者達に話した。
「ではこの木を倒すぞ」
「そうしますか」
「あやかしのいる木を」
「そうするのですか」
「そうじゃ、我等全員でな」
 柴田は鉞を右肩に担いで話した。
「そうするぞ」
「あやかしを直接倒すのではなく」
「木をですか」
「木を倒すのですか」
「そうするのですか」
「そうじゃ、あやかしのいる木をな」
 それ自体をというのだ。
「倒す、よいな」
「あやかし自体にそうせぬとは」
「どうも訳がわかりませぬが」
「柴田殿がそうされるというのでは」
「それでは」
 供の者達は柴田がそう言うのならと頷いた、織田家の重臣として戦だけでなく政でも働き生真面目で豪胆な柴田は彼等から深く信頼されているのだ。
 それで柴田の言うことなら頷いた、確かにいぶかしんだのは事実だったがここぞという時はそうなった。 
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