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戦闘携帯のラストリゾート

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怪盗乱麻のサイドチェンジ

 アローラにいたときも、怪盗乱麻としてのお仕事に失敗して撤退したり、ポケモンの力で拘束されたことはある。
 だけど、手錠をかけられるのは人生で初めてだと思う。顔も雨合羽のフードで隠されていて長い金髪も合わせてよく見えない。

「君の言うこと、全て信用できたわけじゃない。だけど、これでいいんだね?」

 緊張したサフィールの声。いつもの茶髪に学生服の姿が握っているのは、怪盗を縛る手綱。両手を縛る手錠の上からさらにロープでわたしとサフィールの手をつなげているので手首が重い。
 わたしのモンスターボールも、全てサフィールの学生服の腰につけられて指示も出せない。
 どう見ても、怪盗乱麻はサフィールに捕らえられている。
 わたしの行動に責任を取る──そうはっきり言ったスズにも協力してもらって、写真付きでこの状況をネットにあげた。お客さん達にも、キュービたちシャトレーヌにも伝わっている。 

「うん。キュービの八百長には付き合えない。怪盗としてのプライドを捨てるくらいなら、捕まって『失敗』してでもあなたやキュービに真剣に向き合いたい。……クルルクも、それでいいって言ってくれると思う」

 あの後すぐにサフィールは納得してくれたわけじゃない。護神に教えてもらったこと。わたしが考えていること、捕まえた後の具体的な計画を話して協力してもらうのにも一悶着あった。
 
【いやー、ラディも大人になりましたねえ】
「大会は放棄して手錠かけられてる怪盗に言うことかしら」
【昔の……いえ、ここに来る前のあなたなら、何が何でも正攻法で大会を勝ち抜いて、派手なトリックで宝を盗もうとしたでしょう】
「……うん、そうね」
【それに、男の子を口説き落として籠絡するなんてスズの目をもってしても】
「真面目に聞こうとしたわたしが馬鹿だったわ」
 
 でも、前のわたしならクルルクみたいに、人前では余裕でどんな状況でも切り抜けるような怪盗であろうとしたはず。
 自分に与えられた役割と自分の心を護るためにシルヴァディを傷つけたみたいに、サフィールのことも無碍にしてしまっていたと思う。
 
「ははっ……確かにすごい説得だったね」
「まさか結局真剣勝負をすることになるとは思わなかったわ……」

 わたしとサフィールが、揃って遠い目になる。
 できるだけ冷静に説得しようとした。だけど全然サフィールが信じてくれないからこっちもついカッとなって。

【『わたしが勝ったらわたしを捕まえて! あなたが勝ったらどこへでもいくといいわ! この意気地なし!!』ですもんね。いやー若いっていいですねー】
「うるさいうるさいうるさい! もう済んだことでしょ!」
「……でも、本当のことだったよ。姉さん達が本気で怪盗を捕まえようとしてないのはオレも薄々気づいてたのに。八百長を告白した君を責めたてたんだから」

 サフィールにとっては、わたしの態度なんて関係なくキュービの思惑を想定していたらしい。
 キュービが安全に何よりも気に配る性格なのを知っているからなのかもしれないけど……何も知らなかったのはわたしだけ。
 そんな彼女は、今頃サフィールがわたしを捕まえたと聞いてどう思っているのか、ラティアスはわたしを心配してくれているのか。
 ……今からやろうとしていることが上手くいくか不安はある。騙されたとはいえ、わたしの身を案じた上での嘘だったんだから身勝手だとも思う。
 それでも、わたしは自分の意志を貫くと決めた。
 用意されたシナリオの模範解答を演じるのではなく、自分の意思で切り開く怪盗乱麻であると。

「もうすぐチュニン姉さんが来る。覚悟はいい?」
「今更引き返せないもの。サフィールこそわたしを捕まえた覚悟、出来てるわよね」

 わたしが捕まったと知ったキュービはあっさりサフィールと対面する要求を飲んだ。
 チュニンを迎えにいかせるから三人でバトルシャトーまで来ること。そこで怪盗乱麻を引き渡し、サフィールと一対一で話すことを約束した。
 迎えに来る時間までは、あと30分くらいある。

【3,2,1。ご到着ですね】
「サフィールッ! いい加減にしなさい! どこまで姉様達に迷惑をかければ気が済むのです!」

 ドアを蹴破る勢いで、真っ赤な髪が怒りで天井に伸びそうなほど振り乱しながらチュニンが部屋に押し入ってくる。
 わたしの安否を確認したら、サフィールを直接殴り飛ばす──そんな意思を隠そうともしていない。

『キュービに大人しく二人を連れてくるよう言われなかったの? チュニン姉さん』
「姉様は、あなたの肩を半端に持つルビアではなくチュニンに頼みました、それが全てです! さあ、大人しく彼女を離しなさい。さもないと」
『オレ達二人を大人しくシャトーまで連れて行け。さもないと──この子を殺す。今すぐ部屋を出て、歩いてシャトーまで向かうんだ。こっちを向くならその度に彼女に傷が付くことになる』

 怪盗乱麻の喉元にナイフを突きつける。
 いくらチュニンの身体能力が異常に優れていても、喉を切り裂くのは一秒と掛からない。
 どれだけ彼女の放つ音の衝撃が鋭くても、この密接した状態で前後不覚にすればそれこそ招いた怪盗乱麻を傷つける可能性がある。

「子供の遊びじゃないんですよ。あなたに他人を傷つけるような蛮勇さがないのはわかって……!?」
『ああそうかよ、じゃあわからせるさ。オレは姉さんの知ってるオレじゃない。あんたなんか姉さんでもなんでもない』

 わたしの体に鈍い衝撃が走って。視界に赤いものが飛ぶ。怪盗乱麻の肩口を突き刺したからだ。

『これ以上こっちを見るなら、もっとひどい傷が付くことになるけど?』

 サフィールの息づかいが、心苦しそうに震える。わたしも望んだこととはいえ、他人に刃を突き立てるのに抵抗があるのは当然だ。
 だけど、チュニンを狼狽させるのには十分だった。

『武術バカで人体に詳しいチュニンなら、これが血糊なんかじゃない本物の怪我だってわかるだろ? よかったよ、あんたが来てくれて』
「ばっ……!? ま、待ちなさい、わかりました。シャトーまで案内しましょう。だからキュービが悲しむことはしないでください」

 やっぱり、わたしのことはどうでもいいらしい。
 文句を言いたいのはやまやま、でも余計なことを言う余裕はない。
 チュニンは肩を震わせ、私たちに背を向けて歩いて行く。わたしたちも……いや、怪盗を引き連れてサフィールも歩いて行く。
 そこからシャトーまでの道のりは、驚くほどスムーズだった。

「道を空けなさい。キュービ姉様の命令で怪盗を城まで連行しています」

 手錠をかけられて歩いているから通行人に詰め寄られたりしたら困るところだけど……無理矢理先導させられるチュニンの雰囲気は、興味本位の野次馬が茶々を入れられるようなものでは決してなくて。
 明らかに言葉が足りていない説明なのに、誰も疑問の言葉を挟むことが出来なかった。ひそひそと、様子をうかがう声が聞こえる。

「本当に捕まっちまったのか?」
「茶髪の子、ポケモンカードゲームのチャンピオンじゃない?」
「あんな怖い顔のチュニンさん、初めて見た……どんな相手だって笑顔で張り倒してたのに」

 重苦しい雰囲気の中をゆっくり歩く。わたしは人前で注目を集めるのは慣れてるけど、サフィールは息苦しそうに俯いている。

(大丈夫?)
(……なんてことないよ。これでもホウエンのカードチャンピオンだからね。何か言われるのは、慣れてる)

 小さく聞こえた返事は、言葉とは裏腹にやはり苦しそう。早くキュービのところにつかないと危ないかもしれない。
 シャトーについてからも、チュニンはゆっくり歩いている。それにしても、随分遅いような。

『……っ、オレ達が気になるんだろうけど。さっさと歩いてよ。傷跡が残ったら悲しむのはキュービなんだろ?』
「あなたが付けた傷でしょう!」
『ああ、それとも。実は勝手に約束の時間を破ってオレ達のところに来たのかな?』
「馬鹿なことを……!」

 チュニンを急かす。彼女は今にも振り向いて拳をたたき込んでやりたいと思っているのがはっきりわかるほど怒りを滲ませながらも、歩調を速めた。

「……キュービ姉様。サフィールと怪盗乱麻をお連れしました」

 そして、前来たときと同じ、キュービの部屋がある大きな扉の前までやってくる。
 あのときは、無断で誰にも見つからないように忍び込んだ。それが怪盗としてあるべき姿だと信じていたから。
 出来ることならそうしたかった気持ちはあるけど……自分の心に嘘はつけない。

『チュニンは下がっててよ。オレは一対一でキュービと話す約束をした。あんたがいると邪魔だ』
「どうして……どうしてこんなやつに捕らえられたのです!! あなたは幼くとも誰より怪盗としての自分を大切にしていたのではなかったのですか!」

 言葉に耐えかね、矛先を変えるようにわたしを糾弾する。
 チュニンにも、キュービを慕う理由はあるしその気持ちは本物なんだろう。
 今のわたしは答えることが出来ない。どう切り抜けた物か考えたとき、部屋の奥から鈴を転がすような声がした。

「ありがとう。私の強くて優しい妹。……後は、約束通りに。あなたならできるわよね?」

 チュニンは頷いて扉を開ける。巨大な扉がゆっくり開くとともに、彼女はわたしたちを一瞥して下がっていった。
 
(……いくよ、あなたを蔑ろにし続けた家族に会いに)
(行こう、君を騙した女城主にけじめを付けるために)

 私たちは、部屋の中に入っていく。
 そこには、初めて会ったときと同じように。喪った片目を眼帯で隠し、誰よりも優しい表情で微笑むキュービがいた。その首元にはルビーとサファイアが勾玉のようにネックレスとして付けられている。大会の開会式で見たものと違いない。


「小さな怪盗さん。本当に残念です。わたくしは、貴女にもお客さんにも心置きなく楽しんで貰えればと思ってお呼びしたのに、怪我までさせてしまって……」


 その声に、表情に、一切の演技も偽善も感じなかった。あの日フロンティアで傷つけられた女の子は、記憶を失ってもトラウマを抱えたままここにいる。
 誰かに傷つかずに遊んで欲しくて色々手を尽くしてくれている。ポケモンカードのシステムも、わたしを招いた八百長も。
 ……きっと、サフィールを頑なに遠ざけてきたのも。

『謝る暇があったら約束を守ってくれないかな。オレと管理者が一対一で話す。怪盗とお喋りしろなんて言ってない』

 彼は間髪入れず要求した。息が荒い。弟である自分を目の前にしてさえ、キュービの目は彼を見ていない。

「はい。ですが約束はこうですね? 話をするのは、怪盗を離してから。さあ、彼女を解放してください。それすれば約束を守りましょう」
『わかった。……じゃあ、そっちに行かせるよ』

 サフィールが、わたしと繋いだロープを放す。解放された怪盗はゆっくりと、キュービを刺激しないように彼女の元に歩み寄った。

「ああ、男の子と二人きりで手錠をかけられて。どれだけ心細かったでしょう。ごめんなさい、こんなはずじゃ……」

 その言葉は、怪盗乱麻にもアッシュ・グラディウスにも向けられていない。
 キュービ自身が気づいていないだけで、痛かったのも心細かったのも子供の頃の彼女自身に言っている。
 ……少なくとも、わたしは痛くもないし心細くなんてなかった。
 あなたたちに騙されて自分の気持ちを踏みにじられたときの方が、よっぽど苦しかった。
 それに、このリゾートを巡る物語で一番苦しかったのはわたしじゃない。

『二人きりで話をしようか。姉さん。オレはこのときを十年待ったよ』
「ええ。ですが怪盗を解放した後、いつどこで話をするとは言っていませんね?」
『……は?』

 部屋に吹き抜ける一陣の風。それがポケモンの力でなくただ人間が走る速度だとリゾートに来る前のわたしならとても信じられなかっただろう。
 一度は部屋から出て行ったチュニンが、目にもとまらぬ速さで一人になったサフィールをたたき伏せんと猛烈に迫ってくる。

「捕まえましたよ、愚弟! あなたの我が儘もここまでです!!」
『がっ……!!』

 一瞬で地面にたたき付け、腕をねじり上げて関節を極める。背中を踏みつけ、一歩も動かすまいと全力を込めているのが伝わる。

「いずれ、あなたが大人になってわたくしたちと関係なく自分の人生を生き、その上でわたしと話したくなったら。そのときは二人きりで話すと約束しましょう。今は残念ですが、さようなら」

 我が儘なのはどっちなのだろう。誰も傷つけないために相手を騙してでも安全に生きて欲しいと願う大人と、自分が傷ついて、周りに迷惑がかかってでも自分の意思を貫きたいと願う子供と。
 自分が絶対正しい、とは今のわたしには言えない。スズもクルルクも、周りを優先して動いていたから、自分だけが我が儘な気もする。
 
『……ねえ、ラティアス。今も見てくれてるよね?』

 わたしに心を盗まれたと言ってくれた護神。キュービの事は大切だけど今の彼女は間違っていると。あなたならキュービの過ちを正せるかもしれないと。
 ひゅううん、と澄んだ鳴き声が聞こえた。その声は、わたしを責めてなんかいない。

「……ありがとう、ラディ。君という怪盗が来てくれなかったら、オレの願いは叶わなかった」
「こちらこそ。サフィールがわたしを捕まえようとしてくれなかったら、わたしはキュービの八百長に従うしかなかったもの」

 怪盗乱麻に手錠は掛かり、捕まったことも知れ渡った。今はモンスターボールもなく女城主の傍らに。
 もはやキュービの用意した華々しく宝を盗み出すシナリオは崩壊した。
 それでいい。それでもいい。スズもクルルクも、わたしの決断を赦してくれた。サフィールも納得してくれた。

「悪いけど、そんな悪徳企業みたいな言い分はあんたには似合わないんだよ。オレは二人きりで話をすると決めた。誰だって例外じゃない! サーナイト!」
「その声は……まさか!?」

 サフィールの声は、キュービの隣から。
 金髪のウィッグと顔や体を隠す雨合羽のフードを外し、茶髪の少年がチュニンの目の前に。肩から血を流して息を荒げたまま、カードゲームのチャンピオンは己の武器を抜き出す。
 呼び出されたサーナイトがチュニンとわたしを大きなドアを越えてテレポートさせた。

「時間稼ぎのつもりですか! 姉様、今行きます!」
「怪盗は狙った宝を決して逃さない。さあ──怪盗乱麻の戦闘携帯を始めましょう! スターミー、扉を塞いで!!」

 わたしの声は、チュニンの下から。茶髪のウィッグとホウエンの学生服を脱ぎ捨て、怪盗乱麻としての衣装に戻る。頭に付けた小さくなったスターミーが、念力でドアを固定する。
 チュニンが裂帛の気合いを込めて拳をたたき込むが、ただでさえ重たくて大きなドアを念力で固定されたら人の拳で突破するのは無理だ。
 その隙にわたしは立ち上がり、さらにシルヴァディを出して不意打ちに備える。

「あなたという人は……! 最初からグルだったのですか!」

 そう。彼に捕まえてと頼んだ時、同時に入れ替わりを計画した。
 クルルクがわたしに変装していたときの道具を借りて、サフィールを怪盗乱麻に。そしてわたしは自前の変装道具でサフィールの姿と声を模す。
 完全に男の子になりきるのは少し苦労したとはいえ……彼も協力してくれたからバレないように演技が出来た。チュニンにこっちを向かないよう指示したのも半分はそのためだ。
 だけど、今わたしが怪盗乱麻として言うべきこと、やるべきことは別にある。

「ええそうよ、怪盗乱麻が宝を盗むためには、彼の協力が必要だった」
「馬鹿なことを! 余計なことをしなくても、キュービが……はっ!?」

 わたしが人差し指を唇にあて、周りに目配せするとチュニンも周囲の状況に気づく。わたしたちの周りには、たくさんの野次馬が集まっている。そんなところで八百長計画は話せない。
 人が集まっている理由は簡単だ。さっきまでチュニンと一緒にリゾートの大通りを歩いてきた。お客さん達は当然、わたしたちを追ってくる。
 この計画のおかげで、今リゾートの注目は全てわたしのいる場所、キュービの部屋の前に集まっている。

「わたしは考えたの。今回の宝『緋蒼の石』はどこにあるのかって。盗まれないよう地下深く? そんなわけないわよね」

 チュニンはわたしと初めて会ったとき、地下の金庫にしまってあると言っていた。
 だけどキュービは宝を盗まれたくないわけじゃない。むしろ派手に盗ませたいんだ。地下深くでは目立たない。

「……何を言うかと思えば。さっきキュービが首元に宝石をかけているのを見たでしょう!」
「それこそあり得ないわ。あの人は本来人前に出る役目じゃない。荒事だって向いてない。そんな人に宝を持たせて。わたしが入れ替わってなくてキュービに近づいた隙にひったくりみたいに盗んだらどうするの? それにわたしとは関係ない普通の泥棒が盗みに来ないとも限らないし」

 宝の管理者が直接持つというのはよくある話だけど、キュービの立場を考えるとこれも違う。開会式で見た宝石も偽物だ。
 
「予想外で、しかもわたし以外には盗まれないような安全な宝の隠し場所。それはリゾートの中で、一番強い人間に持たせていればいい。さっき後ろを歩きながら観察したけど……『緋蒼の石』は、あなたの懐にある。違う?」

 チュニンの表情がゆがむ。どう見ても図星だ。憤慨しているのを、必死に押さえ込んでいる。

「今ここであなたに勝って、宝は頂いていくわ! レイ、銃の戦闘携帯に!」

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 ボールの中から登場したツンデツンデが電光掲示板みたいに光って同意してくれる。自分の形をリボルバーのように組み替えてわたしの手に。
 そして、わたしの体をまるで変身ヒーローみたいに灰色の装甲で覆い、頭にはシャープなヘルメット。顔の表面とまとめていた長い金髪だけが露出する。

「いいでしょう、チュニンも我慢の限界です。アローラにおけるポケモンの力を借りて人間同士が直接戦う【戦闘携帯】になるということはチュニンと直接殴り合う覚悟をしている、ということですよね」

 わたしに向き合って腰を落とす。赤い長髪が、燃えるように揺らめく。

「泣き虫の女の子を殴るのは弱い物いじめをするようで心が痛みますが……ええ、姉様の慈悲を無駄にしたサフィールにもあなたにもお仕置きは必要ですよね。なら、容赦なくぶん殴ります!!」

 どう考えても最後の言葉だけが本音だ。大体わたしが最初に予選で負けて泣きそうになったからって泣き虫の女の子という言葉を持ち出してくる時点で性格が悪い。
 でも、逆に好都合だ。

「そう、本気でやってくれるのね──おかげで、心置きなくあなたを倒して奪い取れる!」 
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