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戦国異伝供書

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第八十八話 初陣その十

「ですから」
「それでよいか」
「はい」
 返事の調子は変わらなかった。
「それで」
「では今よりじゃ」
「敵の兵達を攻めますか」
「今も街に火を放っておるな」
「そこを衝くのですな」
「火点けに夢中で我等に気付いておらぬ」
 敵のそのことも見て言う。
「だから今じゃ」
「そこを攻めて」
「そしてじゃ」
「破りますか」
「そうする」
 まさにというのだ。
「よいな、行くぞ」
「わかり申した」
 元網も応えてだった、そうして。
 元就は法螺貝を吹かせ喚声をあえて大きくあげさせたうえで街に火を点けることに夢中になっている敵に襲い掛かった、そうしてだった。
 彼等を散々に破った、その後ですぐに有田城の方に戻った。その時にだった。 
 志道が来てこう言ってきた。
「よくぞです」
「この度の戦のことはか」
「事実上初陣になりましたが」
 元就のそれにというのだ。
「ですが」
「うむ、何とかな」
 志道に微笑んで話す。
「勝った」
「いえ、兄上の采配で」
 ここで元網が笑って話した。
「快勝でしたぞ」
「そう言うか」
「初陣とは思えぬまでの見事な采配で」
「それがしもお話を聞きましたが」
 志道も言うのだった。
「お見事でした」
「いや、それはな」
「思いませぬか」
「緒戦に勝ったに過ぎぬ」
「これよりがですか」
「正念場じゃ、ただ民を救えたことはな」
 街を火を点ける敵兵達を退けてだ。
「それが出来たことはな」
「よかったと」
「そのころは喜んでおる」
 元就は笑って話した。
「やはりな」
「そのこと自体は」
「うむ、それでじゃが」
「これよりですな」
「武田家の本軍と戦う」
 有田城の前にいる彼等と、というのだ。
「そうする」
「左様ですか、ですが」
「武田家の軍勢は四千、対してな」
「我等はですな」
「千じゃ」
 これだけだというのだ。 
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