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戦国異伝供書

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第八十八話 初陣その九

「そしてな」
「はい、あの平家物語の」
「一ノ谷の時のですか」
「平敦盛公を討った」
「あの熊谷公のご子孫ですな」
「この戦に来ておられるのはわかっておった」
 このことはというのだ。
「しかしな」
「それでもですか」
「まさかあちらに来ているとは」
「多治比にとは」
「思わなかった、しかしおるのなら」
 それならとだ、元就はあらためて言った。
「相手に不足なし」
「あの熊谷家の方なら」
「まさにですな」
「それではですな」
「これから攻めまするな」
「そうする、しかし」
 ここで元就は周りを見た、すると。
 続々と兵が集ってきた、その中には吉川家の二百の援軍に。
 弟の元網もいた、彼は元服してすぐだが兄のところに来て下馬して言ってきた。
「兄上、それがしもです」
「馳せ参じてくれたか」
「共に戦わせて下さい」
「お主も初陣であるな」
「はい」
 元網はその若々しいまだ子供の様な顔で元就に答えた。
「兄上と同じですな」
「そうであるな、では共にな」
「初陣を飾りましょう」
「そうしようぞ」
「我等もです」
 他の者達も元就に言ってきた。
「及ばずながらです」
「猿渡の志道殿から文を頂きました」
「こちらに向かわれていると」
「それでお助けに参りました」
「我等も共に」
「そうか、あの者が知らせてくれたか」
 元就は志道の名を聞いて思わず笑みになった、見ればそこには毛利家の代々の重臣の家の者達が揃っている。
 その彼等を見てだ、元就は言った。
「頼りになる、まるで漢の宰相じゃ」
「といいますとあの」
「うむ、蕭何じゃ」
 こう元網に話した。
「漢の高祖を助けたな」
「あの勲功第一という」
「あの宰相の様な働きじゃ」
「この度の志道殿は」
「よくやってくれた、百五十の兵でも充分破れたが」
 その策は既にあったがというのだ。
「これだけいればな」
「万全ですか」
「お主達もおるしな、だからな」
「この度は、ですか」
「まずは多治比で勝ちな」
「そして、ですな」
「それからな」
 さらに言うのだった。
「有田城の方の武田家の本軍もな」
「破りますか」
「その様にする」
「ではこれからの戦は」
「緒戦になる、しかしな」
「その緒戦に」
「勝って意気をあげ」
 そしてというのだ。
「そこからな」
「さらにですか」
「有田を攻める」
「すぐに」
「それでよいな」
「それがしが言うことはありませぬ」
 元網はこう兄に答えた。 
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