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とある星の力を使いし者

作者:wawa
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第164話

朝になった。
制理は眼を開けると、窓にかかっているカーテンの間から太陽の光が洩れている。
大きく欠伸をしながら起き上がる。
隣にいる筈の麻生の姿はない。
近くの時計を見ると七時頃を指していた。
部屋を出てリビングに向かうと、椅子に座ってコーヒーを飲んでいる桔梗が居た。
キッチンには麻生が朝食を作っている。

「あら、おはよう。」

制理に気がついた桔梗が声をかける。
目元にクマがない所を見ると、よく眠れたらしい。
制理は知らないが桔梗も、制理が寝た頃に麻生のベットに忍び込んでいる。

「おはようございます。」

制理自身も熟睡できたので、体調はすこぶるいい。

「牛乳ってありますか?」

喉が渇いた制理は桔梗に尋ねる。
彼女自身、朝の牛乳は健康の為に欠かさず一杯は飲むようにしている。

「冷蔵庫に入っている。」

桔梗の代わりに麻生が答える。
それを聞いた制理は棚からコップを取り出して、冷蔵庫から牛乳を取り出す。
牛乳を注いで、一気に飲みをする。

「よく眠れたか?」

その言葉で自分は麻生の隣で眠った事を思い出し、顔を赤くする。
それでも小さく頷いた。

「なら、良かった。」

少しだけ笑みを浮かべて麻生は朝食の準備を再開する。
作っているのは目玉焼きだ。
再び牛乳を注いで、椅子に座る。
少ししてから麻生が作った朝食が運ばれる。
ベーコンが入った目玉焼きにトースト。
レタスなどの野菜を添えた、シンプルな朝食だ。

「そう言えば、恭介が作った朝ごはんを食べるのは初めてね。」

「言われてみればそうだな。
 俺達は昼が学校だが、昼食はもう作ってある。
 冷蔵庫の中にあるからレンジで温めて食べてくれ。」

「ありがとう、美味しくいただくわ。」

「制理、俺の朝食はどうだ?
 一応、栄養のバランスなどを考えて作っているんだが。」

制理は健康器具を集めたりなどをする健康オタクだ。
だから麻生も栄養のバランスなどを考えて朝食を作った。

「うん、美味しいしバランスも良いと思う。 
 作って貰っているから、偉そうなことを言える義理はないけど。」

「口にあったみたいで良かった。」

朝食を食べているとテレビのニュース番組がある事について報道していた。
ローマ正教と呼ばれる外の科学結社が、学園都市に戦争を仕掛けてくるという内容だ。
その内容を見て麻生は少しだけ眉をひそめ、桔梗と制理はそのニュースを見て何かを考えている。

「恭介、ローマ正教についてなんだけど。」

桔梗が思い切って口を開ける。

「私達を襲ったあの連中の事を指しているの?」

少し怯えながら桔梗は聞く。
あんな化け物を操る奴らが来たら、と想像してしまったのだろう。

「大丈夫だ。
 あいつらはローマ正教じゃない。
 別の集団に所属しているから、戦争には関係ない。」

その言葉を聞いて二人は少しだけ安堵の表情を浮かべる。
二人の表情を見て麻生は思う。

(まだ話す時じゃない。
 せめて、愛穂が戻ってくるまでは短い間でも、平穏な生活を過ごしてほしい。)

朝食を食べ終わった。
これから麻生達は学校に向かうので、皿洗いは桔梗が引き受けてくれた。
その間に制服に着替えて、学校に向かう準備をする。
すると、麻生から赤い巾着袋を渡される。

「昼の弁当だ。」

「作ってくれたの?」

「これがないと購買とかで買う羽目になるだろ。」

麻生の手作り弁当を貰って内心は嬉しい制理だが、素直にその気持ちを言葉にする事ができない。

「あ、ありがとう。」

小さく呟き、顔を赤くするだけでそれ以上の事は言えなかった。
麻生は特に気にすることなく、鞄を持つ。

「ほら、行くぞ。」

「ちょ、待ってよ!」

「いってらっしゃい。」

麻生と制理はマンションを出て、学校に向かう。
二人は並んで歩いて向かうが、会話がない。
制理自身、何か話さないといけないと思っているのだが、考えれば考えるだけ頭が真っ白になる。
二人っきりという状況がさらに、制理の頭をさらにパニックに陥れる。
こうして見ると、制理も恋する乙女である事がよく分かる。
結局、ロクに言葉をかわす事なく学校に着いた。
クラスに入ると、クラスの女子生徒達は制理に心配そうな顔をして近づいてくる。

「制理、体調はどう?」

「うん、もう大丈夫。
 昨日はありがとうね。」

制理が女子生徒と話している内に麻生は自分の席に座る。
ある程度離れた所を女子生徒達は確認すると、ニヤリ、と笑みを浮かべて聞く。

「それで、麻生君とはどうなったの?」

「ふぇ!?
 ど、どどど、どうしてそんな事を聞くのよ!?」

「昼休みからずっと制理の傍にいて、制理も麻生君の手を繋いで、これは何かあったて事でしょう。」

「私達、昨日からずっと気になっていたんだから、さぁ色々と聞かせてもらうよ。」

「何もないわよ!
 ある訳がないでしょう!
 恭介(・・)と私の間にそんな事がある訳が!」

決定的な発言をクラスの全員(一部の除く)は聞き逃さなかった。
吹寄制理は基本的に男性の名前を呼ぶときは、名字か貴様、と呼ぶ。
そんな制理が麻生の事を恭介、と名前で呼んだのだ。
女子生徒だけではなく、男子生徒も制理に集まって聞いてくる。

「まさか、あの難攻不落の吹寄城が破壊されたのか!?」

「カミジョー属性も受け付けない鉄壁の吹寄がか!?」

「アソウ属性、もはやコイツに落されない女性は存在しないのか。」

「何なんや、アソウ属性って!
 僕も女の子にモテたいのに、何でキョウやんに全部持って行かれるんや!!」

「本当に麻生君と何かあったのかしら。」

「私は麻生君を狙っていたけど、制理だったらお似合いかも。」

と、生徒達であれやこれやと噂話をする。
しかし、彼らの発言もあながち外れていない。
だからこそなのか。
顔を真っ赤にして慌てて言う。

「だ、だから!
 何ともないって言っているでしょうが!!」

「顔を真っ赤にして言われてもね。」

「うん、説得力が全くない。」

余計に彼らの噂を広げてしまったようだ。
彼らが制理の事で盛り上がっている最中、麻生の元には上条と姫神が居た。

「それで。結局のところはどうなの。」

姫神も結構興味があるのか、制理ではなく麻生に聞いてくる。
麻生自身はそんな話に興味ないのか、そっけない態度で答える。

「どうでもいいだろ、そんな事。」

「それ。彼女が聞いたら悲しむ。」

「でも、恭介が青春を謳歌する所は全く想像できない。」

「それには同意。」

「お前ら・・・・」

結局、小萌先生が教室に着くまでは騒ぎは治まる事はなかった。





そんなこんなで昼休みである。
制理は少し周りの視線を気にしながらも、麻生が作ったお弁当を取り出した。
教室の中には弁当組しかいない。
購買組や学食組の連中は、授業が終わると同時に走って教室を出て行った。
廊下では走っている生徒に小萌先生が、注意している声が時折聞こえる。
しかし、男子生徒のほとんどが購買組と学食組だ。
彼らが帰ってくる前に弁当を食べ終えれば、さらなる荒波を立てる事はない。

「珍しい。お弁当。」

と、弁当組の姫神が制理が持っている弁当を見て言う。

「う、うん。
 早く起きたから、作ってみたの。」

「でも。前に弁当の話をした時。作るのが面倒って言ってた。」

「うっ・・・・い、いつも秋沙の弁当を見てパンとか食べていたから、興味が湧いたの。」

話をしながら考えた。
弁当は自分で作ったと言い張ればいいのでは、と。
姫神が言った事は嘘ではない。
実際に作るのが面倒だから、パンとか買って食べていた。
いつもパンなどを食べている制理が、弁当を食べたら不審に思われるだろうが、さっき言ったように言い訳を言えば何とか乗り切れる。
そう考えていた制理だった。
しかし、その幻想は一瞬でぶち殺された。

「制理、俺の作った弁当の味はどうだ?」

後ろから麻生の声が聞こえて、制理の表情が凍る。
もちろん、その発言を聞き逃すクラスメイトではなかった。
瞬く間に、制理の周りに生徒達が集まる。
朝のような騒ぎになってきた。
制理はわざとやったのではないか、と麻生を疑う。
麻生は麻生で制理の周りに人が集まってきたのを見て、面倒事が起こると感じ自分の席に戻る。
麻生が席に戻ると、すぐ傍では上条が自分で作ったであろうお弁当を食べている。
その後に騒ぎから抜け出してきた、姫神が前の座席の椅子を使い座る。

「騒がしくて。落ち着いて食べれない。」

「どうしてあんな風に騒ぐのか理解できない。」

「恭介って結構この学校では有名だぞ。」

「それは初耳だな。
 興味ないけど。」

「貴方も弁当。珍しい。」

「昨日のご飯の詰め合わせだけどな。
 姫神は朝から弁当を作ったのか?」

「習慣づけてしまえば。それほど苦労する事もない。」

「その野菜の天ぷら上手そうだな。」

「分けるおかずはない。
 やるならトレード。」

そう言って、姫神は野菜の天ぷらをお箸で摘まんで、上条のお弁当に入れる。
対する上条はお弁当の中から、あんまり形の良くない、単身赴任のお父さんが仕方がなく料理を覚えました的な里芋をもらう。
それをちょっと眺めて、口に運ぶ。
上条も貰った天ぷらを食べる。
塩で味付けされていて、とても美味しいかった。
朝から揚げ物を作る所を見ると、努力家なのかもしれない。

「うん、悪くないかも」

言いかけた所で、姫神が唐突に『むぐっ!?』と呻き声をあげた。
喉に手を当てているところを見ると、喉に詰まったらしい。

「だっ、大丈夫か!?」

上条が思わず大声で言っても、姫神から返事はない。
ペットボトルのミネラルウォーターに手を伸ばす姫神は、やや涙目だ。
上条はうろたえたが、姫神は空いた手を自分の背中に回しているのを見て。

「え、何だ。
 さすった方が良いのか!」

上条は長い髪に覆われた姫神の真ん中に手を当てて、どれくらいの加減で良いのだろうかと優しく上下させる事にしたが、姫神の苦しそうな震えは収まらない。

「くそっ!
 これはもう保健室に連れてった方が!」

「大袈裟だな、おい。」

二人のやり取りを観察しながら麻生は言う。
ちなみに全く心配はしていない。

「むぐ。もぐぐ。」

「あ、そうか。
 もっと強くか!?」

後ろに回した手で背中の真ん中辺りを指さしつつ、小刻みに首を縦に振る姫神。
上条は一刻も早くこの状態から姫神を助けるため、もう無我夢中で彼女の指示通りに強く背中をさすったが、ぷちっ、と。
ブラのホックが外れるイレギュラーな感触が上条の指に伝わった。
その途端に姫神は無言で拳を握ると、それを上条のお腹の真ん中へ容赦なく突き刺した。
ズドム!!、というとんでもない音と共に上条の身体がくの字に折れ曲がり、そのまま床に転がった。
姫神は胸の辺りを押さえて化粧室へと走っていく。

「何やってんだか。」

「ふ、不幸だ。
 言われたとおりにしているだけなのに。」

麻生はそのやり取りを見て、呆れたような口調でいい、上条は泣きそうな声で呟いた。
それでも数々の不幸な出来事に巻き込まれてきた上条だ。
お腹を押さえながらも、弁当を再び食べ始める。
麻生は窓の外を見つめている。
昼休みの生徒達の過ごし方は様々だ。
食後にいらなくなったプリントを丸めてキャッチボールをするやつもいれば、ご飯を食べながら携帯電話のテレビ機能を使ってバラエティ番組をチェックしているやつもいる。
しかし、ここ最近の話はあることに共通していた。

「戦争って本当に始めるのかよ。」

生徒の何気ない言葉。
その言葉を聞いて上条は口に運んでいた箸を止め、麻生は窓から教室内に視線を移す。

「恭介、戦争って始まるのか?」

小さい声で麻生に話しかける。

「ヴェントを倒したんだろ。
 神の右席である一人を倒したんだ。
 相手は本腰を入れてくるだろうな。」

「・・・・・・」

「まさか、ヴェントを倒したのを後悔しているとか、思っていないだろうな。」

「そんな事は思っていない。
 ただ、戦争にならないようにもっと方法があったんじゃないんかなって。」

「それはお前が考える事じゃない。
 それらは土御門たちのような奴の仕事だ。
 お前は自分のするべきことをしたんだ。」

「もしかして、慰めてくれている?」

「・・・・・・・」

麻生は完全に視線を逸らして、無視する。
それを見て少しだけ嬉しくなったのか、弁当を食べ始める。
教室内では中間テストが無くなるかもしれない、という噂を聞いて喜んでいたり。
一端覧祭に影響が出ないのか、心配の声も上がっている。
世間では戦争やらなんやら、と噂されているがそれが具体的に自分達の身に降り注ぐ、という所までは想像が働かない。
あんな血みどろな戦いを緻密に想像できるような環境になってしまえば、もう終わりだ。

「そうならないようにしないとな。」

「頑張れよ。」

思わず口に漏れた発言に麻生が言う。

「手伝ってくれないのかよ。」

「俺は俺の為に戦う。
 その戦争が俺の為の戦いになったのなら、手伝ってやるよ。」

上から目線の発言だが、上条は不快に思わなかった。

「戦争が始まると、野菜や肉が高騰するんだよな。
 もっと節約をしていかないと。」

購買でパンを買った運動部が教室に戻ってくる。
彼らの話も今話題の戦争についての話だった。
彼らの高騰の話の聞いた上条は。

「クローン食肉とか野菜の人工栽培とかやっているから大丈夫じゃねぇ?」

「それだけでは、学園都市に住む生徒や教師の食事を賄えないだろ。」

「んじゃあ、鍋とかは早めに食べた方が良いか。
 値上がりしてからじゃあ、食べられないし。」

二人の会話に膝枕で耳かきなんて存在するしないなどいう、くだらない談義をしている土御門と青髪ピアスが談義をやめて入ってくる。

「カミやんは今日は鍋にすんの?」

土御門が続けて言う。

「にゃー。
 すき焼きだったら安くて美味い店を知っているぜい。」

その会話が伝播していき、隣にいた生徒も加わる。

「一〇月なのに鍋って早すぎないか?」

そこから一気に話は広がっていく。
制理を囲んでいた生徒達もこちらの話に加わってきた。

「お前ら今日はどっか店に行く訳?」

「美味しい店の独り占めとは許せませんな。」

「俺はむしろ鍋より焼肉の方が好みなんだが。」

「待て待て。
 皆で金を出すんだから多数決で決めようぜ!」

あれ?、と上条は目を点にする。
話題の中心だった上条は置いて行かれ、話が勝手に進んでいく。
何を食べに行くのか、ウェイトレスさんは巨乳がいいとか、様々な意見が飛び交っている。
話題から逸れた制理は疲れたような表情をしていた。

「恭介のせいで疲れたじゃない。」

「あの発言でああなるとは思わなかった。」

「てか、吹寄さん。
 この騒ぎどうしましょう?」

おろおろしながら上条は制理に聞く。
大きくため息を吐いて、顔を洗うように両手で表情を隠し、その両手で一気に上に上げて頭の後ろへ回して、耳に引っ掛けていた髪を完璧な形でオールバック状に整えたのち。さらにいくつかのヘアピンで固定していく。

「お弁当はあとで食べるとして。」

彼女は教壇に向かっていく。
彼女の本気の姿を見て、上条は思わず叫んだ。

「吹寄おでDXッッッ!?」

「さあ!!
 このあたしが面倒を見てやるからさっさと清き一票を入れなさいッ!!」

あんまり綺麗に掃除されていない黒板をドバンと叩いて大声を出す。
この騒ぎは小萌先生が入ってくるまで収まらなかった。
ちなみに今夜はすき焼きに決定した。 
 

 
後書き
今年最後の投稿です。
皆さん、良いお年を!

感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。 
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