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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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無印編
  第32話:三つ巴の争奪戦・その4

 
前書き
どうも、黒井です。

今回で戦闘パートは終了です。 

 
 颯人の口から明かされた事実…………それは奏達は勿論了子にすら内緒で、デュランダルを記憶の遺跡に颯人の魔法で移送し終えていたと言うものであった。

 完全に想定を遥かに超える話に、奏は当然颯人に食って掛かった。

「何でそれアタシらに言わなかったんだよッ!?」
「よく言うじゃん、敵を騙すにはまず味方からって」
「だからって……って言うかそんな勝手に……あっ!? ミーティングの最後に旦那を呼んだのって――!?」
「ピンポンピンポーン! あの後おっちゃんを説得して何とか納得してもらったのよ。先方に魔法で物だけ置いとくにしても、信用できる方法で証明しとかないといけないからさ」

 あっけらかんとした様子でいけしゃあしゃあと告げる颯人。彼のカミングアウトに、奏は頭痛を覚えて額に手を当てて天を仰ぎ見る。

 その一方で、響は先程の颯人の言葉を思い出していた。

「あ~、だからさっきあんな事を…………」
「あんな事? 響ちゃん、それって――?」
「さっき颯人さんに助けてもらった時、いざって時はケース捨てちゃえって言われてて。その時は駄目って言ったんですけど、中身偽物ならそりゃ価値なんて無いですよね~」

 そう言って響は思わず乾いた笑い声を上げる。まぁ必死こいて守ったケースが、実は中身が偽物だったと知らされたらそうもなるだろう。

「一体何時すり替えたんだよ?」
「出発前に便所行った時、ちょちょっと。今頃は……記憶の遺跡、だっけ? も軽く騒ぎになってるんじゃね?」
「じゃねって、お前なぁ…………」

 もう何かを言う気も失せて項垂れる奏だったが、一方で収まりがつかずにいる者も居た。

 メデューサである。徹頭徹尾、颯人の掌の上でまんまと踊らされた形になった彼女は、怒り心頭と言った様子であった。
 その怒りっぷりと言ったら正に怒髪天を衝くようであり、戦闘に関してはズブの素人である裕司の目にもメデューサから怒りのオーラが立ち上っているのが見えていた。

「貴様ぁぁぁ!?」
「お? 何? もしかして怒った?」
「そりゃ怒るわよ」

 恐らくメデューサでなくとも怒るだろう。コケにされただけでも怒りを覚える理由としては十分なのに、この上更に颯人はメデューサを煽るような物言いをしているのだから質が悪い。

 尤も奏に言わせれば、あれはワザと煽っている可能性が高かった。ああやって、相手を怒らせるなどして冷静さを奪って自分のペースに持って行くのは颯人の常套手段だ。

 人間の心理を口先手先で誘導し自分のペースに巻き込むことに関して、颯人はそこらの詐欺師など相手にならないくらい優れていた。

 ある意味不本意ではあるが、そこら辺の能力に関して奏は颯人の事を認めていた。

 勿論、何時かはそう言う方面でも颯人に勝ちたいと言う思いを諦めるつもりは毛頭なかったが、それが叶うのは何時になる事やらである。

「ウィザード……貴様、覚悟は出来ているだろうな?」
「それはこっちのセリフ。お前こそ、今度と言う今度こそボッコボコにしてやるからな?」

 そんな事を奏が考えていると、いよいよもってメデューサが颯人に仕掛けるつもりらしい。颯人の方もそれを迎え撃つ気満々で構えている。
 妙に颯人が好戦的なのが気にはなるが、メデューサを倒せば他のメイジは統率を失うことが明白なので奏もそれに助太刀すべく彼の隣に並び立つ。

 響は了子と共に弦十郎の元へ向かい、彼らを守れるように身構えた。荷物が無くなって身軽になってしまえば、先程に比べればずっと立ち回り易い。

 クリスは目的の物がここに無いと分かったからか、既に撤退を考えているらしくソロモンの杖を畳んで腰の後ろに仕舞って周囲を見渡している。

 この戦いも漸く終わりに向かうかと弦十郎らが思ったその時、一気に三つの出来事が起こり流れに変化が生じた。

「よぉ、メデューサ。楽しそうにしてんな?」
「ヒュドラか? 今までどこで油を売っていた?」
「ちと雑魚が鬱陶しくてよ」

 まず最初に起こったのは、新たな幹部の参戦であった。上空で弦十郎のヘリに乗り込んで撃墜させた、ヒュドラがこの場にやってきてしまったのだ。

 厄介な奴が増えたことに颯人は仮面の奥で顔を顰めるが、すぐにそれどころではなくなった。

「ん、通信? どうした、藤尭?」

 突然の本部からの通信。オープンチャンネルだったが故に颯人の耳にも入ったその通信の内容は、彼を驚愕させるに足るものであった。

『司令、大変です!? たった今、記憶の遺跡からの通信で、何者かの襲撃を受けて内容物の確認が済んでいないケースが強奪されたと……』
「はぁっ!?」

 内容物の確認が済んでいないケース……それは彼が弦十郎に頼んで簡易ながら証明書を用意してもらった本当のデュランダルのケースに他ならない。
 防諜の意味も込めて弦十郎以外には誰にも明かしていなかったそれの存在を、よりにもよって強奪されたとあっては彼も驚かずにはいられない。

 だがこんなのはまだ序の口、彼らが本当に度肝を抜かれたのはこれからであった。

「ん? 颯人、あれ!?」
「お次は何だ!?」

 何かに気付いた奏が指さす先を颯人が見ると、そこには明らかに鳥でも航空機でもない飛行物体の姿があった。

 それがライドスクレイパーに乗ったメイジである事に颯人はすぐに気付き、次いでその手が大きなケースを持っている事に気付くのもそう時間の掛かる事ではなかった。

 あのメイジが持っているケースの中身は何か? そんなの、考えるまでもない事であった。

「あいつかッ!?」

 記憶の遺跡を襲撃して本当のデュランダルのケースを奪ったのはあのメイジだ。その考えに颯人が至るのと、メイジがクリスの近くで滞空しケースを見せる様に掲げたのはほぼ同時であった。

 その仕草だけで、メイジに変身しているのが誰なのかをクリスは気付いた。

「透か!」

 クリスの問い掛けにメイジ――透は頷いてみせる。

 彼の登場と思わぬ土産の持参に、クリスは喜色を浮かべて鎧の機能で浮遊し彼の隣に向かう。

「ったく、まだ怪我治ってないのに無茶すんなよ!」

 本来は怪我の療養の必要があったので透は不参加の予定であった。

 故に、無理をしてやって来ただろう透に対してクリスは少し乱暴な物言いをした。
 しかし心のどこかでは彼が来てくれたことを喜んでいるのか、表情には隠しきれていない嬉しさが見て取れる。

「でもま…………ありがとな」
「…………」
「へっ! よし、ずらかるぞ!」

 何にしても目的の物はクリス達の手に渡った。もうこの場に用はない。

 さっさとこの場から離れるべく飛び去ろうとする2人だったが、そうは問屋が卸さない。

「逃がすな、ヒュドラ!」
「応よッ!!」
〈イエス! ファイアー! アンダスタンドゥ?〉

 再びヒュドラから放たれた灼熱の業火が、透を撃ち落とさんとする。

 自分達に向けて放たれる業火を見て、透は回避すべくケースを手放しクリスの手を引いて急降下した。

「うわっ!?」
「…………ッ!?」

 寸でのところで直撃は免れた2人だったが、回避の為とは言え手を放したことでケースは無防備となってしまった。

 その隙を見逃す颯人ではない。

「もらった!!」
〈エクステンド、プリーズ〉

 マジックハンドの様に手を伸ばして落下するケースを掴み引き寄せる颯人。

「させるか!」
「おっと!」

 メデューサがそれを奪い取ろうと飛び出すが、奏がそれを許さず彼女の前に立ち塞がる。

 ケースはそのまま颯人の方に引き寄せられ――――

「させっかよ!?」

 あと一歩と言うところでクリスが伸ばした鎖鞭がケースに巻き付き、2人の間で引っ張り合いとなる。

「ヒュドラ! ケースを奪え!!」
「分かってるっての!」
「ちぃ!? 透、頼む!」

 引っ張り合いとなって宙ぶらりんとなったケースを横から奪おうとし、ヒュドラがケースに向かうがその行く手を透が遮った。カリヴァイオリンを構え、ヒュドラを牽制する。

「へっ! 俺の邪魔するってか? この裏切りもんが!」

――裏切り者?――

 ヒュドラが口にした裏切り者と言う単語に一瞬気を取られた颯人だが、直ぐに意識を切り替え邪魔するものが誰も居ないフリーとなっている響にケースを確保するように言った。

「未だ響ちゃん! 今の内にケース持ってっちまいな!」
「え!? あ、はい!」

 颯人の声に響は弦十郎達の傍を離れて、デュランダルのケースを確保しに向かう。敵の幹部2人は奏と透が足止めし、クリスは颯人にケースを持って行かれないようにするので精一杯。こうなれば、響の邪魔をするものは誰も居らず、颯人に加勢してクリスから完全にケースを奪い返す事が出来た。

「えぇい、誰か居ないのか!?」

 このままでは颯人達にデュランダルを確保されるとみて、メデューサが声を荒げた。もうこの際動けるなら誰でもいいと言った心境である。

 果たして、その声に応える者が居た。まだ倒されていないメイジの1人が、ノイズとの戦闘を切り抜けて響の前に躍り出たのだ。

 目の前に現れたメイジの存在に、響は怖気付いた様に後退りする。

「う、あ!?」
「ッ!? やっべ!?」

 メイジの登場に颯人は一つの選択を迫られた。このままクリスと綱引きを続けるべきか否か、である。

 響にメイジの相手は出来ない。今の彼女に、洗脳されただけの人間との戦闘など荷が重すぎる。

 当然自分か奏のどちらかに任せる外ないが、そうするとケースからは手を離さなければならない。ヒュドラの相手をする透を置いてクリスが逃げるとは考え辛いが、可能性は無くはないだろう。どちらにしても、相手側にデュランダルが渡るのはリスクが大きすぎる。

 それだけではない。大分数が減った上に動けるメイジが相手をしてくれているがノイズも居るのだ。この場に居る生身の人間である弦十郎達3人を何時までも放置してはおけない。

 どうするべきか? 颯人が思考の海に沈みそうになった時、弦十郎が響に声を掛けた。

「迷うな響君!!」
「えっ!?」
「今君が何を恐れているかは、何となくだが想像が付く。だが敢えて言わせてもらおう、迷うな! その迷いは君自身だけでなく、君の周りの者をも殺すことになる!」
「私の……周りの人も……」

 弦十郎は響がメイジ相手に戦えない所を見てきた訳ではない筈だが、今見せた一瞬の仕草や性格から彼女がメイジとの戦いに積極的になれないことを看破したのだ。
 人を見る事に関してはそれなりに自信のある颯人も、これには舌を巻いた。流石の洞察力である。政府の裏に位置する組織の司令と言う立場は伊達ではないという事だ。

「響、考え方を変えてみな。助けるって考えるんだ」
「助ける?」
「連中は無理矢理戦わされてるんだろ? だったら、これ以上無理矢理戦わされて罪を重ねる前に、ぶん殴ってでも止めてやるんだよ!」

 助ける為に、殴る。これ以上罪を重ねさせない為に、力尽くでも止める。

 弦十郎と奏、2人の言葉を自身の中で反芻した響は、次の瞬間力強い目でメイジを見据えた。

 その表情には怯えや迷いが感じられない。2人の言葉が発破となって、響に覚悟を決めさせたのだ。

「おぉぉぉぉっ!!」

 覚悟を決め、自分からメイジに向けて殴り掛かる響。

 それを合図に、一斉に戦闘が再開された。

「おらぁぁぁぁっ!!」
「邪魔だッ!!」

 アームドギアとライドスクレイパー、互いに長物を武器とする奏とメデューサの戦いは、一瞬の拮抗の後徐々にだが奏が圧倒し始めた。

 身の丈を越える大きさの槍を穂先から石突まで余すことなく使い、時に突き時に薙ぎ、そしてメデューサの意識が穂先に集中したと見るや今度は相手が意識していなかった石突で殴打した。

「くぅ、小娘がッ!?」
「舐めんじゃないよ!」

 メデューサは、元々中遠距離での魔法を用いた戦いで真の力を発揮するタイプである。近付かれた時のことも考えて接近戦も出来なくはないが、接近戦をメインで戦う奏とは相性が良いとは言い難かった。

 しかし、一芸で幹部は務まらない。
 メデューサは徐にライドスクレイパーを地面に突き刺すと、ポールダンス宜しく腕の力だけで体を持ち上げ不規則な動きで奏の攻撃を回避。
 それだけに留まらず、攻撃を回避されて隙を晒した奏に三発蹴りを喰らわせ、強制的に距離を取らせる。

「ぐっ!?」
「馬鹿め、これで!」
〈アロー、ナーウ〉

 距離が離れた事で、余裕をもって魔法の矢を放つメデューサ。他のメイジのそれとは違い、高威力の矢を受ければシンフォギアと言えどただでは済まない。

 奏に迫る無数の魔法の矢。しかしそれが彼女の体を穿つことは無かった。

「んなろうっ!!」

 颯人が左手で持ったガンモードのウィザーソードガン、その銃弾が奏に迫る魔法の矢を全て撃ち落としたのだ。

「悪い、助かった!」
「あぁ気にすんなって!」

 奏を助けた颯人は、次いで響の援護を行った。覚悟か決まったとは言え、彼女は戦い始めてからまだそう時間が経っていない。奏、颯人と共に訓練したとは言え、未熟と言わざるを得ない彼女に1人でメイジの相手はやはり酷であった。

 それ故に、颯人の援護は彼女にとってありがたいモノであった。倒せはせずとも、怯ませたことでメイジに生まれた隙に響は一気に接近するとその拳を叩き付けた。

「うおりゃぁぁぁぁっ!!」

 振り下ろされた拳を、メイジはライドスクレイパーで受け止める。予想外に重い拳に、メイジが呻き声を上げて動きを止めると響は受け止められた拳を引っ込め反対の拳で下から突き上げた。先に放たれた拳がかなりの威力だった為、そちらの防御は間に合わず腹に拳が突き刺さった。

「ごふっ?!」

 無防備な腹への一撃に、堪らず膝を突くメイジ。

 援護ありきとは言えかなり善戦している様子の響に、颯人は仮面の奥で安堵の溜め息を吐くとチラリと透とヒュドラの戦いに目を向ける。

「えぇい、ちょこまかとぉっ!?」

 鋸の様な剣を振り回すヒュドラに対して、透は身軽さを活かして素早く立ち回っている。しかも動き回るだけでなく、一瞬の隙を見つけて一撃入れるのを忘れない。

 しかしヒュドラもやられてばかりではなく、敢えて大振りな一撃を放ち透の動きを誘導し、隙を突いてきた彼の一撃を紙一重で回避し反撃の一撃を叩き込んだ。

 流石幹部として名を連ねるヒュドラと、実力だけなら十分幹部として通用するだろう透の戦いである。正に一進一退と言った感じだ。

 さて、こうなると後は颯人も頑張らねば。何とかしてこの綱引きを制し、デュランダルのケースをこちら側に引き寄せなければならない。

 そう思った矢先、突然ケースが内側から弾けるように開いた。

「何だッ!?」
「これはッ!?」

 突然の出来事に颯人もクリスも、いや2人だけでなくその場の誰もがデュランダルに注目していた。

 その場にいる誰もが見守る中、デュランダルは独りでに宙に浮かび黄金の輝きを放つ。

「あれは、デュランダルが起動したのか!? 了子君!?」
「恐らく奏ちゃんのに加えて、精神的に安定した響ちゃんのフォニックゲインに反応して覚醒したんだわ!」

 突然起動したデュランダルに驚愕する弦十郎達だったが、装者と魔法使い達の行動は別だった。

「あたしが貰う!」
「渡す、ものかぁ!!」

 響とクリスは起動したデュランダルの確保に動いた。メイジも動こうとしたが、響からの一撃がまだ残っているからか跳ぼうとはしたがすぐにまた膝をついてしまった。

 一方、奏の動きは違った。彼女はデュランダルに気を取られているメデューサに、容赦なく一撃を叩き込んだ。

「隙あり!!」
[SATURN∞BREAK]
「ッ!? しま、ぐあっ?!」

 咄嗟の事で反応が遅れたメデューサは、奏が放った『SATURN∞BREAK』により吹き飛ばされる。

「今だ颯人!!」
「よっしゃ!」

 吹き飛ばされたメデューサを見て、颯人はこの場でメデューサを打ち倒すべくトドメの一撃を放ちに掛かった。

 右手の指輪を、奏も初めて見る物に変えハンドオーサーに翳した。

〈チョーイイネ! キックストライク、サイコー!〉

 発動したのは必殺の魔法『ストライクウィザード』。

 コートの裾を翻してメデューサに向けて駆け出し、側転、バク転とアクロバティックな動きを交えて上空に飛び上がると右足に炎の魔力を集束させて跳び蹴りを放った。

 如何に幹部として名を連ねそこらのメイジより頑丈だろうが、体勢が崩れた状態でこれをまともに喰らえば堪ったものではないだろう。

「こいつでぇっ!!」
「くっ!?」

 自身に迫る必殺の一撃を見て、メデューサは回避しようとするが間に合わない。
 颯人は己の勝利、メデューサの敗北を確信し――――

「メデューサ様ッ!?」

 あと一歩と言うところで、響の一撃で動けなくなっていた筈のメイジが割り込みメデューサを守ってしまった。

「ぐあぁぁぁぁぁっ?!」
「こいつッ!?」
「ふっ、ご苦労!」

 直前で邪魔が入りメデューサを倒し損ねたことに颯人は焦りを感じ始めた。
 ストライクウィザードは魔力消費の大きい技だ。それに加えて今回は他にも魔法を何度も使用している。正直、もうそんなに魔法は使えそうにない。ストライクウィザードなど、次に使ったらそこで魔力がそこを尽きてしまう。

 敵の戦力はクリスと透、ジェネシス側が幹部2人と雑魚が3人と言ったところか。
 ハッキリ言って、かなり厳しい。

 颯人が現状に内心で冷や汗を流し始めた時、不意に戦場に響の雄叫びが轟いた。

「あああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「何だ!?」
「響ッ!?」

 声につられて颯人達がそちらを見ると、響がデュランダルを手にしている光景が見えた。
 ただ響の様子が明らかにおかしい。顔は黒い影の様な物で覆われ、目は赤く光っている。声も理性があるとはとても言えず、何らかの異常が発生していることは明白だった。

「おいおいおいおい! ありゃ一体どういう事だ!?」
「そんなのこっちが知りたいよ!? 了子さん!! 旦那!!」

 不可解な事態に、颯人と奏は弦十郎と了子に説明を求めた。少なくともこの分野の天才・了子ならば、何かしら知恵が働くだろう。

 対して、メデューサは状況を冷静に分析していた。

「デュランダルの力に飲み込まれたか…………このままだとこちらもとばっちりを受けるな」

 それとなく危機感を感じていたメデューサは、速やかに撤退の判断を下した。

「ここは退いた方が無難か。ヒュドラ!」
「え~、もう帰んのかよ?」
「これ以上はこちらの被害が大きくなるだけだ」
「収穫無しで帰るのか?」
「収穫ならあったさ。裏切り者が、何処に居るのかが分かったのだからな」

 そう言うとメデューサは未だヒュドラを警戒しつつクリスの方にも意識を向けている透を一瞥し、ライドスクレイパーに乗ってその場を飛び去って行った。
 1人で飛んでいくメデューサに、ヒュドラは慌てて自身もライドスクレイパーを取り出し飛び立つ。動けるメイジ達もそれに続いた。

 脅威が去った事で、透は響に飛び掛かろうとするクリスを必死に宥めに掛かった。

「そんな力を、あたしに見せびらかすなぁぁぁっ!?」
「…………!?」
「何で止めんだよ!?」

 今の響に近付くのは危険すぎる。そう判断して透はクリスを宥めるが、クリスは意固地になっており納得してくれない。

 動きを止めた2人を、暴走した響が見据える。
 そして、その手に持ったデュランダルを振り下ろそうとした。

 あんなものが振り下ろされたら、薬品に引火してここら辺一帯が火の海になる。弦十郎達の避難も間に合わない。

「ヤベェな、止めるぞ奏!」
「あぁっ!」

 颯人と奏は被害を最小に抑える為に動き出す。

 今からでは響を宥めるのは難しい。となると、出来る事と言えば響が振り下ろしたデュランダルの一撃を何とかして止めるしかない。

 どうするべきか? 考え込む奏の肩に、颯人が手を置いた。

「奏、お前の『LAST∞METEOR』で俺を響ちゃんに向けて吹っ飛ばせ」
「はぁっ!? 何言ってんの!?」
「俺がさっきメデューサに使った奴を、お前の技で飛ばすんだよ。俺と奏の合わせ技だ」

 いきなりとんでもない事を言い出す颯人に、奏は思わず面食らうがあれを止めるとなると普通の技では撃ち負けることは容易に想像できた。
 普通の方法で駄目なら、普通でない方法に頼るしかない。

 しかし問題は颯人の方だ。言ってしまえば彼は奏の技とデュランダルの一撃、二つの力に挟まれることになる。
 そんな状況に耐えられるだろうか?

「颯人は大丈夫なのか?」
「心配するくらいなら全力で歌ってくれ。俺は奏の歌があれば何時でも全開だからな」
「何だよそれ」

 颯人の言葉に奏は思わず笑みを浮かべる。こんな状況下にありながら、こんな軽口を叩く彼に若干呆れもした。

 だが同時に覚悟も決まった。彼がこうまで言ってくれるのだから、それに応えなければ女が廃る。

「行くぞ颯人!!」
「おっしゃ、来い!!」
〈チョーイイネ! キックストライク、サイコー!〉

 駆け出し、飛び上がると響が振り下ろしたデュランダルの放つ光の奔流に向けてストライクウィザードを放つ。

 その彼の背を押すように、奏が穂先を回転させた竜巻を放った。

「行けぇぇぇぇッ!!」
[LAST∞METEOR]

 普段であればノイズを穿つ竜巻は、この時ばかりは颯人を押し出す追い風となった。

 ただでさえ高威力の跳び蹴りが、奏の必殺技のバックアップを受けて勢いと威力を増しデュランダルの一撃とぶつかり合う。

「ぐぅぅぅぅっ!!」

 とは言え、これだけですんなり何とかなれば世話は無い。拮抗はするが、やはり颯人の方が押されていた。

 想像以上の威力を持つデュランダルの一撃に、颯人が苦悶の声を上げる。
 その彼の耳に、奏が紡ぐ歌声が響く。

「今を生き抜く為に! 私たちは 出会ったのかもしれない!」

 この状況下でも颯人の耳に届くほどの歌声、きっと先程彼が言ったように全力で歌ってくれているのだろう。歌に含まれた情熱が、彼の心の炎を燃え上がらせる。

「負、け、る、かぁぁぁぁぁぁっ!!」
「止まらずに! Sing out with us!」

 奏の歌に、颯人が気合を入れる。

 するとそれに応えるかのように、彼の右足の炎が大きく燃え上がりデュランダルを押し返し始め――――




 次の瞬間、空中で大きな爆発を起こした。 
 

 
後書き
と言う訳で32話でした。

戦闘パートは今回で終了ですが、まだ戦闘後の後処理があります。それはまた次回に。

執筆の糧となりますので、感想その他評価やお気に入り登録などよろしくお願いします。

次回の更新もお楽しみに。それでは。 
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