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ラインハルトを守ります!チート共には負けません!!

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第百三十八話 銀河帝国・自由惑星同盟連合軍vs新生・自由惑星同盟―第四次ティアマト会戦 その3

「シャロンが、シャロンが要塞北極点に出現しました!」
「敵は主砲を斉射する気だ。各軍、緊急回避、衝撃に備えろ!!」

 中央艦隊を指揮するダイアナが叫んだ。全軍を俯瞰し、適宜状況を指示する役割をラインハルトは彼女にゆだねていた。

「ヘルヴォールからローレライの旋律が発射されました!」
「それに呼応して各艦隊も全砲門全武装斉射!!」
「斉射が終了次第、全艦隊はシールドを最大展開!!全エネルギーをシールドに回せ、急げ!!」

 中央艦隊後方からすさまじい光が宇宙空間を切り裂いて飛翔していく。七色の閃光をきらめかせながら進む光が、ローレライの旋律だった。

「全艦隊、主砲全門3連、斉射!!」

 ラインハルトが叫んだ。ローレライの旋律斉射の報を聞いたラインハルトは、北極点に立つシャロンめがけて全艦隊全砲門を集中斉射したのだ。
 鋭い閃光が走り抜け、まばゆい光を放ったが、それが消えてみると、小さな姿は変わらずに立っていた。

『フフフ・・・・無駄だと言っているでしょう。あなたたち全艦隊の全砲門の斉射を受けても、私はかすり傷一つ負わないというのに』
「続いて、撃て!!」

 ラインハルトが叫んだ。彼の麾下2万余隻の全艦艇全砲門は再びシャロン一人に対して、すさまじい一斉射を試みた。

『無駄だと言っているでしょう。まだあきらめないというの?』
「主砲、斉射、3連!!」

 ブリュンヒルト以下、全艦隊から打ち出されたビームが宇宙を飛翔し、シャロンに降り注ぐ。シャロンはいっこうに意に介さず、前面に光り輝く光球を出現させた。

「エネルギー残量、いくらもありません!」
「次に主砲を斉射すれば、全艦隊が動きを止めることとなります!!」
「構わぬ!最後の賭けだ!主砲斉射、用意!!」
『無駄なあがきはそこまでかしら?』

 シャロンは北極点上で微笑しながら光球を加速度的に巨大化させていく。ローレライの旋律の効果を受けて弱体化しているとはいえ、ラインハルト以下2万余隻を飲み込むのに十分すぎる大きさだ。

『ではさようなら、ラインハルト。なかなか楽しめたわ。今度こそあの世に旅立ってちょうだい』

 シャロンが光球を発射しようとしたその時、上空から一気にビームの驟雨が叩き付けられた。

「おっと、あなたの相手はローエングラム公だけではないことをお忘れなく」

 グリーンの艦列がシャロンの上方に展開し、一気に攻撃を仕掛けてきた。ヤン艦隊だ。ヤン艦隊から無数のスパルタニアンが出現し、攻撃を加えてきたが、シャロンに近づくだけで爆沈し、四散していった。オーラがシールドのように近づく者を阻んでいるのだ。

『蠅ていどで私を倒せると思っているのかしら?』

 ビームやミサイルが雨のように降り注ぐ中、シャロンは微笑を崩さなかった。

「倒せるか否か、なんて私にはわからない。けれど、性分としてあなたの所業は見過ごせないんでね」
「貴様の所業、あの世でイルーナ姉上に詫びるがいい!!」

 シャロンは微笑を浮かべていたが、それがニンマリとしたものになった。

『フ・・・・アハハハハ!!そう、そうなの!?イルーナは死んだのね!!結構、私にとって最大の朗報だわ!!』
「そうであろうな、だが、最大の誤算は、貴様の慢心だ!!」
『は?』
「我々は囮なんだよ。本命は別にいるという事さ」

 ヤンが言った直後、ヘルヴォールから放たれたローレライの旋律がシャロンを直撃した。今度は反応はあった。シャロンが出現させた光球はローレライの旋律の前に消滅し、彼女の身体は旋律の閃光波動をまともに受けていた。

『この程度・・・・フィオーナごときで私を止められるはずないじゃない』

 シャロンは微笑した。

* * * * *

 コーデリア・シンフォニーの第三十艦隊の旗艦上で、カロリーネ皇女殿下は、アーレ・ハイネセン北極点にローレライの旋律の波動がぶつかるのを見た。同時に歌声が艦内に響き渡るのを聞いた。

「成功ですか?」
「残念ながら、まだ事ならず」

 コーデリアがつぶやくようにして答えたその理由をカロリーネ皇女殿下は悟った。閃光波動は直撃したが、まだ北極点上でそれをせき止めている影がある。

「シャロン・イーリスは健在です」

 オペレーターが報告した。

「そう、全艦隊からの全艦砲射撃をもってしてもシャロンを止めることはできない。あの人自身がそう言ったし、そしてそれは事実だということ」
「そんな・・・・」

 カロリーネ皇女殿下はアルフレートを見た。ヤン艦隊に乗るか、あるいはコーデリアの艦隊に乗るか、戦場到着ぎりぎりまで迷った末に彼はカロリーネ皇女殿下のそばにいることを選択し、ヤン、そしてコーデリアに申し出て許されたのである。
 アルフレートは顔面蒼白になりながら尋ねた。

「全艦隊の全武装をもってしても、ですか?」
「その通り。そしてそれを打開する一つの方法が『歌』なのだから」
「・・・・・・・・」

 沈思しているアルフレートの隣に立っていたカロリーネ皇女殿下はこの時不思議な気持ちに襲われていた。目の前の事態よりも耳に聞こえてくる旋律の方に気を取られていたのだ。今までは眼の前の戦況に気を取られていて気づかなかったが、

「この歌・・・・どこかできいたことがあるかもしれない」

 つぶやくようにして言った。どこだろうか、前世ではないことは確かだ。では――。
 思い出した。悲しいとき、寂しいとき、どこか自然にこの歌が出てきていた。
 不意にカロリーネ皇女殿下は何故自分がここにやってきたのかを悟った。自分は非力だ。そして凡庸だ。シャロンのように艦隊を沈めることも、銀河帝国にいる転生者たちのように艦隊指揮を、ラインハルトの補佐をすることもできない。けれど――。

 一歩進んだカロリーネ皇女殿下は右手を胸に当てて緩やかに歌いだした。それは今流れているローレライの旋律の歌そのものだった。

「これは・・・・!!」

 コーデリアがアルフレートの前で、いや、艦内のクルーたち全員の前で初めてうろたえた姿を見せた。アルフレート、コーデリア、そして艦内のクルーたち全員が感じた。この歌はまるで心の隅々まで洗い流される清浄な旋律なのだと。

「提督!この歌を、前方、シャロン・イーリスの方角に流すことはできますか!?あるいはヘルヴォールから照射されている旋律に重ねることはできますか?」

 アルフレートが叫ぶのと、コーデリアがうなずき返すのが同時だった。

* * * * *

 フィオーナは歌い続けていたが、自身再び限界を感じていた。それでも今度は諦めない。イルーナの幻影が、ティアナの勇気が、仲間たちの信頼が彼女を支え続けていた。

「・・・・・・・?」

 歌いつづけていたフィオーナは異変を感じた。別方角、それも予期しない方角から全く同じ旋律が響いてきたのだ。音なき音をフィオーナは感じ取っていた。

(今よ、フィオーナ!)

 イルーナの幻影が声を発したような気がして、フィオーナは全身全霊をこめて最後の旋律を歌い始めた。もっとも強力な、もっとも純粋な最終旋律。敵を撃ち斃す際にたった一度しか奏でることができない最後の旋律だった。文字通り最後のチャンスだった。

* * * * *

 ラインハルト、ダイアナ、ヤン、そして各艦隊にもあらたなローレライの旋律の出現はすぐに知れ渡った。各艦隊は一斉に反応し、行動を起こす。

「ヘルヴォール、ローレライの旋律、『最終旋律』に入りました!」
「最後の賭けだ・・・・!!」

 ラインハルトはペンダントを握りしめた。そこにはイルーナの遺髪が入っている。プラチナブロンドの一房の髪をラインハルトはペンダントに封じ込めていた。

「全艦隊、全砲門、北極点上の彼奴に向けて、主砲斉射!!」

* * * * *

「今だ!全艦隊、撃て!!」

 ヤンが号令を下した。フィッシャーの指揮のもと、ヤン艦隊はもっともシャロンに集中砲撃を浴びせることができる位置に艦隊を展開させていたのである。

「させませんわ!!」

 銀河中に響き渡る声なき声が聞こえた。カトレーナが艦隊を率いてラインハルト、そしてヤンに攻撃を仕掛けてきた。次々と艦が爆沈していく。さすがの両者も全ての武装をシャロンに向けていたところに強襲を受けてすぐに立ち直れていない。

「誰か、2艦隊に援護を差し向けろッ!!このままでは全滅するぞ!!」

 中央本隊を指揮するダイアナが各艦隊に緊急通信を送り、かつ自らの麾下高速艦艇を差し向けたが、すぐに間に合うものではない。各艦隊も狼狽して一斉に艦首を向けたが、之も間に合うものではない。
 それでも、ヤン・ウェンリー、ラインハルト共にシャロンに対する攻撃をやめなかった。防御を捨てて徹底的にシャロンのみを攻撃する。その戦法を取ったのだ。

「アハハハハ!!身動き取れませんか。そうですわね、あなたたちの狙いは閣下のみですもの。・・・閣下!もう少しで、邪魔な彼奴等共を殲滅してご覧にいれますわ!!ですから今しばらく――」
「邪魔するなァッ!!!!!!クソ女!!!!!!!!!!!!」

 カトレーナの上方から大艦隊が殺到してきた。
 大音声と共に高速で殺到した戦艦群が次々とカトレーナの艦隊を討ち斃していく。ティアナだった。そしてその背後にはロイエンタール艦隊が掩護に回っている。

「フィオ、あなたの十八番を借りるわよ!!アースグリム改級、波動砲、斉射!!」

 銀蛇のごとくのたうち回る閃光が斉射された。強力な砲撃を誇るが機動力が劣るアースグリム改級を高速戦艦がけん引し、機動力を補っていたのだ。

「ティアナ・・・!!・・・・・閣下、申し訳ありませんわ、どうやらここまでです」

 カトレーナは微笑した。

「ですが、ただでやられるわけにはいきませんわね」
「全艦隊、転進!!」

 ティアナが叫ぶのと、カトレーナの旗艦に波動砲が命中するのと、旗艦を中心に大光球が明滅するのとが同時だった。光球は急速に広がり、連合軍の艦を飲み込んでいった。

* * * * *

 シャロンは微笑を失った。これで二度目である。一度目はローレライの旋律を聞いた瞬間、そして二度目は予期せぬ方角から新たな旋律が沸き起こったことである。それは正確に自分を射抜いていた。

『馬鹿な・・・・・!!いったいどこから・・・・!!』

 フィオーナ一人ではまだ十分に分があったが、それが二重になると効果はプラスどころではなくなる。何乗にも効果が相乗されるのだ。
 少しずつ、シャロンは押され始めた。オーラが侵食され、周りには明滅する七色の光が広がり始めている。
 そこにさらに各艦隊から放たれたあらゆる兵器が命中する。

「私は非力で何もできない人間だけれど――」

 不意にシャロンの耳元に声がした。敵側の転生者たちの声とは違う、これは――。

「このためにここにやってきたのかもしれないと思ったの」
『フ・・・アハハハハ・・・・・!!』

 シャロンは笑った。相手が誰なのか瞬時に理解したのである。取るに足らない存在、アリや虫けらにも満たない存在と思っていた小娘が、自分を追い詰めているのは皮肉以外の何物でもない。

『なるほど・・・・あなたがね』

 何故、殺さなかったのか。シャロンがここに転生してから、彼女の胸に初めて悔恨の念が生まれた。けれど、今となっては遅い。遅すぎる。仮にチャンスがあったとしても殺しただろうか。シャロンはその問いを自分自身に向けて発し、それがNOであると思った。理由は――。

「私はこの旅で色々な事を学ばされた。そして傲慢、慢心、力に頼ることこそが最も愚かな事だと知った。まずは正面から互いの気持ちをぶつけ合うべきだったことに気が付いたの。ラインハルトたちを殺す前に、私は話し合うべきだった。今では心からそう思うわ」
『随分な綺麗ごとね』
「ええ、綺麗ごとよ。そして綺麗ごとと言えるだけのことをあなたはやってみたの?やってみたうえでそれを言っている?」
『フッ・・・・・小娘に意見されるとはね。いいでしょう、それに免じて答えてあげるわ。・・・・答えはNO、よ』

 シャロンは眼を閉じた。七色の光が徐々にシャロンを押している。

『理想なんてそんなものね。忌々しいことに復讐はそれよりも程度が低い』
「全艦隊、撃て!!!」

 誰かの号令する声が聞こえた。それがラインハルトか、ヤンか、はたまた別の誰かなのか、シャロンにとってはもはやどうでもいい事だった。全艦隊からの砲撃が殺到し、ローレライの旋律の七色の光と拮抗していたシャロンのオーラを侵食していく。
 ローレライの旋律の最終楽章が高らかに歌われる中、シャロンの身体は虹色の光に飲み込まれていった。

* * * * *

 ローレライの旋律を歌い終わった瞬間、フィオ―ナは崩れ落ちた。それはカロリーネ皇女殿下も同様だった。
 そのほかの人々はシャロンの反応が消えたことをそれぞれの場所で知った。

「シャロン・イーリスの反応、消失しました!!」
「ターゲットの存在、確認できません!!」

 オペレーターたちの報告がこれほど力強く行われたことはなかった。

「やったの・・・・ね」

 旗艦アールヴァルにおいてアレーナはつぶやくように言った。信じられなかった。シャロンが消滅するにしてもアーレ・ハイネセンを媒介にしてこの宙域一帯を、さらにはこの宇宙そのものを文字通り「消滅」させることもできたのだ。
 それをシャロンはせずに消滅した。そのことが何を意味しているのかアレーナにはわからなかった。

 ラインハルト、そしてヤンはそれぞれの旗艦上で敵の消滅を確認した。報告がなくとも二人ともそれぞれの肌で感じ取っていたのだ。
 一拍置いて各艦隊、全艦隊が震えわたった。誰しもが持ち場を離れて立ち上がり、勝利の咆哮を発していたのだ。それはローレライの旋律以上にこの宙域を震わせた。

「イルーナ姉上・・・・見ていてくださいましたか?」

 ラインハルトはペンダントをそっと握り、亡き自分の理解者に語り掛けていたが、不意にその姿が硬直した。ペンダントを見つめたままラインハルトの顔色はみるみる血の気を失い、そして――。
 彼の身体はブリュンヒルトの艦橋に倒れ込んでいた。

「ローエングラム公!!」

 周囲の幕僚たちが彼の身体を抱え上げ、医務室に運んだ。

* * * * *
 
「終わったよ」

 ヤンは艦隊幕僚たちを振り返った。まるで事務決裁が終了したかのような口ぶりだった。

「グリーンヒル大尉。その・・・・紅茶を一杯もらえないかな。ブランデーをたっぷり入れてね」
「はい、閣下、ブランデーを少しですね」
「たっぷり」
「はい、たっぷりと」

 グリーンヒル大尉は微笑してその場を引き下がった。ユリアンがその場にいるのに何故彼に依頼しなかったのか、後で考えてみるとヤン自身にも不思議な事だった。当のユリアンもそう思っていたのだろうが、周りの幕僚たちの顔を見るとひとり静かに納得した顔をしていた。

 各宙域で散発的な掃討戦が行われていたが、それも終息に向かっていた。シャロンが死んだのだ。これ以上抵抗を続ける余裕も理由もなかった。

 帝国暦488年10月3日、標準時05:48分、銀河帝国軍、自由惑星同盟軍連合軍は戦闘終結を宣言したのである。
 
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