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ラインハルトを守ります!チート共には負けません!!

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第百三十八話 銀河帝国・自由惑星同盟連合軍vs新生・自由惑星同盟―第四次ティアマト会戦 その2

 緩やかな旋律を絶やさず、フィオーナは歌にだけ集中していた。けれど、そうであるがゆえに波動の乱れを感じることができる。刻一刻と味方の数が減りつつあることもわかっていた。

(どうして・・・・!?私では駄目なの・・・・!!)

 背後にいる100人の歌い手の力をもってしても、なお、シャロンの勢いを止めることはできない。

(さて、フィオーナ、どうかしら)

 フィオーナの幻想かどうか、シャロンの声さえ聞こえるような気がしてくる。

(イルーナが死に、後はあなたとティアナ、アレーナ、そしてラインハルト・フォン・ローエングラム、キルヒアイス、そのお仲間たちだけ。可哀想にね、銀河中を敵に回して、哀れにもじわじわといたぶられながら殺される気持ち・・・なんと表現したらよいのかしら)

 フィオーナの額に汗がにじみ出る。集中しなくては。集中しなくては。妄想に耳を傾ける必要はない。

(私にとっては最高最大の愉悦なのだけれど。無様に倒れたあなたの教官はあなたにいったい何を教え込んだのかしらね)
「・・・・・!!」
(所詮はあなたは教官(イルーナ)の代用品でしか・・・代用品ですらない。そんなあなたにローレライの歌なんか歌えるわけがない)

 シャロンの影が湧き上がり、フィオーナの肩に手をかけた。

「もう、あきらめなさいな、フィオーナ」

 フィオーナの灰色の瞳が見開かれた。硬直したかのように歌が止まる。背後にいる歌い手たちがざわめきだした。

「ハッ・・・・ハッ・・・・ハッ・・・!!」

 激しい乱れた呼吸から来る震えが彼女の体を襲っていた。

『フィオ、なぜやめるの!?敵が全面攻勢に出てきたわ、もう時間がない!!再開して!!』
『フィオーナ!!あきらめるな!!』
「フィオーナさん!!」
「エリーセル元帥閣下!!」

 通信が、そして背後の歌い手たちが、悲鳴のような声をぶつけてくる。


* * * * *

 猛攻と突撃を繰り返してきたティアナの艦隊もそろそろ限界に近づいてきていた。そこにもってきて、フィオーナの歌が途絶えたのだ。

「どうして・・・なんで・・・・!?」

 慌てて通信をつなげるも、返信は返ってこない。

「フィオが・・・・まさか・・・・そんなことがあってたまるもんですか!!」

 ティアナの眼前に敵が密集して迫ってくる。勝利の雄叫びがきこえてくるようだった。

「主砲、斉射、3連!!撃てェッ!!」

 ティアナ艦隊の主砲斉射を浴びて先頭集団が爆沈しても、残りはさらに迫ってきた。
数隻の敵戦艦が勝利の雄叫びを主砲のビームに載せて、此方に迫ってきている。護衛艦隊もそれぞれの眼前の敵を相手取るのに精いっぱいだ。

・・・・・もう駄目――!!

 こうなれば、あの手を使うしかないか。そうティアナが観念の眼を閉じかけたその時だった。

 驟雨のような攻撃が敵戦艦を粉砕し、次いで襲いかかってくる敵を撃砕したのである。

「誰・・・・!?」

 茫然とするティアナの前を突進するようにして艦隊が飛翔し、前面に展開した。その総数は優に1万隻を越える。その中で見覚えのある旗印をみつけた。忘れようとも忘れられない、忘れたこともない紋様だ。

「まさか・・・まさか・・・・!!」
『お前の戦術も随分と落ちたものだ。不退転の決意と闘志こそがお前の信条だったはずだが?』

 ヘテロクロミアの青年提督の姿がスクリーンに映し出されていた。ティアナの拳が震えている。

「ロ・・・ロ・・・・ロ・・・・」
『どうした?』
「ロイエンタール!!」
『なんだその顔は。俺が一足先にヴァルハラに逝っているとでも思ったか?』

 ロイエンタールは皮肉そうに顔をゆがめると、今度は別の相手を呼び出した。

『ローエングラム公、遅くなりましたが、麾下残余の勢力を統率し、只今到着いたしました』

 ロイエンタールはティアナをしり目にラインハルトに通信を送った。

『よく来た。ロイエンタール、このままフロイレイン・ティアナの前面に展開し、支えられるか?」
『御意』
『フロイレイン・ティアナ、卿は何をしている?卿がフロイレイン・フィオーナの剣となり、親友を守り切ると誓ったのではなかったのか?』
「もちろん!!!」

 ティアナはほとばしるように叫ぶと、麾下全軍に通信を解放した。

「ロイエンタールが生きて戻ってきたわ!!援軍がやってきたなら、他の提督たちも生きているはずよ!!皆気合いを入れろ!!ロイエンタール艦隊と共同戦線を張って、敵を押し返すわよ!!」
『おおっ!!』

 大歓声が沸き起こり、ティアナの身体に再びオーラが宿った。

「全軍突撃!!!」
「小癪なまねを!!」

 アンジェは中央にあって全軍突撃を指令したが、そこに突如襲い掛かってきた艦艇がある。まさにピンポイントワープであり、1万を超える艦隊がアンジェの旗艦のすぐ横に出現したのである。

「ワープ!?」

 グリーンの艦艇は自由惑星同盟のものだった。

「まさか・・・ティファニー!?」
「主砲斉射!!」

 指揮棒を振りぬきながらティファニーが叫んだ。おびただしい驟雨が銀河を切り裂いてアンジェの旗艦及び彼女の護衛艦隊を打ち抜きはじめた。

「何をしている・・・裏切り者!!」
「私は私の成すべきことをしに、ここにやってきただけ・・・・!!」

 ティファニーは必死の形相でアンジェの艦隊に肉薄した。

「小癪な、反転して迎撃(カウンター)をくらわしてやれ!!」

 アンジェの号令一下、まだ数の上で優勢を占める彼女の直属艦隊は反転してティファニーを攻撃し始めた。

* * * * *

 味方が奮闘している。最後まであきらめずに、自分を信じて――。
 だからこそこの期待にこたえたい。けれど、それができない。自分の力ではローレライの歌を歌い切ることはできない。
 どうすれば、いい――。
 フィオーナは混乱しそうな頭で崩れ落ちそうな体を必死に支えていた。

「なぜ・・・なぜ私には・・・・できないの・・・・?」

 ついにフィオーナの両ひざが崩れ落ちそうになった。シャロンの影は濃さを増し、笑ったような気がした。影はフィオーナを覆い隠そうとする。今にもフィオ―ナを暗闇の深淵に引きずり込もうというかのように。

(フィオーナ・・・・)

 フィオーナは後ろを向いた。そこに、あり得ない人を見た。
 イルーナ・フォン・ヴァンクラフト――。
 フィオーナの身体は、光に包まれる。シャロンの影がうめき声を立てて後ずさりした。

『立ちなさい!!』
「・・・・・!!」
『あなたの双肩には銀河中の人々の声なき願いがあるのよ』
「ですが・・・私は・・・・!!」
『あなたの力は既に私を越えている・・・・思い描いていたとおりに自由に歌いなさい。私の模倣でなくていい。あなたはあなたらしく、最後まで歌いきればいい。既に敷かれた義務に縛られる必要はない。あなたが考えるべきなのは誰の為に、ではなく――』

 イルーナの幻影は微笑んだような気がした。

『あなたが何の為に歌いたいのか、よ』
『フロイレイン・フィオーナ』

 時を同じくして、ラインハルト・フォン・ローエングラムから通信が届いた。彼はブリュンヒルトにあって麾下の艦隊を指揮しつつ敵に打撃を与え、孤軍奮闘しているさ中である。
 ラインハルトの目の前にシャロンの直属艦隊がいた。
 移動要塞を従え、完全にラインハルトを追い詰めようとその触手を伸ばしつつある。

『ローレライの歌を歌いだしたからと言って、私に勝てるはずもないわ。ラインハルト・フォン・ローエングラム、死になさい!!』
『私はフロイレイン・フィオーナを信じる』

 ラインハルトは眼前の敵から目をそらさず、手を振り上げた。麾下のオペレーターたちはその合図を見て艦隊に伝達し始める。

『卿と共にあれて私は誇りに思う。義務に縛られることなく、卿の思うがままに成すことを成せ。イルーナ姉上が生きていらっしゃれば、きっと同じような事を言ったかもしれないがな』
「・・・・・・・・・私は」

 フィオーナは顔を上げた。そして全身からまばゆい光のオーラを放った。

「私は・・・・・!!」
「ローレライ・システム復旧しました!!出力急速に上昇中!!リンク同調率・・・まだ、伸びています!!」
「私は・・・・・!!!!」

 フィオーナは両手を広げた。自分の思いを、本当の思いを、隠すことなく、はきだした。

「皆と共にありたい・・・・・!!」


* * * * *

「ローレライ・システム!!MAXレベルです!!」
「今だ、撃てェッ!!!」

 フィオーナのオーラの変化をいち早く感じ取ったアレーナがオペレーターの報告を受けると同時にヘルヴォールに直接号令を発した。ヘルヴォールに搭載されている武装は全面撤去されたが、たった一つだけ残されているものがあった。
 正確には改装されて取り付けられたもの、ローエングラム陣営にあっては数々の戦いを切り開いてきた武器である。この武器の発射のタイミングについては、アレーナに一任されていた。
 フィオーナの歌声を、ローレライ・システムそのものを波動砲に組み込んでいるものだ。

 この兵器の名は――。

「ローレライの旋律、発射します」

 フィオーナの歌声、その思いが凝縮された波動はヘルヴォールの前面砲門から宇宙空間を切り裂くように撃ちだされた。
 同時に、波長となって放射されたフィオーナのオーラは各艦隊の艦にしみわたり、そしてそれが兵器の中に浸透した。

「撃て!」
「撃て!!」
「撃て!!!」
『撃て!!!!!!!』

 連合軍全員が期せずして全く同じ言葉を叫んでいた。その言葉が叫ばれるのと、ラインハルトが手を振り下ろすのとが同時だった。

* * * * *

 交戦する艦と艦、切り裂くビームの光、ミサイルの雨。その雨をかいくぐってティファニーの艦がアンジェの艦に肉薄していた。撃ち落とせとアンジェは号令をかけるが、集中砲火を浴びてもティファニーの艦は突進をやめない。

「体当たりする気か!?」

 アンジェがオーラを展開し、ティファニーもまたオーラを展開する。意地と意地のぶつかり合いだ。ティファニーの艦がアンジェの艦の横っ腹にぶち当たった。ズシン!!と衝撃が双方の艦橋を襲う。

「そこをどけ!!ティファニー!!」

 アンジェがよろめきながら叫んだ。いつの間にか両者の間に通信が開かれ、互いの姿をディスプレイ越しに見えるようになっていた。

「どくもんですか」

 ティファニーが必死の形相で艦橋の椅子に捕まりながらアンジェを睨みつける。ティファニーの艦がアンジェの艦の脇腹を食い破り、がっちりとその動きを止めていた。

「貴様も死ぬぞ!!」
「それがどうしたの?またヴァルハラに逆戻りするだけ。怖い物なんて何もないわ。私は私の成すべきことをするだけなのだから!!」
「ティファニー・・・貴様!!」

 艦を吹き飛ばしてでも離脱しろ!!といいかけたアンジェの眼前に閃光が迫ってきた。戦艦ではありえないほどの砲撃威力――。
 それは、ティファニーの眼にも映っていた。ティファニーは静かに目を閉じた。

(成すべきことを、やっと心のままに成せる。これで、私は――)
「馬鹿な!!!こんなこと、あり得ない!!通常艦艇からの砲撃が、何故、これほどまでに、増幅され――!!」

 アンジェ、そしてティファニーの旗艦もろとも増幅された砲撃の奔流が襲い掛かり、その中に叩き沈めていった。

* * * * *

 ラインハルト直属艦隊が最後の賭けに出ていた。
 賭けというのはラインハルトらしくないだろう。だが、一世一代の大勝負という言葉ではあまりにも陳腐な表現と言えるほどの状況下に彼はいた。
 目の前には巨大要塞、そして10万を優に超える敵軍。

「エネルギーはどの程度だ!?」

 ラインハルトはクルーたちに尋ねた。

「主砲斉射10連は可能です!」
「最後の賭けだ・・・・全エネルギーを砲門に充填し、ヘルヴォールからのローレライの旋律発射との同調はどうだ?」
「調整完了しています!」
「まだ誤差がある!こちらと敵との距離を考慮せよ!!タイミングマイナス0,2修正同調させろ!!」
「はっ!!」
「ヘルヴォールからの砲撃まで戦線を持ちこたえさせろ!!」

 ラインハルトは主力戦艦群の主砲を一点集中させ、その余の艦艇はすべて防御陣形を構築させ、発射のタイミングを待っていた。
 目標は、敵機動要塞の一点。現実的には艦砲射撃程度でどうにかなるものではないが、ラインハルトはフィオーナのローレライの歌声に賭けた。
 人知を超えたものに賭けをするなどと他人が聞けば、それこそ笑い飛ばすだろうが、ラインハルトは確信していた。
 ローレライの歌こそがこの戦局を打開する唯一の策なのだと。


* * * * *

『アンジェが戦死しました!ティファニーが艦もろともにアンジェを道連れにしましたわ』

 カトレーナからの報告にシャロンは顔色一つ変えなかった。

「アンジェの中央集団と左翼艦隊をあなたが指揮しなさい。カトレーナ。いいえ、指揮をするのではないわ。全軍突撃。あらん限りの武装を稼働させつつ、体当たりを行わせなさい」
『承知いたしました。しかし・・・・それでは戦線が維持できません』
「維持するしないの問題ではないわ。私だけが生き残ればそれでいいのだから。そしていかなる敵も私に止めを刺すことはできないわ」

 ローレライの歌で自由を奪われつつあるとはいえ、シャロンは健在だった。微笑を浮かべつつ、カトレーナを見下ろしている。
 そして、シャロンの中では、既にアンジェはおろか、カトレーナさえも見捨てつつあった。
 それはカトレーナにもわかったに違いない。何故なら衝撃で瞳が見開かれたのがディスプレイ越しに見えたからだ。

『承知いたしましたわ』

 カトレーナは何故か微笑んだ。弾圧に最後まで屈せず、信仰を守り通し、殉教者として処刑台に赴く教徒の顔だった。
 カトレーナとの通信を無造作に切ったシャロンは一人微笑を浮かべた。

「あれだけ踏みつぶしたのに、まだ足りないというの、ラインハルト、ヤン、キルヒアイス、そして――」

 イルーナの意志を汲む裏切り者たち、とシャロンはつぶやく。

「今度こそ、全てを消しつくしてやるわ」

 シャロンの姿が、ふっと司令室から消えた。次の瞬間、彼女は移動要塞の北極点に立っていた。

 
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