戦国異伝供書
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第八十七話 元服と初陣その五
「我等はです」
「力を得るか」
「その第一歩かと」
「わかった、ではな」
「それでは」
「そのことも踏まえてな」
今はとだ、興元は弟に答えた。
「まずは領地の政を確かにしようぞ」
「それでは」
「お主の様な者を得てな」
興元はこうも言った。
「当家は大きくなるな」
「大きくですか」
「ここまで考えられる者を得たならな」
それならというのだ。
「非常にじゃ」
「当家はですか」
「大きくなりますか」
「必ずな、だからな」
「それでは」
「わしが家督を継ぐことになれば」
その時はというのだ。
「宜しく頼むぞ、わしの片腕にな」
「それにですか」
「なってもらうぞ」
「それでは」
「うむ、ではな」
興元は応えてだった、そしてだった。
松壽丸は今は猿渡城に戻った、そうしてまた学問に励んだ。そのうえで時を過ごしていたがその彼に凶報が届いた。
その報を聞いてだった、彼は家臣達に目を閉じて涙を流して語った。
「天命と言えばそれまでだが」
「それでもですな」
「やはり殿が亡くなられて」
「松壽丸様も」
「母上の時はわからなかった」
実母が世を去った時はというのだ。
「わしはその時五つであった」
「ご幼少だったので」
「それで、ですか」
「その時は」
「わからなかった、しかし今は違う」
こう言うのだった。
「わしも十になった、この歳になるとな」
「おわかりになられますな」
「我等も十の頃のことは覚えています」
「覚えておらぬことも多いでしょうが」
「それでも」
「わしはこのことを一生忘れぬ」
こう言うのだった。
「父上が亡くなられたことはな」
「はい、ご供養を」
「そうしましょう」
「是非共」
「うむ、それで兄上は何と言っておられる」
松壽丸は家臣達に兄のことを問うた。
「今は」
「はい、家督を継がれるとのことで」
「それで松壽丸様にもです」
「共に葬儀に出て欲しいとです」
「そう言っておられます」
「杉大方様にもです」
「そうか、義母上もか」
松壽丸はその言葉を聞いてその顔を明るくさせた、そうしてそのうえで家臣達にこう言った。
「有り難い、ではな」
「それではですか」
「杉大方様もですか」
「共にですか」
「郡山城にですか」
「参ろう、そしてな」
松壽丸は涙を流しながらも少しだけ明るさを取り戻した顔でさらに話した。
「兄上とさらにお話しよう」
「若殿とですか」
「そうされますか」
「郡山城で」
「うむ、父上が亡くなられて兄上が毛利家の主となられた」
この現実のことを話すのだった。
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