綿毛
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少年
少年は泣いていた。誰もいない空き地に一人佇んで、涙を流していた。
成長するということが、辛いことなんだと初めて気がついた。大好きな幼馴染の女の子が高校進学を機に町を出ていく。その空き地は、少年がその幼馴染とよく一緒に遊んだ場所。
単に寂しいからと泣いているのではない。楽しかった日々がただの経験となってしまって、忘れつつあって、それがたまらなく辛く悲しいからだ。町も人も変わりつつあったが、その空き地だけは変わっていない。変わらない思い出が、変わっていく現実に押し流されていく。ますます少年の心は揺さぶられる。秋風がそっと、少年の髪をなぞる。
涙が枯れると、少年は足元にある毛玉のような何かに気付いた。それはタンポポだった。黄色を失った綿毛の花たちが、風に乗って散る準備をしていた。これから離れ離れになるというのに、タンポポの家族は平然と、堂々としている。少年はそれを見て無性に腹が立った。タンポポの方が強くたくましく見えて、自身の弱さをあらわにされた気がしたからだ。
少年はそのタンポポを摘んだ。大きく息を吸いこんで、タンポポめがけて大きく息を吹きかけた。綿毛はばらばらになって、宙を舞い、空を滑ってゆく。塵のようだった。
彼らがどこに辿り着くかは風と重力に委ねられている。彼らも、もちろん、きっかけを作った少年さえも、行き先はわからない。
綿毛はやがて、儚く大地に吸い込まれていった。
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