曇天に哭く修羅
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第二部
急変
前書き
第二部も終盤です。
_〆(。。)
エリザの【古神旧印/エルダーサイン】がクリスの左手に流れ込む。
これで刻印の完成度は6割に達した。
目を覚ましたエリザにクリスが声を掛ける。
「ねえエリザ。今までの罵声って私の成長を促す為だったの? あんたは表に出さないけど私の成長を願っていた。だから敢えて酷いことを言い続け私のやる気を高めたって思うのよね」
「お気楽な思考ね。あたしは只の悪役よ」
クリスはエリザの返事を鼻で笑う。
「ありがとう。姉さん」
クリスが手を差し伸べる。
エリザは頬を赤くしながら手を取った。
その時だ。
来賓席から悲鳴と銃声が聞こえる。
クリスはエリザを立ち上がらせると音の方を見て何かが来ることを感じ後ろに跳ぶ。
空から落ちてきたのは『独立型』の人形と合宿でクリスを襲った全身黒ずくめの刺客。
王冠と赤いマントを身に付けた人形はクリスの右腕に向かって剣を振り下ろす。
しかしそれは防がれた。
飛び込んできた紫闇によって。
「て、めぇ……。さっき俺が殺したろうが……。脛椎折ってんだぞ? てことは今の悲鳴、イギリスの首脳か。【古代旧神】と【魔神】がやられるわきゃねーし」
黙っていた刺客が言葉を発する。
「先程の動きを見た感じならクリスは人形の襲撃に対しても十分対応できそうでした。まさか彼女がここまで強くなっていようとは私の想像を超えていましたよ」
この声は《レックス・ディヴァイザー》
「どういうことッ!?」
エリザの怒声が響く。
「クリス暗殺の命を受けました。貴女に知られれば密かに邪魔されてしまう。なのでエリザは蚊帳の外に置かせてもらいましたよ」
曰く、この場所に邪魔は入らない。
古代旧神にとってはサプライズ的な娯楽なので何者にも介入させないという。
邪魔するならイギリスの古代旧神ならびにイギリスの全貴族が敵に回ると思って良い。
魔神《白良々木眩》は今回のようなことを好まないので古代旧神を説得してくれるかもしれないが、もしそれでも駄目なら来賓席で両者が戦うことになるかもしれないのだ。
「もしかすると《イリアス・ヴァシレウス・グラディエ》は古代旧神を狙うかもしれませんが、この場で全力を出すことは無いでしょう」
「どういうつもりだレックス」
紫闇の心に怒気が籠る。
「私はクリスを愛している。これは唯一無二の誇り。けれど言いましたよね。英国貴族の運命を。古代旧神に逆らってもクリスは殺されてしまう。私などではどうにもならない。だからこの命令を受けた時に決めました。他の誰かに殺らせる位なら私の手で彼女を葬ると」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
レックスは諦めていた。
彼の周囲に人形が現れる。
王冠の剣士。
大盾の鎧。
メイスの僧侶。
馬頭の双剣騎士。
何も持たない骸骨。
そして女剣士。
親善試合で紫闇が戦った女剣士だ。
この刺客は本当にレックスなのだと受け入れた紫闇は躊躇わず力を使う。
《黒鋼焔》との約束を破り。
「“七門ノ一“」
紫闇の中で巨大な黒い門が開く。
「“混沌の解放“」
レックスは恐怖と緊張を見せる。
「“我は虚無の貌に名を刻む“」
しかしレックスは動こうとしない。
「“大気よ唸れ“」
紫闇の外装に走るラインが赤から青へ。
「“時よ止まれ“」
それは緩やかに。
「“刻む我が名は“」
しかし確実に。
「“風に乗りて、歩む者“」
紫闇は止まった時の中を進む。
そして全力の右拳を顎に。
に顎を拳右の力全てしそ─────
「あれ?」
今レックスの顎を打ったはず。
それなのに紫闇は時間の圧縮を発動させた位置まで戻ってきている。
これは既視感ではない。
「これじゃまるで……」
“者む歩、てり乗に風“
今度は能力が解けてしまう。
「何、だと……? 一体どうして……!?」
紫闇は堪らず声を漏らす。
困惑を隠せない。
「唯一無二ノ最低ナ行為」
そう囀ずるレックス。
彼の人形が紫闇に襲い掛かる。
後書き
_〆(。。)
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