提督はBarにいる。
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艦娘とスイーツと提督と・55
~サラトガ:マフィン~
「今日はお招きありがとうな、サラトガ」
「いえ、ご参加くださりありがとうございます、Admiral♡」
そう言って挨拶を交わす。明らかに親愛とは異なる感情が混じっていたが、敢えてそこは気にしない事にする。
「なに、スイーツチケット当選者へのオマケだ。お呼ばれしたら余程都合が付かない時以外は参加するさ」
スイーツチケット当選者への副賞というか、基本的に俺の特製オヤツを振る舞う時には2人きりでという事になっている。そうしないと姉妹艦や友人の艦も連れてきて、折角配っているチケットの意味が無くなっちまうからな。だが、今回はサラトガのどうしてもという要請と他の艦娘達には絶対に漏らさない事を条件に俺が折れて、オフの日にこっそりとアメリカ艦達によるホームパーティに参加する運びとなった。
「皆、スペシャルゲストの登場よ!」
サラトガがそう言って俺を部屋に引っ張り込むと、寮の談話室が一気に喧しくなる。
「え!?サラの言ってたゲストってHoneyだったの!早く言ってよサラ、知ってたらもう少し気合い入れてメイクしたのに~っ!」
と、文句を垂れているのはイントレピッド。サラトガと同じくアメリカ生まれの正規空母で、着任はサラトガよりも後発。母性溢れる性格でアメリカ組のおかんポジな娘だ。
「安心しろ、ピッドはスッピンでも美人だ。薄化粧で十分だよ」
「あら、Honeyったら相変わらず口が上手いのね♪」
ちなみにだが当然の権利の如くケッコンしており、スッピンを知ってるってのはそういう事だ。察しろ。
「わ~い、Admiralだっ!」
腰だめにドン、という衝撃と共にギュッと抱き付かれる感覚を感じる。見ると、青い髪の少女が抱き付いていた。
「おぉサム、元気か?」
「うん!サムはいつでも元気だよ!」
サミュエル・B・ロバーツ、通称サム。人懐っこく明るい性格で、ウマが合うのか時津風や島風等といつも鎮守府内をドタバタと走り回っている元気娘だ。
「ちょっとサム!失礼でしょ!?」
「すみません提督、サムがご迷惑を……」
サムの後に続いて出てきた2人。ぷんすこ怒ってる方がジョンストン、申し訳無さそうにペコペコしてるのがフレッチャー。ジョンストンは負けず嫌いのツンデレ、フレッチャーは母性溢れるゆるふわ系っぽいが、仕事も戦闘もしっかりこなせる完璧超人。あと駆逐艦か疑わしい程おっぱいとケツがでかい。下手すりゃ浜風や浦風以上にでかい。そっちに視線をやると嫁艦共が野獣の眼光を向けてくるんだよな、『まだ搾り取られ足りないのか?』ってな。でも男の本能なんだって、マジで。
「?……提督、私の顔になにか?」
「っ、あぁいや。何でもないさ……ところで、何人か見当たらない様だが?」
フレッチャーの方に向けていた視線を無理矢理剥がして部屋の中を見渡す。するとアメリカ組全員が参加すると思っていたのに、2~3人足りない事に気付く。ヒューストンにアトランタ、そしてガンビア・ベイの姿が見えない。
「あぁ、このパーティ強制参加じゃないんです。なのでヒューストンは他の重巡の方とショッピング、ガンビーはリュージョーさん達と映画に。アトランタは……ブートキャンプが余程悔しかったのかトレーニングです」
「あ~……」
フレッチャーの言葉に思わず納得する。アトランタの奴、響相手に毎日のように突っ掛かってその度にボコられてたからな。俺仕込みの格闘技術をベースに、最近はロシア組とつるんでシステマ教わってるらしいからな。下手すりゃ今なら艤装無しなら夕立に勝つかも知れんぞ、アイツ。
「まぁ、今いるメンバーだけで楽しみましょう?」
と、声をかけて来たのはアイオワ。今日はあのナードファッションじゃなく、いつものアイオワらしい派手目のファッションだった。
「今日はあの地味~な格好じゃないんだな?」
俺がニヤリと笑うと、
「きょ、今日は皆で楽しむ日なの!一人だけ暗くなってられないじゃない!」
「さいで」
まぁ、他の連中はナードでも気にしないと思うんだがな。
「それでHoneyは何を作ってきたの?」
「俺か?俺はマフィンをいくつかな」
そこでようやく手荷物をほどく。大きめの紙袋に入っているのは、ラッピングを施したマフィンだ。
「これいくつかって量じゃないわよ!?」
「まぁ、マフィンは小量作る方が難しいんだよ。余ったら皆でもって帰ればいいだろ」
「さて、では始めましょうか!」
「Yeahhhhhhhhh!」
アメリカ艦達が一斉にシャウトする。流石はアメリカ人。パーティ好きなんだなぁ。
「さぁさぁHoney、私の淹れたコーヒー飲んで?」
「いえいえ、まずはサラの淹れたコーヒーを……♡」
談話室のソファに腰かけると、即座に右側にイントレピッド、左側にサラトガが座る。その手には両者ともマグカップ。中身はコーヒーだ。一応非番とはいえ勤務時間中だからな、万が一の事態に備えて、アルコールは控えている。って言うかサラトガ、お前のコーヒー妙な臭いがするんだが。一服盛ってない?コレ。
「じゃあとりあえず、ピッドのコーヒーから貰うかな」
「YES!よ~く味わってね」
「む~……今日はサラのチケットでご招待したのに」
「だったらせめて何も入ってない美味いコーヒーを淹れてくれ」
俺の特製マフィンは皆に好評らしく、大量に作ってきたというのにあっという間に無くなっていく。他にも料理やお菓子はあるんだが、俺のマフィンを我先にと取り合いになっている。対して俺はその喧騒から離れて、別の物を食べていた。
「どうです?サラ特製のターキーサンド、美味しいですか?」
「あぁ、美味いよ」
俺鶏肉は好きなんだがターキーはあんまり好きじゃねぇんだよなぁ、パサパサしてるから。だが、サラトガのターキーサンドはどういう訳だかいつも瑞々しい肉が挟んである。噛むとじゅわりと肉汁が染み出してくる。
「ふふっ、良かったです♪」
「なぁ、このジューシーなターキーはどうやって作ってるんだ?」
「ダメです、それだけはお教え出来ません」
「ケチケチすんない、一応夫婦だろ?俺達」
「だからです。だってそれを教えちゃったら、提督はサラに会いに来てくれなくなるじゃないですか……」
「バカだねぇ、サラは」
苦笑いを浮かべながらそう言うと、サラトガは頬を膨らませてむくれる。普段は大人びてるクセに、何故だか俺の側にいると途端に嫉妬深いガキになるんだよなぁ、コイツ。
「俺がそんな甲斐性なしに見えんのか?俺は嫁として貰った女には惜しみ無く愛を注ぐ男だぜ?」
「だって提督には、金剛がーー」
「皆そう言って一歩退くんだよなぁ。何で退いちまうかなぁ」
俺の一番のオンナは金剛だ。それは今までも、そしてこれからも変わらない『かもしれん』。あくまでも仮定……未来はどうなるか解らない。それは俺にとってもお互い様で、俺はアイツにとっての最高の男であろうと努力している。しかし金剛の方が俺よりもその危機感は強い。何しろ仮にとはいえ自分以外に100人を超える嫁が居るし、これからも増え続けるだろう。その中には俺が心奪われる様な女が現れないとも限らない。だからこそ、アイツは俺の一番であろうと常に努力している。俺の方からプロポーズした相手だというその立場に胡座を掻かず、常に魅力的であれと自分を磨き上げる。その上で取られたのなら己の努力が足りなかったのだと更なる努力を重ねるだけだ、と俺に豪語してるからな、あの女傑め。
「要するに、『取れるモンなら取ってみろ』って言ってんだよアイツは」
そう言って俺は煙草を取り出し、1本咥えて火を点ける。紫煙を燻らし、フ~っと吐き出す。
「浮気全面OKが出てるからな?俺。お前らが本気で奪いに来るなら、俺は拒まんぜ?」
まぁ、今の所金剛が危ういと感じているのはどっかの青い万年発情空母位らしいが。
「そうですか……なら、私もその争奪戦に名乗りを挙げても?」
「勿論だ、俺へのアプローチ……楽しみにしてるさ」
その後は更にサラトガは俺にすり寄って来ながら、俺の作ったマフィンを食べながら紅茶を楽しんでいる。
「しかし……サラとの付き合いも長くなったなぁ?オイ」
「そうですね、初めてお会いしたのはあのトラック諸島でした」
そう。どっかの狐野郎に騙くらかされてトラックを占拠した深海棲艦共から人質を救出する為に向かったあの最中、サラトガも人質の一人として捕まってたんだっけ。
「鎮守府に来た頃はアメリカの艦はアイオワしか居ませんでした。周りはかつて敵対した日本の艦ばかり、他国の船もドイツやイタリアと……私、結構肩身が狭かったんですよ?」
「まぁ、先任はどうしてもなぁ」
「でも、提督はとてもフレンドリーに接してくれて……提督が白馬の王子様に見えました」
「オイオイ、幾らなんでもそりゃ盛りすぎだ」
「私にはそう見えたんですから、いいんですっ」
少しムッとしながらサラトガが応える。
「そんな提督に、私は恋をしました。でも、もう提督には心に決めた人が側に居たんです……私は提督が好き。でも、そんな提督を無理矢理奪って悲しい顔をされるのは辛い」
「サラ……」
「でも、もう遠慮しません。提督」
「なんだ?」
「You are my life, I can’t imagine my life without you.」
そう言って、サラトガは俺に唇を重ねて来た。周りがキャーキャー騒いでいるが、お構い無しに抱き締めて来る。たっぷりお互いの唇の感触を楽しんだ後、名残惜しそうに唇を離して彼女は妖艶に微笑んだ。
「知ってますか?私、結構しつこいんですよ」
「知ってるよ」
ウチの嫁は、そんなのばっかりだからな。
後書き
おかしい……最初は2人っきりのイチャラブだったはずなのに……どうしてこうなったwww
あ、サラトガの英語の告白は是非和訳してみて下さい。どんだけ熱烈に思いを伝えてるかが解るかとw
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