ロックマンゼロ~救世主達~
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SS:影との邂逅
今日一日の仕事を終えたルインはスリープモードに入ってぐっすりと寝ていた…はずだった。
違和感を感じて目を覚ますと、ルインは不思議な空間にいた。
深い闇の中で、普通なら不安を抱きそうな場所なのに何故か居心地がいい。
「私…今日一日の仕事を終えて休んだはずなのに、何でここにいるんだろ?それにしても不思議な空間だね…真っ暗なのにどこか居心地がいい…」
「拙者もこの空間に身を置くことになった時、御身と同じことを思っておりました」
「え?」
低く落ち着いた声が後ろから聞こえたので振り返るが誰もいない。
即座にPXアーマーに換装してバイザーのスコープ能力で闇に潜んでいた彼を見つけた。
「お見事」
「君が多分、ファントムだよね?」
自分の“心”が“魂”が言っている。
彼が四天王最強の戦士であり、コピーエックスを守るためにその身を自爆させたファントムなのだと。
「御意」
ファントムから返ってきた返事はそれを肯定するもので、ルインは即座にZXアーマーへ換装した。
「初めて会えたね」
「御身と…このような形で相見えるとは…」
「ファントム、ここ?どこなのかな?」
「ここはサイバー空間。レプリロイドの魂とサイバーエルフ達が住む狭間の世界にございます。多くのレプリロイドの魂はここに流れ着き、ある者は眠りにつき、ある者は何処かへ去り、ある者は成すべきことのために留まります」
レプリロイドの魂とサイバーエルフが住むサイバー空間。
「そっか…君もエックスみたいにやるべきことのために留まっているんだね」
「御意」
自分の成すべきこと、それはゼロの戦いの行く末を見届けること。
だからこそ、ボディを失ってから一年の時が経過しても未だにファントムはサイバー空間に留まっている。
「でも、私は死んだわけじゃないのにどうしてここに来ちゃったんだろう?」
「…これは拙者の推測ですが、恐らく御身の魂は体から離れやすいのかもしれませぬ。だからこそ御身の魂は一時的に体から離れ、サイバー空間に流れたのでしょう」
ファントムもルイン本人も知らないが、ルインの誕生経緯を考えれば充分あり得ることである。
しかしいくら世界の歴史がデータとして流れるサイバー空間でも、ルインの誕生経緯は流れてはいない。
「そっか…じゃあ、私の魂がボディに戻るまで待つしかないのかな?」
「御身が望まれるのでしたら、拙者がサイバー空間の出口までお連れしますが」
「良いの?それじゃあ、お願いしようかな?」
「では拙者についてきて下さい」
そして二人はサイバー空間の出口を目指して歩き出した。
ファントムは不思議な気分であった。
自分は会うことはないであろうと思っていた母がこうして自分の隣を歩いていることに。
いや、会う機会は何度も会った。
オメガが現れたことでサイバー空間と現実の境界線が曖昧になった時…いや、それ以前にもその気になればエックスのようにサイバーエルフの状態で会えたはずだ。
だが、ゼロの戦いの末を見届けたいと言う自分の想いを貫くために、少しでも力を温存しておきたかった。
レプリロイドの魂がサイバーエルフとなって現実の世界に現れるにはそれなりに力を使うのだ。
エックスは何度もサイバー空間と現実の世界を行き来して、ゼロ達を助けるために力を使い続けたことで一時は存在が危うくなってしまった。
オメガとの戦いに参戦しなかったのも、そして周りが…ハルピュイアですら何も言わなかったのもファントムの性格を理解していたのもあるであろうし、何よりもエックスのために四天王の長兄として、忍びとして自分の気持ちを押し殺してきたファントムの初めての“我が儘”だったからだろう。
ファントムはいつも表向きにできない仕事を速やかに、誰にも知られることなく処理してくれた。
ネオ・アルカディアが過剰とも言える人間優位な政策を進めるようになってからは、“汚れ仕事”までやって来た
世の中綺麗事ばかりでは通用せず、ファントムはネオ・アルカディアやエックスのためにずっと汚れ役をこなしてきた。
そして最期にはコピーエックスを守るために自爆までしたのだ。
そんなファントムのことを知っているからこそ誰もが彼の言うことを認めたのだろう。
「それにしても不思議だね」
「?」
「私が目覚める前に君は死んでしまったんでしょ?だから君と会うのは無理かなって思ってたの。それなのに今、私の隣に君がいるって言うのは不思議な感じがしてね」
ファントムはまさか母も同じことを考えていたことに微かに苦笑を浮かべた。
「実は拙者も同じことを思っておりました。拙者もまさかこのような形で母上と相見えるとは…」
「そっか」
母子揃って同じことを考えていたことに互いに苦笑を浮かべた。
しかし、次の瞬間にルインは表情を引き締めてファントムに今まで気になっていたことを尋ねた。
「ファントム…君はネオ・アルカディアの人間優位の政策をしているのがコピーのエックスだって知ってたんだよね」
「御意、拙者もどちらのエックス様にも仕えておりました」
「コピーのエックスだって知ってたならどうして君は…ううん、君だけじゃなくてハルピュイア達もあの子に従っていたの…?」
それを聞かれたファントムは少しだけ目を瞑ると、ルインの方を振り返った。
「それについてはコピーエックス様の誕生の経緯が関係しておられます。」
「コピーエックスの誕生経緯?」
「元々コピーエックス様の体は元々エックス様の物となるはずだったのです」
「コピーエックスのボディが?あれ?でもシエルは…」
「Dr.シエルの言っておられた理由はあくまで上層部の建前です。ダークエルフの存在を外部に漏らさないよう、エックス様のコピーを作ると彼女に伝えたのです」
「へえ…でもどうしてコピーエックスの物になったの?」
「コピーエックス様の体が完成し、上層部はダークエルフを封じて体がないエックス様のサイバーエルフを入れようとしたのですが、エックス様はそれを拒み、姿を眩ましました」
「なるほどね、大体分かったよ。エックスが姿を眩ましたからコピーエックスのサイバーエルフを入れたんだ。建前が事実になっちゃったわけだ。姿を眩ましたエックスは多分、自分がいなくてもみんなに自分の足で前に進んで欲しかったんだろうね…そして休みたかったんだろうね。戦いや政治で疲弊した心を」
エックスは優しい性格だ。
戦いで敵を傷つけることをよしとはしない。
そして政治ではきっと心ない議員から酷いことを言われたりしたのだろう。
そしてエックスは自分の封印を良い機会と思ったのかもしれない。
英雄なんていなくても人々は自分達の足で進んでいけると…しかしそんなエックスの期待は見事に裏切られてしまったわけだが。
「そしてコピーエックス様はエックス様に代わってネオ・アルカディアの統治者となり、孤独な戦いを強いられました。」
「戦い?」
「コピーエックス様は誕生したばかりの頃から策謀が渦巻くネオ・アルカディアの統治者となられた。まだ人格形成も完全ではない頃に」
最初はプログラムされたエックスの人格によって何とかなっただろうが、徐々にコピーエックスの人格が表面化するに連れて彼の人格は歪んでいく。
生を受けた直後にエックスの代役、ネオ・アルカディアの統治者としての役割を与えられ、己を持つことさえ許されなかったコピーエックス。
「統治者の公務は並大抵の物ではありません。ネオ・アルカディア全体は勿論、様々なことに手を付けねばなりませぬ…まだ幼かったコピーエックス様は内心辛かったと思われます」
「そっか…」
こうしてみると自分はレジスタンス側の視点でしかコピーエックスを知らなかったのだ。
ファントムから聞いたコピーエックスは数奇な運命で生まれ、周囲からの重圧によって歪んでしまった哀れな子供だった。
もしコピーエックスに対等な友人が誰か一人でもいたら、エックスやゼロのように強い絆で結ばれた親友がいたなら、コピーエックスはあのようなメカニロイドのような存在には成り果てなかったかもしれない。
「拙者達も何とかしようと思いましたが、拙者達ではエックス様やゼロ、御身のような関係にはなれません。それにコピーエックス様の不馴れな公務の手助けのために日夜駆け回っておりました。そして…気付いた時には…」
「…手遅れだったんだね」
気付いた時には既に歪みきってしまったコピーエックスの“心”…だからこそ、ハルピュイア達はせめてコピーエックスの身だけでも守ろうと戦っていたのだろう。
考えてみればコピーエックスの境遇は哀れなものである。
同じ年頃の友達もおらず、行動も制限され、仕事上で一部の特権階級の人間やレプリロイドに労いや命令の言葉をかける以外の会話があるかも分からない。
恐らくハルピュイア達もコピーエックスの公務を支えるために日夜駆け回っていたとのことからコピーエックスは四天王との会話もあまりなかったのかもしれない。
「………頑張ったんだね」
立ち止まってファントムの頬を撫でるルイン。
「母上…」
「二人のエックスのために頑張ったんだね…偉いよファントム」
「そのようなことは…」
四天王の誰もが罪のないレプリロイドを殺すことに罪悪感を感じていないわけではなかった。
そんな気持ちを押し殺してまでファントム達は頑張ったのだ。
「君達が優しい子達なのは知ってる…だからあまり自分を責めないで…例え何があっても私は君達の味方だよ…だって私は君達のお母さんだから」
優しく微笑むルインにファントムもまた微笑んだ。
「感謝致します…母上」
母親の愛情に触れたファントムはこの奇妙な偶然に感謝し、ルインをサイバー空間の出口へと導いた。
「ここを通れば現世へと戻れるでしょう」
「ありがとう、ファントム……今までエックス達を守ってくれてありがとう。これからもみんなを見守ってくれる?」
「…御意」
互いに微笑みながらルインはサイバー空間の出口に飛び込み、ファントムは再び自分の成すべきことのために闇へと消えた。
後書き
ファントムとの邂逅…滅茶苦茶難しいなファントム…
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