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提督はBarにいる。

作者:ごません
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艦娘とスイーツと提督と・53

       ~矢矧:紅茶のシフォンケーキ~

「すごいわ、ふわっふわね」

 焼き上がった『それ』を上から押しながら、矢矧が感嘆の声を挙げる。

「どうだ?俺も結構自信あるんだよな。『シフォンケーキ』には」

 今回は矢矧が『シフォンケーキ』をリクエストしていた。実は金剛の奴にねだられてかなり研究したからな、味とその食感にはかなりの自信がある。

「だって初めて見たわ、上から押してるのに、戻ってくる位弾力があってふわふわのシフォンケーキなんて」

 シフォンケーキって、実は歴史の浅いお菓子でな。生まれたのは1927年、アメリカの料理好きな保険外交員が生み出した。その滑らかな口当たりをシフォン……絹織物に例えてその名が付いたらしい。因みにだが、フランス語でシフォンは雑巾とか布切れを表す言葉なのでガトー・デ・サンジューー天使のケーキとも呼ばれるらしいが。

「ふふふ、その弾力には秘密があってな。実はそのシフォンケーキ……小麦粉を使ってないんだ」

「そうなの!?っていうかケーキって小麦粉を使わずに焼ける物なの!?」

 まぁ、小麦粉を使わない分別の物を使ってるんだがな。

「どうせなら、試しに一緒に作ってみるか?」

「え……良いの?私、そんなに料理が上手くないのだけれど」

「上手くないから練習するんだろ?さぁさ、遠慮すんなよ」

 さて、調理開始といきますかね。



《小麦粉不使用!?ふわふわシフォンケーキ(紅茶味)》※分量18cmシフォンケーキ型1つ分

・紅茶葉(アールグレイがオススメ):大さじ1

・牛乳:50cc

・卵(Lサイズ):4つ

・サラダ油:30cc

・ハチミツ:30cc

・グラニュー糖:40g

・コーンスターチ(または片栗粉):80g

・ホイップクリーム:お好みで

「サラダ油に……片栗粉!?随分と妙な材料を使うのね?」

「片栗粉はともかく、サラダ油が生地に入るのがシフォンケーキの特徴みたいなモンだからな」

 まぁ、今回は片栗粉じゃなくてコーンスターチなんだけどな。まずは紅茶葉の下拵えから。牛乳を鍋に入れて火にかけ、軽く沸騰するまで温めておく。その間に紅茶葉を指でつまんで擦り合わせて細かくする。こうする事で、生地に混ぜ込んだ時に混ざりが良くなるからな。牛乳が温まったら、紅茶葉に牛乳を回しかけておく。

「後から混ぜちゃダメなの?」

「茶葉にかけて香りを立たせてるんだ」

 お次は卵。卵黄と卵白に分けたら、卵白は冷凍庫に。使わない訳じゃなく、後から使うために半冷凍位の状態にしておきたい。残った卵黄にハチミツ、サラダ油、茶葉入り牛乳を加えてよく混ぜる。混ざったら、コーンスターチをふるい入れて更に混ぜる。

 生地のベースが出来たら、次はメレンゲを作る。軽く凍らせておいた卵白と、グラニュー糖をハンドミキサーで泡立てていく。

「メレンゲを上手に作るにはコツがあるのかしら?」

「いくつかあるぞ」

(色んなお菓子に使える!上手なメレンゲ作りのコツ)

その1.プラスチックのボウルは使わない!ステンレスかガラスのボウルを使おう!

 プラスチックって、綺麗に洗っても油分が残っちゃったりするんだよな。メレンゲに油分が入るとベチャッとなってしまって上手く泡立たなくなるから、注意しよう。

その2.卵白は出番が来るまでよく冷やす!ちょっと凍らせる位でいいぞ!

 『卵白を凍らせると泡立ちやすくなる』と紹介してるレシピ本とかもあるが、ありゃ間違いだ。逆に泡立ちにくくなるが、その分キメの細かい泡になってしっかりとしたメレンゲが出来る。

その3.砂糖は最初から混ぜない!泡立って来てから何回かに分けて!

 安定したメレンゲ作りには砂糖が不可欠……なんだが、最初から砂糖を加えて混ぜると泡立ちにくくなっちゃうんだよな。だから、ある程度泡立ってから砂糖を加える。それも、一気にドバッと入れるんじゃなく、何回かに分けて少しずつだ。ホイッパー(泡立て器)を使って手動でやる場合は3回位、電動のハンドミキサーでやる場合は2回位に分けてやるといいぞ。




「おぉ、綺麗に出来たじゃないか」

「ま、まぁコツも教わってたし、これくらいはね?」

 矢矧がどや顔をしながら照れ隠しをしている。かわいい。シフォンケーキに使うメレンゲは、角が立つくらいまでしっかりと泡立てる。メレンゲが出来たら1/3位を生地のベースに混ぜて馴染ませる。馴染んだらメレンゲのボウルに生地のベースを移し、ゴムへらで全体をサックリと混ぜ合わせる。

「混ぜすぎ注意な。メレンゲが潰れちまうから」

「わ、わかったわ……」

 これで生地は完成。後はシフォンケーキ型に流し込んで、170℃に余熱しておいたオーブンで35分位焼けば完成だ。

「ケーキの型が金属のと紙のとあるけど……どっちを使うの?」

「しょっちゅう使うなら金属の方が便利だが……後始末とかを考えると紙の方が便利だな」

 金属のだと後片付けが大変なんだよな、コレ。






「さてと……焼き上がるまで暫くは後片付けだな」

「そうね、手伝うわ」

 オーブンでケーキを焼いている間に、使った器具を洗っていく。

「手馴れてるなぁ」

「そう?能代の手伝いをよくするからかしら」

「阿賀野とはえらい違いだな」

「あ~……阿賀野姉は能代が世話しすぎなのもあるかも知れないけれど、でも見てて恐いのよね」

「ふ~ん……そんなモンかねぇ」

「姉妹で揃えて買ったティーセット、阿賀野姉が何度壊した事か……。最終的に能代が折れて、阿賀野姉のだけプラスチックのにしてたもの」

「おぉう……」

 ティーセットって高いからなぁ、ウチのカミさんのお気に入りの奴を俺が万が一壊したとしたら……想像するだけで恐ろしい。ヤベェ、能代に頑張れって言ったけど……早まったかもしれん。

 後片付けをして、残っていたシフォンケーキーー俺が矢矧の為に焼いた奴を食べていると、オーブンから焼き上がりを告げるベルが鳴った。

「うわぁ……見事に膨らんでるわね!」

「あぁ。元々のシフォンケーキのレシピにはベーキングパウダーも入ってたそうだが、しっかりと泡立てたメレンゲであればちゃんと膨らむからな」

 オーブンから取り出して粗熱を取り、型から外す。金属のだと型の外周に菜箸やナイフ、面倒であれば自分の指なんか突っ込んで型から剥がさないといけないが、使い捨ての紙型なら最悪破いても良いからな。楽チンだ。後は見た目に拘るなら膨らんだ上の部分はカットして、出来上がり。食べる時には適当な大きさにカットして、ホイップクリームなんかを添えて。

「カットした上の部分、食べるか?」

「食べる!こういう切れ端とかって、作った人だけ食べられる特権よね」

「まぁ、お菓子メーカーとかだと訳あり品みたいな感じで売ってたりするけどな」

 矢矧が顔を綻ばせて、カットしたシフォンケーキの上の部分を食べている。普段はキリッとした雰囲気のクールな奴だと思ってたが……いやはや、こういう女の子っぽい一面もあったんだな。

「?……どうしたの提督、私の顔に何か付いてる?」

「いや、矢矧もそういう可愛い顔する事あるんだな~と思ってな」

「なっ……////」

 矢矧の奴、一気に顔が赤くなったぞ?

「ん、どした?」

「そそそ、そんな不意打ちで可愛いとか言わないでよ!対処に困るでしょ!?このスケコマシ!」

「ひでぇ」

「ああああぁ、もう!これが大和の言ってた『提督の天然ジゴロ狙撃』なのね……本当に奇襲過ぎるわ、コレ」

 なんだその間抜けな必殺技は。こりゃ後で大和に事情聴取決定だな……。
  
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