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提督はBarにいる。

作者:ごません
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艦娘とスイーツと提督と・50

       ~翔鶴:洋梨のコンポート~

「……はぁ、瑞鶴と加賀の仲が悪い?」

「そうなんです」

 ある日の昼下がり。スイーツチケットを持ってきた翔鶴にそんな相談を持ちかけられた。食べているのは『洋梨のコンポート』、白ワインとバニラを利かせた自慢の一品だ。だが、翔鶴はその自慢の一品よりも妹と先輩の人間関係の方が気になるらしい。

「仲が悪いのは前からじゃなかったか?顔会わせる度に喧嘩してるし」

 正確には、瑞鶴が加賀に一方的に突っ掛かってそれを加賀が冷たくあしらって更に瑞鶴が騒ぐ、というのが毎回の流れなんだが。

「いや、あれは喧嘩というか……お互いじゃれあってるんですよ」

「まぁ、それは何となく解るがな」

「瑞鶴ったら、ちゃんとすれば誰よりも上手く出来るのにそれをしないから……ここ最近は特に酷くて」

「あ~、まぁ才能ある奴には有りがちな話だぁなそれは」

 瑞鶴はウチの正規空母の中では、艦載機運用能力にかけては抜群のセンスを誇る。今は経験の差や積んでいる艦載機の妖精さんの錬度の差で一・二航戦に水を開けられちゃあいるが、その持ち前のセンスを巧く使って先輩に負けず劣らずの成績を出してしまう。だが、瑞鶴の成績はそこどまりなのだ。『上手く』やればエースの座を奪えるのに、『巧く』やってそこそこの成績を残す。良く言えば余力を残す……悪く言えば手抜きをしている。加賀はその辺が気に喰わないのか、瑞鶴にはキツい。

『五航戦の娘なんかと一緒にしないで』ってのはウチの加賀も口癖だが、ウチの加賀に言わせれば『手抜きをしている瑞鶴なんかと一緒にしないで』と言っているのと同義だ。事実、翔鶴に対しては瑞鶴よりも随分ソフトだからな。まぁ、加賀の場合は俺と赤城の前ではポンコツになる以外は皆に比較的つっけんどんな態度だけども。

「それで?そのじゃれあいがエスカレートしてガチの喧嘩に発展したと」

「そうなんです……この間の他鎮守府との演習の時に、加賀さんに瑞鶴がビンタされまして」

「……あぁ、瑞鶴がMVP獲った時か」

 その演習に関しては俺も良く覚えていた。瑞鶴が相手艦隊の旗艦を含めて3隻を撃沈判定に追い込み、MVPを獲った演習だ。あの時加賀は不満そうな顔をしていたが、何があったのか。




「瑞鶴は明らかに手を抜いていたんです。発艦も他の人達よりもワンテンポ遅れていたし、艦載機の数も抑え気味で……」

「加賀の奴はそれを見て、演習の後に瑞鶴を叱責したと?」

「はい。『全力で挑んでくる相手に手を抜くなど相手への侮辱だ』と加賀さんに怒鳴られて、瑞鶴は『勝てたならそれで良いじゃない』と反論しました。それで……」

「あ~、そりゃアイツなら怒るだろうな」

 納得、という顔をしている俺に対して翔鶴は首を傾げている。

「お前らも知ってるだろ?ウチの加賀は『2人目』だって」

「あ……はい、着任したての頃に先輩方から伺いました。今鎮守府にいる加賀さんの前に、沖ノ島攻略戦で轟沈した加賀さんが居たと」

 そう。俺の経歴と心に未だ暗い影を落とす、『1人目』の加賀。そんな戦友を喪った失意のまま、沖ノ島攻略が為った直後に建造出来たのが今の加賀だ。翔鶴・瑞鶴姉妹は2人目の加賀が着任してから随分後で着任したからな、話でしか知らんのだ。

「当時赤城や蒼龍達は既に錬度が30以上でな。建造したての加賀じゃあ逆立ちしたって肩を並べて戦える様な力の差じゃ無かった」

 だからこそ、加賀は努力をした。寝る間も惜しんで身体を鍛え、艦載機の扱いを学び、赤城達に追い付こうとがむしゃらに。そうして、いつのまにか彼女は我が鎮守府の空母部隊のエースにまで上り詰めていた。

「ぶっちゃけた話、アイツの才能は並だ。お前達姉妹に比べたら平凡以下と言ってもいいかもしれん」

「そ、そうなんですか?」

「あぁ、元々航空母艦『加賀』は戦艦になる筈だった艦を空母に艦種変更した艦だからな。艦娘になったアイツも、その辺を引き摺ってるんだろう」

 戦艦として設計された艦を改装した空母と、初めから空母として設計された空母。どちらが優れているかは歴前である。その上、後者は前者で得られた経験や情報の蓄積がある上で設計されているのだから当たり前の話だろう。

「だが、アイツはそれを努力で捩じ伏せた。文字通りの血の滲む様な努力でな。だからアイツは他人に厳しく、自分にはもっと厳しい」

「その反動が提督への甘えっぷりなんですかね?」

「やかましい」

「すみません……だからこそ、加賀さんは瑞鶴に怒るんですね」

「まぁ、多少の嫉妬も含むだろうがな。瑞鶴が自分と同じだけの技術を身に付けたらその力の差は圧倒的に瑞鶴が勝るだろう」

 加賀の奴はそれを解っているから、手を抜いている瑞鶴に苛立つんだ。自分の求める物をもっているクセに、努力をしようとしない才能溢れる後輩に。

「加賀さん……」

「ま、その辺は時間が解決するか本人同士がどうにかするしかねぇやな。それより翔鶴、俺の作ったコンポートは食わんのか?」

「あ、そ、そうですねっ!頂きます……あ、美味し」

 先程まで悩み相談に忙がしかった翔鶴は初めてコンポートに手を付けて、その味に顔を綻ばせた。




「それにな、加賀の奴は少し焦ってんだよ」

「焦り……ですか?」

「あぁ……近々、赤城に第二改装が内示される」

「ッ!それは、加賀さんも?」

「あぁ、当然知ってる」

 ウチの空母機動部隊のメインは、他の鎮守府と同様に一・二・五航戦の6人だ。その内二航戦である蒼龍・飛龍と、五航戦である翔鶴・瑞鶴は既に改二になっている。残るは赤城と加賀の一航戦だったのだが、この2人は錬度も技量も段違いに高く、第二改装は要らないのでは?という意見すらあった。しかし、激化かつ強力になっていく深海棲艦の攻勢を鑑みて、戦力増強の必要アリと赤城の改装が決まったらしい。

「まずは有力な鎮守府に改装をさせて、データを蓄積してから全鎮守府に改装設計図を回す腹積もりなんだろうよ。中央は」

「そうなんですか、それで……」

 加賀は淡々としている様で内心焦っているのだろう。周りがどんどん強くなっていく中で、自分だけが取り残されていく様な感覚に。

「まぁ、加賀の奴の取り越し苦労なんだがな」

 何と言われようが、ウチの空母のエースは加賀だ。寧ろ、改装してジェット機の運用すら可能になった翔鶴・瑞鶴を相手取って互角以上に渡り合えている時点で化け物じみていると言っても過言じゃねぇ。

「そうですね……あ、心配事が無くなったらお腹空いてしちゃいました。提督、コンポートのお代わり貰えますか?」

「おぅ。なんならアイスも付けてやろう」

 ジャムに比べて使われる砂糖の量の少ないコンポートは、フルーツの味わいがジャムよりも残っている上に甘味もしつこくなく、ヨーグルトやアイスクリーム、スポンジケーキやレアチーズケーキ等にフルーツソースの代わりに添えられる事もある。

「良いですねぇ、お願いします♪」

「了解」

 アイスクリームをディッシャーで掬い、器に盛り付けたらそこに洋梨のコンポートを添える。仕上げにミントの葉を飾れば、その辺のレストランのデザートの一品としても遜色の無い一皿が出来上がる。

「はいよ」

「ありがとうございます。ん~♪蕩けてしまいそうです」

「喜んでもらえて何よりだ」

「提督、あーん♪」

 翔鶴がアイスとコンポートをスプーンに載せて、こちらに差し出している。

「……翔鶴、何してんだ?」

「あ~ん♪」

 答える気は無いらしい。

「あ~ん!」

 翔鶴はプクッと頬を膨らませ、スプーンをグイグイと口元に押し付けてくる。

「わ、わかった。わかったから……あーん」

「美味しいですか?」

「どっちも俺の手製なんだが」

 勿論、味は最高だ。

「む~……そういう事じゃないのに」

 普段大人っぽい翔鶴だが、たまにこうして甘えてくるんだよな。それがまた可愛いんだが。 
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