提督はBarにいる。
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艦娘とスイーツと提督と・48
~荒潮:生チョコレート~
「うふふふ~、この口どけが良いのよねぇ♪」
荒潮が頬を抑えてイヤンイヤンと身体を捻って悶えている。リクエストは『生チョコを沢山』、というので俺もそのリクエストにお応えして今テーブルの上にある皿には、山のように生チョコが置かれている。
「美味いか?よかったな」
「えぇ、とぉっても美味しいわぁ♪」
そう言ってもう1つ食べようと手を伸ばす荒潮。だが、生チョコに手が触れる寸前にサッと俺が皿を掻っ浚い、荒潮は生チョコを掴み損ねる。
「あ、あらあら?何でそんな意地悪するのかしらぁ?」
途端にむ~っと膨れっ面になる荒潮。しかしこれにはちゃんと俺なりの理由がある。
「さて、ここからは楽しい楽しいO☆HA☆NA☆SHI☆の時間だ。荒潮が素直に質問に答えて、然るべき処置をすればこの生チョコを進呈しよう。だが、返答次第では生チョコは妖精さん達に配る。OK?」
「私ぃ、何か悪い事したかしらぁ?」
すっとぼけようとしているが、そうは行かない。荒潮の目が僅にだが泳いでいる。それに、『質問をする』と言っただけなのに『悪い事をしたか』と答えるのはおかしい。そこは『何が聞きたいのか?』と答えるべき所だ……少なくとも、俺ならそう答えるし、俺と付き合いの長くて接する機会の多い連中はそう答える。悪い事をしたか?と聞き返すという事は、何かしらの後ろめたい事があるからだと受け取られかねないからだ。
「朝潮、ポッキー、バレンタイン……と言えば、何の事かわかるんじゃないか?」
「さ、さぁ~?何の事かしらぁ」
口の端がヒクついている。明らかな動揺の現れだ。というか既にネタは上がっているんだがな。
「そうか、じゃあこの生チョコは妖精さん達に全部あげてこよう」
「え、嘘、嘘よね提督?」
「……………………」
俺は動揺、というか狼狽え始めた荒潮を会えて無視して、生チョコの皿を持ったまま立ち上がる。向かうのは執務室のドア。
「もう!わかった、解りました!私が悪かったから!」
「何を言ってるんだ荒潮、お前は何も悪い事をしていない。また思い当たる事も何もない。そうなんだろ?なら何故謝る」
尚も無視して執務室のドアに向かい、ドアノブに手をかけた瞬間、
「朝潮ちゃんにポッキーゲームの事を吹き込んだのは私です!すいませんでしたぁ!」
荒潮、涙目でシャウトしながらの鮮やかな土下座である。そう、去年のバレンタインの時、朝潮にポッキーゲームを俺に持ちかける様にけしかけたのは荒潮。そのお仕置きがまだだったのを思い出し、今回の様な事になった訳だ。
「最初から素直に謝っとけってんだ、この馬鹿たれ」
ビシッ、と荒潮の額にデコピンをかましておく。
「いったぁ~い……傷になったらどうするのよぉ」
荒潮は更に涙目で、赤くなった額を擦っている。
「何?反省が足りないって?なら次は拳骨を……」
「反省はしてますから拳骨は勘弁してください」
いつものゆるふわな喋り方は何処へやら。よっぽど俺の拳骨は喰らいたくないらしい。
「まったく……何であんな事をした?危うく俺は病院送りだったんだぞ?」
身体の頑丈さにかけては多少自信がある方だが、流石に駆逐艦とはいえ艦娘の全力に近いパンチが鳩尾に刺さったんだ。呼吸困難に陥って意識もブラックアウト寸前だった。もしアレが鳩尾から逸れて肋骨に入っていたらと思うと、今でもゾッとする。
「え、え~っとぉ。実は、朝潮ちゃんがそんなに照れ隠しで暴れるとか考えてなかったのぉ」
「…………はぁ?」
「朝潮ちゃんも、と~っても司令官の事が好きだからぁ。寧ろ、チューされたら大喜びすると思ったの。ほんとよぉ?」
荒潮の目を見る限り、嘘は吐いてない。逆にそんな事になるのは予想外で、俺に申し訳ない事をしたと少ししょんぼりとしていた。
「朝潮の奴、俺なんか好きなのか?いってももうすぐ五十路のジジィに片足突っ込んだオッサンだぞ?」
肉体年齢はそれなりに若いつもりではあるが、オッサンはオッサンだ。
「提督ぅ?私、好きになる人には年齢って関係ないと思うのぉ♪」
そう言うと荒潮は俺の膝の上に跨がると、妖艶な笑みを浮かべて唇を重ねてきた。
「悪ふざけが過ぎるな、荒潮」
「うふふふふ~、それならぁ……お仕置き、してみる?」
そんな事を言いながらスカートをたくしあげる荒潮。そこにはいつものスパッツではなく、紫のレースの派手な下着が御目見えしていた。
「悪いがロリコンじゃないんでな。幼女にそんな事されても食指が動かん」
重巡……いや、軽巡クラスの連中にこんな事されたら思わず手を出してたかもしれんが、荒潮だけじゃなく駆逐艦イコール俺にとっては幼女とか娘的な感じにしか受け取れない。ケッコンして相手がどうしてもと言い寄ってくれば抱かないでもないが、幼女に迫られても節操の無い方な我が愚息もピクリともこない。
「むぅ……提督はいけずねぇ」
荒潮は自分の事を含めてはいなかったが、前々から俺にアプローチはしてきている。だが、普段の態度が人をからかう様な事が多すぎて、本気かそれとも悪質なジョークなのか判断が付け難かった。だが、会話の中で俺は確信を持った。
「荒潮」
「何かしらぁ?……んっ!?」
顎を抑えて再び唇を重ねる。しかも、今回は荒潮からではなく俺からのキスだ。
「……お前、マジで俺の事好きだろ?」
瞬間、荒潮は爆発したように顔を真っ赤にした。
「なっ、ななな、何を言ってるのかしらぁ?」
顔が赤いまま狼狽え続ける荒潮。
「気付いてねぇのか?お前さっき、『朝潮ちゃんも、提督の事が好き』って言ったんだぞ?」
「ふぇっ!?」
どうやらマジで気付いてなかったらしい。さっき荒潮は朝潮に悪戯を仕掛けた理由を説明した時、朝潮ちゃん『も』と言ったんだ。これは自分も含め、って本音が思わず漏れた結果だろう。いつもの俺をからかう様な態度の荒潮なら、『も』なんて付けない。ほとんど無意識に本音が出ちまったんだろうな。
「それに、いつものあの人をおちょくるような態度。あれも照れ隠しの演技だろ?」
荒潮は頭から湯気が出そうな程赤くなっている。荒潮も荒潮の妹、姉妹だからな。こう見えて意外とウブな所があると俺は踏んだ。そう眼鏡を掛けて荒潮のアプローチを見てみれば、かなりわざとらしい所が見受けられる。これは恥ずかしいと内心思いながらも、演技だと割り切って吹っ切れているから出来ている事なんだろうな、多分。だからこそ、俺からの不意打ちに対応しきれずに顔を真っ赤にして固まってしまった。他の手馴れてる連中なら、こっちからキスなんてしよう物なら口の中に舌が入ってくるわ、最悪押し倒そうとしやがるからなぁ………漏れなく全員が。
「内心スゲェ恥ずかしいくせに、スカート捲り上げてパンツ見せるとか、ようやるわ」
「も、もうやめてぇ…………//////」
荒潮は両手で顔を覆って隠し、イヤンイヤンと身体を捩っている。生チョコ食べて同じような反応してたが、こっちの方が可愛らしく見えるのは気のせいか。
「ま、朝潮はともかく荒潮はまだ錬度が80代止まりだろ?99になるまでは手を出さねぇからな?まぁ頑張れや」
「うぅ……もうお嫁に行けないわぁ」
「だから、99になったらカッコカリだがケッコンしてやるから」
「……ホントに?」
「ウチのルールだからな」
「うふふふふ~、それなら明日から頑張るわぁ♪」
「……切り替えの早い奴」
まぁ、切り替えの早いってのは美徳だと思うがな。
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