戦国異伝供書
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第八十話 鬼若子その五
元親が全軍の陣払いを瞬く前に整えそうして親貞を後詰としてそのうえで岡豊城に戻った、その際言うまでもなく手に入れた城には兵を置いて帰った。
退くのも速く岡豊城にもすぐに戻った、家臣達はこのことにも驚いた。
「ううむ、これまでよりも速い」
「城まであっという間に戻ったではないか」
「途中城に兵も置いてな」
「手に入れた領地もしかと守る様にされておるしな」
「しかも弥五良様も無事に後詰を務められた」
「もう戻られておる」
親貞も後詰の軍勢を無傷で戻していたのだ、無論彼自身も。
「我等の得たものは大きいが」
「失ったものはほぼない」
「浦戸城は手に入れられなかったが」
「それでも充分過ぎるものじゃ」
「全くじゃ」
「全て若殿のお陰じゃ」
「殿のことは気になるが」
それでもというのだ。
「若殿の今のお働きはな」
「実に素晴らしい」
「これではな」
「若殿がまた戦われても」
「何も心配はないわ」
「何一つとしてな」
こう言うのだった、そしてだった。
彼等は無事に城に戻った、この時の勝鬨はこれまでにないまでのものだった。
元親はその勝鬨の中で城に戻りそうしてだった。
国親のところに参上すると父の顔にはもう死相があった、だが。
元親の顔を見るとすぐに笑顔になって彼に言った。
「初陣の話は聞いた」
「左様ですか」
「見事じゃ、やはりな」
元親を見て言うのだった。
「わしの目に狂いはなかった」
「そう言って頂けますか」
「わしはお主が初陣に出てじゃ」
そうしてというのだ。
「働きを見せる時が来ぬことだけを心配していたが」
「それが、ですか」
「果たされたからな」
だからだというのだ。
「もうじゃ」
「その憂いもですか」
「なくなった」
こう我が子に告げた。
「お主はもう思う様にせよ」
「それがしのですか」
「そうじゃ、思うままに治め」
そしてというのだ。
「攻めよ」
「わかりもうした」
「お主はわし以上の器じゃ」
やはり満足している言葉だった、このことは変わらなかった。
「だからな」
「それ故にですか」
「お主の思う様にすれば」
「この土佐は、ですか」
「間違いなくお主のものとなる、そして」
国親はさらに話した。
「この四国もな」
「それがしのものとなりますか」
「うむ」
そうだというのだ。
「間違いなくな、この四国は紫の色となる」
「長曾我部家の色ですな」
長曾我部家は衣に冠、そして戦の場では具足や旗、鞍といったものを全て紫にしている。その為誰もが長曾我部家との戦では敵味方がわかる。
「この色に」
「四国を染め上げよ、よいな」
「さすれば」
「わしが言うのはこれだけじゃ」
「それでは」
「後はお主に任せる、何の憂いもなくな」
こう言ってだった、そのうえで。
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