戦国異伝供書
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第八十話 鬼若子その四
「手中に収められるやもな」
「それも有り得るのう」
「全くじゃ」
「この度の初陣を見ればな」
「あのお働きを見れば」
こう口々に話した、彼等だけでなく兵達も元親をそう見る様になっていた。それで親貞は兄にこのことを話した。
「兄上、最早です」
「わしを姫若子と呼ぶ者はおらぬというのじゃな」
「それどころかです」
兄にこうも言うのだった。
「鬼若子とさえです」
「鬼か」
「そう呼ばれる様になっておりまする」
「鬼の様に強いからか」
「戦の場で、やはりです」
親貞はここでにやりと笑って兄にこうも話した。
「それがしの思った通りでした」
「わしはそうした者であったか」
「土佐、いえ四国一の方です」
「そう言ってくれるか」
「だからこそのこの度のお働きです」
「そうか、しかしな」
元親は弟の言葉を聞いても笑わない、逆にこう返した。
「戦はまだ終わっておらぬ」
「城を落としてはおりませぬな」
「うむ、だからな」
「油断をしてはならず」
「その評判にもな」
鬼、そこまでの者と呼ばれてもというのだ。
「わしは嬉しく思うが」
「それでもですか」
「そうじゃ、それに溺れたり驕ることなくな」
そのうえでというのだ。
「戦を続けたい」
「そうしてですか」
「まずは囲んだ城を落とすぞ」
「浦戸の城を」
「そうするとしよう」
元親は自身の評判が変わったことを嬉しく思いながらもそれに思い上がらずだった、そのうえで。
城を完全に囲みそうして攻める時を待っていた、だが。
岡豊城の方から使者が来た、元親はその使者の話を聞くとすぐに将帥を集めて彼等に対して深刻な顔で話した。
「かねてより床に臥せっておられた父上のお身体がな」
「左様ですか」
「では、ですか」
「この度は、ですな」
「兵を退かれますか」
「すぐにそうする、そしてじゃ」
元親は陣払いのことからさらに話した。
「後詰じゃが」
「はい、誰でしょうか」
「後詰を担うのは」
「それは一体」
「弥五良とする」
己のすぐ傍に控える親貞を見て述べた。
「そうする」
「弥五良様ですか」
「この度の後詰は」
「弥五良様はこの度が初陣ですが」
「それでもですか」
「ここは一番よい」
親貞が後詰を務めることがというのだ。
「だからじゃ」
「若殿、それはです」
「流石にと思いますが」
「初陣で後詰とは」
「幾ら何でも」
「案ずることはない」
全くという返事だった。
「弥五良なら無事に後詰を務め戻ってくれる」
「弥五良様にそれだけのご資質がある」
「だからですか」
「ここは弥五良様にお任せし」
「そうしてですか」
「退く、では今より陣払いに移る」
この言葉と共にだった。
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